ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年10号
特集
第3部 アスクル&ヤマトの上海即日配送

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

アスクル&ヤマトの上海即日配送 カタログ棄てネットに特化  オフィス通販のアスクルの中国現地法人、愛速客楽 (上海)貿易(アスクル上海)は七月、注文から半日 のリードタイムで納品する「半日配送サービス」を本 格的に開始した。
上海の中心部一〇区を対象に、午 前十一時までの注文を当日午後に、それ以降の注文 分を翌日午前中に納品する。
 同社のロジスティクス責任者を務める周鳴副総経理 は「同業他社と比べリードタイムは最短。
しかも、割 増料金を必要としない標準サービスだ。
中長期的に 当社のブランド力を上げていくための戦略だが、既に 手応えを得ている。
サービス開始をきっかけに受注の 伸びが加速している」という。
 同社が中国でオフィス通販事業を本格的に開始した のは二〇〇八年七月のこと。
米国系のステープルズや オフィスデポ、現地で「イージーバイ」のブランドで 事業を展開するコクヨなどの競合他社から数年遅れ ての市場参入だった。
 後発が市場に切り込むために、当初は価格競争を 仕掛けた。
しかし、結果的には予想以上に赤字が膨 らみ、軌道修正を余儀なくされた。
コストのかかる カタログ通販から事実上撤退して、ネット通販に特化 するという構造改革を断行した。
 物流体制も抜本的に見直した。
それまでは上海市 郊外の日系物流会社の施設に拠点を構え、日系や現 地系の宅配会社をエリアごとに使い分けて配送してい た。
荷扱いや配送サービスの品質は現地レベルで、荷 物の汚損やミスが少なくなかった。
 そこにメスを入れ、日本の物流品質を現地に持ち 込み、物流サービスで差別化を図る方針を立てた。
日 本でアスクルは全国の大都市圏に自社センターを設置 し、当日配送をはじめ無梱包配送や使用済み品の回 収など、既存の宅配便では対応できない付加価値サー ビスを提供することで需要の開拓に成功した。
同じ ことを中国で再現しようという発想だ。
 しかし、既にライバルのコクヨは、日系でプリンター のサプライ品を製造・販売するハイブリッド・サービ スが中国に設立した海泊力物流を買収し、現地で自 社物流に乗り出していた。
同様に現地最大手のステー プルズも中国各地に拠点を構え、オペレーションも自 社運営している。
これに対して、事業の立ち上げか ら間もないアスクル上海には、自社センターや自社配 送を運営できるだけの取扱規模はない。
折しもリス トラに取り組んでいる最中で、大規模な先行投資を 許されるはずもなかった。
 まずは日本でアスクルの集配を担当する物流子会社 のビゼックスのスタッフを上海に呼び寄せ、オペレー ションの改善を進めると同時に、ロジスティクスの競 争力強化策を練った。
アンケート調査やトライアルの 結果、物流品質の改善と並んでリードタイム短縮の ニーズの大きいことが確認できた。
 過去には現地でステープルズが当日配送に乗り出し たこともあった。
しかし、オプションの有料サービス であったことから利用が広がらず、現在はサービスを 中止している。
コクヨのイージーバイは追加料金なし で当日配送を行っているが、対象エリアは上海の五 区に限られている。
付け入る余地はあった。
 ただし、当日配送を実施すれば、コストはかさむ。
通常の午前中納品のほかに午後納品が発生し、配送 頻度が一日二回に増える。
受注処理、ピッキング、出 荷作業も、それぞれ二度に分けて行うことになる。
配 送効率、作業効率の悪化は避けられない。
 インフラはない。
取扱規模も小さい。
先行投資も OCTOBER 2011  22  今年7月、アスクル上海は「半日配送サービス」を本格的 にスタートさせた。
昨年1月に上海で「宅急便」の営業を 開始したヤマトグループがそのオペレーションを担っている。
共に後発として中国市場に参入した両社がタッグを組み、 日本式の物流サービスを武器に、先行するライバルたちを 追撃する。
                (大矢昌浩) 第3部 23  OCTOBER 2011 できない。
八方塞がりに置かれていたアスクル上海に 魅力的な提案を持ちかけてきたのが、ヤマトグループ だった。
センター運営から配送まで一括してヤマトグ ループに委託すれば、現状よりも低コストで半日配送 サービスを実現できるという。
後発同士でタッグを組み共に成長  アスクルと同様にヤマトグループもまた、中国では ライバルの佐川急便や欧米のインテグレーターに遅れ、 最後発の市場参入だった。
ヤマト(中国)運輸の「宅 急便」は一〇年一月に上海で営業を開始したばかり で、ベースカーゴを求めていた。
安定した物量の見込 める通販会社は、その最有力候補だった。
 しかもヤマトは大規模な先行投資を実施し、ライバ ルたちを猛追する方針を固めていた。
上海の合弁会 社に資本金だけで約三五億円を投入。
今後一〇年間 で計一〇〇億円を投じて、現地に宅急便を根付かせ るという長期計画だ。
宅急便の配送エリアも年内に は華東地区五都市に拡大する予定だという。
 アスクル上海の周鳴副総経理は「上海市内の話だ けではなく、今後三年から五年にわたるお互いの中 長期計画を突き合わせたうえで、ヤマトとならパート ナーとして手が組めると判断した。
まずは上海で地 盤を固めて、その後はヤマトと手を取り合って他のエ リアにも事業を展開していきたい」という。
 物流企業の提供する宅配便は本来、高度にパッケー ジ化された汎用サービスだ。
個別の荷主のニーズに合 わせたカスタマイズは難しい。
そのためアスクルは日 本では独自の配送網を構築する必要があった。
中国 のネット通販大手も既存の宅配便に頼らず、自社配 送網の構築に動き出している。
 しかし、アスクルは中国ではアウトソーシングを選 んだ。
宅急便の品質は現地の他の宅配会社や通販会 社の比ではない。
しかも、中国のヤマトグループに とって、アスクル上海は現状では最大手荷主。
コスト 面はもちろん、カスタマイズへの要求にも柔軟に対応 してもらえる。
 実際、倉庫運営を担当するヤマト国際物流は、ア スクル上海のためにスペースを用意した汎用拠点と宅 急便のターミナル間に一日二回のシャトル便を走らせ ている。
事実上、アスクル専用便だ。
センター内のシ ステムやオペレーションもアスクル仕様、宅急便の送 り状にもアスクル専用伝票を使っている。
 同センターの延べ床一万五〇〇平米のうち、今の ところアスクルは三五〇〇平米を賃借しているに過 ぎない。
しかし、「物量が増えてくれば、他の荷主さ んと調整して、いくらでもスペースを拡張する。
アス クルさんの要望にはグループを挙げて対応していく」 と同センターを管理するヤマト国際物流の高岡洋史ロ ジスティクス担当副総経理は胸を叩く。
 ヤマトグループにとってアスクル上海は、儲けさせ てくれる荷主ではないだろう。
それでもアスクルのハ イレベルな要求に応えることで、ヤマトグループは中 国における物流サービスを高度化していくことができ る。
その結果、アスクル上海が成長し、事業エリアが 広がっていくことで、宅急便のベースカーゴとしての 価値も高まっていく。
 こうしてアスクル上海は大規模な投資もコストアッ プもなしに半日配送サービスを実現した。
これを梃 子に「日本と同様、中国でもナンバーワンを目指す」 と周鳴副総経理は意気込む。
その目標を達成できる かどうかは分からない。
しかし、同社が物流パート ナーに選んだヤマトグループとの足並みと利害は今の ところ矛盾なく一致している。
アスクル上海の 周鳴副総経理 ヤマト国際物流の高岡洋史ロジスティクス担 当副総経理(写真右) アスクル 各社ホームページ・発表資料等を基に作成 05 年に現地法人 設立、同年事業開 始。
対象地域は北 京、天津、上海、 蘇州、無錫等。
07年に100%出資 で現地法人設立、 08 年に通販事業 開始。
対象地域は 上海 04 年に中国大手の OA365を買収して 設立。
対象地域は 北京、上海、江蘇省、 深圳等 06 年に中国大手の アジアECを買収。
対象地域は北京、 上海、広州等 上海中心部10 区を対 象に、11時までの受注 は当日午後、17 時半ま での注文は翌日午前配 送。
指定日配送も可 受注翌日配送。
上海の 5 区を対象に11時まで の注文の当日配送を実 施。
一部、翌日の指定 時間配送も可能 北京:12 時までの注文 は翌日配送、一部地区 では当日配送も可。
北 京以外:17 時半までの 注文は翌日配送。
受注翌日配送(基本) 10 元。
注文金 額100 元以上 は無料(主要地 区からのネット 注文) 20 元。
注文金 額100 元以上 は無料(主要地 区) 10 元。
注文金 額100 元以上 は無料(主要地 区) 10 元。
100 元 以上の注文は 無料 ステープルズ オフィスデポ コクヨ(通販ブランド 名:イージーバイ) 概 要配送リードタイム配送料 特 集リアル 中国物流

購読案内広告案内