ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年10号
ケース
アサヒビール 共同化

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2011  40 手作りで“作業のダイヤ化”  ビール類(発泡酒・第三のビールを含む) の国内市場は縮小が続いている。
今から一〇 年前の二〇〇一年に、アサヒビールは年間二 億一〇〇〇万ケース以上を出荷し、業界首位 に躍り出た。
しかし、同社の出荷量はこの年 をピークに減少傾向に転じる。
二年ぶりに首 位に返り咲いた昨年は一億七二二二万ケース で、ピーク時に比べ二割も減った。
 アサヒビールはビール市場の成熟化に対応 し、二〇〇〇年代の初頭から事業領域の拡 大を図ってきた。
総合酒類化戦略を打ち出し、 M&Aによって協和発酵工業、旭化成などか ら低アルコール飲料、焼酎、洋酒、ワインの 各商品ブランドの販売権を獲得、酒類の主要 なカテゴリーをすべて揃えて消費者の嗜好の 多様化に応える戦略を進めた。
 さらにその後は食品分野への進出も本格化 させている。
〇五年にカネボウの子会社だっ たチルド飲料メーカーのエルビーを買収したの を手始めに、ベビーフード最大手メーカーの 和光堂、「アマノフーズ」の略称で知られるフ リーズドライ食品メーカーの天野実業を、相 次ぎ傘下に納め、酒類メーカーから総合食品 メーカーへの脱皮を急いでいる。
 こうした事業領域の拡大で、同社は物流に 新たな課題を抱えることになった。
洋酒やワ インなど多品種少量型商品の取り扱いは、大 量保管・大量輸送型のビールのようにはいか ない。
細かなピッキングによって作業が煩雑 化し、工数が増えた。
出荷場にトラックが到 着しても商品の荷揃えに時間がかかってなか なか出発できず、納品の遅れにつながること もしばしばあった。
 顧客サービスを早急に改善する必要があっ た。
同時に数多くのコストアップ要因を抱え ながらもローコストオペレーションは維持し なければならない。
同社はさまざまな施策を 打った。
その一つが主要な物流拠点における ?作業のダイヤ化?だ。
 顧客への納品時間を厳守するために、倉庫 での作業工程を納品時間からさかのぼって列 車のダイヤのようにスケジュール化し、それを 実行するというもの。
顧客の希望する納品時 間をもとに顧客ごとに出荷時間を設定し、こ れを起点に一日の作業計画表を作成する。
 まず顧客別の出荷時間から、当日に倉庫へ 積み込みのために入場する車両の台数を時間 帯別に割り出す。
次に車両台数から積み込み 作業量を計算する。
さらにその時間帯に積み 込み作業を行うためには、何時までにどれだ けのピッキング作業や補充作業が必要かを計 算する。
 その結果として導き出された各工程の作業 量に対して、事前の作業分析によって把握し た時間当たりの処理能力をもとに、必要な員 数やフォークリフトの台数を弾き出す。
この時 間刻みの計画表を作業現場で毎日作成し、実 際の作業の進捗と照らし合わせながら計画の  ビールの物流インフラに、グループ会社の飲料や食 品の物流を集約する共同化を進めている。
グループ 各社の届け先・アイテムコードをコンピューター上で 統一し、配車組みやピッキング・積み込みの指示を 一元化する「統合WMS」を開発、共通基盤を整え、 共同配送を本格的に拡大する。
共同化 アサヒビール 新WMSでコードと作業をグループ統合 共同保管・共同配送を飲料から食品に拡大 41  OCTOBER 2011 達成を目指す。
 現場の作業班の班長クラスが作業計画表を もとに持ち場の人員配置を行い、進捗を管理 する。
計画表からどの時間帯にどんな形で作 業のピークが来るかを予測、班長同士で調整 して相互のピーク時間帯に応援を出し合うと いった判断もする。
 この仕組みをITに頼らずすべて手作りで 運用している。
児玉徹夫物流システム部長は 「情報システムを導入すると、管理者だけが状 況を把握して現場の作業者は単に指示された ことをやるだけになりやすい。
我々がめざし たのは、作業者自身が計画通りに作業を進め るために何が必要かをその都度判断できるよ うにして、計画を達成するための運営方法を 現場に根付かせることだった」と説明する。
輸送荷姿をイメージしてピッキング  こうして作業者が主体的にスケジュールを 管理する手作りの仕組みを定着させた上で、 業務の効率化支援にはITを活用した。
〇五 年から平和島など四カ所のDCに倉庫管理シ ステム(WMS)の導入を行っている。
 当時、現場で問題となっていたのは積み込 み工程の作業時間にバラツキがあることだっ た。
車両がバースに着いてから一五分で積み 込みが終了することもあれば、四〇〜五〇分 かかることもあった。
 とりわけ洋酒やワインなど、受注単位がま とまらず一枚のパレットに複数の商品を積み 合わせて出荷するものは、積み込みに時間が かかっていた。
パレット上にピッキングされた ままでは荷姿が不安定で輸送中に荷崩れを起 こす恐れがあるため、積み込みの際に作業者 が重量や形状を確かめながら荷姿が安定する ように積み直していた。
それが時間のかかる 原因となっていた。
 そこで積み込み工程で積み直しが発生しな いように全体の作業の流れを見直した。
積み 込みの前工程となるピッキングの際に、あら かじめ輸送時の荷姿をイメージしながら商品 をパレットに積み合わせるように変えた。
段 取りの変更によってピッキング作業に新たな 負荷がかかるのを避けるため、ピッキング業 務を支援する機能をWMSに組み込んだ。
 パレット上の荷姿が安定する積み合わせ方 には、商品の重量や形状によっていくつかパ ターンがある。
これをマスターとしてWMS に登録し、出荷指示データから自動的に積み 合わせ指示を出せるようにした。
パレットに 積む順番でWMSからピッキング作業の指示 が出る。
 作業者に視覚的にも訴えるためにパレット へ商品を積みつけたイメージを3Dでも表示 するようにした。
作業者は3Dのイメージを 確認しながらピッキングリストに印字された順 に作業を進めるだけでいい。
 図1のように、ピッキングの済んだパレッ トをトラックの荷台に積み込んだイメージを3 Dで表示する機能も備えている。
バースで出 荷準備をする際に、作業員はこのイメージを 見て、車両へ積み込む順にパレットを荷揃え する。
この仕組みによって積み込み工程の作 業時間は大幅に短縮され、納品遅れの解消に もつながった。
 このような多品種少量化に対応した業務改 善が一定の成果を上げた頃から、ビールの出 荷量減少に伴い倉庫の保管能力や配送能力に 余力が生まれるようになった。
そこで同社は 次のステップとして、ビールの物流インフラを 有効活用してグループ企業と共同物流を進め、 シナジー効果を上げる施策に 打って出た。
 まずグループの中で物流特 性が比較的ビールに近い清涼 飲料会社のアサヒ飲料と共同 化をスタートした。
 両社による共同化の取り組 みで一つの象徴となったのが 茨城工場のケースだ。
同社最 大のビール工場で、生産ライ ンに直結した倉庫を三棟備え ている。
庫内には自動倉庫や 児玉徹夫物流システム部長 図1 積み込みのイメージを3Dで表示 OCTOBER 2011  42 商品を層単位でパレットに積む層別自動ピッ キング装置、トラックローダー、場内車両誘 導システムなどのITやマテハン機器が装備 され、ビールの高速出荷を実現している。
 アサヒビールはグループの収益構造改革の 一環で、この茨城工場を多品種生産工場へと 転換した。
〇七年に低アルコール飲料の生産 を開始、さらにアサヒ飲料から清涼飲料の生 産も受託した。
 これに伴いアサヒ飲料は老朽化した柏工場 を廃止。
アサヒビールの茨城工場へ生産を移 管するとともに、物流機能の集約も行った。
柏工場の保管・出荷機能だけでなく、工場の 近辺に借りていた三カ所の外部倉庫も閉鎖し て、関東地区向けの出荷機能をすべて茨城工 場内に移した。
 生産と物流の集約に合わせて茨城工場には 清涼飲料の自動倉庫と洋酒などの多品種少 量品を扱う平屋倉庫を新設し、ビールとの一 体運営による共同物流を開始した。
出荷がピ ークとなる時は相互に出荷能力を補完しあい、 同じ方面の出荷先へは共同配送を実施した。
 同社はこの茨城工場の取り組みをモデルに、 共同保管・共同配送を全国のビール工場へ拡 大した。
茨城以外の工場では倉庫は新設せず、 既存施設のまま保管スペースを捻出し、そこ に飲料の在庫を外部の倉庫から移すという方 法をとった。
 この移管をスムースに進めるために、アサ ヒビールは庫内作業の生産性向上に取り組ん のオペレーション形態が、グループ各社によ ってそれぞれ異なり、伝票類のフォーマット や商品アイテム・届け先のコード体系もまち まちだったのだ。
 実はアサヒ飲料との共同化でも同じ問題は 起きていた。
従来の両社の仕組みのまま別々 にピッキング作業をしていたため、車両へ積 み込む際に両社の荷物を積み直す作業が発生 していた。
 配車組みにも課題があった。
担当者が紙 の伝票で配車を組むビール単独時のやり方を、 飲料との共配でもそのまま続けていた。
二社 ならともかく、共同化の参加企業が増えれば、 積み込み時の積み直し作業や配車組み作業の 負荷が格段に増えてしまう。
 これらの課題を解決するためアサヒビール は共同物流に対応した「統合WMS」の開発 に着手した。
〇五年から四カ所のDCに導入 しているWMSをバージョンアップして、自 社製品以外にも適応できるシステムへ改良を 行い、作業指示や業務管理を一元化できるか たちをめざした。
 統合WMSには従来のWMSになかった配 だ。
在庫水準の適正化を図り、保管や荷役方 法の見直しによって省スペース化を進めた。
庫 内業務を担当する物流子会社のアサヒロジや 協力会社は、工程ごとに人員配置を見直すな ど庫内作業の生産性向上をテーマに改善を繰 り返した。
 同時にアサヒ飲料は出荷エリアを再編して ビールとの共同化による配送網の最適化をめ ざした。
こうした活動の積み重ねによって〇 七年からの三年間にグループで数十億円のコ ストを削減する成果を上げた。
食品にも共同物流を拡大  二〇一〇年からは、新規にグループ入りし たエルビー、和光堂、天野実業との共同物流 に乗り出した。
アサヒ飲料と同様に各社の商 品を倉庫で共同保管し共同配送する形だ。
こ れらのグループ企業と配送先が重複するのは 三割程度だが、共同化を点ではなく面でとら え、配送頻度の高い納品先を軸に半径一〇キ ロ圏内を一台の車両で配送することで積載効 率を上げるというアプローチをとった。
 昨今、ビール輸送では十二〜十三トン積み の車両が主流となっている。
だがビールや飲 料だけでは九〜十一トン分しか埋まらないケ ースもある。
食品を積み合わせることにより 積載効率を九〇%以上に高められると試算し た。
 だが共同物流を拡大するにあたり、新たな 課題に直面した。
在庫管理やピッキングなど 物流システム部の 斎藤毅副課長 43  OCTOBER 2011 システム)「SPIRIT」を運用しているが、 ほかの各社は基幹システムが異なる。
このた め各社の個別のシステムともインタフェースで きる仕組みにした。
既存のシステムとも連携  統合WMSはビール工場の倉庫を始めグル ープの共同物流を実施するすべての拠点の業 務を管理対象にしている。
茨城工場ように自 動倉庫や層別ピッキングシステムを使って出 荷する拠点もあれば、庫内作業にICタグシ ステムを活用しているDCもある。
こうした 拠点ごとのさまざまなシステムと連携して運 用できるようにした点も統合WMSの大きな 特徴だ。
 多品種少量品を積み合わせる場合には、統 合WMSで出荷指示データを並べ替え、パレッ トや車両に積む順にピッキングや積み込みの指 示書を作成する。
パレット上の荷姿や車両へ積 み込んだ時の荷姿が安定するように、ピッキン グ段階から荷姿をイメージして指示を出す機能 をより強化して統合WMSに取り込んだ。
3 Dでイメージを伝える機能も踏襲している。
 このように配車組みや作業指示を一元化す るには、配車組みのキーとなる届け先コード と、ピッキングや積み込み作業を指示する際 のキーとなるアイテムコードを統一する必要が あった。
ただしコードの統一は各社の基幹シ ステムの見直しにつながる大きな問題で、簡 単ではない。
そこで物流業務に限定してコー ドを統一した。
 しかもWMSのシステムの中だけで仮想の 統一コードを付番する方法をとった。
各社の 基幹システムでは従来の届け先コードやアイテ ムコードでそのまま管理し、基幹システムか ら出荷指示データを統合WMSに取り込む際 に仮想のコードに読み替えて配車を組み、ピ ッキング指示情報を作成する。
 作業者が戸惑わないようにピッキングリス トへは従来のコード体系で表示する。
リスト への表示は従来のコード体系と変わらなくて もピッキングの順番などの作業指示の仕方を 統一することで業務を一元化できる。
 従来はWMSを拠点ごとに導入したが、今 回はサーバーをアサヒグループのデータセンタ ーに設置して一括管理する方法を選んだ。
シ ステムへの総投資額は三億円。
すでに平和島、 西宮東の各DCと博多工場に導入を終え、十 一月までにほかのDCやビール工場にも導入 を完了する予定だ。
 児玉部長は「これでグループ共同物流の基 盤が整う。
今後、本格的に推進していきたい」 と話す。
コンピューター上の仮想の統一コー ドをキーに配車や作業指示を一元化すること ができ、既存のシステムとの連携も可能なこ のシステムは、グループに限らずさまざまな 企業との共同物流のハードルを低くする。
グ ループ外への展開といった新たな施策にも道 を開くツールとなりうる。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 車機能を新たに追加した。
物流システム部の斎 藤毅副課長は「グループの荷物もいっしょに配 車を組めるようにしたところが統合WMSの 最大の特徴。
配車組みは今回の開発で最も重 視した機能だ」と強調する。
 グループ各社の基幹システムから受注情報 (出荷指示データ)を統合WMSに取り込んで、 一元的に配車を組む。
ただし、アサヒビール とアサヒ飲料は共通の基幹システム(販売物流 平置棚卸 在庫 在庫移動 補充在庫照会 在庫照合 ・クロスABC分析 ・スペース生産性 ・業務生産性 ・物量推移分析 積付処理 工場 配送センター HUBサーバ 簡易配車 RFID システム HUBサーバ グループ会社データ 各種履歴データ 自動倉庫 在庫 各種 マスタ ロット在庫 理論在庫 ロケーション・ ロット在庫/作業履歴 販売物流システム(SPIRIT) ピッキング 在庫引当 出荷 出荷検品 入荷 積付計算 出荷指示 倉庫管理システム(WMS) 入庫検品 物流情報分析 自動倉庫 平置棚卸 庫内作業

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