ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年12号
メディア批評
逆襲にあっさり白旗を掲げる佐野眞一の腰砕けジャーナリズムへの信頼性を毀損した連載中止

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高 信 経済評論家 DECEMBER 2012  72  一〇月三〇日付の『日刊ゲンダイ』で、 ジャーナリストの溝口敦が、『週刊朝日』の 佐野眞一の連載「ハシシタ 奴の正体」が、 対象の橋下徹の反撃によって一回で腰が砕け、 中止になったことについて、「この騒ぎは雑 誌ジャーナリズム全体の信頼性をひどく毀損 した」とし、「佐野氏はライターとしての責 任感覚に乏しく、自分が何をしでかしたのか、 おそらく今も自覚していまい」と批判している。
 私はジャーナリズムの基本姿勢は「人権に よって特権を撃つ」だと思っているが、佐 野には人権と特権の区別がついていなかった。
特権によって人権を撃ってしまった感じさえ ある。
 かつて、ヨン様騒ぎに負けないくらいの ダイアナ・フィーバーがあった。
かなり革新 的な人でさえ、ダイアナはイギリス王室を民 主化しようとしたのにかわいそう、などと 言うので驚いたが、王室というものは民主 化したらなくなるのである。
これは明白な 道理ではないか。
また、チャールズ皇太子 がカミラと不倫しているのにとダイアナに同 情する声もあったが、端的に言って(イギリス) 王室の歴史は不倫の歴史である。
不倫して でも後継者をつくろうとするのだから、あ る意味ではそれは当然だろう。
ダイアナは それを知らずに王室入りしたとでも言いた いのか。
もしそうなら、大変なカマトトと 言わなければならない。
 テレビ化もされた山崎豊子の『運命の人』 (文春文庫)の主人公、弓成亮太のモデルは 沖縄返還の密約を暴いて不当逮捕された毎 日新聞の元記者、西山太吉である。
 当時、彼の逮捕に記者たちは憤激した。
 「いかに外務省職員から極秘電信文を入手 したからと云って、国家公務員法でひっかけ るなど汚すぎる。
われわれ新聞記者の取材は、 聞き出したい情報を知る立場にいる相手なら、 運転手、秘書、家族、誰であれ、ありとあ らゆる方法で接近する。
場合によっては政治 家、官僚の引出しから覗いている書類を盗 み見したり、引き抜いたりもする位の心意気 がなければ、真実に迫る報道はできない」  ある記者がこう言うと、別の記者が、  「そうだ、為政者の都合の悪いことは書く べからず、書いた者はこうなると、まさに 見せしめ逮捕だ!」  と応じる。
 この事件は、当時の佐藤(栄作)首相の 売国的密約の内容ではなく、取材の方法に 問題がすり替えられ、消滅してしまった。
 私は、先年、新聞労連の集会で、  「新聞記者が自分たちの仕事を上品なもの だと錯覚しているから、下品な小泉(純一郎) や飯島(勲秘書)にやられる。
記者の仕事 はユスリ、タカリ、強盗の類いなのだ」  とアジった。
 前記の毎日の記者の覚悟は、いまは昔日 のものとなった感じである。
「ありとあらゆ る方法で」権力を追及しないで、新聞記者 の存在意義などあるのか。
 権力から秘密を盗んでくるにしても、「ユ スリ、タカリ、強盗の類い」は言い過ぎだっ たかなと思って講演を終えたら、帰りがけに 入社三年目だという女性の記者が寄って来て、 私に言った。
 「サタカさん、私、立派な?強盗?になります」  彼女はいま、どうしているだろうか。
 佐野眞一には、残念ながら、?強盗?の自 覚がなかった。
一回で終わってしまった連載 に「オレの身元調査までするのか。
橋下は そう言って、自分に刃向かう者と見るや生来 の攻撃的な本性をむき出しにするかもしれ ない」と書いて挑発しながら、そうされたら、 一発で「遺憾の意を表し」てしまったから である。
 それで、人気も落ち、死に体になってい た橋下を蘇生させることになった。
腰高で寄 って行って、浮上させた佐野の罪は大きい。
逆襲にあっさり白旗を掲げる佐野眞一の腰砕け ジャーナリズムへの信頼性を毀損した連載中止

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