ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年1号
判断学
第116回オリンパスが問いかけている問題

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

奥村宏 経済評論家 JANUARY 2012  62       二〇年も前からの「飛ばし」  オリンパスの粉飾決算が大問題になっている。
事件が表面化 してオリンパスの株価が暴落したのはもちろん、イギリスやア メリカの新聞や週刊誌がこれを大きく取り上げて報道したとこ ろから国際的な事件になっている。
 そして、これは単にオリンパスという一企業の問題ではなく、 日本企業全体の問題として取り上げられている。
日本企業の財 務内容がいかに信用できないものであるか、そして日本企業の コーポレート・ガバナンス(企業統治)がいかにでたらめなも のかということが、海外の報道機関によって報道されているの である。
 会社の損失を関係会社や海外の子会社などに?飛ばす?と いうことは、一九九〇年代にバブルが崩壊したあと盛んに行わ れていた。
 その見本が山一証券であり、その?飛ばし?が発覚したこ とによって山一証券は倒産した。
その時、社長が記者会見で涙 を流して謝った姿がテレビで大きく報道されたことは今でも語 り草になっている。
 山一証券以外にも?飛ばし?を行っていた企業はあったが、 いずれもそれが発覚して倒産するか、あるいはその債務負担に 苦しんだことはよく知られている。
 しかし、その後は?飛ばし?が問題になるようなことはなく、 問題は解決したものと誰もが考えていた。
ところが、オリンパ スは二〇年も前から?飛ばし?を続けており、その金額が一〇 〇〇億円を超えるということが明らかになった。
 そして、このことを外部に発表したというのでマイケル・ウ ッドフォード社長が解任されたところから、これを海外の報道 機関が大きく取り上げた。
 バブルが崩壊して二〇年以上もたっているのに、未だにこん なことをしている上場会社があるとは、正直言って筆者もこれ には驚いた。
     内部告発で発覚  オリンパスの粉飾決算を内部告発したのはマイケル・ウッ ドフォード社長で、そのためにウッドフォード社長は一〇月一 四日、オリンパスの取締役会で社長を解任された。
 しかし、それ以前にこのことを報道していた雑誌が日本に もあった。
それは「FACTA」という雑誌である。
その 八月号の「『無謀M&A』巨額損失の怪」という記事で、オ リンパスが二〇〇八年三月期に何の情報開示もないまま、零 細企業三社を約七〇〇億円も出して買収して大損したことや、 イギリスのジャイラス社を実態よりもかなり高い二七〇〇億 円で購入し、これが収益上も財務上も過大な負担になってい ること、これらの会計処理に関連して財務諸表に不審な点が 多いことなどを指摘していた。
 その後も「FACTA」誌はオリンパスの事件を取り上げ るとともに、オンラインでも詳しく報道していた。
 この「FACTA」という雑誌は元「選択」の編集長で あった阿部重夫氏が作ったもので、記事は元日本経済新聞記 者の山口義正氏が書いているのだが、阿部氏も元日本経済新 聞の記者で、論説委員や編集委員をしていたこともある。
 その山口氏が「FACTA」でオリンパスの粉飾決算を明 らかにしたのは、おそらく従業員か、あるいは関係者からの 内部告発によるものと考えられるが、ウッドフォード社長が 粉飾決算を知ったのはこの山口氏の記事か、あるいは別のル ートからの内部告発によるものであろう。
 それにしても驚くのは一般の新聞や雑誌の報道である。
お そらく山口氏に内部告発した人は他の報道機関にも告発した はずであるが、それを各社はまったく報道しなかった。
そし て「FACTA」の記事が出てもそれを完全に無視した。
阿 部氏の出身母体である「日本経済新聞」も?知らぬ存ぜぬ? で通してきた。
 こうしてマスコミもオリンパスに荷担してきたのである。
 会社のためなら不正もいとわず、株主のことも省みない。
マスコミもそ れを看過する。
日本の異常なコーポレート・ガベナンスのあり方に、世界 から不信の目が向けられている。
第116回オリンパスが問いかけている問題 63  JANUARY 2012         株式会社の危機  オリンパスの問題とほぼ同時に起こった大王製紙の場合に も同じことが言える。
会長が子会社などのカネを勝手に使っ てギャンブルで大損したというのだが、そのことを重役や従 業員がまったく知らなかったとしたら、知らなかったことの 責任が問われる。
 いまこうしてオリンパスの問題、そして大王製紙の問題か ら、日本の企業統治(コーポレート・ガバナンス)のあり方 が国際的に大きな問題になっている。
 コーポレート・ガバナンスということが大きな問題になっ たのは一九九〇年代のバブル崩壊後であったが、その後、こ の問題は忘れられていた。
そこへ突然、オリンパスと大王製 紙の問題が起こって、これがコーポレート・ガバナンスの問 題として大きく取り上げられているのである。
 このコーポレート・ガバナンスの問題は単なる企業統治と いうよりも、株式会社のあり方にかかわる問題である。
 株式会社では株主総会が最高の決議機関であり、株主主 権と言われる。
そして一株一票で株主平等ということにな っており、株主が会社の主人公と言われる。
 しかし日本の株式会社では株主総会が形骸化しており、株 主主権などと思っている人はいない。
 取締役はいずれも会社のために忠誠をつくしているが、株 主のために働いているなどと思っている人はいない。
従業員 ももちろん会社のために働いているが、株主のために働いて いる者などいない。
 つまり日本の会社もはや株式会社とはいえないようなもの になっているのである。
私はこれを?株式会社の危機?と していろんな視角からこれまで論じてきたが、オリンパスや 大王製紙の問題が明らかになった段階で、これは株式会社の 危機を告げるものだと主張している。
それは単にオリンパス や大王製紙に限られた問題ではないのである。
          誰の責任か?  ところがウッドフォード社長の解任から事件が表面化する と、マスコミは一斉に大きく報道した。
それというのもイギ リスやアメリカの新聞や週刊誌がオリンパスの問題を大きく取 り上げて報道したので、さすがに地元の日本の新聞がこれを 放っておくことはできなかったからである。
 オリンパスがマスコミに対して巨額の広告料を払っている こと、新聞記者や雑誌記者に甘い汁を吸わせていることなど を「FACTA」は書いているが、このあたりに日本のマス コミの姿がよく表れている。
 それにしても、オリンパスの粉飾決算が明らかになると、す ぐにひびくのは株価で、オリンパスの株価はウッドフォード社 長解任の発表から暴落した。
 オリンパスの大株主は日本生命を筆頭に三菱東京UFJ、 三井住友などの銀行や機関投資家であり、こうした企業は株 価暴落によって大損した。
 もちろん個人投資家もこれによって大きな損をしているが、 おそらくこれからオリンパスに対する株主代表訴訟が起こさ れるのではないかと思われる。
 二〇年間にもわたって粉飾決算を続けており、それも巨額 の損失を隠していたというのだから株主が怒るのも当然である。
 では、その責任は誰にあるのか。
 菊川剛会長兼社長がその責任者であったとマスコミは報道 しているが、そのほかに山田秀雄元副社長、森久志前副社 長などの名前も挙がっている。
財務担当者であったこの人た ちに責任があるのは当然としても、ではほかの取締役や監査 役にまったく責任がないと言えるのか。
 それらの人は財務の内容について「知らなかった」と言う かもしれないが、「知らなかった」で済む問題ではない。
「知 らなかった」ことの責任が問われているのである。
これは重 役たちだけでなく従業員についても同様である。
おくむら・ひろし 1930 年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『東電解体 巨大株 式会社の終焉』(東洋経済新報社)。

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