ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年12号
ロジビズ再入門
小売業のロジスティクス戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

ロジスティクスをはじめとしたバックヤード 機能はベンダーに任せ、自らは店舗開発に特 化するのが、かつては日本の小売業の基本的 なスタンスだった。
それが九〇年代以降、一 変した。
自社専用の物流センターを建設し、店 頭を起点としたサプライチェーンの再編に乗り 出すチェーンストアが後を絶たない。
ダイエー型 VS ヨーカ堂型 日本市場は、商品を店舗に納品するまでの 物流費を卸価格に含んだ「店着価格制度」を 慣習としてきた。
一度に大量に購入しても、小 刻みに購入しても同じ価格であるのなら、買い 手側は当然、多頻度小口納品を選ぶ。
品切れ を起こさずに在庫量を減らすことができれば、 それだけ手元資金に余裕が生まれる。
同じスペ ースに陳列できる商品の種類も増やせる。
ベンダー側にとっても、店着価格制は店頭 の販売価格をコントロールための有効なツール となる。
多頻度小口納品の物流コストには目 をつぶり、メーカーが地域別に配置した特約卸 売店を通じて価格を一定に保つ。
これによっ て同じ商品ならどこで買っても同じ値段、いわ ゆる「一物一価」を維持し、価格競争による 値崩れを避けながら、商品を全国くまなく供 給することができた。
こうした日本特有の商慣習は、希望小売価 格を維持したいベンダー側と、販売額の小さ な商店街の単独店の双方にとって、都合の良 い制度だった。
ただし消費者から見ると、これ は物価が定価で高止まりすることを意味する。
それに対して「消費者主権」と「価格破壊」 を旗印に、抜本的な流通改革に挑んだのが中 内 のダイエーだった。
中間流通を排除し、一 度に大量の商品を仕入れることで調達価格を 引き下げ、安売りを実現するというサプライチ ェーン戦略だ。
これに定価販売を脅かされるこ とになる大手メーカーや特約店卸、単独店な どの既存チャネルは猛烈に反発。
松下電器産 業がダイエーへの出荷を停止する報復措置に 打って出るなどの波紋も呼んだ。
それでも徹底した価格攻勢によってダイエー は日本最大の小売業にまで上り詰めた。
そも そも特約店制や店着価格制などのコスト的な 裏付けを欠いた価格設定は、流通の効率化を 疎外する側面を持っている。
サプライチェーン の効率化努力を無効にし、結果として消費者 に不利益をもたらす。
米国であれば違法とされ る取引だ。
その意味では、既存チャネルとの確 執もダイエー側に理があったと言える。
実際、ダイエーは価格破壊を実現するため に、全国に自社専用の物流センターを建設し、 卸に代わる中間流通機能の整備にも動いた。
そ の後、ダイエーは土地の値上がりを前提とした 拡大戦略が裏目に出て、経営破綻に追い込ま れたものの、小売業による流通効率化では日 本の先駆け的な取り組みだった。
一方、ライバルのイトーヨーカ堂はダイエー のように物流センターを自社で持つのではなく、 特定の卸にその機能を代行させる「窓口問屋 制」という仕組みで中間流通機能を整備した。
調達した商品を窓口問屋に集約して一括して 納品することで、店舗側の荷受け負担を減ら すことが狙いだ。
ヨーカ堂にとっては新たな投 資負担を避けられる上、商流と物流を分離し て、帳合い自体には手を付けないことでベンダ ー側の反発も抑えられる。
ただし卸の中抜きによる仕入れ価格の引き 下げは期待できない。
特約店制や店着価格制 などの合理性を欠いた商慣習は基本的にはそ のまま維持された。
これに対して、従来の商慣 習自体にメスを入れ、大手メーカーと大手小 売りが直接取引する欧米型のサプライチェー ンを日本市場で実現しようと改革を進めてい るのがイオンだ。
イオンの目指す欧米型モデル イオンは二〇〇〇年に発表した長期経営ビジョンで、二〇一〇年までにグループの連結売 上高を七兆円にまで拡大し、世界の小売業売 上高ランキングでトップ一〇入りを果たすとこ とを目標に掲げている。
これを実現するため、 積極的に流通業者にM&Aを仕掛けると同時 に、同社が「戦略物流構想」と呼ぶ物流ネッ トワークの再編を進めている。
それまで国内一二六カ所に分散していたグ ループの物流拠点をいったん白紙に戻し、新 たに全国一九カ所三九施設の物流センターを 建設、日本全土を網羅する中間流通ネットワ 第8回小売業のロジスティクス戦略 DECEMBER 2005 86 87 DECEMBER 2005 ークを構築するという構想だ。
二〇〇一年か ら着手し、二〇〇四年に基盤整備を完了。
そ の後もグループの拡大に伴うネットワークの増 強を続けている。
米ウォルマートをはじめとする世界的な流通 業者は中間流通機能をグループ内に取り込み、 ローコストオペレーションを徹底したサプライ チェーンを差別化の武器にしている。
彼らはい ずれ日本市場にも本格上陸する。
バックヤー ド機能をベンダーに頼った日本的なチェーンオ ペレーションでは、とても太刀打ちできない。
実際、日本のチェーンストアと大手流通外資 を比較するとコスト効率を示す販管費比率に は格段の開きがある。
そんな危機感がイオンを 改革に走らせた原動力だった。
小売りが自社専用の中間流通インフラを整 備して、卸を中抜きしようというイオンの発想 自体はダイエーと変わらない。
ただし、その方 法論にはいくつかの違いが見られる。
その一つ が資産の所有に対する考え方だ。
ダイエーが物 流拠点の土地や設備、運営スタッフなどのリ ソースを自らの資産として所有したのに対し、 イオンは徹底してアウトソーシングを活用する。
イオンの戦略物流構想にはこれまで総額で八 〇〇億円以上がつぎ込まれている。
しかし、そ のほとんどはイオン自身ではなく、パートナー として物流拠点の運営を担う日立物流やニチ レイなどの3PLが投資したものだ。
イオンに とっては本業とは言えない物流の資産を自ら所 有するリスクを避けると共に、専門業者による オペレーション効率の向上を期待している。
商品価格と物流費を分離 ネットワークの完成度もダイエーとは比較に ならない。
店舗展開に後付けする形で物流拠 点を整備したダイエーとは異なり、イオンは日 本市場全体で発生する物流から逆算して、回 転率の低い商品を集中的に保管する在庫型拠 点や、在庫を持たず店舗別の仕分けだけを処 理するクロスドックセンターなどの機能別の物 流センターを最適地に配置している。
インフラ 稼働率のカギを握る各地の販売規模も、これ までのところ予定通り確保できている。
それでも、イオンの目指す欧米型のサプライ チェーンが本当に日本市場でも機能するのか、 まだ予断は許されない。
そこで最大の課題にな るのが日本的な商慣習だ。
イオンがメーカーか ら直接仕入れることでコストを下げるには、単 に卸を中抜きするだけでなく、一度に大量購 入した場合の価格、しかも物流費を分離した 商品の工場渡し価格をメーカー側に開示させ る必要がある。
つまり特約店制と店着価格制 を打破しなければならない。
しかし日本市場は、年々チェーンストアのシ ェアが高まっているとはいえ、いまだに総販売 額の過半数を小規模な単独店が占めている。
メ ーンのチャネルにダメージを与える商慣習の変 更に、メーカーは及び腰にならざるを得ない。
イ オンが最大の脅威とするウォルマート傘下の西 友もまた、米国流のローコストオペレーション を日本市場に適用するのには苦戦している。
最 大手クラスのチェーンストアのサプライチェー ンにおいても、その中間流通を誰が担うことに なるのかは、まだ明らかにはなっていない。

購読案内広告案内