ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年12号
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第64回 三菱倉庫

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

55  DECEMBER 2010 営業利益の八割は不動産事業  三菱倉庫は一八八七年、三菱為替店の倉庫 業務を継承するかたちで設立された。
その後、 港湾運送、自動車運送、航空貨物代理業と業 容を拡大し、一九七〇年には米国現地法人を 設立して国際複合一貫輸送に進出。
国際物流 ネットワークを拡大してきた。
近年では二〇 〇五年に医薬品・医療機器の包装、表示、お よび保管の許可を取得するなど、医薬品の取 り扱いを強化している。
 物流業界にあって上場大手倉庫会社に特徴 的なのが、その多くが物流事業、不動産事業 の二事業構成であることである。
なかでも三 菱倉庫は不動産事業では他の大手倉庫に先駆 けて、東京都中央区に保有する物件から物流 用地の高度利用化に着手している。
一九六二 年にコンピューター用賃貸ビルの運営に進出し た後、オフィスビル、商業施設などにも展開 した。
現在、上場倉庫会社では物流、不動産 の両事業ともに最大の売上規模を誇る。
 三菱倉庫の収益構造をみると、売上構成は 二〇一〇年三月期の全社控除前ベースで物流 事業が七五%、不動産事業が二五%と物流事 業が大半を占める。
これに対して営業利益構 成は物流事業が二三%、不動産事業が七七% と不動産事業の貢献度が高いという特徴があ る。
 一〇年三月期の物流事業の売上構成は倉庫 保管が一五%、倉庫荷役が九%、陸上輸送 (国内のトラック輸送)が二一%、港湾荷役が 一六%、国際輸送が三〇%であった。
倉庫関 連以外の売上構成比が大きいが、実作業・実 輸送を下請け会社に委託するケースも少なくな いと思われ、収益性は必ずしも高くないと考 えられる。
他方、倉庫関連の比率は計二四% に過ぎないが、自社開発の倉庫を中心に高い キャッシュフロー創出力を有するといえる。
医薬品など内需系貨物に強み  物流事業における取扱貨物の特徴は内需系 貨物が多い点であり、国内における物流売り 上げでは医薬品が二〇%弱、食料品が三〇% 弱を占めている。
 特に医薬品は温度、湿度、セキュリティと もに高度な管理が必要となる。
三菱倉庫は荷 主の要望に応じて施設や輸送品質の仕様を定 め、必要な投資を行なった上で荷扱いを開始 し、長期的に安定した取引関係を確保してい るもようである。
加えて医薬品は法律上、他 の貨物との混載が不可能であり、全国的な物 流網を有する物流会社も医薬品に特化したネ ットワークが必要になる。
このため参入障壁 が高いと考えられ、同社の強みの一つとなっ 三菱倉庫 伝統的なビジネスモデルを転換 富士物流の子会社化効果に期待  簿価の低い土地・建物を背景とした伝統的な倉 庫会社のビジネスモデルの転換に本腰を入れ始めて いる。
今年九月、一〇〇億円もの資金を投じて富 士物流を子会社化した。
富士物流の外部委託費用 の削減や同社の荷主の国際貨物の取り込みなど、子 会社化が収益に大きく貢献する可能性がある。
大庭正裕 野村證券金融経済研究所 企業調査一部 公益インフラ産業調査室 第64回 DECEMBER 2010  56 ている。
 不動産事業は、自社不動産物件の賃貸が 中心であり、営業利益率は一〇年三月期で二 九%と賃貸主体の不動産各社と比較しても高 い利益率を誇る。
簿価の低い自社の保有用地 を周辺の都市化に合わせ、賃貸物件として再 開発を進めてきたためである。
三菱倉庫の賃 貸するオフィスビルや商業施設などの物件構 成の特徴としては、港湾地域での物流施設を 多く保有していたことから、港湾近隣に所在 することが多いことが挙げられる。
結果とし て都市部からのアクセスなどの利便性が高い。
 足元の業況は好調である。
一一年三月期上 期の決算は、前年同期比十一%の増収、二七% の営業増益となった。
物流事業では国際運送 取扱、港湾運送を中心に全般的に荷動きが好 調であった。
得意とする医薬品物流の取り扱 い増加も底堅い荷扱いに寄与し、当社の強み が発揮された決算であったといえよう。
不動 産事業でも既存ビルの収益の弱含みを〇九年 十二月にオープンした横浜ダイヤビルの満室稼 働が埋め合わせた。
 ただし倉庫業界では、少なくとも一一年三 月期上期までに荷動き回復に一服感がでてき ている。
それは普通営業倉庫二一社統計の入 庫高推移をみても明らかだろう。
 さらに、荷主の在庫水準の見直しに伴う、保 管残高の低下傾向が懸念材料になっている。
そ うした傾向は荷主のSCMの進展に伴い、今 後も中長期的に深刻化する可能性も考えられ る。
特に自社での物流施設開発・保有・運営 をコアビジネスとする倉庫会社にとっては、経 営判断の転機を迎えているように見受けられ る。
 こうした経営環境に対応し、三菱倉庫は新 たな戦略に舵を切った。
一〇年七月に発表し た富士物流に対するTOBは、上場倉庫会社 では住友倉庫による遠州トラックの子会社化 以来の大型出資案件となる。
 三菱倉庫はこれまでにも〇四年に中国でフ ォワーディング現地法人を設立、一〇年にシン ガポールのフォワーダー、パイオニア・エクス プレス・インターナショナル社を買収するなど の出資を行っているが、我々は富士物流のT OBはそれらの案件とは性質が異なると考え ている。
ポイントは二点ある。
TOBの効果は会社発表以上  第一に、国内大手メーカーの物流子会社を 取得した点である。
これまでの出資は既存荷 主に対するサービス強化を図るため、比較的 小規模での海外現地法人を設立することが主 であった。
これに対して今回のTOBは、富 士物流の大口荷主である富士電機グループの 取り込みとしての側面を持つと考えられる。
 具体的なシナジーは、富士物流の外部委託 費用の内製化として現れると我々は考えてい る。
一一年三月期上期決算発表時、三菱倉 庫はTOBの効果を織り込み、一一年三月期 〜一三年三月期の中期経営計画を上方修正し た。
一三年三月期時点での営業増益効果は連 結化によるものが十二億円、シナジー効果が 四億円としている。
 しかし我々は潜在するシナジー効果が顕在 化すれば、より大きな収益寄与の可能性があ るとみている。
例えば富士物流の年間二〇〇 億円弱の外部委託費用や、同三〇億円弱の物 流施設の賃借料を部分的にでも内製化できれ ば、収益への貢献は会社試算以上のものにな り得ると考えられる。
 第二に、これまでの三菱倉庫の出資額とは 規模感が異なる。
これまでの出資はおおよそ 一億円以下程度でそれほど規模は大きくはな い。
これに対して富士物流の株式取得には約 一〇〇億円もの資金を投じている。
三菱倉庫 《出来高》 三菱倉庫の過去10年間の株価推移 57  DECEMBER 2010 は一一年三月期上期のアナリスト向け決算説 明会で、今回のTOBは将来的な事業成長を 見据えた「パートナーへの出資」と表現した。
 今後は富士物流の大口荷主に対する国際物 流サービスの提供というかたちでシナジーが現 れる可能性がある。
富士物流の事業の主力は 国内物流であり、一〇年三月期ではほとんど の収益が国内物流から発生している。
これに 対して企業の海外展開が進んでいることはい うまでもなく、それは富士物流の荷主も同様 であろう。
 三菱倉庫も海外事業の構成比は高くないも のの、その歴史は古くノウハウも蓄積されて いると見られる。
物流子会社として富士電機 グループの貨物特性を熟知している富士物流 が、これまで提供し切れなかった国際物流サ ービスを三菱倉庫というパートナーを得ること で新たに受注することができる可能性がある と考えている。
 加えて三菱倉庫にとっては、電気機器分野 での3PLノウハウをグループ内に取り込み、 3PL分野を拡大する足がかりになるだろう。
 ノンアセットあるいはライトアセットな3P L企業では、物流子会社の取得はさほど珍し くはない。
しかし、今回のケースは強力なア セットを保有する三菱倉庫が、事業方針・ビ ジネスモデルの転換に本腰を入れてきている証 左とも捉えられる。
大庭正裕(おおば・まさひろ)  二〇〇四年三月東京大学医学部 卒業、〇七年三月同大学院健康 科学看護学専攻修了。
同年四月、 ベリングポイント(現プライスウ ォーターハウスクーパースコンサ ルタント)入社。
物流に関する コンサルティング業務を経て、〇 八年三月より野村證券金融経済 研究所企業調査部。
運輸セクタ ーに関する調査業務に従事。
営業収益 合計 1,483 1,930 2,330 +400 物流事業 1,122 1,525 1,925 +400 不動産事業 375 420 420 ー セグメント間取引 -14 -15 -15 ー セグメント比率 75:25 78:22 82:18 営業利益 合計 102 135 151 +16 物流事業 33 54 70 +16 不動産事業 109 123 123 ー 全社費用 -40 -42 -42 ー セグメント比率 23:77 31:69 36:64 経常利益 115 143 158 +15 当期純利益 61 79 88 +9 10 年3月期 実績 13 年3 月期目標 修正前修正後修正額 ※会社発表資料より作成 富士物流のTOB 成立を受け、中期経営計画の 目標数値を上方修正した(単位:億円)

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