ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2011年1号
特集
第4部 主要プレーヤーの次の一手山九──中国の人件費高騰をチャンスに藤富孝 取締役常務執行役員ロジスティクス・ソリューション事業本部本部長

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2011  34 山九──中国の人件費高騰をチャンスに  海外工場に設備を据え付け、その後のメンテナンスま で請け負う機工事業で荷主に入り込み、構内物流、一般 物流へとスコープを広げる独自の事業展開を進めてきた。
ただし、中国だけは例外で、これまでは事実上の物流専 業を余儀なくされてきた。
しかし現地の人件費高騰と人 手不足の深刻化が、山九には追い風になる。
独自モデルで海外展開 ──リーマンショックから二年。
他の物流企業の業績 が持ち直しつつある中で、山九は今期も減収減益を 見込みです。
 「理由は当社の事業構造にあります。
当社は『物 流事業』とプラントの据付工事やメンテナンスを行う 『機工事業』の二つを柱としています。
物流事業は他 の企業と同様、リーマンショック直後から荷物が急減 しましたが、足下の業績は回復に向かっている」  「一方、機工事業では既に走り出している据付工事 などの案件をすぐにストップすることはできないた め、不況の影響が遅れてやってくる。
実態が業績に 反映されるまでにタイムラグが生じるわけです。
その ため今年度は物流事業が伸びているのに、全体とし ては減収減益になってしまう。
しかし機工事業も今 期が底で来期からは成長軌道に戻る予定です」 ──物流事業と機工事業はどうリンクしているので すか。
 「日系メーカーが海外に拠点進出する際に、当社は まず機工事業から入る。
工場に導入する設備の据え 付けをお手伝いして、その後もメンテナンスを請け負 う。
そこから派生して構内物流、一般物流と進んで いくんです。
メンテナンスだけ、物流だけという会社 はたくさんありますが、両方を手がけている会社は ほとんどない。
しかも当社は独立系で特定のグループ に属しているわけでもないので、どこのメーカーの仕 事も受けられる。
当社の強みです」 ──中国も同じですか。
 「中国は当社にとって特殊なマーケットです。
中国 事業だけは上海など沿海部を中心とした一般物流が メーンになっている。
中国人は全て自分達でやろう とする傾向が強い。
ノウハウが充分でなくとも、据 付工事もメンテナンスも何でも自分達でやりたがる。
日本人だったら五人でやるものを、五〇人かかって でもやる。
そういったところに当社が営業にいって も、機工事業を受注するのは容易ではありません」 ──物流だけでは採算的に厳しいのでは?  「確かに利ざやは薄い。
一般物流は機工事業に付随 する構内物流とは違って参入障壁が低い。
特に中国 は過当競争に晒されやすい市場です。
駐在する日本 人のコストも高い。
しかし、これだけ日系企業がど んどん中国へ進出している以上、その国の物流をや らないという選択肢は当社にはありません。
日本国 内で付き合いのある荷主から中国に商品を運びたい、 あるいは中国での物流をお願いしたいと言われたと きに、それに対応できないようでは大切な日本での 仕事も失ってしまうことになる」  「とはいえ、もちろん中国事業だけでも利益を出さ なくてはならない。
そのために昨年四月から、改め て中国国内物流の品質とコストの見直しを進めてい ます。
倉庫の集約など必要な投資を行う一方で、生 産性を上げていく。
さらに日本でやっているような ミルクランやJIT納入など付加価値の高いサービス も提供する。
収受できる料金としては厳しいものが ありますが、当社のサービスの価値を認めてくれる荷 主と理解し合いながらやるしかない」 ──中国で機工事業に切り込める余地は無いのでしょ うか。
 「いや、この数年で環境が変わりました。
今は機工 事業の本部を中国に置き、物流と機工と通関の三点 セットで売り込むという動きをしています。
日系の 鉄鋼・化学メーカーの中国進出が活発になってきた こと、中国の人件費が上がり、これまでのように安 藤富孝 取締役常務執行役員 ロジスティクス・ソリューション事業本部本部長 第4部 主要プレーヤーの次の一手 特 集 国際物流企業への通知表「荷主満足度調査」 35  JANUARY 2011 価な労働力を大量に確保するのが難しくなってきた こと。
そうしたお客様にとってのピンチが我々にとっ てはチャンスになる」 ──むしろ、中国事業はこれからが収穫期ですか。
 「中国の安かろう悪かろうの機工サービスに皆、不 満を抱き始めています。
自分でメンテしていたら一 〇年しか保たない設備でも、当社がメンテすれば二 〇年も保たせられる。
しかも工業団地などの集積地 であれば、当社の機能を共同化できるのでコストも 抑えられる。
さらには物流もやる。
これまで中国で は、そうしたサービスが受け入れられなかったのです が環境が変わってきた」 ──中国以外では二〇一〇年一〇月、シンガポール に東南アジア・中東・インドの統括会社として「山 九東南アジアホールディングス」を設立しました。
 「狙いの一つは決済のスピードを上げることです。
新興国ビジネスではスピードが何より重要です。
とこ ろが従来はちょっとした投資でも、いちいち日本に 話を持ち帰ってから返事をしなければならなかった。
それではお客様に逃げられてしまいます」  「もう一つの狙いは国単位ではなくエリア単位で最 適化を図ることにあります。
これまでは各国の現地 法人が、それぞれの国で利益を上げることを目指し ていました。
しかし現在は国をまたぐ物流ニーズが 増えてきた。
国別の体制ではうまく機能しません」  「例えば荷物を出すタイの現地法人は儲かるけれど、 受け手のベトナムの現地法人は損をするという場合、 当然ながらベトナムの現地法人は積極的には動かな い。
そこでシンガポールの統括会社がベトナムの現地 法人に『今回は“犠牲バント”を打て』と指示を出 す。
ベトナムで三〇〇〇円損をしたとしても、タイ で一万円儲ければグループにとっては七〇〇〇円の利 益になる。
そうやってアジア域内をグループの連結総 合収支で見ることが統括会社の役割です」 ブラジルの物流事業を強化 ──アジアを面で押さえていくわけですね。
 「その通りです。
それと並行してこれからブラジル の物流にも力を入れていきます。
実は当社は三〇年 以上も前にブラジルに進出し、現在は五〇〇〇人以 上の現地スタッフを抱えて機工事業を行っているんで す。
現地法人の子会社、我々から見れば孫会社に当 たりますが、物流会社も二〇年前に設立しています」  「その物流会社が現在大いに注目を集めています。
ブラジルは通関が難しい。
通関を切るだけで一週間 以上も時間がかかったり、何重にも税金をかけられ たりする。
当社ならそれをクリアできる。
今のとこ ろ日系で現地の通関免許を持っているのは当社と日 通だけなんです。
現在、ブラジルは凄まじい勢いで 成長しています。
日本からの進出もどんどん活発化 している。
その物流を我々がお手伝いします」 ──リーマンショックを経験したことで、山九の戦略 に変化は?  「本気でグローバルを意識するようになりました。
もちろん以前からその重要性は頭では分かっていた し、方針として謳ってもきたのですが、実態が伴っ ていなかった。
しかし、もう国内だけを見ていても 成長を続けることはできない。
物流や機工のニーズ が日本からどんどん海外にシフトしています。
失わ れたものを取り戻すために、グローバル展開に本腰を 入れます。
ただし、海外事業といっても先進国に進 出する時代は既に終わりました。
中国、東南アジア・ 中東、ブラジル、そしてインドが我々のこれからのド メインです」 マレーシア シンガポール インドネシア ベトナム タイバージ インド タイ レムチャバン 山九東南アジア ホールディングス 東南アジアの主な現地法人 シンガポールに統括会社を置くことで、東南アジア全体の スピード経営を目指す

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