ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2011年1号
特集
国際物流企業への通知表 荷主満足度調査第1部 いくら払うか、どこを選ぶか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JANUARY 2011  12  荷主の満足度調査を基に主要な国際物流企業の実 力を評価した。
併せて日本発運賃(航空貨物・海上貨 物)の実勢相場を分析した。
欧米先進国への輸出から アジア内需へ、日本企業の国際物流はこの10 年で大 きくシフトした。
それに伴い主要な物流パートナーの 顔触れや評価基準も変化している。
(編集協力=日本能率協会コンサルティング 生産革新 本部 ロジスティクス・ソリューション・センター) 特集 国際貨物運賃の実勢相場  このたび本誌は日本能率協会コンサルティング(J MAC)生産革新本部ロジスティクス・ソリューショ ン・センターの協力を得て、国際物流業の荷主満足 度調査を実施した。
二〇一〇年十一月下旬に本誌読 者・関係者およびJMAC関係者にメールでアンケー トを行い、九〇社の有効回答を得た。
 同アンケートでは、主要な国際物流企業のサービス に対する満足度と並んで、国際貨物の運賃相場も調 査した。
日本発北米西岸向け、日本発北欧州向け、 日本発中国大陸向けについて、それぞれ海上貨物と 航空貨物の単位当たり支払い運賃を尋ねた。
 その集計結果は表1の通り。
海上運賃の一TEU (二〇フィートコンテナ換算)当たりの運賃は、北米 西岸向けと北欧州向けが共に中央値で二〇〇〇ドル だった。
中央値と平均値との乖離はあまり見られな かった。
 一方で中国大陸向けは、中央値が二万円であるの に対し平均値は二万七〇一八円で、両者に開きがあっ た。
回答者によって金額のバラツキが大きかった。
同 じ中国大陸向けでも上海や深圳のような大港湾向け は船社間の競争が激しく運賃は安い。
競争原理が働 きにくい地方港向けの運賃は割高だった。
 同様の傾向は航空運賃にも見られた。
一キログラ ム当たりの運賃単価は、北欧州向けが中央値三七〇 円・平均値三七五円、北米西岸向けが中央値三五五 円・平均値三三二円とバラツキが少ないのに対し、中 国大陸向けは、海上運賃ほどでないにしろ各社の支 払い運賃水準にかなりの差があった。
 表2は大口荷主向け運賃と小口荷主向け運賃を比 較したものだ。
大口荷主向けが安いのは当然として、 いくら払うか、どこを選ぶか 特 集 国際物流企業への通知表「荷主満足度調査」 13  JANUARY 2011 海上運賃、航空運賃とも、やはり中国大陸向けで大 口と小口の格差が大きかった。
 欧州向けや北米向けの長距離航路が成熟している のに対し、アジア域内の航空貨物市場には、小規模 な航空貨物キャリアが乱立し、値下げ競争が絶えず 繰り返されている。
そのことが荷主の支払い運賃水 準の格差として現れているようだ。
 国際貨物運賃全体のトレンドとしては、リーマン ショック後の二〇〇九年春〜夏頃に大底を打って以 降、本調査を行った一〇年秋まで、一貫して値上げ 基調が続いていた。
とりわけ日本発の航空運賃は、 主要キャリアが一斉にスペースの縮小に動いたことか ら需給が逼迫、毎月のように値上げが続いていた。
 しかし、一〇年度後半に入ってからは世界的な景 気の減速に急速な円高も加わり、荷動きに陰りが出 始めている。
日本航空が貨物専用機事業から撤退し たことで日本発のスペース供給量は約一割減ったが、 それを見越して改めて供給量の拡大に動くキャリアも あり、一時期のような逼迫感は解消されている。
既 に運賃は〇九年夏の底値から二割程度値上がりして おり、これ以上の値上げは当面考えにくい状況だ。
国際物流業の評価の仕方  「荷主満足度」については、回答者が荷主として取 引したことのある国際物流企業を、本誌が設定した 九つの評価項目(価格競争力/スピード/スケジュー ルの安定性/スペース供給能力/輸送品質/営業担 当者の対応能力/トラブル対応力/物流提案力/情 報システム対応力)から、それぞれ五段階(1劣っ ている、2やや劣っている、3一般的、4やや優れ ている、5優れている)で定性評価してもらった。
 また九つの評価項目のうち、国際物流企業の選択 荷主企業 57.8% 物流子会社 14.4% 物流専業者 20.0% その他 7.8% N=90 表2 小口荷主VS 大口荷主 調査回答者の属性 表 1 回答企業の支払い運賃水準(2010 年 11 月調査) 海上運賃 (1TEU 当たり) 中央値 北欧州向け 北米西岸向け 中国大陸向け $2,186 $2,220 \30,860 $2,000 $2,000 \22,000 18 14 29 $2,224 $1,825 \24,576 $1,978 $1,825 \22,000 6 2※ 9 大口荷主 (年間5000TEU 以上) 航路 平均値 中央値 N 平均値 中央値 N 海上運賃 (1TEU 当たり) 小口荷主 (年間5000TEU 未満) 北欧州向け 北米西岸向け 中国大陸向け \421 \355 \310 \390 \375 \250 8 6 9 \359 \333 \175 \350 \350 \165 8 7 10 大口荷主 (年間100t 以上) 航路 平均値 中央値 N 平均値 中央値 N 航空運賃 (1kg 当たり) ※参考値 ※海上運賃は1 ドル=84 円で換算(以下、同じ) 小口荷主 (年間100t 未満) N 北欧州向け 北米西岸向け 中国大陸向け 北欧州向け 北米西岸向け 中国大陸向け $2,157 $2,096 \27,018 \375 \332 \214 $2,000 $2,000 \20,000 \370 \355 \180 30 26 42 28 26 29 航空運賃 (1kg 当たり) 航路平均値 JMACロジスティクス・ソ リューション・センターの 小澤勇夫センター長 JMAC生産革新本部ロジスティ クス・ソリューション・センター の広瀬卓也マネージャー JANUARY 2011  14 ティング(JMAC)生産革新本部ロジスティクス・ ソリューション・センターの広瀬卓也マネージャーは 次のように説明する。
 「船社に対してはキャリア機能しか期待しない荷主 でも、フォワーダーに対してはドア・ツー・ドア輸送 を前提に、コスト、スピード、法制度などの要件に 配慮したオペレーションの最適な組み立てを求めてい る。
船社に比べてフォワーダーは入札機会も多い。
三 カ月や六カ月に一度のペースで定期的に航路別の入札 を行い、その都度、フォワーダーを入れ替えてしまう 荷主も珍しくはない」  「情報システム対応力」の評価項目としての重要度 は低かった。
情報システム機能をアピールする物流会 社は多いが、荷主はそこに付加価値を感じているわ けではないようだ。
他社と差別化できる新しい機能 を開発しない限り、情報システム機能は必要条件で はあっても十分条件とはなり得ない。
割安なアジア系船社が上位に  本特集の第二部と三部(一六頁〜二四頁)には、 主要な国際物流企業を船会社部門とフォワーダー部 門に分けて、それぞれ評価項目別の得点ランキング と、各社の荷主満足度を総合評価した「総合評価ラ ンキング」を掲載した。
 評価項目別ランキングは、五段階評価の「劣って いる」を一点、「優れている」を五点として、各社 がその項目で獲得した点数の平均点を一〇〇点満点 に換算したもの。
また「総合評価ランキング」は九 つの評価項目を、その重要度(船会社は図1、フォ ワーダーは図2に掲載した各評価項目のパーセンテー ジ)で重み付けして、各社の総得点を一〇〇点に満 点に換算したもの。
なお評価回答数が五社に満たな 基準として特に重視している項目を複数回答で選ん でもらった。
その結果、船会社の評価基準として重 視されているのは図1の通り、「運賃競争力(九〇・ 八%)」、「スケジュールの安定性(六七・八%)」、「ス ピード(五九・八%)」、「輸送品質(五八・六%)」 の順だった。
 フォワーダーの評価項目では「運賃競争力(八九・ 五%)」、「輸送品質(五八・一%)」「スピード(五 七・〇%)」を重視する荷主が多かった(図2)。
船 会社、フォワーダーとも「運賃競争力」が最重視さ れているのは当然として、それ以外の評価項目には かなりの違いがあった。
 船会社の評価項目として「運賃競争力」に次いで 重要度の高かった「スケジュールの安定性」が、フォ ワーダーの評価項目としてはそれほど重視されてい ない。
航空貨物はそもそも輸送リードタイムが短く、 飛行機が出発してしまえば遅れることはほとんどな いが、海上貨物の場合は船会社によって安定性に違 いがある。
 天候不良による運航の遅れや「抜港(予定されて いた寄港を取りやめること)」などは船会社に関わら ず発生する。
それでも同じエリアに多くの便数を走ら せていれば積み残しのリカバリーに有利に働く。
抜港 時の陸送の手配なども各社のオペレーションに差が出 るところだ。
 逆に「トラブル対応力」は船会社で低く、フォワー ダーで高かった。
ポート・ツー・ポートに比べ、ド ア・ツー・ドアの輸送では、荷物の紛失や到着の遅 れなどが発生しやすい。
それだけに正確でスピーディ な情報提供や柔軟な対応能力が問われる。
 「物流提案力」の重要度も船会社で低く、フォワー ダーで高かった。
これについて日本能率協会コンサル 運賃競争力 スピード 輸送品質 トラブル対応力 物流提案力 その他 図1 選定時の重視項目(船会社) N=87 (%)0 20 40 60 80 59.8 67.8 67.8 51.7 58.6 37.9 37.9 19.5 9.2 1.1 100 図2 選定時の重視項目(フォワーダー) N=86 (%)0 20 40 60 80 89.5 57.0 40.7 43.0 58.1 50.0 50.0 43.0 18.6 2.4 100 スケジュール の安定性 営業担当者の 対応力 情報システム 対応力 スペース 供給能力 運賃競争力 スピード 輸送品質 トラブル対応力 物流提案力 その他 スケジュール の安定性 営業担当者の 対応力 情報システム 対応力 スペース 供給能力 90.8 特 集 国際物流企業への通知表「荷主満足度調査」  旭化成せんいは滋賀県の守山、宮崎県の延岡 の二つの自社工場をメーンに不織布などを生産 している。
このうち、守山工場で製造した製品 は神戸港まで横持ちし、そこから欧米やインド、 パキスタンなど東南アジアを中心に出荷してい る。
神戸港からの輸出では、現在三社の海上フォ ワーダーと契約を結んでいる。
 旭化成せんいの井階英幸物流部物流グループ グループ長は「契約を一社に集約することでコ ストメリットを出すという選択肢もあるが、複 数のNVOCCと付き合うことで正確な情報を 得ることの方が重要だと考えている。
運賃や各 種サーチャージ、スケジュール等において、適 切な情報が入らないと様々なリスクを招いてし まう」と語る。
 サーチャージや運賃の値上げを要求された場 合に、その会社としか付き合いが無ければ、本 当に支払う必要があるのか判断が難しい。
複数 の会社と付き合っていれば、その正当性、妥当 性を評価しやすいという。
 「本当に必要なら三社が一斉に要求していくる はず。
一社だけが騒いでいる場合には検証の必 要がある。
もちろん支払う必要のある運賃やサー チャージには対応するが、情報不足による余分な コスト増は避けなければならない」(井階物流グ ループ長)  海上フォ ワーダーと の契約期間 はいずれも 三カ月程度 と短い。
特 にこの一、二 年は頻繁に業者変更を繰り返している。
このと ころ海上運賃は乱高下が激しい。
その影響から 旭化成せんいに営業をかけてくる海上フォワー ダー各社の提案運賃には大きな開きが発生して いるという。
 「魅力的な運賃を提案されたときに、既存の協 力会社と長期契約を結んでいれば身動きが取れ ない。
一定の運賃で安定的に運営したいという 思いはあるものの、やはりビジネスである以上、 目の前に提示された底値は常に拾いたい」と井 階物流グループ長。
 神戸港というメジャーポートを活用する一方 で、延岡工場で生産された製品に関してはロー カルポートを活用する『最寄港化』を二〇年以 上かけて段階的に進めてきた。
以前は工場から 八五〇キロも離れた神戸港まで陸送していたが、 これを北九州の門司港に切り替えた。
 工場から門司港までの距離は二六〇キロ。
陸送 にかかる物流費やCO2の排出量を大幅に抑制し た。
さらに現在は、門司港から宮崎県内の細島 港への切り替えをほぼ完了している。
工場から 細島港までの距離はわずか二〇キロほどなので、 横持ち輸送費をさらに削減することに成功した。
 しかし、最寄りのローカルポートの利用はメ リットばかりでもないという。
細島のような小 さな港では、営業所を開設している海上フォワー ダーも限られている。
港の使用料は割高で船会 社の配船も充実していない。
 「必然的にローカルポートでは船会社との直接 契約がメーンになる。
そのため海上フォワーダー を介すより手間がかかる。
それでも週三便の船 は確保できているし、門司や神戸まで陸送する よりトータルコストはずっと安い」という。
15  JANUARY 2011 い企業はランキングから除外した。
 その結果、船会社部門ではトップの「SJSCO(上 海市錦江航運)」をはじめ上位には中国やマレーシア、 韓国系の船社が並んだ。
アジア系船社は総じて「運賃 競争力」に優れているのに加え「スケジュールの安定 性」や「スペース供給能力」に対する評価も高い。
 邦船社も健闘はしているが最上位クラスではない。
「輸送品質」や「情報システム対応力」の評価はさす がに高いが、総合評価の点数計算で加重配分の大き い「運賃競争力」が足を引っ張っている。
 それでも、JMACの広瀬マネージャーは「アジア 船社の運賃競争力が高いのは予想通り。
むしろ邦船 社が総合評価でも健闘しているという印象を受けた。
今のところ荷主は邦船社に対して、運賃以外の付加 価値を認めているということだろう」という。
フォワーダーは営業マンが勝敗握る  一方、フォワーダー部門のトップは三菱倉庫だった。
老舗倉庫会社ながら「営業担当者の対応能力」の評 価が高く、他の項目も総じてハイレベルで並んでいる 競合を抑えた。
航空フォワーダーは日本通運、郵船ロ ジスティクス、近鉄エクスプレスの大手三社よりも、 二番手クラスの西日本鉄道、阪急阪神エクスプレスが 上位に来た。
欧米インテグレーターの評価は総じて低 かった。
 今回の調査結果全体を振り返ってJMACロジス ティクス・ソリューション・センターの小澤勇夫セン ター長は「各社の点数の多少の違いに、それほど大き な意味があるとは思えない。
それでも各評価項目の 上位企業と下位企業という大枠で比較すれば、荷主 の満足度には明らかな差があると言えそうだ」と感 想を述べている。
       (文責=本誌編集部) 旭化成せんい──短期契約で運賃の底値を拾う 井階英幸物流部物流 グループグループ長

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