ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2012年10号
ケース
山九 3PL 先行投資を断行した最大拠点がフル稼働立地に加え庫内作業の生産性で差別化図る

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2012  62 新ネステナーで耐震強化と効率化両立  山九の「首都圏DCセンター」は二〇一〇 年一月、川崎港のコンテナターミナルに隣接 する川崎市の東扇島地区で営業を開始した。
事業費は開示していないが、同社が「総力を 挙げて取り組んでいる」とアピールする通り、 3PL事業の拡大を狙った大型の先行投資だ った。
 開業当初は景気減速の影響もあり、稼働率 が五〇%程度と苦戦を強いられたが、一一年 からはほぼフル稼働が続いている。
荷物の増 加傾向に対応するため、近隣の倉庫を借りて、 第二センターとして運営しているほどだ。
首 都圏DCセンターを担当している首都圏DC 支店の中野尚弘部長は「好立地に加え、強力 な営業活動が効果を上げた」と振り返る。
 同センターは四階建てのマルチテナント型 施設で、総保管面積は八万五八〇〇平方メ ートル、ワンフロアが東京ドームの半分弱と、 山九グループの物流センターとしては最大規 模だ。
 各フロア中央には幅一四メートルもの車路 を確保し、通路にトラックで乗り付けてその まま荷物の積み降ろしができるよう配慮した り、四階は梁下までの天井高を七メートル持 たせたりと、機能面でも同社随一を誇る。
 さらに、大きな武器となっているのがロケ ーションだ。
川崎港のほか、羽田空港まで車 で約一〇分、横浜の大黒埠頭や本牧埠頭まで 約一五分、東京の大井埠頭まで約二〇分と、 巨大消費地や主要空港・港湾にほど近い。
 国内だけでなく、国際3PL事業の重要拠 点としても活用している。
実際、現在の取り 扱いの大部分は輸入貨物で、種類も日用雑貨 品から食品、玩具、化粧品、プリンター、プ リンター用品など多岐にわたっている。
 中野部長は「コストやサービス水準でも競 争力を高めていきたい」と意欲を示している。
庫内作業の効率化でも先進的な拠点を目指す 考えだ。
その一環でマテハン設備の改良にも 取り組んだ。
「ネステナー」と呼ばれる、荷物 を載せる箱状の鉄製ラックの見直しだ。
 ネステナーは保管スペースの大きさに合わ せて、レイアウトを自由に変えられるのが利 点だ。
首都圏DCセンターでは、ネステナー を二つ積み上げ、荷物を各ネステナーの中と、 上段のネステナーの屋根部分の計三層に置い て保管するなどしてきたが、一二年度より新 たに最初から二台を上下に連結して一台とな  大型の先行投資を断行した東扇島の「首都圏DC センター」がフル稼働状態に。
輸入拠点としての 立地が評価されている。
3PL事業の戦略拠点とし て独自の保管設備開発や作業員のレベルアップな ど、庫内作業の効率化を進め、競争力をさらに高 めたい考えだ。
3PL 山九 先行投資を断行した最大拠点がフル稼働 立地に加え庫内作業の生産性で差別化図る 左=中村真也首都圏DC支店長 右=中野尚弘首都圏DC支店部長(3PL事業 担当) 63  OCTOBER 2012 っている二連タイプのネステナーを順次導入 している。
 安定性を欠くため、ネステナー二台を積み 重ねたまま動かすことはできなかったが、二 連タイプの活用で移動などの作業時間短縮に つながると想定。
また、二連タイプにすると 従来より強度が増すため、地震による荷崩れ が起こりにくくなると期待している。
 新たなネステナーは、昨年の東日本大震 災を受けて、山九がメーカーと協議しながら、 独自に開発したものだ。
耐震性強化と作業効 率向上を両立できる製品にしようと取り組み、 今年四月以降、既に約二〇〇〇台を導入済 みで、今年度中にあと約一〇〇〇台を追加す る計画だ。
 中野部長は「うちのお客様は荷物の保管よ り、出荷がメイン。
荷役効率の向上は常に忘 れてはならない部分だ。
耐震面だけみれば固 定ラックでも問題ないだろうが、ネステナーよ り荷役効率は落ちる。
荷役にも、地震にも強 いものでなければならない」と、ネステナー 変更の狙いを強調する。
導入コストは一億五 〇〇〇万円程度とみられるが、中野氏は「中 長期的に考えれば必要な投資」と言い切る。
 新たなネステナーは既存のものより高さが 二倍程度に増すため、作業員がフォークリフ トでの運搬に慣れるまで時間を要するものの、 効率化の兆しは次第に出てきているという。
 中村真也首都圏DC支店長は「庫内作業は、 これをやれば劇的に変化する、というような 革新的なものは、残念ながらなかなか見つか らない」と指摘。
今後も荷物の配置見直しに よるフォークリフトの動線短縮など、地道に 改善を進める姿勢を示す。
人件費を月二〇〇万円削減  海上輸入コンテナのセンター到着時間順守に も努めている。
東京港の混雑などの影響で、コ ンテナがセンターに着く 時間が予定よりも度々遅 れ、現場の作業員に残 業が発生していた。
 そこで、従来はコン テナを輸送するドレー ジ業者に対し、数日先 までのコンテナ到着予 定しか伝えていなかっ たのを改め、今年初め からは最低でも一週間 分の到着情報を連絡する仕組みに変更した。
情報は日々ローリングされ、常に予定がセン ターと業者の間で共有されている。
 事前に情報を把握しておくことで、あらか じめドレージ業者が混雑などに備えた運搬の 計画を立てられるようにして、混乱を最小限 にとどめるのが狙いだ。
中村支店長は「コン テナ待ちの時間はだいぶ減り、予定時間に着 く割合も改善している」と説明する。
このよ うな細かい効率化の積み重ねで、目標として いる作業員の人件費月二百万円削減はおおむ ね達成できているという。
 今後は作業員のスキル向上にも本格的に取 り組んでいく方針だ。
首都圏DCセンター内 の人員配置は、現状でフォークリフトの操作 担当が約八〇人、カートピッキングや流通加 工などの担当が約二〇〇人。
荷主となってい る複数社の間で、カートピッキングなどのや り方が異なる部分があるため、担当の作業員 に複数の会社の作業方法を習得してもらうこ とを予定している。
作業員の配置を適宜変更 できるようにしたいとの思惑だ。
 中村支店長は「作業員一人で二、三カ所は 受け持つことができるような体制にしたい」 と語る。
中野部長は「作業員の半分ぐらいが そのようになれば、随分助かるのは間違いな い」と取り組みの意義を明かす。
今後三年程 度のうちに完了することを目指し、請負会社 とも協力して、作業員のレベルアップを促進 していく計画だ。
       (藤原秀行) 山九の「首都圏DCセンター」。
センター内で用いているネステナー。
奥に積まれ ているのが、新たに導入した二連タイプ。
同セン ターは手前の従来型のものに比べてフォークリフ トによる段積みなどの作業時間短縮につながり、 耐震性も高まると期待している。

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