ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2005年11号
特集
環境物流で差をつけよう 物流省エネ新法は荷主も縛る

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2005 14 見切り発車の改正省エネ法 今年八月の国会で成立した「改正省エネ法」の運 用を巡って、いまだに議論が続いている。
同法は輸送 業者に環境対策を強いるだけなく、車両を持たない荷 主企業に対しても物流で使用するエネルギーを毎年削 減していくことを義務付けている。
規制対象になるの は、年間の物量が三〇〇〇万トンキロ以上の大手荷 主で約二〇〇〇社が該当する。
具体的には来年四月以降に始まる新年度において、 荷主企業は貨物輸送の省エネ責任者を社内に置き、年 間一%以上の環境負荷削減計画を策定。
その成果を 毎年、経済産業省に申告する義務を負う。
計画が未 達の場合は、その理由と改善方法を報告しなければな らない。
違反には勧告・社名公表・命令・一〇〇万 円以下の罰金という罰則規定も設けられている。
こうして荷主までを網にかける物流の環境規制は欧 州でも例がない。
荷主が輸送業者の活動に決定的な 影響力を持つ以上、規制の実効性を高める意味では 画期的な措置とも言える。
しかし、物流活動のエネル ギー使用量を、実際にどうやって測定するのかについ ては、同法の審議にあたった省エネ基準部会荷主判 断小委員会のメンバーの間でさえコンセンサスが得ら れていない。
エネルギー使用量の算定には、使用した燃料の量を 測定する「燃料法」が精度の点で理想的とされる。
し かし混載の場合には按分の必要がある上、運送を外部 委託していればデータの把握自体が難しくなる。
この ほか輸送距離と燃費から算出する「燃費法」や、輸送 量に輸送機関別係数をかける「トンキロ法」、運賃に係 数を掛ける「料金法」などの方法が候補に上がってい るが、いずれも一長一短あって決定打に欠ける( 図1)。
最終的には「燃料法」と「燃費法」、そして従来の トンキロ法に積載効率を加味した「改良トンキロ法」 の三つの方法から、各企業が自由に選択する形に落ち 着きそうだ。
いずれの方法も荷主企業は協力運送会 社に詳細なデータの提出を求めることになる。
荷主と 協力運送会社の双方に多大な事務手続きが避けられ ない。
しかも収集したデータの信頼性自体には疑問符 が付く。
「同じ輸送を燃料法で測定した場合とトンキロ法と で比較してみた結果、燃料使用量に二倍の開きが出 るケースさえあった。
毎年一%以上の環境負荷低減を 義務づけているにしては、測定方法の精度が粗すぎる。
法律の施行は拙速の感が否めない」と小委員会のメン バーは指摘する。
来年四月後の施行後には、現場でかなりの混乱も 予想される。
とりわけメーカーの物流子会社は大きな 負担を余儀なくされる。
親会社に規制がかかれば、必 要な資料は元請け協力物流会社として物流子会社が用意することになる。
しかし物流子会社の多くは輸送 を傭車でまかなっている。
物流子会社は協力運送業 者の環境負荷を把握しなければならない。
これが容易 ではない。
省エネ改正法の成立に先立ち、NECロジスティク スでは独自の経営方針に基づいて、各種の環境負荷 軽減活動に取り組んできた。
輸送に関わる二酸化炭 素排出量の削減活動も九〇年代末から本格化させて いる。
しかし「当初はデータをとること自体に難儀し た。
実際、取り組みを始めてから必要なデータを入手 できるようになるまでには一年以上かかった。
それで も全ての輸送データを把握できたわけではない」と、 当時同社で環境対策を担当した眞鍋大輔マナMSサ ービス代表はいう。
物流省エネ新法は荷主も縛る 来年4月に施行される「改正省エネ法」は輸送業者だけ でなく、荷主にも網をかける。
自家配送はもちろん協力 会社に委託した分まで含めて荷主は物流活動による環境 負荷軽減の義務を負う。
これによって、とりわけメーカー の物流子会社には大きな影響が及ぶことになる。
(大矢昌浩) 第2部 15 NOVEMBER 2005 親会社のNECおよびNECグループ会社は輸送 の大部分をNECロジに委託している。
その輸送量は 当時、日に一〇〇〇台を数えた。
しかしNECロジ 自身では車両を十数台しか所有していない。
ほぼ全て の輸送を傭車している。
協力運送会社は必ずしもNECロジの荷物だけを 運んでいるわけではない。
使用している車両の軽油の 使用量を提出するにも、どれだけをNECロジ向けだ とすればいいのか判断がつかない。
もちろん専用車両 であれば測定できる。
当時、協力会社にはNECマー クをペイントした専用車両が三〇〇台ほどあった。
そ こで次善の策として協力運送会社から専用車両だけ のデータを提出させることにした。
ところが、この方法も壁にぶつかった。
協力運送会 社のほとんどは、それぞれ軽油販売会社と法人契約を 結び、取引の全量を月極で処理している。
そのため、 車両ごとの燃料使用量は分からないという。
結局、新 たにデータを取り始めるしかなかったため、報告を受 けるまでには一年を待つ必要があった。
物流子会社の環境経営 そこまでして同社が環境負荷の測定にこだわったの は、「CSR(企業の社会的責任)やコンプライアン スの問題とは基本的には関係ない。
環境経営は近い 将来、物流子会社の存在意義に関わってくる。
それが できないために潰される子会社さえ出てきてもおかし くはない。
そう考えたからだ」と真鍋氏はいう。
同社は輸送の二酸化炭素排出量を二〇〇四年時点 で二〇〇〇年比一九%削減することに成功している ( 図2)。
これは、ほぼそのまま支払い運賃の削減に結 びついている。
親会社やグループ会社のなどの各荷主 に対して、従来の貸し切り輸送からNECロジがネッ トワーク化した混載輸送への切り替えを提案すること で全体の車両使用数を削減した。
効率化によってNECロジの売り上げ自体は減少 するが、足を持たない利用運送事業者としての付加価 値は増す。
売り上げは下がっても、それ以上にコスト が下がれば利益も増える。
荷主に貢献することで受託 する業務領域の拡大も期待できる。
しかもこうした、 仕組みの改革による環境負荷の軽減は、発荷主と着 荷主の間に立つ物流企業が提案しなければ実現は難 しい。
物流子会社という立場が活かせる。
もっとも当初は荷主にメリットのある提案であるに も関わらず、簡単には受け入れてもらえなかった。
二 〇〇一年、二〇〇二年と同社の二酸化炭素排出量が あまり減らなかったことにも、それは現れている。
そ れでも実績を重ね、コストだけでなく環境負荷の軽減 にも役立つことなどをねばり強く説いていくことで 徐々に理解を得ていった。
真鍋氏は「当社の場合は子会社であったため、荷主に対しても比較的意見の言いやすい立場ではあった が、それでも合理的な提案が通らないことは珍しくな い。
資本関係のない協力会社ということになればなお さらだろう。
その意味では、荷主に規制をかける省エ ネ改正法のアプローチは正しい」と評価している。
改正省エネ法は、環境負荷の測定方法や事務負担 の増加といった問題以外にも、荷主として着荷主をカ バーしていない、企業が自己申告したデータの信憑性 を行政側では判断できないなど、様々な課題を抱えて いる。
それでも荷主は同法への対応で協力物流会社を 頼ることになる。
物流子会社にとっては「環境負荷の 軽減を、コスト削減として本業のなかに組み込むこと で、環境経営を機能させるチャンスになる」と真鍋氏 は見ている。

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