ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年11号
物流指標を読む
第35回内需持ち直しは本物か日通総合研究所「企業物流短期動向調査」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む NOVEMBER 2011  74 内需持ち直しは本物か 第35 回 ●自動車産業のけん引で7月〜 9月の荷動きが回復 ●政治の機能不全等で10 〜12月の伸びは鈍化 ●景気拡大か足踏み状態か、今後の荷動きに注目 さとう のぶひろ 1964 年 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
頑張る企業、足を引っ張る政治  少々古いニュースであるが、九月十二日、米経 済誌フォーブスは同社のホームページ上で、アジア 太平洋地域で「最も収益力が高い優良企業」五〇 社を発表した。
中国企業が二三社と半数近くを占 めて最多となり、韓国企業は八社、インド企業七 社などがランクインする一方で、日本企業は圏内 に一社も入らなかった。
 フォーブスは二〇〇五年から総収益や時価総額 規模が三〇億ドル以上のアジア・太平洋地域企業 の過去五年間の収益と経営利益、資本収益率など を分析し、成長展望がある五〇大企業を選定して いる。
日本企業は〇五年には、トヨタ自動車や日 産自動車など十三社が含まれていたが、昨年は任 天堂と楽天の二社へと減少し、今年はついに〇社 となってしまった。
 このニュースをお聞きになって、読者諸兄はど のような感想を持たれたであろうか。
「もう日本で は成長が見込めない」、「超円高が進むなかで、大 企業はさらに海外展開しそうだ」、「産業の空洞化 がさらに進みそうだ」などなど。
前回、前々回の 本欄でも、各種調査結果をもとにそうした懸念に ついて書いた。
 「アンチ権力」を標榜する某紙は、この結果を受 けて、「政治の貧困、混乱が日本企業の足をこれで もか、とばかりに引っ張っている。
本来であれば、 政治は猛省すべきだ。
アジアでも通用しなくなる なんて、この調子だと、日本は極東のただの島国 になってしまう。
米軍基地があるだけの島だ」と こきおろしている。
 まあ後半部分は、新橋の居酒屋でおだをあげて いる酔っ払いの戯言レベルの話であるが、前半部 分はたしかにその通りであり、現在の政治の低レ ベルぶりに対しては、多くの国民が憤り、呆れ返 っている。
超円高の定着、原発事故の行方、欧米 景気の失速、中国における不動産バブルの崩壊懸 念などと並んで、政治の機能不全が日本経済にと って大きなリスクとなっている。
 裏を返せば、そうした様々なリスク・逆境のな かで、日本企業は(もちろん日本国民も)懸命に 頑張っており、その結果、日本経済は緩やかなが ら持ち直しの動きを取り戻しつつある。
 一〇月三日に発表された「日銀短観」(九月調 査)によると、大企業・製造業の業況判断DIは、 前回の六月調査(マイナス九)から十一ポイント 改善し、プラス二と二期ぶりにプラス水準となった。
サプライチェーンの復旧などを受けて、自動車や非 鉄金属などが、東日本大震災後の落ち込みからV 字回復を果たし、全体を牽引している。
自動車に ついては、前回調査では過去最大の下落幅(七五 ポイント)を記録したが、九月調査では逆に過去 最大の上昇幅(六五ポイント)となり、プラス十 三まで浮上した。
 一方、十二月までの先行きについては、大企 業・製造業の業況判断DIは二ポイント改善して プラス四と、上昇幅は大幅に縮小している。
 また、日通総合研究所が九月に実施した「企業 物流短期動向調査」(日通総研短観)でも、国内 向け出荷量『荷動き指数』は、七〜九月実績がプ ラス一と、前期(四〜六月)実績のマイナス二一か ら二二ポイント改善した。
同調査においても、輸 日通総合研究所「企業物流短期動向調査」 75  NOVEMBER 2011 送用機械については、四〜六月実績のマイナス四 七から、七〜九月実績ではプラス一六と、六三ポ イントもの大幅な上昇を記録している。
 なお、一〇〜十二月見通しでは、『荷動き指数』 は四ポイントの上昇にとどまり、プラス五と見込ま れているが、輸送用機械については、七〜九月実 績よりもさらに三四ポイント上昇してプラス五〇と なっている。
このように、荷動きは総じてみると、 ほぼ前年度水準まで戻りつつあることが分かる。
 以上のように、日銀短観および日通総研短観の 両方において、七〜九月については、自動車産業 がけん引する形での回復が実現したものの、一〇 〜十二月については伸びが鈍化する見通しだ。
理 由は、前述のとおり、様々なリスクが存在してい るからにほかならない。
悲観しすぎる必要はない  今年度下期の実質経済成長率は、前年同期比 でプラスに反転することは間違いないとみられる (注:九月発表の日通総研による経済見通しでは、 下期の実質経済成長率を一・四%と見込んでいる) が、欧州経済危機などに伴う世界経済の停滞や超 円高の定着が懸念されるなかで、輸出には大きな 伸びが期待できない。
また、報道によると、第三 次補正予算案の国会提出が十一月にずれこむとの 見方が出ているが、そうした場合、予算の執行開 始が早くて一〜三月以降に後ズレするのは必至で あり、当然、景気にとってはマイナスである。
 繰り返しになるが、日本企業・日本国民が懸命 に頑張っているのに、政治が足を引っ張っている。
いい加減にしてほしい。
 ところで、週刊誌や夕刊紙をみると、恐慌前夜 のような記事のオンパレードだ。
しかし、日本経 済はそんなに悲惨で脆弱なのか。
失業率が九%台 でも打つ手が全くない米国、借金で首の回らなく なっている欧州各国、インフレが加速し、バブル 崩壊の危機に直面している中国、急激な通貨安に 伴う資本流出が懸念される韓国‥‥。
まだまだ日 本の方が幸せなような気がするのは筆者だけだろ うか。
あまりに楽観的すぎるのか。
 最後に、私事で恐縮であるが、一〇月六日に日 経CNBCの「昼エクスプレス」という番組に出 演し、「荷動きから日本経済を読む」というテー マで話をさせていただいた。
そのなかで、当然の ように、今後の経済見通しについても聞かれたが、 「決して楽観はしていないが、逆に悲観しすぎる 必要もないのではないか」と答えた。
 欧州経済危機はリーマン・ショック以上のインパ クトを及ぼすというエコノミストもいるが、かなり の量の流動性供給が行われていることから、最悪 の事態は回避できるのではないか。
 繰り返しになるが、当初の想定以上に内需がし っかりしてきている。
「昼エクスプレス」のなかで、 筆者は「次回の企業物流短期動向調査において、一 〇〜十二月の『荷動き指数』が九月調査時の見通 し(プラス五)よりも上ブレするならば、内需の 持ち直しは本物で、景気の拡大が続くとみる。
逆 に下ブレするならば、再び景気は足踏み状態とな る可能性がある」とコメントした。
 さあどうなるであろうか。
見通しが外れたら、も う同番組からお呼びはかかるまい。
リスクは承知 の上で、日本経済の復活に賭けてみたい。
国内向け出荷量『荷動き指数』推移 ? ? ? ? 2008 ? ? ? ? 2009 ? ? ? ? 2010 ? ? ? ? 2011 20 10 0 -10 -20 -30 -40 -50 -60 -70 -80 △2 △12 △25 △65 △69 △56 △28 △4 △10 △21 △15 △8 △38 △61 △75 △74 △57 △23 △18 △5 6 14 0 1 15 13 7 3 1 5 実績 見通し △6

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