ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年6号
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「物流行政もまた“第三の道”を目指す」国土交通大臣政務官 三日月大造 衆議院議員

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2010  4 りました。
しかし、その一方で、最 低賃金や安全規制の面などでルールを 度外視して競争に参画し、まさに悪 貨が良貨を駆逐するような事態も出て きている。
これは規制緩和のデメリッ トだと思います」  「そこで我々としては、規制緩和の メリットを活かしながらデメリットを 克服していくのにどうしたらよいかと いう考えに立って、今年三月に『トラ ック産業の将来ビジョンに関する検討 会』を立ちあげ、そこに識者や関係 事業者の方たちに入ってもらって、物 流行政のあるべき姿を議論しています。
六月中をメドに一定の結論を出して世 に問うていきたいと考えています」 ──改めて規制強化に向かうのですか。
 「現在の物流市場は、大手が伸びて いく一方で中小がどんどん疲弊して いる。
貧すれば鈍するで、窮鼠が猫 を咬むように過重労働や違法運行に 手を染めてしまう事業者が出てきて いて、それが市場全体を歪んだもの にしているのであれば、具体的には 最低車両保有台数の規制などは見直 す必要があるかも知れない」 ──最低車両保有台数のハードルを 上げて参入を制限すれば、既存事業 者が利益集団化します。
市場の健全 化は競争規制の強化ではなく、社会 的規制を徹底し悪徳業者や違法業者 規制緩和政策を見直す ──「交通基本法」が来年の通常国 会に提出される見通しです。
物流に はどう影響してきますか。
 「現状ではまだ中間整理の段階です が、一つはインフラ整備です。
これま で空港なら空港、港湾なら港湾と別々 に整備していたのを改めて、国全体 もしくは都道府県や市町村という単位 でトータルな計画を作る。
会計も一つ にして、総合的な交通体系の中で戦 略的に整備できるようにしたい。
さ らにもう一つ、高速道路料金の問題 も含め、そのインフラをどのような料 金で使えるようにするのかも大切な視 点です。
それが物流コストに反映され ることになりますので」 ──既存の物流関連の事業法との関 係、また「総合物流施策大綱」と新 法との関係は。
 「当然、交通基本法を定めたときに は『物流二法(貨物自動車運送事業 法と貨物利用運送事業法)』その他の 事業法、また大綱との関係を整理し ないといけない。
修正が必要なもの は修正するし、その必要のないもの もあるでしょう。
本来は基本法と同 時にそれらをすべて整理して一緒に 改正してしまうのが望ましいのでし ょうけれど、現実的には基本法を制 定した後で、他の事業法や大綱との 関係を順次見直していくという段取 りになると思います」 ──民主党の交通基本法はフランス のミッテラン社会党が一九八二年に 定めた「国内交通基本法」を手本に していますが、これは新自由主義政 策へのアンチテーゼという性格を持っ ているようです。
反・民営化、反・ 規制緩和、反・モーターリゼーショ ンです。
 「現在の鳩山政権、また私自身も そうですが、我々には反・民営化、 反・モーターリゼーションという考え はありません。
ただし、これから日 本が進んでいく道、乗り越えなければ ならない問題として、人口減少と少 子高齢化、財政悪化、また温暖化対 策があります。
それに対応しようと すれば、これまでのようにマイカーだ けでなく公共交通機関の強化や、ま た民間事業者の努力だけでなく公の 支援も必要になる」 ──自民党政権が進めてきた規制緩 和政策をどう評価していますか。
 「規制緩和によって需給調整が撤廃 され、その後も順次、市場の自由化 が進んだことで、多様な事業者が参 入するようになり、運賃も弾力的にな 国土交通大臣政務官 三日月大造 衆議院議員 「物流行政もまた“第三の道”を目指す」  規制緩和の巻き戻しが始まった。
まずはトラック運送業の参 入規制となる最低保有車両台数が引き上げられる見通しだ。
来 年には物流事業法を含めた交通関連法の憲法となる交通基本法 の制定も予定されている。
日本の物流行政が国鉄民営化以来の 新自由主義政策から転換し、欧州型の“第三の道”に向かって 動き出している。
           (聞き手・大矢昌浩) 5  JUNE 2010 を排除するのが筋なのでは?  「もちろん私も入口は広くして、悪 い事業者がいれば出ていってもらう というのが、規制のあり方としては 正しいとは思います。
しかし、そう した考えでやってきたはずの規制緩 和が結果として何をもたらしている のかを、よく検証してみる必要があ る。
急増した事業者の監査を、公務 員制度改革の下でどこまでできるの か。
それが十分にできないのである なら、参入時点で網をかけるという やり方も一つの選択肢にはなる」 ──法律を変えても、それを取り締ま らないのであれば効果は限定的です。
監査の人員が足りないのなら、そこ には予算をかけても良いはずです。
 「ルールの変更だけでは限界がある のは確かです。
また、いったん自由 参入にしたものを再び絞ることで、既 に中に入っている事業者だけが美味し い汁を吸うということが、あってはな らないとも思います。
それを防ぐた めには荷主の協力も得なければいけ ないのかも知れない」 ──昨年はタクシー事業で競争規制 の再強化がありました。
利権の復活 だという批判があります。
トラックも 同じことになるのでは。
 「タクシーの場合は規制緩和で参入 が増えたのに、乗客自体は減り、ま な人材を確保し、健全に成長してい くことが、結果として日本の成長を 支えることになるという考えです」 ──現在の民主党は政府としては事 業仕分けで全日本トラック協会(全ト 協)を槍玉に挙げる一方で、党とし ては自民党とは別に独自のトラック議 員連盟を立ちあげて全ト協に選挙目 当ての秋波を送っている。
政府と政 党の方針がバラバラです。
 「政治というのはおよそそういうも ので、政府がビジョンに向かって進も うとすると、利害関係者が政党に圧 力をかけて、それを揺り戻そうとす る。
その間をとって新しいルールがで きる。
今の動きは、その過程にある のだと思います。
しかし我々は政治 的に我々を応援してくれる方の声を安 易に代弁するつもりはなく、そこは 中立的にやっているつもりです。
あ くまでも日本の経済成長という視点 から法律を通そうと考えていること をご理解いただきたい」 た事故も増えた。
それが社会問題化 したために与野党を問わず規制改革 に合意したわけです。
しかしトラック の場合はそこまで物量は減っていない ので事情は違います」 官と民が事業パートナーに ──政権交代を機に規制緩和が逆戻 りすることで、物流サービスの値上が りや利便性の低下が懸念されます。
 「もちろん我々も物流コストを抑制 して、その恩恵を消費者が享受でき るようにすることを大事にしたいと 考えています。
しかし、それが安過 ぎる運賃、過重な労働によって支え られているのであれば、そこは是正 しなくてはならない。
そうしないと、 ただでさえドライバーのなり手がいな くなっているのに、働く人たちがい なくなってしまう」  「世間の人たちは物流を空気のよう に思っているところがある気がします。
あって当たり前だと考えている。
しか し、なくなった時には大変なことに なる。
このままでは運ぶ人がいない という時代が早晩やってきます。
そ うしないために今どういうルールにし ておくかという視点はとても重要で す。
安ければいい、早く運べればい いということだけではないと思う」 ──社会的規制の強化が必要なこと には異論がないと思います。
しかし、 社会的規制と競争規制をすり替えて 既得権を復活させてしまえば成長は 期待できません。
民主党が国鉄民営 化以来の新自由主義政策を改めよう としているのは分かりますが、どこ に向かおうとしているのか。
 「我々の基本的な方向性は、自由主 義でも反自由主義でもなく中道です。
もっと言えば?第三の道?です。
民 間任せではなく、パブリック任せでも なく、パブリック・プライベート・パ ートナーシップのPPP。
インフラ整 備にしろルール作りにしろ、官と民や NPOがパートナーを組んで事業を行 う。
鳩山総理の言葉を借りれば?新 しい公共?、国交省の言い方だと?新 たな公?を目指しています」 ──欧州流の“第三の道”には成功 例がないという批判があります。
 「従来のように政策を右か左かです ぱっと割り切って、主義化、理念化 できるほど単純な時代ではなくなって いるのかも知れません。
いずれにせ よ我々は、この国がいかに健全に成長 していけるのかという観点から、日 本だけでなくアジア全体の需要を取り 込むという成長戦略を描いています。
そこで物流は大きな役割を果たすこと になる。
そのため物流事業が安全で、 働く人を疲弊させることなく、必要 みかづき・たいぞう 1971年、京都府生まれ。
94年、一橋大学経済学部 卒業。
JR西日本入社。
99 年、JR西労組専従、JR連 合青年・女性委員会議長を 兼務。
2002年、松下政経 塾入塾。
03年、民主党か ら出馬し、衆議院議員初当 選(滋賀三区)。
現在、3 期目。
09年9月、国土交 通大臣政務官就任。

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