ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2004年1号
SCC報告
ウォルマートのICタグ戦略を読む

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2004 52 サプライチェーンカウンシル(SCC)日 本支部の主催する「サプライチェーンワール ド・ジャパン二〇〇三」が去る十一月、幕張 メッセで開催された。
これに合わせてAMR リサーチで上級副社長&CTOを務めるスコ ット・ランドストロム氏が来日。
「次世代のS CM」と題した基調講演を行った。
講演後、 氏に独占インタビューした。
(聞き手 本誌・大矢昌浩、夏川朋子) ITバブル崩壊後のSCM ――過去一〇年のSCMはITベンダーが推 進の旗振り役だった。
しかし、ITバブルの 崩壊後は異なるフェーズに入ったように思う。
ITバブルの崩壊はSCMにどのような影響 を与えたのか? 「長い目で見れば、ITバブルの崩壊によっ て企業は本来検討すべき案件に集中すること ができるようになったのだと思う。
九〇年代 後半はサプライチェーンにかかわる問題に巨 額の資金を投入することが可能な時期だった。
サプライチェーン・アプリケーションは我々 が抱えていた問題を解決してくれるかに見え た。
しかし、現実にはソフトウェアは問題解 決の一部分しか担えなかった。
そして、その 部分は往々にして最も重要な部分ではなかっ た」 「SCMに成功している企業は、戦略という ものをとてもよく理解している。
経営戦略を 練ることによって、いくつかのサプライチェ ーン領域が自分の会社にとって非常に重要で あることが分かってくる。
そして、単にテク ノロジーだけでなく、ベストプラクティスのコ ラボレーションや、プロセスの向上に対する 理解によって、それらの重要な分野を明確に 改革の俎上に載せる必要がある」 「アプリケーションの問題はむしろ比較的、 簡単な分野だと言えるだろう。
多くの企業は 彼らが必要としている以上のサプライチェー ン・アプリケーションを保有している。
重要 なことは正確に戦略を確認することであり、正しく弱点を診断することだ。
そうすることに よって、今後はパフォーマンス向上を目的と したアプリケーションが出てくるだろう」 ――SCMに必要なITツールは、すべて出 そろったようにも思えるが。
「確かに、多くのSCMアプリケーションが既 に出そろっている。
しかし、問題を分析し、改 善するためのアプリケーションが欠けている。
今後はビジネスプロセスの変換や他社からベ ストプラクティスを学ぶことも要求されるか もしれない。
テクノロジーに価値がないわけ ではない。
ただし、テクノロジーだけではS CMのベストソリューションになり得ない」 マイクロソフト参入の意味 ――先ほどの基調講演であなたはSCMのト 「ウォルマートのICタグ戦略を読む」 AMR リサーチ スコット・ランドストロム 上級副社長&CTO 53 JANUARY 2004 ピックスとして三つ挙げていた。
一つはマイ クロソフトのSCM参入。
第二にRFID (ICタグなどの非接触型自動認識技術)の 登場。
そして三つ目がコラボレーディブ・プ ランニング、CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment )の普及だ。
まずマイクロソフトのSCM参入とは何を指 してそう言っているのか。
「協業(コラボレーション)や計画の共有、 データ交換の重要性を考えれば、マイクロソ フトはすでにこれらの機能において優勢なベ ンダーであると言える。
ほとんどのコラボレ ーティブ・プランニングは、マイクロソフト のウェブサーバー、もしくはインターネットエ クスプローラーを利用して行われている。
マ イクロソフトのデータベースを利用している 企業も多い」 「そもそもサプライチェーンにおいて最も多く 利用されているインターフェースはエクセル のスプレッドシートだろう。
したがって、マイ クロソフトはすでにサプライチェーン・マネ ジメントのインフォストラクチャーの中で重 要な役割を果たしていると言える。
また同社 はサプライチェーンの協業をサポートするた めのアプリケーション開発もすでに始めてい る」 ――それはSCMに使用されるシステムが、近 くUNIXからWidows ベースに取って代わ るということか。
「そういうことではない。
SAPやオラクル、 i2、ピープルソフトなど大手のサプライチ ェーン・ベンダー、ERPベンダーは今後も アプリケーションを供給し続けるし、大企業を相手に成功し続けるだろう。
多くのアプリ ケーション・ベンダーが存在するが、マイク ロソフトの市場参入が他のベンダーからシェ アを奪う結果にはならない」 「マイクロソフトの価格設定は他社のそれよ りもはるかに低い。
つまり、マイクロソフト が市場に参入することによって、今までは大 企業しか得ることのできなかったアドバンテ ージを中小企業が手にすることができるよう になるということだ。
マイクロソフトは同業 他社が参入していない市場を開拓する。
高価 な商品を提供する大手プロバイダーがいる市 場で、よりシンプルで低価格の商品を提供す るというのは、これまでもマイクロソフトの常 套手段だった」 ――結局、マイクロソフトのSCM市場参入 はどのような意味を持つのか。
「サプライチェーン全体にとって好ましいこと だと思う。
サプライチェーン・テクノロジー の恩恵を受けることができなかった小規模の サプライヤーとビジネスをしている大企業に とっても好ましい状況だ。
マイクロソフトの 市場参入によって、サプライチェーン・テク ノロジーの恩恵を受ける企業の数が増える結 果になるだろう」 ICタグの導入効果は五〜一〇年後 ――二番目のトピックがRFIDだ。
ICタ グの可能性については既に喧伝され尽くして 図1 サプライチェーンテクノロジーの進化 1986 1992 1996 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 Beyond サプライチェーン ネットワークデザインの 進展 アドバンスト プランニングの登場 ワークステーション による最適化支援 サプライチェーン プランニングの 急激な増加 B2Bマーケット プレイスの登場 コラボレーション と調達 サプライチェーン リレーションシップ マネジメント 実務的ポータルサイトの 大規模計画の開始 コネクティビィティによる コラボレーションの 支援が始まる マイクロソフトによる SCM支援 利益最適化 サプライチェーン アプリケーションが ERPの一部に サプライチェーン エクスキューションの 復活 RFIDによる需要と モノの動きの ビジビリティの強化 サプライチェーン テクノロジーによる バーチャル企業の形成 継続的な リアルタイム企業へ 調達ソフト、ポータル、 マーケットプレイスに 多くのサプライヤーが コネクトされる DRP&需要予測 SCORモデルの開発 JANUARY 2004 54 いる。
むしろ課題がどこにあるのかについて 知りたい。
「RFIDはビジネスプロセスを向上させる チャンスになるだろう。
しかし我々はやっと それが何なのか理解し始めた段階にいるだけ だ。
RFIDには多くの可能性がある。
それ が広く理解され普及するには、おそらく五年 から一〇年の時間がかかるだろう。
RFID は比較的、未完成なテクノロジーだ。
タグは 未だとても高く、価格を下げる必要がある。
品 質も高いとは言えない。
タグの製造業者は今 後、とても高い品質レベルをクリアしなけれ ばならない」 ――ウォルマートなどがRFIDを使い始め ているものの、まだ成果らしい成果は出てい ない。
具体的な成果が上がってくるとしたら いつ頃なのか。
「ウォルマートは第一段階に入ったばかりだ。
同社は今、大きな適用を始めようとしている。
利益をもたらすために、より多くの人にタグ を使ってもらうことが彼らの目的だ。
RFI Dは多くの人が使って初めて価値が出る。
し かし、多くの人に使ってもらうためには、そ れ自体に価値がなければならない。
『卵が先か、 ニワトリが先か』。
これがRFIDの抱える問 題だろう」 「ウォルマートはサプライチェーンにおける 自らの支配的立場を利用して、この『卵が先 か、ニワトリが先か』的問題を押し切り、全 てのサプライヤーにタグの使用を命じている。
ウォルマートはこの先、十二カ月以内にサプ ライヤーにRFID導入コストとして二〇〜 三十億ドルを費やすことを要求するだろう。
し かしウォルマートの場合でさえ、重大な社内 的チャンスもしくは利益を得られるまでに三 年から五年はかかるだろう。
また、同社がサ プライチェーンのコストを一五%削減するに は、五年から一〇年の時間が必要だろう」 ――RFIDはバーコードに取って代わるの だろうか。
「最終的にはそうなるだろう。
ただし時間はか かる。
バーコードはとても安価だし信頼性が ある。
何度も言うように、タグの性能が上が りコストが相応になるまで数年はかかる。
現 在、ICタグの読みとり精度は九〇%そこそ こでしかないし、値段も約二五セントだ。
九九・九%の精度と五セント以内の価格設定が 求められる」 米国のCPFRの進捗状況は? ――バーコードが普及するのに二〇年を要し た。
それに対し、RFIDが五年から一〇年 で普及するというのは楽観的すぎないか。
「そうは思わない。
多くのビジネスプロセスの 変化にRFIDの導入が必要だという事実が 状況を後押ししている。
バーコードが普及す る以前はスタンダードが存在しなかった。
倉 庫や顧客へ商品を流通する方法としてのスキ ャニングがなかった。
また、ユニバーサルな商 品識別スタンダードも存在しなかった。
バー コードが直面したチャレンジの多くはRFI Dのそれと似通っている。
それらチャレンジ 図2 RFIDの成熟曲線 リスク要因 部署内 企業内 企業間 リスク全体 低 低 中 高 技術的成熟度 中 中 低 低 コスト効果 低 中 中 高 プロセスの複雑さ 低 低 中 高 導入技術の可用性 中 中 中 低 外部組織への依存 低 低 中 高 複数企業 による同機化 高 リスク 低 低 価値 高 図3 コラボレーティブ・プランニング(CPFR)の活用状況 100 80 60 40 20 0 (%) カスタマー サプライヤー ロジスティクス プロバイダー トランザクション 情報共有 計画と需要予測の共同化 55 JANUARY 2004 ニングで必要になるパートナーとの関係を「サ プライチェーン・ケイレツ」という言葉を使 って説明していた。
「系列」はもともと日本語 だが、日本の産業界において「系列」は過去 の非効率な取引の象徴と目されている。
サプ ライチェーンにおける「ケイレツ」と、伝統 的な日本の「系列」では、何が同じで、どこ が違うのか。
「私の理解では、日本の系列モデルにはオー ナーシップという要素が入っていると思う。
ま た多くの場合、系列の頂点にいる組み立てメ ーカーはサプライヤーに対して支配的な関係 にある。
とくに大きなビジネスでは大企業が 中小企業に対して重大な要求をしている。
大 企業が中小企業にインフラストラクチャーの増加を要求し、そのための資金の融資などを 経て、結果的に大企業が中小企業の株主とな っている」 「したがって、サプライヤーはしばしば子会社 のような役割を担うことになる。
リスクと利 益をシェアしながら両社が同じ目的に向かう ことが可能になるため、あえてサプライヤー がそれを望むことさえある」 「サプライチェーンのケイレツにおいては、必 ずしも大企業がオーナーシップを握る必要は ない。
必ずしもサプライヤーが苦境に落とし 込まれるわけではないということだ。
両社は 同じゴールに向かう。
同じ成功に依存するこ とになる。
そのために両社はサプライチェー ンのモデルをベースに、より一層の協力関係 を築かなければならないのだ」 はすでに乗り越えられたものであり、RFI Dには後発組の有利がある」 「バーコードからRFIDへの移行はサプラ イチェーンにとって追加的な経済利益をもた らす。
速やかに行動に出る企業は利益を得る だろうし、緩慢な動きを見せる企業は負け組 となるだろう。
状況は早く展開すると見てい る。
北米で五年から一〇年かかると言う私を、 ウォルマートは悲観的だと言う」 ――三番目がコラボレーティブ・プランニン グだ。
メーカーと小売業者が計画を共同で行 うことの意義は理解できる。
ただし問題は成 果をどのようにシェアするかだ。
「コラボレーディブ・プランニングのシナリ オには、二通りの側面がある。
ひとつは顧客 サイド。
彼らは迅速で正確な納品を求める。
そ してその責任を果たす義務を持つサプライヤ ーがいる。
協業すれば、顧客は必要なときに 商品を入手できる確率が高まる。
また、サプ ライヤーは在庫レベルを抑えつつ顧客からの 要求に応えることができる。
サプライヤーは 顧客からの要求をより深く理解して、在庫レ ベルを下げることによって価格を抑えること ができる。
また、顧客はより精度の高い納品 とより良い価格を得ることが可能になる。
計 画を実行に移しやすくなり、在庫を削減でき ることによって全体的なコストも抑えられる」 ――米国企業のコラボレーティブ・プランニ ングの現状は? 「早期にコラボレーティブ・プランニングを導 入した企業の間では、すでに成功事例が出て いる。
米国の小売り大手と消費財メーカーに は、品切れを減らし顧客のコスト負担を軽減させるために、コラボレーティブ・プランニ ング&フォーキャスティングを使っていると ころもある。
典型的なウィン・ウィンの関係 だ。
小売業者の店頭では空いた棚がなくなる。
サプライヤーは顧客の棚を空にすることなく 在庫を削減できる」 「今後はエレクトロニクス産業とハイテク産業 においても早急なコラボレーティブ・プラン ニングの普及が望まれる。
また、自動車産業 では本当の意味でのコラボレーティブ・プラ ンニングの導入が始まっている。
とても幅広 い広がりを見せるだろう」 「ケイレツ」と「系列」の違い 「しかし、残された問題もある。
大企業の多 くはいまだ彼らのサプライヤーを無理矢理押 さえつけることによって、コラボレーティブ・ プランニングが成功すると信じている。
協業 の関係にはさまざまな局面がある。
最適なコ ストを得るためには、価格だけで判断すべき ではないことを理解しなければならない。
最 も低いコストでサービスを提供するプロバイ ダーが必ずしも最高のプロバイダーというわ けではない。
コラボレーティブ・プランニン グにはパートナーとの良い関係を構築するこ とが必要であり、またパートナーシップには リスクと見返りのバランス、すなわち品質と コストのバランスをとることが必要になる」 ――また講演ではコラボレーティブ・プラン

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