ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2012年6号
道場
荷造包装費が最大のコスト項目だった

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

湯浅和夫の  湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第66回》 JUNE 2012  58 料によると、三種の神器というのが流行った ようです」  「三種の神器というと、冷蔵庫、洗濯機、テ レビですか?」  「正確に言うと、白黒テレビです。
この後で 登場する新三種の神器、3Cとか言われてま すが、そこにクーラーと車とともにカラーテレ ビが入っていますから」  弟子たちのやり取りを聞いていて、大先生 が手もとの年表を見ながら、思い出したよう に呟く。
 「そうそう、現天皇のご成婚パレードが行わ れたのが、えーと、これこれ、一九五九年、昭 和三四年だった。
これがテレビで中継される というので、一気にテレビが売れた、という 話を後から聞いたことがある」  「それでは、師匠は、そのパレードを実際に テレビでご覧になったんですね?」  美人弟子が大先生に聞く。
大先生が大きく 頷く。
 「もちろん見た‥‥たしかに、この時代は日 67《第122『流通技術』後日談が始まった  「この流通技術視察団の報告書が出された 年に東京タワーが完成し、開業したんですね。
今年、スカイツリーが開業しましたけど、数 えてみると約半世紀の時を経ていることにな ります」  美人弟子が感慨深げにつぶやく。
大先生事 務所で、弟子たちが集めた当時の資料をもと に、師弟による検討会が始まった。
体力弟子 が大先生に質問する。
 「東京タワーの完成というと、あの『三丁目 の夕日』の世界ですよね。
師匠は、あの映画 に登場する子供たちとほぼ同じような世代で すか?」  大先生が頷いて、「そうそう、多分同じ学 年だと思う。
あの映画を見ると、懐かしさが こみあげてくる」とわざとらしく天井を仰ぐ。
美人弟子が続ける。
 「高度経済成長期の初めの頃で、神武景気が 終わって、岩戸景気が始まった頃ですね。
資  昭和三〇年代の日本においては、 物流費のおよそ半分を荷造包装費が 占めていた。
荷役や輸送中に荷物の 受けるダメージがそれだけ大きかっ たからだ。
荷造包装費問題は鉄道輸 送がトラック輸送に置き換えられて いく一因ともなった。
流通技術の革 新が求められていた。
荷造包装費が最大のコスト項目だった ■大先生 物流一筋三十有余年。
体力弟子、美人 弟子の二人の女性コンサルタントを従えて、物流 のあるべき姿を追求する。
■体力弟子 ハードな仕事にも涼しい顔の大先生 の頼れる右腕。
■美人弟子 女性らしい柔らかな人当たりで調整 能力に長けている。
■編集長 物流専門誌の編集長。
お調子者かつ大 雑把な性格でズケズケものを言う。
■女性記者 物流専門誌の編集部員。
几帳面な秀 才タイプ。
第 回3 59  JUNE 2012 本の歴史上初めてといっていいくらいの景気 のよさだったんだろうな。
初代天皇即位以来 のめでたきことという意味で神武景気と呼ん だんだろうけど、この後、二十年くらい続く 高度成長期というのは日本が本当に元気だっ た時代だな」  「師匠は、高度成長期にかかっているんです よね?」  体力弟子が妙な聞き方をする。
 「かかっているって、なんだそりゃ‥‥まあ、 たしかに、社会人になったのが、高度成長期 に終止符を打った第一次オイルショックの二年 前だから、おれは二年くらい高度成長期を経 験している。
誰かが高度成長期を『明日は今 日より必ずよくなるという確信があった時代』 と表現していたけど、たしかにそういう時代 だったと思う」  体力弟子が大きく頷き、「文字通り経済は右 肩上りで、物流もどんどん大きくなっていっ た時代ですね。
そういう中で流通技術に関心 が集まったんですね」と納得顔で言う。
荷造包装費が鉄道輸送の弱点だった  「これを見てください。
当時の輸送機関分担 率です。
トンキロベースで見ています」  美人弟子がそう言って、机に一枚の図を広げ る(左上図参照)。
一九六〇年(昭和三五年) 時点で、内航海運が四六%、鉄道が三九%、ト ラックが一五%で、この頃は陸上輸送の主役が 鉄道だったことがわかる。
ただ、その後、鉄 道は長期低落傾向を描き、一〇年後の一九七 〇年にはトラックと鉄道の地位が逆転している。
 「当時は、陸上輸送の主役は鉄道輸送だった んですけど、流通技術がらみでいうと、当時 の鉄道輸送は、荷造包装費が高額になってし まっていたことが弱点だったようです。
ここ に当時の興味深い実態が示されています」  そう言って、美人弟子が一冊の古めかしい 報告書を会議テーブルに置く。
『貨物設備近代 化委員会報告』というタイトルが付いている。
美人弟子が続ける。
 「これは、昭和三三年に出された国鉄の委員 会報告ですけど、この中に興味深いデータが あります。
まず、これを見てください」  美人弟子が開いたページには「おもな貨物 の流通費中に占める荷造包装費の割合」とあ り、木炭、みかん、板ガラス、ビール、さけ 缶詰など十品目が並んでいる。
 「流通費というのは、荷造包装費と鉄道運 賃、それと小運送費を指しています。
小運送 費というのは集配費です。
この三つの費用の 1895 1900 1905 1910 1915 1920 1925 1930 1935 1940 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 たんす (3 組) ミシン (頭付) モーター (3HP) 衣類 (行り入) ふとん 種別 品名 (袋入) (注)年度、トンキロベースのシェア。
戦前の内航海運分担率は西洋型船舶トン数の推計から推計 (資料)国土交通省「陸運統計要覧」、戦前は西川俊作他編著「日本経済の200年」1996年 (出所)「社会実情データ図録」より転載 (備考1)運輸省自動車局編昭和31年版自動車要覧による (備考2)運賃は現行のものに換算した (出所)貨物設備近代化委員会報告(荷造包装問題)昭和33年4月22日より一部抜粋 貨物輸送の輸送機関分担率の長期推移 国鉄とトラックの運賃荷造包装費例示表(東京名古屋間) 鉄道 (宅扱) 自動車 運賃 荷造包装費 運賃 荷造包装費 円円円円円 計 計 580 1,110 1,690 880 380 1,260 310 650 960 750 410 1,160 390 300 690 480 5 485 180 40 220 200 10 210 390 70 460 340 10 350 14.5 15.7 18.7 22.3 25.3 24.6 26.8 24.5 29.5 35.5 8.3 11.7 15.0 26.1 38.8 36.0 40.8 47.5 50.2 52.7 54.2 58.7 51.9 52.6 39.0 30.5 18.0 13.1 8.5 4.9 5.0 4.5 3.8 4.0 85.5 84.3 81.3 77.7 74.7 75.4 73.2 75.5 70.5 64.5 39.9 35.7 46.0 43.4 43.2 50.9 50.6 47.5 44.7 42.6 41.8 37.1 0.1 0.1 0.1 0.2 0.2 0.2 自動車 内航海運 国内航空 鉄道 JUNE 2012  60 うちウェイトとして一番大きいのは何だと思 います?」  「いまなら、間違いなく運賃ですよね」  美人弟子の問い掛けに体力弟子が素直に答 える。
 「ですよね。
でも、この頃は一番大きな費 用項目は荷造包装費だったんです。
たとえば、 この板ガラスの欄を見てください。
流通費に 占める荷造包装費の割合が六九%にもなって います。
ちなみに運賃は二三%、小運送費が 八%です」  体力弟子が「へー」と言って、興味深そう に表を覗き込み、独りごとのように言う。
 「これらの品目のうち、荷造包装費の割合 が一番小さいのはセメントですね。
それでも 四〇%‥‥。
大体、多くが五〇%台から六 〇%台ってとこですね。
ちなみにビールの荷 造包装費の割合は五六%。
へー、多くの品目 で、物流費の半分以上を荷造包装費が占めて いるって実態ですね」  「やわな梱包じゃ輸送中に壊れてしまうので、 荷造包装を頑丈にした結果ってことだな?」  大先生の言葉に美人弟子が頷く。
 「そうです、輸送中の衝撃や振動、小口混 載でぎゅうぎゅう詰め込まれるときの圧縮な どが壊れる原因だったようです」  「肩荷役による落下の衝撃も大きかっただ ろうな」  「そうそう、この報告書におもしろい記述が あります。
肩荷役、これは一二〇センチの高 五八〇円で、トラックが八八〇円ですか。
三 〇〇円も鉄道の方が安いのに、荷造包装費は、 鉄道が一一一〇円、トラックが三八〇円で、鉄 道の方が七三〇円も高いですね。
三〇〇円運 賃が安くても、トータルでは四三〇円も高く なってしまう。
間違いなく弱点ですね」  体力弟子の感想に大先生が頷く。
 「たしかに、鉄道にとって、荷造包装費の問 題は大きいな。
台頭著しいトラックと競争す るためにも、この弱点の克服が国鉄の大きな 課題だったってことだ」  大先生の言葉に二人が頷く。
荷造包装の標準化  体力弟子が大先生に聞く。
 「この頃の業界紙を見ると、荷造包装の標準 化という見出しや包装の標準化委員会を作っ たという記事がよく出てきてますけど、この 標準化は、荷造包装費問題の解決とどう関係 してくるんでしょうか?」  大先生が頷いて答える。
 「それらの記事から推測すると、おそらく、 こういう種類の貨物にはこのような荷造包装が 望ましいという基準のようなものを示したかっ たんだろうな。
そのねらいは、第一に荷主に それを示すことで、荷主が適切な荷造包装が できるようになること。
つまり、基準がわか らないゆえの過剰包装を排することで、荷造 包装費を削減できるという点にあったと思う」  美人弟子が頷き、続ける。
さとみているようですが、これを腰荷役、え ー、六〇センチの高さの荷役に改めるならば、 荷造包装費は二五%引下げ得るものと推定さ れると書いてあります。
落下の高さが低くな る分、荷造包装はより簡易で済むということ のようです」  「へー、おもしろーい。
肩荷役というのは、 肩で担ぐということだけでなく、降ろすとき は肩から投げるってことなんですね。
その記 述によると‥‥」  「すべてがそうではないでしょうけど、そう いうことが多かったんでしょうね」  ここで大先生が話題を戻すように質問する。
 「それで、荷造包装費が鉄道輸送における弱 点というのは、トラックと比べてという意味 か? トラックの場合の荷造包装費はもっと 安く済んでいたってこと?」  大先生の質問に頷きながら、美人弟子が、報 告書の別のページを開く。
そこには、「国鉄と トラックの運賃荷造包装費例示表(東京名古 屋間)」というタイトルが付いた表があった。
 「これは、貨物を鉄道で送った場合とトラッ クで送った場合とで、運賃と荷造包装費はそ れぞれいくら掛かるのかを比較したものです。
見ればおわかりのように、運賃は明らかに鉄 道の方が安くなっていますが、荷造包装費が 圧倒的に鉄道の方が高くなっています。
それ で、トータルとしてトラックの方が安いという 結果が出てるわけです」  「へー、タンスの場合だと、運賃は、鉄道が 湯浅和夫の 61  JUNE 2012  「そうですね。
駅によって、判断が一律でな かったことは容易に想像されますね」  「それで、結局、その標準化はどうなったん だ?」  大先生が聞く。
美人弟子が答える。
 「国鉄では、昭和三四年六月から標準荷造 包装貨物取扱規定というものを制定して、荷 造包装の標準化に着手したそうです。
はじめ は限られた品目について制定したようですが、 荷造包装費の削減という点で大きな効果を上 げたらしいです。
これについて、もっと詳し く調べますか?」  「いや、まあ、当時の雰囲気がわかればいい ので、その必要はない。
ただ、損傷から守る ための荷造包装はどうあるべきかという点も 大事だけど、落下や衝撃などを起こさせない 対策も重要だよな。
それについては、どんな 動きがあった?」  大先生の質問に体力弟子が、新聞記事のコ ピーを見ながら答える。
 「これは、陸運新聞という業界紙に乗った座 談会の記事なんですが、あっ、いつかという と昭和三三年七月です。
アメリカの包装事情 をテーマにした座談会ですが、視察に行かれ た方から『アメリカのトラックは多くがバン型 車で、コンテナに車輪が付いたような感じで、 外装はほとんどなくなっている』という紹介 があり、それを受けて、荷役研究所の所長で、 かの有名な平原直さんが『私どもは日本にい て、荷役が先か包装が先か、といったことを 考え、ようやく荷役が先だと思うようになっ てきているわけです』というようなことをお っしゃっておられますから、コンテナやパレッ トの利用、さらに、それらをベースにした荷 役の機械化が進展し始めたように思います」  体力弟子の報告を受けて、美人弟子が続ける。
 「包装容器としてダンボールや紙袋などが出 てきたことで規格化が図られ、まとめやすい 姿になってきたのが大きいと思います。
その 結果、パレットの活用やフォークリフトによる 作業などが進み始めて、少なくとも荷役によ る損傷は大幅に減少していったようです。
も ちろん、手かぎの使用や肩荷役も禁止されて いったようです」  大先生が頷き、「その意味では、『流通技術 報告書』は、そのような動きの火付け役にな ったってことだな」と取ってつけたような答 えを出す。
 師弟による検討会が一段落した頃、大先生 事務所の扉が開き、編集長と女性記者が顔を 出した。
 「当時の荷主さんは、荷造包装には結構神経 を使っていたと思います。
届いても破損して いたら責任を問われるでしょうから、自己防 衛という意味でも、かなりな過剰包装になっ ていたんではないでしょうか」  大先生が頷く。
 「そうだな。
それに、この包装で輸送を引き 受けるかどうか、破損などが生じた場合、そ の損害は荷主が負担するという特約条件を付 けるかどうかという判断は、結局、取扱い駅 によってずいぶん差があったように思うな。
そ の不公平さを解消するというねらいも標準化 にはあったはずだ」 ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大 学院修士課程修了。
同年、日通総合研究 所入社。
同社常務を経て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを設立 し社長に就任。
著書に『現代物流システ ム論(共著)』(有斐閣)、『物流ABC の 手順』(かんき出版)、『物流管理ハンド ブック』、『物流管理のすべてがわかる本』 (以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コン サルティング http://yuasa-c.co.jp PROFILE Illustration©ELPH-Kanda Kadan

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