ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年12号
物流指標を読む
第24回 黄信号!? 荷動き指数で日本経済を占う「企業物流短期動向調査」日通総合研究所

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

  物流指標を読む DECEMBER 2010  82 黄信号!? 荷動き指数で日本経済を占う 第24 回 ● 荷動き指数が景気の踊り場入りを示唆 ● 輸送用機械の減産が急落の主要因に さとう のぶひろ 1964年 ● 設備投資が踊り場以降の景気動向の鍵 生まれ。
早稲田大学大学院修 了。
89年に日通総合研究所 入社。
現在、経済研究部担当 部長。
「経済と貨物輸送量の見 通し」、「日通総研短観」など を担当。
貨物輸送の将来展望 に関する著書、講演多数。
回復基調にブレーキ  先月号で、「企業物流短期動向調査(二〇一〇 年九月調査)」の速報について概要を示した。
内 容が若干重複することになるが、今月号では、十 一月初旬に公表された確報をベースに、同調査結 果から判断されるわが国の景気の現況について解 説してみたい。
 物流面からみた景気動向の指標である国内向け 出荷量『荷動き指数』は、一〇年七〜九月実績 (見込み)ではプラス一五となり、前期(四〜六 月)実績より僅か一ポイントの上昇にとどまった。
また、一〇〜十二月見通しでは、一四ポイント低 下してプラス一まで下降する見通しで、荷動きの 回復基調にはブレーキがかかりつつある。
こうし た『荷動き指数』の動きは、景気の踊り場入りを 示唆するものだ。
 事実、一〇月の「月例経済報告」(内閣府)で は、基調判断を「景気は、このところ足踏み状態 となっている」として、景気が踊り場入りしてい ることを認めている。
 また、「日銀短観」の大企業・製造業業況判断 DIをみると、一〇年九月調査ではプラス八と、六 月調査(プラス一)に比べて七ポイント上昇した が、十二月までの予測についてはマイナス一と、九 ポイントの低下が見込まれている。
 なお、「日銀短観」において、大企業・製造業 が事業計画の前提として想定している一〇年度下 期の為替レート(円ドルレート)は八九・四四円/ ドルであり、本稿を執筆している十一月上旬現在 の実績(約八一円/ドル)と比較して約一割の円 安水準を想定していることになる。
昨年度下期よ り、輸出の増加等を背景に、大企業・製造業の業 績は回復基調にあるが、円高の進展は輸出企業の 収益を圧迫することから、円高により企業マイン ドが再び冷え込む可能性は高い。
たとえばトヨタ 自動車では、円高が一円進んだ場合、減少する営 業利益(年間)は三〇〇億円と言われている。
為 替レートが九〇円/ドル周辺まで円安に戻ることは 当面考え難いことなどから、次回(十二月調査) の「日銀短観」における業況判断DIはさらに悪 化する可能性がある。
 わが国の景気が踊り場で踏みとどまり、再度上昇 に向かうのか、はたまた景気後退局面入りするの か。
現時点で判断するのはまだ早計であるが、こ のたびの『荷動き指数』の急落をみて、筆者の脳 裏には約三年前の記憶がよみがえった。
 図に〇七年一〜三月以降の『荷動き指数』の推 移を示すが、〇七年四〜六月実績のところをみて ほしい。
前期実績よりも一六ポイント低下し、マ イナス水準まで急落しているのがお分かりいただ けよう。
当該期は、〇二年二月から〇七年一〇月 まで六九カ月間続いた戦後最長の景気拡張期の末 期にあたる時期であるが、その当時、景気が悪化 しているという実感は無かった。
また、景気の悪 化を指摘していたエコノミストもほとんどいなかっ たと思う。
いや、年がら年中「恐慌が来る」と書 きたてている某夕刊紙が唯一、「景気はすでに悪化 しだしている」と書いていたかもしれないが‥‥。
 そのため、当時は『荷動き指数』がなぜ急落し たのか、正直なところさっぱり見当がつかなかっ た。
しかし、その三カ月後に公表された〇七年四 「企業物流短期動向調査」日通総合研究所 83  DECEMBER 2010 ち込みの反動といった要素に加え、九月のエコカ ー補助金の期限切れを前にした駆け込みの増産も あって出荷が増加したものとみられる。
 しかし、一〇〜十二月見通しについては、金属 製品、一般機械、輸送用機械がマイナスに反転し、 マイナスの業種は過半の八業種となっている。
エ コカー補助金の終了に伴う自動車需要の反動減が 見込まれるなかで、大幅な減産が避けられないこ となどから、輸送用機械は前期実績よりも四四ポ イント低下してマイナス八とマイナス水準に沈ん だ。
また、裾野の広い輸送用機械の減産の効果が 他の業種にも波及し、生産・出荷の少なからぬ減 少をもたらすであろうことは想像に難くない。
 総括すると、一〇〜十二月見通しにおける『荷 動き指数』の急落の主因は、輸送用機械の減産 であると捉えることができる。
したがって、今後、 『荷動き指数』が盛り返すかどうかは、輸送用機 械の生産・出荷の動向にかかっていると言えよう。
極論すれば、単に一業種の動向にかかる話であり、 それをもって景気動向について判断するのはリス キーだ。
 もちろん、『荷動き指数』が急落した要因は輸送 用機械の減産だけではない。
夏場以降に急激に進 んだ円高や政府に対する不信感などが、景気に冷 や水を浴びせているのもまた事実だ。
加えて、こ こにきて国内設備投資マインドが再び減退する可 能性が強まっている。
 「日銀短観(一〇年九月調査)」によると、大 企業・製造業における一〇年度の設備投資計画 (注:土地投資を含む、ソフトウェア投資を除く) は、前年度比四・〇%増となっているが、前述の ように、この計画値は、一〇年度下期の為替レー トを八九・四四円/ドルと想定した上での数値で あり、果たして本当にプラスになるのか微妙なと ころだ。
 設備投資の動向を占う上で重要な指標である一 般機械の『荷動き指数』をみると、このところ持 ち直しの動きをみせつつあったが、一〇〜十二月 見通しではマイナス五と再びマイナス水準まで落ち 込む見込みである。
仮に設備投資が失速するよう であれば、景気の腰折れリスクは高まることにな ろう。
〜六月期のGDP速報をみて、筆者はびっくり仰 天したのである。
季調ベースではあるが、マイナス 成長となっていたからだ。
景気が失速しかけてい るのは明らかであり、『荷動き指数』は他の経済指 標に先んじて、景気の先行きに黄信号を発してい たということになる。
この件以降、『荷動き指数』 が景気動向を判断する上で非常に優れた指標であ ることが分かり、注目度が高まったことは言うま でもない。
 その後、景気はいったん持ち直すものの、〇七 年十一月より後退局面に入り、翌年九月のリーマ ンショックを契機に、日本経済は大不況に突入す ることになる。
景気後退と判断するのは早計  話を元に戻すが、問題は、今回の『荷動き指数』 の急落が、〇七年四〜六月の時と同様に、景気後 退が近いことを示す黄信号なのかどうかというこ とである。
先ほど、「現時点で判断するはまだ早計 である」と書いたが、その理由は、今回の急落に ついては原因がはっきりしているからであり、事 前に予想もできた。
業種別の『荷動き指数』の動 きをみれば、お分かりいただけると思う。
 一〇年七〜九月実績については、『荷動き指数』 がプラスとなったのは全一五業種中九業種であり、 荷動きの回復が広範囲の業種に広がったことが読み 取れる。
とくに『荷動き指数』の高い業種は、そ の他の製造業(プラス三八)、鉄鋼・非鉄(プラス 三七)、輸送用機械(プラス三六)、精密機械(プ ラス三一)などであった。
 輸送用機械については、前年における大幅な落 国内向け出荷量『荷動き指数』の推移 20 10 0 △10 △20 △30 △40 △50 △60 △70 △80 ? ? ? ? 2007 ? ? ? ? 2008 ? ? ? ? 2009 ? ? ? ? 2010 13 10 △6 △2 △5 △18 △23 △57 △75 △69 △56 △28 6 14 15 5 4 3 3 △2 △6 △12 △25 △65 △74 △61 △38 △15 0 13 1 実績 見通し

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