ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年6号
特集
Interview「直接取引の優位性が証明された」イオングローバルSCM ジェンク・グロル 社長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2011  14 「直接取引の優位性が証明された」 SCMの柔軟性が問われた ──今回のイオングループの震災対応をどう自己評 価していますか。
 「今回の震災対応では、S C Mの柔軟性が問わ れました。
その点では当社がP Bを持ち、また 一〇〇%近く自分でコントロールしているSCMを 持っていることの強みを発揮できたと思います。
SC Mと言えば日本ではどちらかと言えばメーカーがやる ものですが、欧米では小売り主導が当たり前です。
メー カーとの直接取引をはじめ当社の取り組みは日本で は挑戦的と受け止められていますが、それが正しかっ たことが証明されたと考えています」 ──他のナショナルチェーンよりもイオンのSCMは 柔軟だった?  「他の大手チェーンと比較しても当社の対応は早 かったと思います。
今回の震災で当社は『RDC(リー ジョナル・ディストリビューション・センター:エリ アの核となる在庫拠点)』と『XDC(クロスドッキ ング・センター:在庫を持たない通過型センター)』 が、それぞれ三カ所ずつ被災しました。
能力全体の 三割程度の機能が停止したことになります。
それで も震災から二週間後には従来比で一二〇%の供給力 を発揮することができていました」  「またローカルチェーンとの比較では、調達力の差 が出ました。
当社は震災後すぐにフランス、カナダ、 韓国から約一三〇万本のミネラルウォーターを調達 しました。
ティッシュペーパーやトイレットペーパー は中国から、たまねぎやにんじんはオーストラリアか ら調達して店頭に並べることができました」  「これはサプライチェーンの機能をすべて社内に 持っているからできたことです。
社内の担当者同士 の打ち合わせで即座に行動できる。
グローバル調達 や品質管理を外部の第三者に投げている会社はそこ まで素早く動けない。
物流でも同じです。
自分でコ ントロールしているから突然の環境の変化にも柔軟 に対応できる」 ──物流は3PLにアウトソーシングしています。
 「現場のオペレーションはアウトソーシングしてい ますが、丸投げはしていません。
業務プロセスやマテ リアルハンドリングの設計には当社が主体的に関わっ て全拠点で標準化しています。
WMSは当社の資産 ですし、TMSにはトラックだけでなく、JR貨物 やフェリーなど複数の輸送モードのリードタイムと運 賃表を組み入れて、最適な輸送モードを判断するた めの独自の仕組みを導入しています」 ──大手卸と比べた時にイオンのサプライチェーンは どうだったかという視点では?  「もちろん、そのことは意識しました。
NBが届い ているのにPBが届いていないということになれば、 店舗側から我々に対して当然、非難の声があがって きますから。
当社の東北への納品率、関東への納品 率が、大手卸と比較してどうなのかということを一 つの基準にして行動しました。
当社のXDCにはP Bだけでなく、卸から調達した商品や、NBメーカー から直接調達した商品も集まってきます。
その実績 を見比べて自分たちのパフォーマンスを評価しまし た。
その数字を明らかにすることはできませんが、我々 は決して負けていなかった」 ──カテゴリー別に見たときには、小売り最大手の イオンといえども大手加工食品卸や大手日用雑貨品 卸ほどのシェアは持っていません。
それでも彼等に負 けなかったとすれば、何が理由だったのでしょう。
 「我々はサプライチェーンの一番上から一番下まで  製造段階から店頭まで、小売りが100 %管理する欧米型 のサプライチェーンが災害時には有効に機能した。
環境の変 化に素早く対応することができたと自己評価を下す。
リス ク対策のカギはSCMの柔軟性であり、グローバルな調達力、 見える化、そして標準化を、その手段と位置付けている。
(聞き手・大矢昌浩) イオングローバルSCM ジェンク・グロル 社長 Interview 15  JUNE 2011 全て自分たちで管理しています。
物量のシェア、パー センテージ以上に、そうしたインフラの違いが大きく 影響したのではないでしょうか。
また我々は『CPF R』や『見える化』、海外調達など、常に新しい手法 にチャレンジしてきました。
そこも大きく違います」  「そして何より我々が小売りであるということが大 きい。
B to Bのビジネスであれば『スイマセン』で 済む話でも、消費者相手ではそうはいかない。
我々 が商品を店に並べなければ消費者は不安になりパニッ クを起こす。
何があっても消費者に商品を届けると いう使命感は、メーカーや卸などに比べて小売りの ほうが強いはずです。
社員一人ひとりがそうした意 識を持っていることは決して小さくありません」 ──反省点を挙げるとすれば?  「今回の震災では?逆・ブルウィップ効果?とも呼 ぶべき現象が起きました(注:ブルウィップ効果とは、 川下の需要変動がサプライチェーンを遡るほどにムチ のように増幅して伝わっていく現象。
大量の過剰在 庫を生み出す原因になる)。
まず店頭で大量の欠品が 発生した。
それに対応して大量の商品が店舗に納品 された。
その後も店舗側の状況が見えないために、 店舗側からストップしてくれと声が上げるまで追加補 充が続きました」  「見える化のレベルがもっと高ければ、より効率的 なコントロールができたと思います。
現在のシステム は基本的に、必要なリソースは確保できているとい う前提に立っています。
しかし災害時にはそうした 前提が通用しない。
リソースが圧倒的に不足してい る状態で、どう店舗に商品を配分するかという難し い判断を強いられました。
配車にしても荷物を取り に車両を回したのに空振りに終わるというムダが発生 していました」  「そうした事態を回避するには、リソースが不足し ている時の配分方法まで事前に固めておく必要があ る。
また在庫や輸配送などの情報を、これまで以上 に深く広く見える化して、それを共有する仕組みが 必要です」 標準化が被害を軽減する ──リスク対策のために拠点の分散や在庫の積み増 しを検討する必要はありますか。
 「在庫を多めにもってリスクに備えるというやり方 が正しいとは思えません。
コストもかかるし、在庫を ムダにすることは環境面からも許されない。
リスク対 策とコスト効率は両立しなければなりません。
それに は、やはり見える化を進めること、海外も含めて多 様な調達ルートを確保しておくことなどが大事です」  「標準化を進めておくことも、有効なリスク対策に なります。
日本では現在、数百種類ものクレート(梱 包用ケース)が使われています。
そのため今回の震 災で被災した盛岡XDCではクレートの仕分けに大 変な人手がかかっていた。
クレートの規格が統一さ れていれば、ずっと作業は楽だった。
まったくもって ムダな話です。
これを変えればSCMの柔軟性は増し、 同時にコストが下がる」  「製造段階の標準化ももっと進めるべきです。
今 回の震災ではペットボトルのキャップが調達できなく なって大問題になりました。
各メーカー、各ブランド がそれぞれ違う仕様でキャップを作っていて互換性が なかった。
結局、応急措置的に仕様を標準化しまし たが、平時からそうした取り組みを進めておけばいい。
やり過ぎて商品の魅力がなくなってしまえば問題です が、少なくともペットボトルのキャップで差別化する 必要はないはずです」 特 集 仙台の低温センターは津波の被害をまともに受けた被災した東北RDCでは、人海戦術で出荷作業に当 たった。
延べ2000人のスタッフを全国から集めて 投入した

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