ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年11号
物流行政を斬る
第20回 老朽化の進む首都高速再生プランの実現には予算の再編成が不可欠

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2012  82 有識者会議が提言  最近のテレビや映画ではCG等の技術が駆使され、 現実にはあり得ないシーンでも簡単に再現すること ができるようになった。
筆者が好きな映画の一つに 「ALWAYS 三丁目の夕日」があるが、そこで繰り 広げられる世界は東京タワーが建設中で、日本橋か らは遠く上空に夕日が眺められる。
高度成長期まっ ただ中の、五〇年ほど前の時代の話である。
 翻って今日。
東京の空を見渡すと、至る所に高速 道路が張り巡らされている。
日本橋の上にも首都高 速道路が走っている。
首都高は一九六四年に開かれ た東京オリンピックに向けて建設されたものだが、最 初の区間が建設されてからこの十二月で満五〇歳を 迎える。
さらに、総延長約三〇〇?のうち三割は四 〇歳を超えており、老朽化に伴う補修あるいは建て 直しが大きな問題になり始めている。
 国土交通省の有識者会議は今年九月、首都高速 の再生に関する提言書をまとめた。
有識者会議の委 員一覧を見ると、座長である政治評論家の三宅久之 氏を筆頭に、作家の猪瀬直樹氏、ファッションデザ イナーのコシノジュンコ氏、その他にも様々な大学・ 老朽化の進む首都高速 再生プランの実現には 予算の再編成が不可欠  老朽化が進み、安全面に課題が生じている首都高速道 路。
撤去・再構築を軸とした再生プランの実現を急ぐべ きだ。
現状の料金収入だけでは絶対的に資金が足りない。
税金の投入や予算枠の再編に着手し、国家プロジェクト として取り組む必要がある。
第20回 学部に属する大学教員と、多彩な顔ぶれである。
そ して提言書の内容は、実に現実的であり高く評価で きる。
今回はその内容を通し、首都高再生の方向に ついて考察する。
 提言書は、首都高速再生の必要性について、四つ の視点から分析している。
?首都高速の老朽化の進 展、?安全な高速走行についての課題、?都市環境 への影響、?首都直下型地震への対応、である。
 ?の老朽化の進展については、前述したように総 延長約三〇〇キロのうち経過年数四〇年以上の建 造物が約三割、三〇年以上が約五割になっている点 (あわせると八割が三〇年以上経っていることにな る)、橋梁やトンネルなどの構造物比率が約九五% と高いなか、都区内一般道の約五倍の大型車が通行 している点、過積載車両が年間約三五万台も計測さ れる点、計画的な補修を実施しているものの補修が 必要な損傷が九・七万件に達した点などを指摘して いる。
 ?の安全性への課題に関しては、急カーブや複雑 な分合流などが多数存在し、安全な高速走行の妨げ になっている点を挙げている。
実際に、首都高速道 路の死傷事故は他の自動車専用道路と比較すると約 二・五倍である。
 ?の都市環境への影響では、建設当初は先進都市 の象徴となる道路として評価されたものの、今日で は再検討が必要である点、歴史的建造物等が点在す る中で首都高の高架橋は周辺に圧迫感を与え、都市 景観を阻害している点、貴重な水辺空間の多くが埋 め立てられるなどして喪失した点、騒音・大気汚染 等の環境問題などを取り上げている。
 そして?の首都直下型地震への対応では、地震発 生時に首都高が物資の緊急輸送を担う道路としての 機能を発揮することの重要性を説いている。
 ?〜?の指摘は、全くもってその通りである。
現 在、首都高速道路株式会社は年間約六〇〇億円か けて道路を維持・補修しているが、今後年数が経過 するにつれ、この額は増えていくだろう。
今一度ゼ ロベースで、再生への改革を行うべき時期に達して いることは間違いない。
 提言書ではこれら現状分析を踏まえ、再生の基本 スタンスとして以下の二点を掲げている。
●首都高速は、景観への影響はもちろん、首都・東 京の経済社会活動を支え、都市の骨格を形成して 物流行政を斬る 産業能率大学 経営学部 准教授 (財)流通経済研究所 客員研究員 寺嶋正尚 83  NOVEMBER 2012  いる大動脈であり、その再生にあたっては、国家 プロジェクトとして取り組むことが必要 ●都心環状線等は、都心部の重要な機能を担う象 徴的な道路であり、当面は不可欠な路線と言える。
しかし老朽化や、景観への影響、首都直下型地震 への対応も考慮し、都心環状線等の「撤去の可能 性」と「撤去するための具体的な方策」について、 直ちに検討し、具体的な取組につなげるべき  これら二点の基本スタンスにも筆者は賛成だが、 ここで問題になるのは財源である。
提言書では都心 環状線のみならず首都高速道路の再生に関し、二 つのプランを紹介している。
案1は単純撤去案、 案2は撤去・再構築案である(図表参照)。
 コストは、案1が五五三〇億円(ロータリークラ ブの提案の数値)、案2は三兆八〇〇〇億円かかる。
その根拠としては、撤去費は一?当たり約五〇〜 六〇億円(高架の場合)、再建設費は主に高架部分 は約一九〇〜二六〇億円/?、トンネル部分は約 三九〇〜六八〇億円/?、主に高架・掘割部分は 約四一〇億円/?となっている。
トンネル部分の 割高さが際立ってる。
 そして提言書では「必要な事業費の負担につい ては、計画の具体像に応じて決定すべきであるが、 厳しい財政状況の中では、税金に極力頼らず、料 金収入を中心とした対応を検討すべき」としてい る。
撤去・再構築には約四兆円が必要  人口減少社会に突入したわが国の物流政策にお いては、ムダを徹底的に省き、高い効率性を追求 すべきというのが筆者の持論だ。
そういった観点 からは、税金に頼らず料金収入で賄うという提案 書のスタンスは正しい。
しかし一方で、真に必要と されるものには資源(ヒト、モノ、カネ)をきち んと投入しなければならない。
経営学で言うとこ ろの「選択と集中」である。
 首都高の再生は?金の使いどころ?だ。
都心環 状線を中心に、撤去・再構築を強力に押し進める べきである。
そのためには料金収入だけでは絶対 的に資金が足りない。
ここは税金を使ってでも、き ちんと新たな高速道路を整備すべきだと筆者は考 える。
それも大深度の地下に建設すべきだろう。
 もちろん提言書に見たように、税金に安易に頼っ てはならない。
税金を投入する前提として、削るべ きは削り、資金を調達する努力は必須だ。
需要が見 込めない地方における高速道路網の整備や、稼働率 の低い地方空港への投資はただちに凍結し、その財 源を首都高再生事業に回すなど、予算の枠組みの再 編成を早急に行うべきではないだろうか。
 さらにこの問題は首都高速道路だけではなく、よ り大局的な視点で取り組むことも考えなければなら ない。
一〇月六日付けの日経新聞の社説がそれを鋭 く突いているので引用する。
 「現在、都心環状線を利用する車の六割は東海方 面から東北に向かうトラックなど、通過するだけの 車だ。
二〇一三年度末には都心からおおむね半径八 キロ圏を結ぶ中央環状線が全線開通する。
これが迂 回路として十分機能するように料金を工夫し、都心 環状線の交通量を減らすことがまず必要だ。
そうす れば地下化などで更新する区間をかなり絞れる。
周 辺の街づくりと連動させて、民間の資金を積極的に 活用することも不可欠だ」  こうした問題が国民的関心事となり、より深い議 論が巻き起ることに期待したい。
筆者も本誌をはじ めとする様々な媒体を使って、周知を働きかけてい くつもりだ。
てらしま・まさなお 富士総合研究所、 流通経済研究所を経て現職。
日本物 流学会理事。
客員を務める流通経済研 究所では、最寄品メーカー及び物流業 者向けの研究会「ロジスティクス&チャ ネル戦略研究会」を主宰。
著書に『事 例で学ぶ物流戦略』(白桃書房)など。
図表 首都高速再生の比較案の評価 (出典)国土交通省「高速道路の在り方検討有識者委員会」資料 交通面での効果や影響 環境・景観面での効果や影響 直下型地震を含めた地震への対応 事業性(コストを中心に) 撤去費 連携の可能性は小さい 撤去費+再構築費 都市再生プロジェクトとの連携 連携の可能性はあり 案1:単純撤去案案2:撤去・再構築案 都心部の一般道への負荷 への対応が必要 再構築の案にもよるが、 現状より円滑な交通が確 保される可能性大 大きな改善が期待(一般 道で新たな課題の可能性) 大きな効果が期待(IC 部 等で新たな課題の可能性) ネットワーク機能は現状より 悪化 ネットワーク機能は現状と 同様 耐力は構造形式からすれば、一般に案1>案2(地下を想定)

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