ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年12号
ケース
米サイモン&シュスター 欧米SCM会議㉒ 処理能力の増強によって拠点を統合音声ピッキング導入で生産性は3倍に

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2012  56 買収によって物流センターが分散  サイモン&シュスターは、一九二四年にニ ューヨークで創業した老舗出版社です。
現在 はアメリカの三大ネットワークの一つ、CB Sなどを所有するメディアコングロマリットの CBSコーポレーションの傘下に入っていま す。
 当社は小説やノンフィクションなどの一般 向けの書籍を、年間に約二〇〇〇タイトル出 版しています。
ベストセラーとなった小説と しては、古くはS・フィッツジェラルドの『グ レート・ギャツビー』、ノンフィクションでは B・ウッドワードとC・バーンスタインが書 いた『大統領の陰謀』などがあります。
 最近のベストセラーを挙げるとすれば、ウ ォルター・アイザックソンが二〇一一年に書 いた『スティーブ・ジョブズ』です。
他にも、 スティーブン・キングやグレン・ベックとい ったベストセラー作家の小説を出版していま す(図1)。
 私は現在、当社で物流とフルフィルメント を担当するヴァイスプレジデントを務めていま す。
サプライチェーンに関する問題が起きる と、クレームはすべて私の元に集まってきて、 その処理に追われることになります。
 当社が物流センターで取り扱っている書籍 やオーディオブック(書籍を朗読したCDなど を指す)は二万五〇〇〇タイトル(=SKU) にも上ります。
物量としては年間二億冊以上 の書籍を物流センターから出荷しています。
 全体の物量の七〇%は当社の物流センター から出荷していますが、残りの三〇%は印刷 会社から直接、書店に届けられます。
大量に 売れることがわかっているベストセラーなど は、センターを経由すると時間の無駄になる ためです。
 書籍の納入先は、バーンズ&ノーブルのよ うな大手書店チェーンや、アマゾンのような オンライン書店、スーパーマーケットやパパマ マストア規模の小さな書店など様々です。
 加えて当社は、中小規模の出版社を対象に、 書籍のロジスティクス業務も請け負っています。
リーダーズ・ダイジェストの子供向け書籍や  同業他社の買収によって、2つの大型物流セン ターを持つことになった。
拠点機能、オペレーシ ョン、パレットのサイズに至るまで、全く仕様が 異なるために、統合は困難だった。
物量の増加 と極端な繁閑差への対応という課題にも直面し ていた。
改革に当たった物流部門責任者のデー ブ・シェイファー氏が一連の取り組みを解説する。
欧米SCM会議㉒ 米サイモン&シュスター 処理能力の増強によって拠点を統合 音声ピッキング導入で生産性は3倍に 図1 サイモン&シュスターの略史 1924 年 1939 年 1944 年 1975 年 1994 年 同年 1998 年 2002 年 2003 年 2006 年 2011 年 R.サイモンとM.シュスターが会社設立。
クロスワードパズルが 大ヒットする。
米国初のペーパーバック出版社のポケット・ブックスを設立。
新聞社「シカゴ・サン」のオーナーが、同社を買収。
複合企業のガルフ+ウエスタン(後のパラマウント・コミュニケー ションズ)が同社を買収。
バイアコムが、パラマウント・コミュニケーションズを買収。
マクミラン出版社を買収して、ニュージャージー州の物流センター を手に入れる。
ポケットブック、S&S 児童向け出版、S&Sニュースメディア、 S&Sトレード、英国S&S、豪州S&Sなどの出版事業に専念する。
パラマウント映画に買収される。
ヒラリー・クリントンの自伝がミリオンセラーに。
S&Sがメディア複合企業であるCBSコーポレーション傘下に入る。
評伝「スティーブ・ジョブズ」が世界的な大ヒットに。
会社名 サイモン&シュスター 親会社 CBSコーポレーション 本社 アメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク 創業 1924 年 CEO キャロライン・リーディー 売上高 7億8700万ドル(637億4700万円) 営業利益 9200万ドル(74 億5200万円) 従業員 約1350人 (注1)1ドル=81円で換算 (注2)同社の売上高と営業利益は、親会社のCBSコーポレーション の2011年の決算報告書より。
(注3)同社の営業利益とは、OIBDA(減価償却前営業利益)を指す。
会社概要 57  DECEMBER 2012 アンドリュー・マクメール、キャプラン・テ スト・プレップといった出版社です。
(日本の 出版業界と異なり、アメリカでは取次による 配本制度が業界の隅々にまで行きわたってい ないため、出版社が独自に物流網を持つ必要 がある)  当社が、ロジスティクス上の大きな問題に ぶつかったのは、九〇年代半ばに、同業他社 のマクミラン出版を買収した後のことでした。
 当時の当社はペンシルバニア州のブリストル に、延べ床面積約六〇万平方フィート(五万 四〇〇〇平方メートル)の物流センターを構え ていました。
それに対してマクミランも、ニ ュージャージー州のリバーサイドに当社と同じ 規模の物流センターを持っていました。
同社 の買収で物流センターが二カ所に分散したの です。
 二つの物流センターの仕様はまったく異な っていました。
当社のペンシルバニアの物流 センターは一般書籍向けであり、ベストセラ ーをはじめとする特定の売れ筋の在庫を大量 に保管していました。
 一方、マクミランは、教育向け書籍などを 主に手掛けていたため、多くのタイトルを少 量ずつ在庫していました。
その中には年に二 回しか出荷しないような書籍も少なくありま せんでした。
そのため二つのセンターは、機 能やオペレーションがまったく違っていたので す。
 もう一つの問題は、パレットでした。
二つ のセンターで計約五万枚のパレットを使って いましたが、センターによってパレットのサイ ズが違い、統一することができませんでした。
マクミランが使っていたのは、EU型(ヨー ロッパの標準パレットでサイズは八〇〇×一 二〇〇?。
アメリカの標準パレットは一〇一 六×一二一九?)でした。
処理能力増強と繁閑対応が課題に  マクミランを買収してからの数年間は、二 つのセンターを併用していました。
しかしサ プライチェーンの基本から言えば、在庫は一 カ所に集中した方が、作業効率が高くなるし、 貨物の追跡なども容易になります。
そこで当 社は本社に近いニュージャージーのマクミラン のセンターへの一元化を図りました。
 その動きが、本格化するのが二〇〇〇年の ことです。
まずは、それまで使っていた通常 のパレットラックを、専用のフォークリフトを 使って高層積みする、幅六一インチ(約一・ 五五メートル)の「ベリー・ナロー・アイル (Very Narrow Aisle=VNA)」に切り替え ました。
これによって保管能力が従来比で四 五%増加しました。
 翌〇一年には、出版業界の悩みのタネであ る返品業務を3PL企業に外注しました。
そ の結果、VNAの導入効果と合わせて保管能 力を五〇%増強しました(図2)。
 〇四年にはそれまでカナダで行っていた物 流業務も、ニュージャージーのセンターに集 約しました。
これによって出荷数量はそれま でと比べ一〇%増加しました。
そこで従来は 一日一シフトだった現場作業員の勤務体制に、 第二シフト、第三シフトを加え、センターの 稼働率を高めることで業務量の増加分を吸収 しました。
 〇五年には、それまで使ってきた自社開発 の倉庫管理システム(WMS)の使用をやめ て、専門業者が開発したWMSパッケージを 導入しました。
 ニュージャージーの物流センターは本社に近 いという地理的な利点はありましたが、その 図2 物流センターの一元化の過程 2000年 2001年 2004年 2007年 2004〜 2005年 2008〜 2009年 2009〜 2010年 2011〜 2012年 実行した項目効果 「Very Narrow Aisle」システムを導入保管スペースが45%増加、 滞留貨物用のセンターを閉鎖。
返品業務を3PL企業に外注12万平方フィートが利用可能に。
カナダのSCM業務を吸収、 作業量10%増となる。
業務フローがスムーズになる。
コンベヤーは従来2倍、 ソーターは3倍のスピードになる。
バラ注文のスピードが3倍になり、 作業効率も2倍になる。
年間500万ドルの コスト削減効果を上げる。
業務の第2シフト、第3シフトへの拡大 新しい倉庫管理システムを導入 新しいコンベヤーとソーターを導入 バラ注文のピッキングのプロセスを変革 出荷をNJの物流センターに一本化 労働時間の管理さらなる生産性の向上に伴い、 センターの運営を固定費から変動費へと変える。
DECEMBER 2012  58 半面、築五〇年という老朽化した施設でもあ りました。
そのため〇七年から設備の改修を 進めました。
コンベヤーとソーターを更新し て、それまで一分間で六〇個以下だった段ボ ールの処理能力を一二〇個に引き上げました。
 また「ストレッチラッパー」と呼ばれる自 動梱包機を四台導入して、パレット積みする スペースも従来の一二〇パレットから三倍以 上に拡大しました。
 しかし、一連の処理能力増強も、出版のス ピードに追いつくには十分ではありませんで した。
当社は一週間当たり五〇〜一〇〇冊の 新刊を出版しています。
新刊はすぐに出荷し ないと、販売のタイミングを逃してしまいま す。
また、売れている本は、すぐに追加発送 しなければなりません。
 そのために必要なセンター内のスペースの確 保、処理能力のさらなる強化という課題と並 んで、繁閑差への対応という問題にも直面し ていました。
センターで日々処理される物量 の繁閑差は最大で五倍にもなります。
物量の 急な変動にも対応できるようにするには、正 確で柔軟、かつ効率的なピッキングの仕組み を作り上げることが不可欠でした。
音声ピッキングシステムを導入  その対策として〇八年に入ってから、バラ の注文に対応するピッキングの方法を替えま した。
紙の伝票を使ったそれまでのやり方を 改め、音声ピッキングシステムを導入したの 「一時間一〇〇個」に設定していました。
し かし、実態としては、目標の半分の五〇個/ 時という水準にとどまっていました。
音声ピ ッキングシステムを導入したことで、この数 字は即座に三倍近くに跳ね上がりました。
こ のことはセンターの処理能力を大きく高める ことになりました。
 その結果、一シフト当たりの作業員の人数 を、それまでの五三人から四二人に抑制する ことができました。
ピッキングのスピードが三 倍になったことを考えれば、作業員も三分の 一に減ってもいいはずですが、当時は二つの です。
作業員がヘッドセットをつけて、音声 ガイドに従ってピッキングを進める方法です。
米ALシステムズ社の製品で、センターの作 業効率の改善策を検討する過程で、いくつか の最新センターを見学した時に見つけたシス テムです。
 当社の一連の物流センター改革の中で、こ の音声に基づくピッキング方式を採用したこ とは、最も大きな改善をもたらしました。
 バラピッキングの作業員はそれまで、注文 を打ち出した出荷指示伝票を手に持ち、物流 センター内を歩き回って必要な本を探してい ました。
それに対して音声ピッキングシステ ムは、伝票を手に持つ必要がないので常に両 手が使えるうえ、音声で本の保管場所や冊数 などを教えてくれます。
 ピッキングが完了すると、次の作業指示が 音声で伝えられます。
その際に指示通りに作 業が行われていなかった場合、つまり作業ミ スが起こった場合には、即座に作業員に作業 ミスの発生が伝わるようになっています。
そ の場でミスを修正することが可能となりまし た。
 さらにこのシステムの利点として、ピッキ ング作業のすべての工程が記録として残るこ とが挙げられます。
どこで、いつ、誰がミス したのか、後から遡って調べることができる のです。
 それまで当社のセンターでは、バラ注文に 対するピッキングの作業スピードの目標値を 図3 音声ピッキングの導入効果 2008 年10月〜2010 年10月 1 時間当たりのピッキング数正確さ従業員 50.0個 148.4 個 98.5% 99.8% 53 人 42 人 59  DECEMBER 2012 保管場所として使っています。
 センターを一本化することで、在庫管理も 配送業務もシンプルになりました。
それまで は、在庫が二カ所にあるために、書店からの 一つの注文に対して、ニュージャージーとペン シルバニアの二つのセンターから配送しなけれ ばならないことがありました。
 配送日が、一日、二日ずれたりすると、書 店からは当然のようにクレームの電話がかか ってきます。
「欠品かと思っていたら、二日後 に別の便で書籍が届いた。
どういうわけだ?」 というお叱りを受けていたのですが、そうし たことがなくなりました。
 また、箱ごとのピッキングについては、I Cタグとバーコードを使用しています。
この ピッキングエリアに最近、移動式の段ボール の組み立て機を導入しました。
それまでは手 作業でしたので、作業が遅い上に、無駄なス ペースをとるため、ピッキングの遅延となっ ていました。
この組み立て機を先に導入した WMSに連動させることで、空いている場所 で作業を行うことができるようになりました。
限られたスペースでは、こうした小さな改善 を積み上げていくことが必要となります。
 次の目標は、一人一時間当たりのピッキン グの件数を二〇〇個まで上げることです。
現 在は、ベテラン作業員と新しく入ってきた作 業員が混在している状態で、昔から働いて いる作業員のスピードがなかなか上がらずに、 全体の足を引っ張っているのが実情です。
 音声ピッキングシステムを導入して以来、 作業員一人ひとりの業務内容を正確に把握す ることができるようになったので、正確かつ 迅速な作業ができる作業員は誰なのか、見分 けることができるようになりました。
それを 基準にして徐々に作業員を入れ替えていくこ とで、これからの物量増にも対応していきた いと考えています。
(フリージャーナリスト・横田増生) センターを一つに集約する移行期と重なって いたため、スピードアップと一致するほどの 削減とはいきませんでした。
 それでも音声ピッキングシステムの導入に よる作業の効率化効果は、コスト削減金額に 換算すると年間五〇〇万ドル(四億五〇〇万 円)に相当するほどのインパクトがありまし た(図3)。
 これまで繁忙期には、バラの注文を一つの 段ボールに詰めて出荷するまでに七時間かか っていました。
それを二時間半で処理できる ようになりました。
この能力増強によって〇 九年から二〇一〇年にかけて、ようやく二つ のセンターをニュージャージーに一本化するこ とができました。
一本化を計画してから実現 するまでに実に一〇年の歳月を要したことに なります。
作業員個人のパフォーマンスを管理  現在、通常の書籍の流通に関してはすべて ニュージャージーのセンターで処理しています。
その処理能力は年間一億三五〇〇万件に向上 しました。
前年と比べて五〇〇〇万件ほど出 荷能力が高まったことになります。
しかも人 員数は少なくなっています。
「人×時間」で 計算すると、それまでと比べ二〇%の削減で す(図4)。
 一方、ペンシルバニアの物流センターは、 九〇日分を超える在庫の保管場所としての機 能と、カレンダーや手帳などの?季節物?の 図4 ニュージャージー州の物流センターの概要 出荷エリア 箱ごとの ピッキングエリア バラ注文の ピッキングエリア スペシャルピッキング コンベヤー ソーター レシービング 荷受けエリア 保管スペース

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