ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年12号
keyperson
英エクセルジョン・パタロ 欧州・中東・アフリカ地区担当CEO

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

1 DECEMBER 2005 ――エクセルといえば九月にドイツポ ストによる買収話が持ち上がって以 降、日本でもその動向に大きな注目 が集まっています。
日本では「エク セル=ヨーロッパ最大手の3PL企 業」という認識がありますが、その 実態をもう少し詳しく説明してもら えませんか。
「エクセルが現在のような企業形態 になったのは二〇〇〇年。
フォワー ダーであったオーシャン・グループ (MSASの親会社)が、三〇億ポン ド(六〇〇〇億円)超で3PL企業 のNFC(エクセル・ロジスティクス の親会社)を買収してからです。
エ クセルの二〇〇四年の売上高は六三 億ポンド(一兆二六〇〇億円)で、3 PL部門は世界一位、フォワーダー 部門は世界二位の位置にあります」 「オーシャンとNFCが一緒になっ ィーケアの国際部門にいたときは、日 本の高崎工場に勤務していたことも あります。
エクセルに移ったのは、二 〇〇五年三月で、現在はヨーロッパ・ 中東・アフリカ部門(EMEA)の 最高経営責任者です」 ――EMEAといえば、エクセルの 全売り上げの五割以上を占め、従業 員六万人以上が働く大所帯です。
エ クセルのナンバー2ともいえるポジシ ョンですが、P&Gからエクセルに 移った理由とは? 「ナンバー2というのはどうでしょ う。
何せ私はこの会社ではまだ?新 米(new boy)〞にすぎない(笑)。
エ クセルに移った理由は二つあります。
一つは多くの企業がその活動を国際 化している現在の経済の流れは、エ クセルのようなサプライチェーンの最 適化を請け負う3PL業者にとって 大きなビジネスチャンスになると考え たからです。
もう一つは、エクセルの スカウトチームの熱意に動かされたと いう面があります」 徹底した顧客主義 ――エクセルには、フォワーダーと3 PL業者という二つの側面がありま すが、3PLとしての競合相手は、ど のような企業でしょうか。
「競争相手は、国ごとに異なります。
本国イギリスには、ウィンカントンや クリスチャン・サルベッセンという手 強い3PL業者がいますし、ヨーロ ッパ大陸という大きなくくりでいえば TNTロジスティクスが最大のライ バルとなります。
ドイツポストによる 買収が浮上するまではDHLロジス ティクスも競合相手でした」 ――それらのライバル企業と比べた 場合、エクセルの競争優位性はどこにあるのでしょうか。
「エクセルの優れた点は三つあります。
何より大切なのは、その徹底した顧客 主義です。
たとえるならば、もし顧客 がエクセルに『飛べ』と命じたとする と、われわれは『どうして飛ぶ必要が あるのか』とは聞き返さず、『どのくら い高く飛びましょうか』と即答できる ような企業文化を培ってきました」 「二つ目は、すでに企業内にサプラ て誕生した新生エクセルの企業使命 は、『二つの機能を統合することによ って顧客にエンド・ツー・エンドのサ プライチェーン・ソリューションを提 供する』というものでした。
その後も いくつかのM&A(企業の合併・買 収)を行ってきましたが、この二〇〇 〇年のM&Aがエクセルにとっての 大きな転換点となりました」 ――パタロ氏自身も、最近になって エクセルの経営に参画するようにな ったと聞いています。
「イギリスの大学を卒業した後、私 は約三〇年間、P&Gで働いてきま した。
最後の一〇年間は、ビューテ ィーケアの国際部門に籍を置き、二 〇〇〇年からは副社長を務めました。
担当したのは一七〇億ドル(一兆八 七〇〇億円)を売り上げる同部門の サプライチェーン構築です。
ビューテ 英エクセル ジョン・パタロ 欧州・中東・アフリカ地区担当CEO 「独ポスト参画後にはアジア開拓に本腰」 ドイツポストによる買収話が浮上し、欧米のロジスティクス業界の 注目を集めているのがイギリスの大手3PL業者エクセルだ。
この話 がまとまれば、世界最大のロジスティクス企業が誕生する。
エクセル のナンバー2であるジョン・パタロ氏に、同社の競争優位性や買収話 の今後の行方などを訊ねた (聞き手・本誌欧州特派員 横田増生) DECEMBER 2005 2 イチェーンの効率化に関するノウハウ が大量に蓄積されていることです。
エ クセルは、組織を地域ごとにヨーロッ パ、中東、アフリカ、アメリカ、アジ アと分けているのと同時に、顧客の 産業ごとに大きく七つに分けていま す。
売り上げの大きい順に、?日用 雑貨?小売り?テクノロジー?自動 車?重工業?ヘルスケア?化学―― となります。
これらの産業ごとにソリ ューション・チームを編成していま す」 「各チームは産業ごとの最新の動向 を把握して、それが顧客のサプライチ ェーンにどのように影響するのかを熟 知しています。
ここで大切なのは、こ のチームのメンバーが?営業マン〞と してではなく、?コンサルタント〞と して接することです。
営業マンなら何 とかして手持ちのサービスを売り込ん で、売り上げの拡大につなげようとし ます。
しかしエクセルのチームはまず 顧客の要望に耳を傾け、各社に最適 なソリューションを提案していく。
も ちろん、時間がかかり、一見すると回 り道のように見えることもありますが、 いったん受注につながれば、顧客との 関係は安定して長続きするものとな るはずです」 ――公開コンペが実施される場合、こ のソリューション・チームが参加す るのですか。
先日、イベリア半島で ジレットが公開コンペを開き、エク セルが業務を受注したことがありま したよね。
「ジレットのケースでは、まずエクセ ルのスペインの現地法人からコンペが 開かれるという情報がヨーロッパの日 用雑貨のソリューション・チームに寄 せられました。
それからは、そのチー ムがジレットとのコンタクト先となり、 スペインの現地とも連絡を取りながら コンペに参加しました。
一八社が参加 して半年かかったコンペの末、エクセ ルが受注することができました」 貿易量の増加をテコに 3PLをグローバル展開 ――三番目の競争優位性とは? 「ジレットのケースを見てもわかる ように、エクセルが世界中に人員と 拠点を持っていることが、業務の拡 大につながっています。
エクセルはす でに一三九カ国に二〇五〇カ所の拠 点を持ち、十一万人を超す従業員を 抱えています。
エクセルの顧客には、 国際企業が少なくありません。
ウォ ルマートやジョンソン&ジョンソン、 デルにノキアなど名前を挙げていけば 切りがない」 「それらの企業活動が、どんどんボ ーダーレスになっています。
これは経 済統計の数字によっても裏打ちされて います。
二〇〇四年の世界全体の経 済成長率は前年比二%台の増加であ ったのに対して、貿易量の増加は同 五%台でした。
この貿易量の増加が 一〇年後には年率七%台の増加にな ると予想されています。
経済成長を上 回る勢いで貿易量が増えていくという ことは、世界規模で企業のサプライチ ェーンを最適化できるエクセルのよう な3PL業者にとっては大きなチャン スとなることを意味しています」 ――もう少し具体的に説明してもら えますか? 「エクセルの大きな荷主の一つに日 用雑貨の製造業であるユニリーバが あります。
エクセルはアメリカやヨー ロッパを中心に三〇カ所のセンター の運営を任されています。
そのユニリ ーバが二〇〇〇年に、それまでブラ ジルに持っていた九拠点を一つに集 約することにしたとき、エクセルが業 務を受注しました。
サンパウロの近く に八〇万平方フィート(七万二〇〇 〇平方メートル)のセンターをつくる 際、エクセルはユニリーバに代わって、 用地の選択・買取、建設業者の手配 まで行いました」 「センター立ち上げが成功して、エ クセルの南米での最大規模の業務が軌道に乗りました。
そのユニリーバと の業務は今年夏にはカンボジアまで広 がりました。
エクセルが首都プノンペ ン近くに持っていた通過型のセンター を使っています。
これはエクセルが九 〇年代後半からカンボジアに拠点を構 えて、四〇人のスタッフを擁してきた から実現できたプロジェクトです」 ――エクセルの3PL業者としての 現在のポジションを考えるとき、二 John Pattullo (ジョン・パタロ) エクセルEMEA担当CEO 1974年英 グラスゴー大学卒業、P&G入社。
80 年代はP&Gのイギリス部門のサプライ チェーンを担当。
その後、国際部門に 移り、ベルギーや日本でも勤務。
2000 年からは、ビューティーケアの国際部 門の副社長として、同部門のサプライ チェーンを担当していた。
52歳。
3 DECEMBER 2005 〇〇四年にイギリスの同業者である チベット&ブリテン(T&B)を買 収したことが大きかったのではないで しょうか。
それによって、TNTロ ジスティクスを抜いて、欧州の3P L業者として売り上げナンバーワン の座を獲得しました。
しかしM&A にはマイナスの側面もつきまとう。
内 部の業務統合が上手くいかなかった り、M&A以前の会社で固まって派 閥を作ったりする傾向がある。
この ようなM&Aのマイナスの側面につ いてはどう考えていますか。
「私がエクセルに移ってきたのはT& Bの買収による内部統合の最終段階 でしたが、第一印象は非常に上手く いっているというものでした。
T&B の買収によって、それまでエクセルが 持っていなかったサプライチェーンに 関するノウハウを取り入れることがで きたし、イギリス国内においては重複 する部分もありましたが、南アフリカ やメキシコといったエクセルが空白だ った地域も埋められました。
ヨーロッ パにおいては顧客との3PL業務の 契約の中に、M&Aによって会社の 所有者が変更になれば契約を打ち切 ることができるといった条項があるに もかかわらず、顧客のロスもほとんど なかった。
それは、エクセルが二〇〇 〇年以前にも以降にも多くのM&A を体験して成長してきており、内部の 業務統合についても体系だったノウハ ウを蓄えてきたからです」 ドイツポストによる買収は 十二月中にまとまる ――現在進行中のドイツポストによ る買収ですが、この話の結論が出る のはいつ頃になりそうですか。
「ご存知の通り、九月に買収話が持 ち上がり、ドイツポストから三七億ポ ンド(七四〇〇億円)でエクセルを 買収したいという話に発展していま す。
私を含めたエクセルの経営陣は 現在、株主にドイツポストからの買 収提案を受け入れるよう要請してい るところです。
エクセルは十一月一六 日に株主総会を開く予定で、そこで 承認されて、独占禁止法などの各種 の法的規制をクリアすれば、十二月 中旬には晴れてドイツポストの一員となるでしょう」 ――荷主企業の中には、3PL業者 が彼らより大きな規模となることを 懸念する向きもありますが、その点 についてはどうでしょうか。
「エクセルがドイツポストの一員と なれば、世界最大規模のロジスティ クス企業が誕生することは確かです。
しかし3PLを含むロジスティクス市 場はまだ寡占というには程遠く、3 PLで最大のエクセルでさえ四%台 のシェアしかありません。
そのエクセ ルとドイツポストの3PL部門であ るDHLソリューションズを加えても、 五%台に過ぎません」 「ですから、エクセルがドイツポスト の一員となっても、市場の独占状態と なり、健全な競争が妨げられるように なるとは思っていません。
将来、エク セルを含むドイツ・ポストのシェアが 五〇%を超えるようになれば状況は変 わってくるでしょうが、現時点ではエ クセルがドイツポストの一員となるこ とは、先に述べたように経済活動がグ ローバル化する今日の顧客にとってプ ラスとなると確信しています」 ――それでもエクセルの顧客の中には、 ドイツポストに買収されれば、契約 の破棄も考えるという企業もあると 聞いています。
「買収話がまとまる前の微妙な時期な ので、踏み込んで話すことは控えさせ てもらいます」 ――最後に、日本や中国を含むアジ アでの戦略を説明してください。
「長期的な視点で見れば、アジアで の業務はエクセルの成長のためには欠 かせない要素であることは確かです。
二〇〇四年に日本で、富士通ロジス ティクスを買収したのも、将来を見 越しての足固めの意味がありました。
中国でも、既存の顧客から新規契約の受注が相次いでいます。
とはいえ、 アジア太平洋地域の売り上げは、ま だ全体の一六%に過ぎず、エクセル の売り上げの中核となるのは依然と してイギリスやアメリカでの業務です。
今後は、これらの地域で産業ごとに 蓄えたノウハウをどうやってアジアの 市場に移管して、業務の拡大につな げていくかが課題となってくるでしょ う」

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