ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年2号
現場改善
社内の共通言語を作る

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 代表 青木正一 FEBRUARY 2004 84 根本的な問題はどこにあるのか 生鮮野菜・果物を扱うA社は量販店や外食店 を主な顧客としていた。
年商は約一〇〇億円。
同 業他者ではあまり扱わないカット野菜や、グラ ム単位・本数単位での小分け作業を得意として 業績を伸ばしていた。
さらに今後三年間で売上 規模を倍増させる計画も立てていた。
課題は物流だった。
「今までにも自社で物流改 善はやってきたが、物流費は上昇するばかりで 一向に削減できていない。
これ以上の物流改善 を行うためには、外部の力を借りるしかない」。
そう考えたA社の社長本人から弊社に直接電話 があった。
社長が弊社の改善事例の掲載記事を たまたま目にしたことがきっかけだった。
私は早速アポイントを取ってA社を訪問し、詳 しい内容を聞いた。
A社の社長が認識している 問題点は次の三つであった。
?納品先の量販店・外食店とも店着時間が午前 五時から八時に集中しているため、出荷作業 場が大変混雑している ?同時店着が必要な店舗が多いため、車両の効 率化が図れない ?小分けのピッキングを人海戦術で対応してい るため、多大なコストがかかっている 社長の話からは、なんとしても物流費を削減 したいという気持ちが感じ取れた。
私としても 期待に応えたい。
すぐにでも現場を見学させて もらえるようにお願いした。
しかしA社の物流 現場は卸売市場の中にあり、作業のピーク時間 は午前四時から午前七時だということだったの で、見学は日を改めることにした。
実際に現場に赴いたのは、まだ夏の日差しが 残る八月下旬であった。
深夜の午前二時にA社 で待ち合わせをした。
案内役として作業内容の 説明をしてくれたのは、A社物流部の田中マネ ージャーであった。
一通り見学させていただき、 私はA社の問題点を次のように認識した。
?商品の品質チェックがされていない 商品の入荷検品が行われていない。
商品が入荷される時間帯とA社の従業員が出勤してくる 時間帯とが違っているため、ドライバーが勝手 に商品を降ろして帰ってしまう。
そのため入荷 された生鮮品が八月下旬の暑さのなかで、しば らく入荷場に放置されているという状態だった。
また出荷の際に品質をチェックすることもなか った。
つまり品質のチェックが事実上、行われ ていなかったのである。
もっとも、これはA社に 限ったことではなく、それが青果物卸の現状の ようであった。
?担当マネージャーを含め、全従業員が作業員 になってしまっている 業務全体を把握し、作業員に指示・命令を行 うべきマネージャーまでも、作業量の多さから一 第14回 青果物卸のA社。
売上高は順調に伸びているものの、それ以上に物流費が増 加していた。
現状に問題があることは社内の誰もが認識していた。
しかし、具体 的な課題を社内で共有する仕組みがなかった。
新しい商品マスターを作り、それ を共通言語として情報を共有化することが改善の第一歩となった。
社内の共通言語を作る ――青果物卸A社 85 FEBRUARY 2004 今ではこういうものだと、あきらめて仕事してい ます」とのことであった。
弊社では物流改善を行う際、現場見学ととも に必ず行うことがある。
物流部の担当者のほか に、経営者・営業担当者・受注担当者・システ ム担当者などにもヒアリングすることである。
そ の理由は、「物流は受注から始まる」からである。
物流とは指示された内容通りに間違い無く作 業を行うことが最大の使命である。
そのために 物流部だけで物流を改善できることは少ない。
む しろ物流部にどのような指示を流すかという、受 注プロセスの改善によって、物流部の作業が飛 躍的に改善されることの方が多い。
営業部を含 む他部署の協力があって初めて物流改善は可能 になる。
物流改善=全社テーマなのである。
この原則に則ってA社でも経営者を始め、様々 な部門の担当者に対してヒアリングを実施した。
その結果、予想通り現場見学だけでは分からな かった問題点が浮かび上がってきた。
全担当者 が共通して認識しているA社の強み・弱み・今 後の課題は次の通りであった。
(1)強み ・お客様の要望に応えることのできる集荷力 ・野菜の原体だけでなくカット野菜や本数・グ ラムでの小分け作業への対応力 (2)弱み ・同じ会社であるにも関わらず、各部署が別の 会社のようになってしまっており、情報が共 有化されていない (3)今後の課題 ・商品に対する品質の強化 今後A社が生き残っていくためには品質の強 化が不可欠であることを全員が認識していた。
し かし、前述の通り日々の作業に追われてしまっ ているため、改善に手が付けられない。
加えて全 社的なコスト削減活動の一貫として物流部でも パート・アルバイトの人数が減らされたことで、 品質チェックがよけいにおろそかになっていた。
商品マスターの不備 現場見学や各担当者へのヒアリングを実施し た中で、一つだけ気になったことがある。
商品 の廃棄についてである。
入荷された商品がしば らくの間、そのままの場所に放置されているこ とに加え、商品を冷蔵庫から出して出荷するま での時間もかなりかかっていた。
それだけ品質 の劣化による商品の廃棄が多いのではないかと 推測した。
実際、出荷作業の途中で、品質劣化 が起きている商品を廃棄する光景も見た。
生鮮野菜・果物を扱っている以上、商品の品 質劣化は避けられない。
どんなに品質チェック を強化してもゼロにはならないであろう。
そして 売り物にならなくなった商品は廃棄せざるを得 ない。
そうだとすれば廃棄量および廃棄率が管 理できなければ、青果物の商売は儲からないは ずだ。
ましてや商品の品質強化などできるはず がない。
そこで「商品の廃棄量はどれくらいあります か? また廃棄率はどれくらいですか?」と田 中マネージャーに聞いたが、「分かりません」と いう返答であった。
なぜ分からないのか重ねて 尋ねると、そもそもA社では商品別の粗利しか 管理していないとのことであった。
しかもこの場合の「商品別」とは「大根」や 作業員になってしまっていた。
納品した商品の 品質に対してクレームが発生した場合、その納 品先への出荷商品だけを一週間から二週間の期 間限定で全商品チェックしていた。
その作業が マネージャーの仕事になっていた。
?商品のロケーション管理ができていない 冷蔵庫での保管商品や出荷場でのピッキング 待ちの商品など、商品のロケーション管理がで きていなかった。
どの商品がどこにあるかは担 当者の経験と勘だけで判断していた。
当然、作 業に慣れていない従業員には商品を「探す」手 間が発生していた。
上記の内容を田中マネージャーにぶつけてみ た。
すると問題点として認識はしていたが、日々 の作業に追われてなかなか改善できないでいた ということであった。
A社の社長が指摘した物 流の問題点についても、田中マネージャーは社 長と同じ認識を持っていた。
問題を認識していながら改善できないという ことは、何か他に原因があるはずである。
「改善 するためにはどうしたらいいですかねぇ?」私は 素直に田中マネージャーに尋ねてみた。
「作業時間が重なってしまうのはある程度仕方 ないことだと思っています。
ですが『このお客様 にはここに保管してあるこの商品を出荷してく れ』という指示が営業担当者から出されるケー スがあるのですが、その保管場所に商品が無い ため、商品を探す手間がかかったり、どの商品 がいつどこから入荷されるかが分からないため、 出荷の事前準備ができないといったことも作業 を遅らせている原因だと思います。
営業には何 度かお願いしたのですが、一向に改善されない。
FEBRUARY 2004 86 「きゅうり」という意味だった。
お客様からの注 文=出荷の単位は「栃木産の大根」や「サイズ は2L」など産地や規格が指定されている。
事 実上のカテゴリー単位でしか管理していないと いうことだ。
商品の在庫数量の把握もできてい なかった。
仮に従業員が商品を盗んだとしても 分からない状況であった。
田中マネージャーは続けて説明した。
「単品単 位で商品マスターが設定されていない方が、営 業や他部署としても都合がいいんじゃないです か? 商品マスターを設定する手間もかかりま せんし、大根、きゅうりといった単位の粗利で しか評価されないのですから、何かと調整も効 きますし」 問題の本質が分かった。
単品単位で設定され ていないA社の商品マスターに全ての課題が集 約されていた。
複数の担当者が商品マスターを 設定しているため、同じ商品マスターで複数の 商品が存在していた。
結果として出荷指示書に は同じような商品名のものがいくつも表示され るようになっていた。
現場見学でも、同じものとしか思えない商品 名が一つの出荷指示書に五つも表示されている ものがあった。
これらの商品が全く違う商品で あるかというと、そうでもない。
逆に別の商品 名で登録されていても全く同じ産地、等級、規 格、生産者というケースも多い。
このような出 荷指示書を従業員の経験と勘で処理しているの が実情であった。
この商品マスターの問題については、A社と しても、それまでに何度か対策に乗り出してい た。
しかし、解決はできていなかった。
単品単 位で商品マスターを設定するとなると、同じ産 地でも生産者が違えば別の番号を振らなければ ならない。
さらに産地、等級、規格、生産者別 に単品単位でナンバーを振るとなれば、マスタ ーの数は膨大な量になる。
受注処理も、必要とする商品マスターを「探 す」手間が増える。
その結果、業務が非効率に なるという危惧が、商品マスターを設定しない 理由の一つになっていた。
実際、顧客からの注 文には「静岡産のみかんが無ければ愛媛産のみ かんでいいよ」といったラフな指示もあり、単 品単位で商品マスターを設定すると修正の手間 が増えてしまうケースも少なくなかった。
しかし、単品単位で商品マスターを設定する ことのメリットもあるはずだ。
具体的には次の ようなメリットが期待できた。
?単品別の廃棄量および廃棄率が把握できる →商品ロスの原因を分析できるようになり、対 策を打てる ?商品の単品別の売上金額が把握できる →各商品の販売傾向を?数値〞で捉えることが できるため、販売戦略への展開が容易になる (共通言語で話せる/判断しやすくなる) ?従業員の経験と勘に頼っている作業の標準化 が図れる →パート・アルバイトでの対応も可能になる。
人 件費の削減につながる ?発注作業の自動化が可能になる →人件費の削減につながる ?商品の入荷予定表の出力が可能になる →事前準備が可能になり、作業の効率化が図れる ?営業担当者が手書きしている出荷指示書が必 要なくなる。
→営業担当者がより営業活動に注力できる。
以上のことから、単品単位で商品マスターを 設定することがA社の物流改善には必要不可欠 であると判断した。
品質管理部を新設 これらの内容を踏まえ、弊社がA社に提案し た具体的な内容は大きく次の二つである。
1 . 品質管理部門の設置 A社における品質管理の強化は、経営者を含 め全部署の担当者が今後生き残っていくために は必要だと認識していながら、手がつけられな い状態になっている。
そこで新たな部署を設置 することを提案した。
組織としては、営業部・ 物流部と並列的な関係として設置することとし た。
(図1) 専属で人員を配置することになるため短期的に見るとコストアップ要因になってしまう。
しか し中長期的にはコストダウンを実現できること を強調した。
お客からのクレームを減らすこと で、今までクレーム対応品として送っていた商 品の配送費は大幅に削減できる。
また、A社が 品質に対して力を入れていることは、A社の強 みとして営業ツールにもなるとも考えた。
問題は、誰を品質管理部の担当者に起用する かだった。
本来であれば田中マネージャーに担 当してもらうのが妥当だが、それでは今までと 何一つ変わらなくなってしまう可能性がある。
と いうのもA社では今まで営業のできない社員を 物流部に配属するという傾向があった。
そのた め組織図的には営業部と物流部は並列の関係だ 87 FEBRUARY 2004 が、社員の意識の中では営業が上、物流が下だ ったのだ。
品質管理部に求められるのは、?お客さまの 求める品質をしっかりと理解し、?A社から出 荷した商品はお客様で検品しなくても大丈夫、と いう体制を作ることである。
これを満たすため には、物流部からではなく、一時的でも営業担 当者、しかも営業のトップを据えることで、営 業部へのにらみをきかせるとともに、?花形部 門〞としてのイメージを持たせる必要があった。
2 . 商品マスターの整備 前述の通り、商品マスターの整備はA社にと って過去に何度か試みては失敗しているテーマだ った。
私としても単品単位で商品マスターを設 定することのデメリットは十分理解したつもりだ。
それでもやはり今後、A社が生き残っていくため には、品質の管理と同様にマ スターの整備が必要だと判断 した。
マスターを整備することの メリットは、?物流現場の作 業効率を上げて、コスト削減を実現できること、 ?社内の全部署が同じ商品マスターで同じ商品 をイメージできるようになること、?過剰在庫 商品や廃棄率の高い商品などの商品情報を単品 単位で把握できること――などだ。
いずれも不 可欠な機能だった。
なかでも、全社的な共通言語を作ることは最 も重要なテーマだ。
単品単位での商品マスター は社内の共通言語として機能する。
一つの商品 マスターが一つの商品を意味するようになれば、 商品の廃棄率や、在庫の回転率などを単品単位 で正確に把握することができるようになり、全 部署で問題点を共有化できるようになる。
ただし、これを実行するためには、メリット・ デメリットをA社に伝えた上で、なぜそれが必 要なのかを全部署に理解してもらわなくてはな らない。
商品マスターの整備は全部署に関わる 問題であり、それによって大きな負担のかかる 部署も出てくるからである。
弊社の提案は基本的に全て受け入れられた。
A 社社長からは、「御社の提案は今まで何度も自社 で行ってきたが、出来なかったことだ。
自社で出 来ないために御社に依頼したのだから、プロジェ クトメンバーとよく話しをした上で必ず実行して 欲しい。
またプロジェクトメンバーはこちらで選 定するが、会議には全メンバーが参加するよう にして欲しい。
やりにくいことがあれば私に相談 してくれれば、私から直接指示を出すようにす る」というお言葉を頂いた。
改善を開始してから約二カ月が経過した。
計 画通り、品質管理を担当する部署が設置された。
組織としては物流部と並列の関係で、共に営業 部の中に組みこまれ、それぞれ物流課、品質管 理課となった。
(図2)担当者は田中マネージャ ーの他にプロジェクトメンバーとしてA社の全 部署から一人ずつが選定された。
営業に睨みの効く実力者をプロジェクトリー ダーに据えるという弊社の当初の提案とは違い が出たが、これはプロジェクトメンバーともよく 話しあい、私も納得した上での決定である。
営 業部の中に品質管理部と物流部を組み入れた理 由は、お客様が求める品質を営業部が品質管理 部および物流部に伝え、指導できるようにする ためである。
最終的に営業のトップが品質管理 部門の責任を持つという点は狙い通りだ。
商品マスターの整備は長期的な課題として捉 えている。
今までに何度も頓挫しているだけあ って、思うように進んでいないのも事実である。
しかし根気強く必要性を説くことで、徐々にで はあるがプロジェクトメンバーの考えも変わって きている。
時間はかかるが不可能な課題ではな い。
必ず成功させる。
A社における問題点、それは「共通言語(単 品単位での商品マスター)」が存在しないことで あった。
そのため、各部署がそれぞれの言葉= 必要とされる商品の単位でしか物事の判断がで きなくなっていた。
これが結果として物流改善 を妨げる一番の要因になっていたのである。
このことに気付いたA社は社内の共通言語と なる単品単位での商品マスター作りに着手し始 めた。
この行動は必ずA社を飛躍的に発展させ る要因になると信じている。
皆さんの会社でも 同じようなことが起きてはいないだろうか。
一 度確認してみて欲しい。
図1 当初の提案 品質管理部 物 流 部 管 理 部 1 課 2 課 総 務 課 経 理 課 3 課 営 業 部 図2 実際の組織 物 流 課 総 務 課 経 理 課 1  課 2  課 3  課 4  課 品質管理課 営 業 部 管 理 部

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