ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年8号
特集
第1部 法改正が迫る新たな波動対応 「法改正の趣旨に反する行為は許さない」 厚生労働省 佐藤康弘 派遣・有期労働対策部 需給調整事業課 課長補佐

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2012  16 法改正は大きな一歩 ──改正労働者派遣法が今年三月に成立しましたが、 当初提出された政府案の内容からはずいぶん後退し たように思えます。
特に「登録型派遣」と「製造業 派遣」の禁止が削除されたインパクトは大きい。
 「政治の影響を受けたことは否めません。
派遣法を 含む労働関係の法案は労働政策審議会で議論されま すが、通常、そこでの決定やとりまとめは、他の審 議会の決定に比べてより尊重される傾向があります。
しかし、今回は国会で大幅な修正が入った」 ──登録型派遣と製造業派遣の禁止が抜けたことで、 “骨抜き”と揶揄する声も挙がっています。
 「それは違う。
確かに二つの柱は消えましたが、今 回の改正には大きな意味があります。
これまで派遣 法は『規制緩和』の視点から改正が繰り返されてき ましたが、今回は派遣労働者の保護および雇用の安 定を大々的に掲げています。
派遣法の長い歴史の中 で、初めて労働者のための改正となった。
その意味 で、大きな一歩を踏み出したと見るべきでしょう」  「登録型派遣と製造業派遣がなくなったとはいえ、 内容もかなり踏み込んだものになっています。
日雇 い派遣の原則禁止を筆頭に、マージン率の情報公開 義務や一人当たりの派遣料金の額の明示、『みなし雇 用制度』の導入、グループ企業内派遣の八割規制な ど、多くのルールや義務が盛り込まれている。
違法 派遣に対する歯止め効果が期待できます」 ──施行まで二カ月ですが、今後のスケジュールは?  「八月のなるべく早い段階までに政令や省令の詳細 を詰め、その後、八月後半から九月にかけて業務取 扱要領を作成します。
同時に、事業者や労働者に対 して改正内容の詳細を周知していきます」 ──製造業派遣や登録型派遣が抜けたことで社会的 な注目度は一時より小さくなりましたが、日雇い派 遣の禁止は物流業界に大きな影響を与えそうです。
 「引越業も含めて、物流業界が最も影響を受ける産 業の一つであることは我々も認識しています」 ──改めて聞きますが、厚労省は日雇い派遣の問題 点はどこにあると認識しているのですか。
 「一番は派遣元と労働者の関係です。
雇用管理責任 が曖昧で、違法派遣やマージンの搾取、労災問題な ど多くの弊害が生じている。
フォロー体制も長期で働 く労働者に対するものよりかなり脆弱です。
これは 是正する必要がある」 ──労働者の中には短期的な働き方を望んでいる人 が存在するのも事実です。
 「かならずしも日次単位で働くことを禁止している わけではありません。
日雇いで、しかも派遣という 働き方に問題がある。
その理由は先ほども言ったよ うに、雇用管理責任が曖昧になるからです。
日次単 位の契約でも企業の直接雇用に変われば、少なくと もその責任は明確になる。
日雇い派遣の場合でも派 遣元と労働者が契約を結んでいますが、実態として その関係は極めて希薄です。
派遣先に送り込むだけ で、実際には顔も合わせたことがないということも 珍しくない。
これでは雇用責任は果たせません」 ──今回の改正では「日雇い」の定義は「三〇日以 内」ということで決着しました。
一部の悪質な派遣 会社がここに目を付け、三一日以上の契約を結び、こ れまでの日雇い派遣と変わらないサービスを提供しよ うとしているという話も聞きます。
 「たとえば三一日で契約を結び、労働実態が一日だ けというのであれば、これは明らかに問題がありま す。
そういった脱法的な行為に対しては指導をして 「法改正の趣旨に反する行為は許さない」 1 法改正が迫る新たな波動対応  今年3月、改正労働者派遣法が成立した。
当初の政府 案から大幅に内容は後退したが、労働行政が従来の規制 緩和政策から方針を転換し、労働者保護に舵を切った意 義は大きい。
ただし、改正法は多くの“グレーゾーン” を含んでいる。
その運用次第で物流業界に与える影響は 大きく変わってくる。
       (聞き手・石鍋 圭) 厚生労働省 佐藤康弘 派遣・有期労働対策部 需給調整事業課 課長補佐 物流現場のコンプライアンス 特 集 日雇い派遣禁止 17  AUGUST 2012 いきます」 ──労働実態が一日というのは確かにおかしいです が、それが一〇日ならセーフなのか、あるいは一五 日なのか。
それとも雇用保険の加入条件を満たせば 良いのか。
明確な線引きをせずにグレーな状態のま ま残せば、不正の温床になる可能性がありませんか。
 「確かにそのような懸念はあります。
まだ施行まで 二カ月ありますので、今後なんらかの形で一定の目安 や指針は示していきたいと考えています。
ただ、最 終的に『このケースはOKで、このケースはアウト』 と一つ一つ明確にルール化するのは現実的に難しい。
あくまで社会通念上、妥当かどうかが見極めのポイ ントになるでしょう。
結果として、法の趣旨に反す るような行為があまりに横行するなら、運用を厳し くしなければいけないという議論も出てきてしまう 可能性もある」 ──監視は厳しくする?  「もちろんその必要もありますが、それ以上に我々 行政が丁寧に周知し、個別企業の相談には真摯に応 じなければいけない。
法律が変わることで、事業者 にも様々な影響が出ます。
対応に迷うこともあるはず です。
各労働局の窓口を通じて、そうした不安や疑 問を解消していく。
各地の労働局の対応にも、可能 な限りバラツキが出ないように心掛けます」 企業負担よりも労働者保護を優先 ──日雇い派遣の禁止をややこしくしているのが例 外規定の存在です。
特に派遣現場を混乱させている のが、「副業者」と「主たる生計維持者でない者」に 課される五〇〇万円という収入要件。
つまり世帯収 入が五〇〇万円以上なければ、日雇い派遣で働けな いというルールです。
日雇い派遣を望んでいるのは、 収入が五〇〇万円以下の人たちが圧倒的なはずです。
 「議論の立ち位置によって見方は変わると思います。
今回の改正では日雇い派遣はあくまで禁止。
ただし、 その例外を設けるというのが出発点です。
乱暴に言っ てしまうと、世帯収入が五〇〇万円以上ある人であ れば、日雇い派遣で働いてもリスクはそれほど大きく はならないという判断です」 ──収入はどう確認するのですか。
 「源泉徴収票や所得証明などを派遣元が確認し、そ れを台帳に記録しておくのが基本です。
ただし、そ れが不可能な場合は労働者の自己申告や誓約のよう な形をとるのが現実的な対応となるでしょう。
書類 の提出をマストにしてしまうと、本当は日雇い派遣 で働ける条件を満たしているのに、書類を準備でき ないばかりに働けないという人が出てきてしまう」 ──自己申告では嘘が横行する可能性がある。
 「基本的に、コンプライアンスは自主的に守っても らうというのが原則です。
先ほどの『三一日以上の 契約』の議論と同じですが、あまりにひどい状態に なるようなら、運用の方法を見直す必要が出てくる。
法の意図がまったく順守されていないという状況は 放置しません」 ──日雇い派遣が禁止されれば、物流企業はアルバ イトを直接雇用することになり、募集業務や雇用管 理業務が発生します。
大手ならまだしも、中小以下 にとってこの負担は大きい。
 「企業の負担が増えることは承知しています。
そ の上で、今回はそれよりも労働者の保護を優先した。
企業は必要に応じて、いわゆる『日々紹介』や『管 理業務代行』といったサービスを利用することなどに よって、これまでに近い形で短期労働者を活用する 環境を整備できると考えています」 派遣法の歴史 派遣法成立 改正、13 業務から26 業務へ規制緩和 改正、ポジティブリストからネガティブリストへ 改正、製造業への派遣解禁、派遣受入期間の延長 自民党政権下で改正法案を国会へ提出 6月:野党3 党(民主・社民・国民)が改正案を提出 7月:衆院解散により政府案・野党案ともに廃案に 民主党政権下で改正法案を国会へ提出 与野党による修正合意 3月:改正法成立 10月:改正法施行、日雇い派遣原則禁止へ 1986 年 1996 年 1999 年 2004 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 改正労働者派遣法の概要 事業規制の強化 派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善 違法派遣に対する迅速・的確な対処 ・ 日雇派遣(日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)の原則禁止(適正 な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務の場合、雇用機会の確保が 特に困難な場合等は例外) ・ グループ企業内派遣の8割規制、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者とし て受け入れることを禁止 ・ 違法派遣の場合、派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている 場合には、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす(法施行 から3 年経過後) ・ 処分逃れを防止するため労働者派遣事業の許可等の欠格事由を整備 ・ 派遣元事業主に、一定の有期雇用の派遣労働者につき、無期雇用への転換推進措 置を努力義務化 ・ 派遣労働者の賃金等の決定にあたり、同種の業務に従事する派遣先の労働者との均 衡を考慮 ・ 派遣料金と派遣労働者の賃金の差額の派遣料金に占める割合(いわゆるマージン率) などの情報公開を義務化 ・ 雇入れ等の際に、派遣労働者に対して、一人当たりの派遣料金の額を明示 ・ 労働者派遣契約の解除の際の、派遣元及び派遣先における派遣労働者の新たな就 業機会の確保、休業手当等の支払いに要する費用負担等の措置を義務化

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