ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年12号
ケース
日立物流&日本郵政公社――業務提携

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2005 50 実績を重ねた二社の「共同営業」 二〇〇三年五月、日立物流と日本郵政公 社は提携を発表した。
日立物流の3PL機能 と郵便の配送ネットワークを組み合わせて、 荷主に対して「トータルサービス」を提供す るという狙いだ。
郵政公社が物流分野で民間 企業と提携したのは、二〇〇一年四月の山九、 二〇〇三年二月の三井倉庫に次いで三件目。
その後、同じ分野の提携案件はない。
日立物流との提携は、物流関係者から醒め た受けとめ方をされた。
当時は郵政公社の発 足からまだ二カ月弱。
多くの人たちが公社化 を国営維持とみなしていた。
「郵政公社法」 とワンセットで成立した「信書便法」も市場開放のポーズに過ぎないと酷評しており、郵 便事業の実質的な民営化は遠のいた印象が強 かった。
一方の日立物流はこの頃、社運を賭 けるかのような勢いでイオンの物流改革に注 力。
両社の方向性はまるで違ってみえた。
しかし、両社の関係をこれまで牽引してき た日立物流システム事業開発本部の鈴木浩久 郵政推進部長は、提携の意義をこう強調する。
「郵政さんがどちらかというと案件ベースで 組んだ山九さん、三井倉庫さんとの提携と違 って、当社の場合は具体的な案件が何もなか った。
お互いの強みを活かせれば新たな仕事 につながるのではないか、一言でいえば?共 同営業〞を展開するという狙いがあった」 この共同営業の役割分担を示すのが次の図 共同営業で5企業の3PL案件を受注 異なる思惑で動く強者連合の2年半 日立物流と日本郵政公社が業務提携を 発表してから2年半が経過した。
3PLの 経験と、郵便の配送ネットワークを組み 合わせて営業活動を進めてきた。
これま での成約実績は5件。
郵政民営化が決定 したことで、両者のノウハウの交流は、 日本のロジスティクス市場を左右しかね ない重要な意味を持ちはじめた。
日立物流&日本郵政公社 ――業務提携 51 DECEMBER 2005 だ(図参照)。
オペレーション上は荷主から 物流センターまでを日立物流が担い、センタ ーから顧客までの配送業務は主に郵政公社が 担う。
全体で「トータル物流サービス」と称 して、このような案件を受託するための営業 活動を二社が共同で行う。
荷主と契約を結ぶ のはあくまでも日立物流だが、郵便ネットワ ークと一体的に運用することが荷主へのアピ ールポイントになる。
実際、実績も残してきた。
二〇〇四年八月 には共同営業の成果として二つの3PL案件 が動き始めた。
まず、ADSL通信大手のア ッカ・ネットワークスに対する、モデムの管 理業務と全国配送・回収業務を神奈川のセ ンターで稼働。
次いで、化粧品製造販売会社、 グレファス化粧品のセンター業務を札幌でス タートした。
座学では浸透しなかった意識変革 両社の提携を最初に言い出したのは、郵政 公社(当時の郵政事業庁)の側だった。
郵政 公社法案の国会提出がすでに決まっていた二 〇〇二年春、たまたま郵政事業庁に営業マン として出入りしていた日立物流の鈴木氏に声 が掛かって、「日立物流と提携できないか」と いう話がもたらされた。
一営業マンの立場だった鈴木氏は、その話 を本社に持ち帰るとシステム開発営業本部の 関山哲司次長(現執行役常務)に相談。
そこ に偶然、3PL事業の牽引役である山本博巳 専務(現社長)も同席したことから、その場で提携を前向きに検討することが決まった。
民営化論議の渦中にあった郵政事業庁は当 時、物流に対する認識を新たにしつつあった。
それまでは「郵便」と「物流」を別モノと捉 えていたのが、少なくとも郵便小包(ゆうパ ック)の分野では、従来の枠組みを見直すべ きではないかという気運が高まっていた。
郵政研究所は同年四月から「物流連続講 演会」と題する勉強会を催している。
花王の 松本忠雄氏(当時)や、味の素ゼネラルフー ヅの川島孝夫氏などロジスティクスの専門家 を講師に招き、六回の講演会を行った。
実は 日立物流の関山氏も講師として招かれ「日立 物流における3P L事業の展開」 と題する話をして いる。
営業の現場 とはまったく別の 動きではあったが、 郵政という組織 が「物流」を意識 しはじめていたこ とが伺える。
郵便小包事業 は目を覆うばかり の状況にあった。
独占分野の信書 配送などでネット ワークを支える構 図が常態化しており、民営化の成り行きがど うあれ、この分野へのテコ入れが不可欠なこ とは誰の目にも明らかだった。
郵便が得意としてきたC to C市場(個人〜 個人間の配送)では民間宅配業者との負け戦 が濃厚で、これだけで小包事業を立て直せる 状況にはない。
小包ネットワークを維持する のであれば、企業関連の荷物を取り込むしか選択肢はなかった。
そして、この分野で自ら に不足しているスキルを補う上で、企業物流 のプロで、しかも小口ネットワークを持たな い日立物流は格好の相手だった。
日立物流にとっても、郵政の申し出は魅力 的だった。
郵便事業に携わっている約一〇〇 〇人の営業担当者のマンパワーと、知名度の 高い郵便ブランドは日立物流にはない可能性 を秘めている。
そのうえ、郵政と組んだから といって3PL事業者としての日立物流の選 択肢が狭められるわけではなく、ヤマト運輸 や佐川急便を使うのは自由だ。
互いのメリットを認め合った両社は、二〇 〇三年五月の提携にこぎつけた。
ただ郵政公 社にとって民間会社との契約行為がそう簡単 日立物流システム事業開発本 部の鈴木浩久郵政推進部長 ではないこともあって、提携文書には漠然と した内容しか盛り込まれなかった。
そして、 このことが「お互いをなかなか理解できない 要因にもなってしまった」と日立物流の鈴木 部長は振り返る。
提携してから鈴木部長がまず手掛けたのが、 全国にある郵政の主要組織を訪ねて、日立物 流の考え方や、3PLとは何かといったこと を郵便事業の営業マンに説明して回ることだ った。
郵便の営業組織は三層構造になってい る。
まず郵政公社の本社内に東西で約八〇人 の営業担当者がいる。
全国に一三カ所ある支 社のうち、政令指定都市のある九支社にも計 八〇人弱が在籍している。
さらに、全国の郵 便局のうち担当エリアの市場規模の大きい局 もそれぞれに営業担当者を抱えていて、これ が全部で約八〇〇人いる。
ただし、営業担当者の大半はこれまで、客 先にパンフレットを持参して郵便小包の需要 を発掘するといった営業しか経験がなかった。
このため日立物流の鈴木部長は、「共同営業」 に取り組むメリットやポイントについて説明 して歩く必要があった。
一年近くかけて話を した相手は延べ七五〇人に上った。
その成果が、アッカなどの営業実績として あらわれた。
その後もそれなりに実績を重ね、 現在までに五件が稼働している。
小規模の案 件やスポット業務なども含めればもっと数は 多くなるが、この実績に対して鈴木部長は物 足りなさを隠さない。
提携後の?全国行脚〞 が講義形式による座学だったため、郵政の営業現場に浸透せず、結果として営業実績も伸 びなかったと率直に反省している。
互いに進む組織体制の整備 そこで今期(二〇〇六年三月期)に入って から、新たに二つの手を打った。
日立物流に よる「実習生の受け入れ」と、アッカなどの 成功事例を踏まえながら郵政の営業担当者に 「辻説法を展開」するというものだ。
「実習生の受け入れ」では、3PLへの理 解を深めるために日立物流のオペレーション 現場で実際に働いてもらう。
すでに今年七月 からスタートしており、郵政の本社・法人営 業部に所属する二〇代、三〇代の営業マン六 人が参加した。
後に一人が体調を崩して途中 棄権を余儀なくされたものの、現在でも五人 が実習を続けている。
郵政公社・郵便事業総本部ロジスティクス 事業部の山田伸治担当部長は、この実習につ いて次のように説明する。
「最初は庫内作業 をやり、次は工場内作業に携わっている。
彼 ら(日立物流)の考えだと、いきなり3PL の提案書を作ろうとしてもできない。
モノの 流れというのは、生産現場からスタートして、 それが倉庫に入って物流になり、最終的にお 客さんのところに届く。
これをリアルに理解 できなければダメだという発想だ。
われわれ にとっては非常に勉強になっている」 基本的にネットワークビジネスである郵便 と3PLの発想は多くの点で対照的だ。
郵便では優れた配送ネットワークを構築できるか どうかで勝負の大半が決まり、顧客ごとに異 なるサービスを提供する発想はほとんどない。
これに対して3PLは、何よりも顧客の立場 から物流を最適化する必要がある。
場合によ っては自社が保有するネットワークを使わな いことすら躊躇してはならない。
物流業界にネットワーク事業と3PLを高 度に両立できている企業がほとんど存在しな い理由もここにある。
こうした違いを頭だけ で理解するのは難しい。
実践を通じて納得す るのが一番てっとり早い。
だからこそ日立物流の鈴木部長は、郵便事 業の営業担当者に対する?辻説法〞をスター トした。
従来のような講義形式ではなく、両 DECEMBER 2005 52 53 DECEMBER 2005 社の営業実績を実例として取り上げながら対 話形式で展開する。
場所や相手の人数にもこ だわらない。
たまたま同行営業のために訪れ た郵便事業の現場で話す。
実例で納得させた 後は、実際に担当者が抱えている案件につい て、3PLの視点に立った営業アプローチを 具体的にアドバイスする。
手応えは大きい。
「すでに五カ所ほどで 実施したが、その後は『今度こういう会社に 営業に行くのだが、どうしたらいいだろう か?』といった相談が寄せられるようになっ た。
日立物流という会社に対する理解も確実 に深まっている」と鈴木部長は感じている。
提携の前進を、日立物流は社内組織に反映 させてきた。
提携発表直後の鈴木氏は、既存 の営業部隊で郵政との案件を担当するたった 一人の営業マンだった。
これを二〇〇四年一 〇月に「郵政推進プロジェクト」を新設して、 専従は一人ながら独立部門に改めた。
さらに 今年一〇月には「郵政推進部」に格上げし、 専従社員を四人に増やしている。
郵便ネットワークの命運握るロジ事業 郵政公社の側でも、ロジスティクスのため の組織を着々と整えてきた。
過去には物流関 連の専門組織は存在せず、法人営業部の中で 手掛けていた。
これを今年四月から改め、従 来の営業本部とは完全に独立させるかたちで 「ロジスティクス事業部」を新設した。
同事業部の責任者である山田担当部長は狙 いをこう説明する。
「この組織は民営化以降に照準を合わせている。
そのときに物流の世 界で充分にビジネスを展開できるようにノウ ハウを蓄積したり、アセットのコーディネー ションをどうするか、物流系のシステムをど うするかといったことを考えておく必要があ る。
なかでも人材育成は非常に大きなテーマ だ。
とにかく今は準備段階にある」 数あるテーマのなかでも、最も困難と思わ れるのが3PL事業を自発的に展開できる人 材の育成だ。
その点で日立物流との提携は大 きな意味を持っている。
部下を実習に派遣し ている郵政公社・法人営業部の宰川国男マネ ジャーは、「参加している人たちが非常に変わ った。
現場のポイントを見る眼が少しずつ育 っていることを感じる」という。
一連の動きからは、物流事業に対する郵政 公社の本気度が伝わってくる。
まだ現状では、 3PL案件のセンター管理などを手掛けるの は制度面の制約などから難しい。
しかし、民 営化の開始時期と定められた二〇〇七年一〇 月以降は、少しでも早く自ら3PL事業を手 掛けようとしている。
日立物流との共同営業では、常に元請けは 日立物流になる。
最近の案件の中には、郵政 公社の営業マンが獲ってきたにもかかわらず、 ほとんど郵便を使わないケースもあるという。
郵政公社としても納得ずくでやっている話で はあるが、自ら元請けになることの優位性は 骨身にしみているはずだ。
山田担当部長としては、この一〇月に買収 したアソシア(従来は大丸の発送代行子会 社)を3PL事業に踏み出すファーストステ ップにしたい考えだ。
現状では郵便事業を拡 大するための出資でしかないが、こうした舞 台を活用しながら業務範囲を拡大する準備を 進めることは可能だ。
ある意味でこれは、日立物流と提携した際の役割分担が崩れることを意味している。
だ が日立物流としても、提携を検討した段階か ら、いずれそうなることは理解していた。
そ れでも、互いの強みを補完しあうメリットの 方が大きいと判断したからこそ提携の申し出 を受け入れ、ノウハウの移植も進めてきた。
両社はいわば呉越同舟の関係にある。
民営化以降、郵便事業会社がロジスティク ス分野でどのような役割を演じるかは、日本 の物流マーケットに大きな影響をおよぼす可 能性がある。
このことは、いまドイツポスト が英エクセルを買収しようとしている先行事 例からも明らかだ。
ロジスティクス関係者は、 この点を意識しながら郵政公社の動きを見守 る必要がある。
( 岡山宏之) 日本郵政公社・ロジスティ クス事業部の山田伸治担当 部長

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