ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年1号
ケース
日本ビクター――国際物流

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2004 42 「ドットネット」仕様のWMSが初稼働 二〇〇四年二月、日本ビクター(JVC) の現地法人、JVCアメリカの「イーストコ ースト物流センター」がジョージア州アトラ ンタに本格稼働する。
これに先立ち同社は二 〇〇三年にも、運営を日本郵船系の3PL、 NYKロジスティクスに委託し、西海岸側の ロサンゼルスに「ウエストコースト物流セン ター」を稼働させている。
JVCの井筒幸彦ロジスティクス本部企画 部長は「これまでは全米五カ所の物流拠点と その周辺の賃借倉庫に製品在庫を分散させて いた。
これを東西二カ所に集約する。
一連の 集約が完了すれば、全米トータルの輸送費用 を二〇%以上削減できる」と説明する。
拠点再編に当たって、現状の物流網の詳細 な分析を行った。
JVCの物流拠点と、納品 先となる量販店のセンターや店舗をマッピン グ(図1)。
大きな三角形がトラック一〇〇 台分、小さな三角形が約一〇台分という形で、 三角形の大きさで物量を表した。
次に物流セ ンターと納品先を輸送実績に基づいて線で結 んだ。
その結果、図2のように大陸横断輸送や交 錯輸送が大量に発生していることが分かった。
輸送コストとリードタイムにムダのあること は明らかだった。
シミュレーションを繰り返 し、東西の二カ所に物流センターを置いた時、 トータルの輸送費とリードタイムが最小にな 10年越しで世界五極体制を構築 WMS駆使してネットワーク最適化 ロジスティクス本部を新設して国内物流 部門と国際物流部門を統合。
95年から10年 越しで国際物流網の再編を進めている。
既 にアジア・オセアニアと欧州で改革を完了。
米国エリアの拠点再編にもメドをつけた。
最新のWMSとシミュレーション技術を駆使 して、拠点集約による配送ネットワークの 最適化を実現している。
日本ビクター ――国際物流 43 JANUARY 2004 るという結論を導き出した(図3)。
アトランタのイーストコースト物流センタ ーは、この分析結果に沿って建設されたもの だ。
同センターには恐らく世界でも初となる、 マイクロソフト社の「.NET (ドットネット)」 テクノロジーをフルに活用した倉庫管理シス テム(WMS: Warehouse Management System )が導入される。
和製WMSベンダ ー、フレームワークスの「Logistics Station iWMS LEX 」(仮称)」だ。
従来の企業間の情報連携(EDI: Electronic Data Interchange )や、社内シ ス テ ム 統 合 ( E A I : E n t e r p r i s e Application Integration )は、特定のインフ ラや独自のプロトコルに依存していた。
これ に対し「.NET 」は、ネットワークをベースと する分散ソフトウェア環境へパラダイム・シフトすることで、コンピュータの可能性をさ らに飛躍させようというものだ。
「 .NET 」テクノロジーを採用することで、オ ープンなウェブサービス・インターフェイス を活用した、より柔軟なシステムを構築する ことが可能になる。
近い将来はウェブサービ スを利用した企業間連携や企業内アプリケー ション統合への対応も可能になるという。
JVCでは、「Logistics Station 」の下に、 他のセンターのWMSを接続することで、 刻々と変化する在庫情報を含め、全体のロジ スティクスをリアルタイムに把握できる体制 を整える。
ロジスティクスの可視性(ビジビ リティ)を高めることで、在庫の偏在や滞留 をなくしていこうという戦略だ。
WMS導入の陣頭指揮を執る、フレームワ ークスの山本裕之ソリューション第1部部長 は「実はアトランタに先立って、二〇〇三年 七月にはJVCのニュージャージー州のセン ターに『.NET 』仕様のWMSを導入してい る。
新設されるアトランタに導入する前の小 規模WMSという位置付けながら、立派に本 格稼働している」と自信を持っている。
物流部門をグローバルに統合 JVCは九五年の組織変更で、それまで国 内の物流を管理していた物流統括部と、国際 物流担当の国際業務部を統合し、新たにロジ スティクス本部を設置している。
以来、同社 は世界市場を日本、中国、アジア・オセアニ ア、米国、ヨーロッパの五つのエリアに分け、 世界五極体制の構築に取り組んできた。
二〇 〇五年をメドとする一〇年に渡る長期計画だ。
その一環として日本国内では新たに物流子 会社のビクターロジスティクスを設立。
従来 は工場から物流拠点までの一次物流だけだっ た管理対象を、物流拠点から販売店の二次物 流、さらには販売店からユーザーへの納品や、 工場の部品調達などの周辺物流にまで拡大し ようとしている。
海外では生産拠点の集中するアジア・オセ アニア地区から改革に着手した。
JVCはタ イ、フィリピン、ベトナム、マレーシア、シ ンガポール、インドネシアの東南アジア計六 カ所に製品別に生産拠点を構えている。
従来 図1 拠点・納品先の物量をマッピング 図2 輸送実績で線を結んだ 図3 東西2拠点への集約で最適化 は各工場の近隣にそれぞれ物流センターを構 え、欧米や日本などの消費地に製品ごとに輸 出していた。
しかし仕向地別・製品別の出荷では物量が まとまらないため、多くは海上コンテナ一本 分に満たない個建てのLCL(Less than Container Lord )を利用していた。
そのため 輸送費が割高になるだけでなく、荷傷みや、 高価なAV機器の盗難などが無視できないレ ベルで発生していた。
そこで新たに東南アジア各工場で生産した 製品を集約するためのハブセンターを設置す る方針を決めた。
アジアから世界の消費地に 出荷する製品を一カ所に集め、複数の製品を 積み合わせてコンテナ単位で輸送する。
これ によって輸送コストを削減すると共に、輸送 品質の向上を図る。
ハブセンターは独立採算の現地法人として 位置付け、プロフィットセンター化する。
そ のために輸送管理だけでなくバッテリーやテ ープなどの付属品を製品と同梱するキッティ ング業務、さらには各工場で使用する部品の 海外調達機能もセンターに持たせようという 計画だった。
これを受けて九六年六月、アジア・オセア ニア地区を統括するJVCアジアの物流子会 社として、シンガポールにJVCアジアロジ スティクスセンター(JALC)を新設。
同 一〇月から約二万平方メートルの物流センタ ーの建設を着工した。
土地建物からセンター 内の運営に至るまで、全てJALCが直接コントロールする自社運営のセンターだ。
同社が海外で自前のセンターを所有し、現 場も自社で運営するというのは、これが初め てのことだった。
それまで海外の物流業務は、 全て現地の物流会社や日系物流会社に委託 していた。
それを敢えて内製化した理由を、 井筒部長は「3PLを利用するより、そのほ うが安かったからだ」という。
それまでJVCアジアの各工場が現地の物 流業者に支払ってきた費用と、自社拠点を設 置・運営する場合のコストを比較したところ、 自社運営でも十分ペイできるというシミュレ ーション結果を得た。
そうであるなら、グル ープ外に費用を流出させるより、グループ内 に取り込んだほうが得策という判断だった。
拠点投資を七年で回収 内製化に不安がなかったわけではない。
と くに、経験のない海外での庫内オペレーショ ンは最大の懸念材料だった。
日本国内と海外 では現場スタッフの作業レベルや定着率に格 段の開きがある。
日本国内の常識は通用しな い。
「周囲からは海外で物流の内製化など考 えないほうがいいと、ずいぶん脅かされた。
それだけに、誰にでもできる庫内オペレーシ ョンを構築する必要があった」と井筒部長。
その解決策をWMSベンダーに求めた。
複 数のベンダーに提案を依頼した。
JVCの要 望は、新しく雇ったスタッフでも即戦力とし て活用できるオペレーションの実現だ。
それ に対して最も的確なソリューションを提示し たのがフレームワークスだったという。
ここ JANUARY 2004 44 ?プレゼンテーション層 ?ビジネスロジック層 ?データサービス層 Office WSH Windowsプラットフォーム Logistics Station UI Cross Mission Remoting Cross Mission Logistics Station BL Windows Server IIS Logistics Station ASP Cross Mission Windows Server HTTP Internet Explorer Remoting コンポーネント ADO SQL Server Windows Server 「.NET」テクノロジーを活用した「Logistics Station iWMS LEX(仮称)」のシステム構成〜3階層アーキテクチャ 45 JANUARY 2004 から両社のパートナーシップが始まった。
実際、JALCの庫内オペレーションは、 庫内作業用のバーコードラベルとハンディタ ーミナルというシンプルな機器構成でありな がら、作業員による判断や、書き込み作業 が一切発生しないように設計されている。
保 管ロケーションや商品に対する知識も必要 ない。
入荷は、まず出荷元の各工場から事前に送 信されたデータ(ASN: A d v a n c e d Shipping Notice )を元にして、パレットご とにラベルを発行する(図4)。
ラベルには 保管ロケーション、製品番号、個数のほか、 パレットの種類と積み付け情報が明示されて いる。
「EUR 4×10 」という表示であれば、 ユーロ向けパレットに一段四個を一〇段積む という意味だ。
パレットへの積み付けが終了した時点で製 品にラベルを貼り、ハンディターミナルでラ ベルのバーコードを読みとる。
データは無線 LANでシステムに送信される。
これによっ て入荷検品が終了し、入荷情報がアップロードされる。
出荷作業にも同様のラベルを使用する。
た だし、入荷用のラベルと混同しないようにラ ベルの色を変えている。
出荷用ラベルにはピ ッキングするロケーション、製品番号、出荷 バースが明記されている。
出荷バースでコン テナにパレットを積み込む時点で、ラベルを スキャン。
出荷情報をシステムに取り込む。
棚卸業務にも入荷ラベルを使う。
この二種 類のラベルの ほかにはリス トやペーパー 類は使用しな い。
バーコー ドをスキャン する以外、作 業員による入 力作業はない。
パレットへの 積み付け方か ら 保 管 場 所 、 先入れ先出し 等の管理まで、 全てシステム で自動処理す る。
作業員に 考えさせない フローになっ ている。
このWMSを搭載したJALCは予定より 一カ月早い、九八年六月に本格稼働した。
土 地建物を含めたセンターの総投資額は二八五 〇万シンガポールドル(約二十二億円)に上 った。
事業計画ではJALCは稼働二年目に 期間損益を黒字化。
七年目で累損を解消。
一 六年目で総投資を回収しようという目標が立 てられていた。
それが実際には二年目で期間損益だけでな く累損まで解消。
七年目に当たる二〇〇四年 中にも総投資額が回収できる見込みだ。
設立 直後からフル稼働したことに加え、部品を調 達し工場に販売する海外調達拠点(IPO) としての機能を強化したことで順調に事業が 拡大した。
現在はセンター近隣の部品サプライヤーを 対象に、JALCが車両を仕立て、ミルクラ ン方式で部品を集めて工場ラインに納入する 調達物流まで手掛けている。
センターの総出 荷量は現在、月間約二万トンに及んでいる。
シンガポール政府から六〇年に渡るセンター 用地の使用権も取り付けた。
設立二年目以降、JALCは独立採算の ディビジョンとして利益を計上し続けている。
その上で総投資額まで回収すれば、JVCは 国際物流業務をプロフィットセンター化した と同時に、実質的に無料でアジアのハブセン ターという資産を手に入れたことになる。
「一 昔前なら総合商社に任せていたような仕事だ が、それを自前で処理したことで、良い結果 図4 2種類のバーコードラベルでオペレーションを設計 《入荷ラベル》《出荷ラベル》 (簡略図) 日本ビクターの井筒幸彦ロジ スティクス本部企画部長 EUR JANUARY 2004 46 が得られた」と井筒部長は満足している。
欧州はベルギーに集約 JALCの成功を追う形で、欧州でもベル ギーへの拠点集約を実施した。
従来、JVC では欧州の各国ごとに販売会社と物流拠点を 配置していた。
物流管理も国単位に分かれて いた。
EU統合と、それに続く通貨の統合に よって、ヨーロッパ全域を視野においた物流 拠点の集約が可能になった。
JVCとしては輸出基地となるアジア・オ セアニアの出荷体制を整えたのに加え、輸入 元となる欧州でも拠点を集約すれば大幅な輸 送の合理化が期待できる。
そこで九八年に新 たにJVCロジスティクス・ヨーロッパ(J LE)を立ち上げ、欧州地区のハブセンター 設置に乗り出した。
?EU域内の各販社に対する納品配送の管 理。
?外国企業が直接、拠点進出することの 難しいロシア・東欧向け物流のリモートコン トロール。
そして?新センターの地元ベネル クス(ベルギー・オランダ・ルクセンブルグ) 地区における量販店への直接納品。
物流面ではこの三つの機能が求められた。
JLEを設置することで関税面でのメリッ トも期待できた。
従来はJVCから欧州各国 の販社への卸価格、つまり工場出荷価格にJ VCのマージンを乗せた額を元に関税を支払 っていた。
物流体制を改め、所有権を東南ア ジアの工場に置いたまま、製品をベルギーの ハブセンターまで移送して保管することで、 JVCのマージン分の関税が不要になる。
シミュレーションの結果、ハブセンターの 設置によって倉庫運営費やEU域内の陸上輸 送運賃は増加するものの、東南アジアからの 海上輸送運賃の低減と在庫削減による金利軽 減分でコストを相殺できる。
さらには関税の 低減によって月間四〇〇〇万円強のコストメ リットが得られることも分かった。
庫内オペレーションは、JALCと同様に フレームワークスのWMSをベースに設計し た。
土地は物流用不動産開発業者のユーリン プロから賃借することにした。
その分、総投 資額が少なくなるため、総投資の回収時期は 稼働後五年と弾いた。
初年度から期間黒字を 出し、二年目には累損を解消するという強気 の計画だ。
センター建設は九九年に完了。
二〇〇〇年 三月に本格稼働した。
設立直後からのフル稼 働はJALCと同様だった。
それどころか保 管能力を上回る物量が集まったため、設立一 年で六〇〇〇平方メートルの規模拡張を実施 した。
月間四〇〇〇万円強のコスト削減も予 定通り実現できた。
ただし「その後、EUが関税を段階的に引 き下げているため、関税面でのメリットは小 さくなってきている。
それだけにJLEは本 業の物流でしっかり利益を出していく必要が ある」と井筒部長。
そのためには、ベネルク スで実施している小売り直送の二次物流のノ ウハウを蓄積して、それを拡大していくこと などが今後の課題になるという。
こうしてJVCはアジア・オセアニア、ヨ ーロッパの拠点統合を成し遂げた。
冒頭の米 国エリアの統合にもメドが立った。
後は残さ れた中国エリアの統合を、目標の二〇〇五年 までに具体化すれば、ロジスティクス本部設 立から一〇年越しのビジョンが実現すること になる。
中国の物流ネットワーク構築は現在、計画 の詰めの段階に入っている。
他のAV機器メ ーカーと同様、JVCにとっても中国は、生 産と販売の両面で今後の最重要エリアとして 位置付けられている。
親会社の松下電器産業 とのコラボレーションも含めて、物流面での 検討課題は山積みしている。
世界五極体制の構築に追われる間、井筒部 長は一年のうち半分近くを海外出張で過ごし てきた。
「年齢的にもそろそろ引退が見えて きた」と笑うものの、世界を飛び回る慌ただ しい生活が、まだしばらく続くことになりそ うだ。
(大矢昌浩) フレームワークスの山本裕之 ソリューション第1部部長

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