ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年10号
keyperson
「正攻法で独自の事業モデルを築き上げる」 三菱倉庫 岡本哲郎 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2012  6 超えて新興国と日米欧がパイプライン で繋がっている。
その根っこになって いる新興国を押さえないと、先進国の 仕事も獲得できない。
中国を押さえる ことで、欧米の荷主をつかむんです」 ──外資系の荷主ということですか。
 「日系以外の荷主をどう取り込むか が、当面の課題の一つです。
外資系荷 主が相手となると、当社としても各地 のナショナルスタッフで対応すること になる。
そのために先日も渡米して現 地の幹部たちと色々と話しました。
欧 米のビジネスでは、ITがとくに大き なカギになります。
そこで貨物追跡シ ステムを強化した。
その成果が現れて きたことを、現地で実感できました」  「この十一月には世界各地の幹部た ちを日本に呼んで一週間程度の研修を 実施します。
理念や戦略、そして現場 作業を理解させる。
当社のナショナル スタッフの多くはフォワーディング畑で す。
彼等に当社の現場作業を教え込む。
それによって海外における倉庫と配送 のオペレーションを伸ばしていく。
そ れがこの中計の二年間で進めたことの 一つでした」 ──グローバル市場で戦うには、やは り規模は必要ですか。
 「輸送キャリアから競争力のあるレー トを引き出すには一定の規模は欲しい」 ──現状でも日本発着の海上フォワー 安定を求めれば衰退する ──今期の収益予想は連結売上高が二 〇三七億円の増収増益見込みですが、 中期計画で掲げた二〇一二年度に二三 三〇億円という目標に届きません。
 「中期計画を策定したのが二〇〇九 年度で当時の売上高が一四八三億円で した。
これを三年間で当初は一九三〇 億円まで伸ばす計画でしたが、一〇年 度に富士物流を買収したため、売上高 の目標値を四〇〇億円引き上げました。
しかし、そこまでは残念ながら手が届 かなかった」  「それでも中計で掲げた路線に沿っ て着実に進んでいます。
現在の中計で 当社は基本方針を一二〇もの詳細な実 行計画に落とし込んで、それぞれKP Iを設定しました。
各人のやるべきこ とをはっきりさせたことで、かなりの 確率で計画を具体化できました」 ──富士物流の買収をはじめ、積極的 な拡大路線を採る狙いは?  「先輩たちから受け継いだ資産を利 用して手堅くやっていくという考え方 もあるでしょう。
しかし、現在の環境 下では安定を選んだつもりが、衰退を 招いてしまうことになりかねない」  「国内事業の安定した収益基盤は今 後も維持していきます。
医薬品など攻 めるところは攻める。
しかし、国内だ けではもはや大きな成長は期待できま せん。
倉庫業の景況を示す指標の一つ に『保管残高』がありますが、当社 の場合、保管による収入は今や全体の 一〇%〜一五%に過ぎません。
しかも、 SCMが普及して経営の全体最適が志 向されるようになっている。
SCMを 物流面から見たものがロジスティクス だと私は理解していますが、それによ って企業はますます在庫を持たなくな っていく」  「我々は保管事業者ではなくロジステ ィクス事業者であって、モノが動かな いと商売にならない。
グローバルにモ ノが動くようになった以上は、そこに 入っていって成長市場に事業基盤を確 立する必要があります。
具体的には中 国やアジアです。
ところが当社は海外 事業で出遅れていた。
海外売上比率が 一割にも満たないわけですから」 ──新興国の物流事業で利益を上げる のは至難の業です。
日本人を投入する には単価が安過ぎる。
 「国単独で見れば、そうでしょう。
中国物流にしても取扱量は好調ですが、 グループ全体の業績への貢献は大きく はない。
収益基盤の確立した欧米とは 違います。
しかし、ロジスティクスは 一つの国の中で完結しません。
国境を 三菱倉庫 岡本哲郎 社長 「正攻法で独自の事業モデルを築き上げる」  財閥系倉庫会社の保守的なイメージを脱ぎ捨て、拡大 路線をひた走る。
売上規模は二〇〇〇億円を超えた。
二 〇一一年の富士物流の買収でロジスティクス機能を強化 したのに続き、今後は海外事業の拡大を急ぐ。
安定を求 めてリスクを避けていれば衰退に陥る。
その危機感が背 中を押している。
        (聞き手・大矢昌浩) 7  OCTOBER 2012 ディングでは大手です。
それに比べる と航空フォワーディングは薄い。
そこ はM&Aも選択肢ですか。
 「海外展開のスピードを速めるのに 『シナジーのあるM&A』は有効だと考 えています。
ただし、売り上げを増や すだけの?数字合わせ?はしたくない。
お互いの価値観やベクトルが合わない と統合はできません。
また先日はイン ドの物流企業の買収案件を一つ見送り ました。
財務内容に不透明なところ があった。
当社はそうしたリスクを負 ってはいけない会社だと考えています。
そうしていたら次に別の話が来た。
現 地の大手財閥系の会社なんですが、半 年や一年で数字を出そうというのでは なく、ロングタームでやろうというこ とで意見が一致した。
そういう会社と なら一緒にやれる」 ──売上高が二〇〇〇億円を超えて財 閥系倉庫会社としては頭一つ抜けまし た。
競争相手として念頭にあるのは、 日立物流や郵船ロジスティクスあるい は日本通運ですか?  「今の当社が最大手をライバルと呼ぶ のはおこがましいでしょう。
また大手 フォワーダーとは業務の内容がまった く違う。
倉庫業界の中でだけ、ものを 考えているわけにはいきませんが、ベ ンチマークの対象になるような会社は 見当たりません。
自分自身の事業モデ ば荷主も当社を信頼してくれる。
中国 の仕事は全部任すよと言っていただけ る。
それがまた次の仕事につながって いく。
倉庫を自社所有していることが 強みになります」  「日本でも現在、埼玉県の三郷に延 床約八〇〇〇坪の自社施設を建設中 です。
医薬品向け配送センターで、来 年の二月に稼働予定です。
これに隣接 してもう一棟建てられるだけの土地を 今回確保しましたが、これはディベロ ッパーの紹介でした。
まとまった土地 を手に入れようとすれば、地権者との 折衝や土地利用の承認などに大変な時 間がかかる。
そこにスタッフの手を取 られているわけには行きません」 ──もったいないようにも感じますが。
 「良かれ悪しかれ当社はオーソドック スなんです。
現場で汗をかくことでし か物流業の成長はありません。
成長は 大事ですが、それを正攻法で成し遂げ たい。
遠回りのようでも、それが最後 に勝つ方法だと信じています」 ルを築き上げるしかありません」  「甘いと言われるかも知れませんが、 当社は『従業員満足度』や『社員に優 しい会社』といった調査で、いつもラ ンキングの上位に入るんです。
顧客や 株主と並んで、ステークホルダーとし ての従業員を伝統的に大事にしてきま した。
私自身、従業員と会社の関係は どうあるべきなのか、よく考えます」  「従業員の満足度はサービス品質の ベースになる。
それが荷主の評価につ ながるだけでなく、業務提携やM&A にも有利に働く。
買収した後も当社な ら既存社員に下手なことはしないだろ うと、売却の打診が入ってくる。
そう した当社独自の価値観を大切にしなが らグローバル化を進めていきます」 米国市場に改めて注力 ──来年度から始まる新中期計画のポ イントは。
 「基本方針は変わりません。
国内は しっかり。
海外事業には成長を求める。
とくに米国には力を入れます。
新しい 中期計画を作成するに当たって、一〇 年先の世界経済の見通しを分析しまし た。
新興市場の成長はもちろん続く。
しかし中国にしても一〇年後にアメリ カを追い抜けるわけではない。
一〇年 後もアメリカは依然として最大の市場 です。
一人当たりGDPは群を抜いて いて、カントリーリスクも低い。
やは りアメリカが大事だという結論に至り ました」 ──物流不動産開発に魅力は感じませ んか。
従来から不動産事業は三菱倉庫 のもう一つの柱で、オフィスビルや商 業施設、集合住宅などの開発には実績 があります。
その対象を物流施設に拡 大すればスピード成長も可能では。
 「確かに物流施設の使い勝手なら当 社は誰よりも分かっています。
しかし、 本業以外の事業にリソースを割こうと は思いません。
そんな余裕があるのな ら、物流業にさらに注力したほうが いい。
もちろん物流事業に必要な資産 は今後も購入していきます。
例えば先 日、中国の倉庫会社の買収を決めまし た。
この会社は約四万?の倉庫を所有 して、自分で運営している。
それが魅 力でした」  「中国の賃借契約はオーナー側が圧 倒的に強い。
需要の強いところでは、 頻繁に賃料の値上げがある。
オーナー に出ていけと言われれば、テナントは 出て行かざるを得ない。
しかし、日系 の大手荷主向けの施設ともなると、そ う簡単に代わりは見つからない。
その 点で、当社は現地の倉庫会社を押さえ ているので、そのスペースを提供する ことができる。
自社施設をバッファー として使えるわけです。
そこまでやれ 岡本哲郎 (おかもと・てつろう)  1950年、埼玉生まれ。
73年、慶應義塾大学経済 学部卒。
同年、三菱倉庫入 社。
横浜支店長、東京支店 長等を経て、2006年に取 締役就任。
08年、社長就 任。
現在に至る。
今年6月、 日本倉庫協会会長に就任。

購読案内広告案内