ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年11号
判断学
カネボウの粉飾決済

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2005 56 カネボウの事件で明らかになったのは監査法人と企業の癒着という問題だ けではない。
クライアント企業の担当者より専門的知識のない公認会計士の、 専門家としての資質そのものが問われているのだ。
第二のアーサー・アンダーセンか カネボウの粉飾決算で中央青山監査法人の四人の公認会 計士が証券取引法違反容疑で逮捕、三人が起訴された事件 が大きな衝撃を与えている。
中央青山監査法人は破綻した足利銀行の監査をめぐって 現経営陣から損害賠償を請求されているが、カネボウの事 件ではそれを担当した会計士だけでなく、中央青山監査法 人自体が処分されるのではないか、といわれる。
もしそうなると?第二のアーサー・アンダーセン事件〞と して日本の監査法人全体に大きなショックを与えることにな る。
山一証券が倒産したのは子会社に損失を「飛ばし」てい たことが表面化したためだが、山一証券だけでなく、他の証 券会社も同じようなことをしていた。
カネボウの場合も売れない製品を子会社に売ったことにし、 そしてその子会社を連結決算からはずす(連結はずし)とい う操作を行っていたことがばれたのだが、このような「連結 はずし」は他の会社でもよくやられている。
カネボウの場合は帆足隆元社長ら三人がすでに粉飾決算 容疑で逮捕、起訴されており、それがさらに中央青山監査 法人の公認会計士にまで及んだのだが、ここまで粉飾決算 事件が発展したのは珍しい。
日本では会社が倒産すると必ずといってよいほど粉飾決 算が表面化する。
このことは逆にいえば倒産しない限り粉飾 決算は表面化しないということである。
カネボウの場合も産 業再生機構に持ち込まれて、事実上倒産したと同じことに なったところから粉飾決算が表面化したのである。
「倒産しない限り粉飾決算は表面化しない」ということは、 日本の会社の多くは粉飾決算をしているということであり、 日本の企業会計がいかにいい加減なものか、そして公認会 計士がいかに信用できないものか、ということを表している。
『役員室午後三時』のカネボウ 「カネボウの裏金、六〇年代から 政界・総会屋に提供」 という見出しの記事が二〇〇五年八月一日付けの「朝日新 聞」に大きく出ていたが、カネボウでは政治家や総会屋にカ ネを渡すための裏金作りをしており、そのために粉飾決算が 行われていたというのである。
この記事はカネボウ元社長の伊藤淳二氏とのインタビュ ーに基づくもので、伊藤氏が社長に就任した一九六八年以 降、裏金作りをしていたという。
筆者は一九五〇年代、新聞記者として繊維業界を担当し ていたが、当時カネボウの決算は「幻の決算」といわれ、会 計操作が行われていた。
そしてカネボウの秘書室には総会屋 や政治家がカネをもらいにたくさん来ていたことを思い出す。
それというのもこの会社には内紛が絶えず、「山田副社長 追い出し事件」から「武藤社長の追い出し、復帰、そして さらに追い出し」と、お家騒動が続いた。
山田副社長追い 出し事件では児玉誉士夫を会社側が使ったといわれるが、以 後この会社には総会屋がくらいついて離れない。
そして政治 家もそれに便乗してカネをあさりに来る。
こうしてカネボウ の粉飾決算は連綿として続いたのだが、だれもこれを問題に しなかった。
そして会社が産業再生機構送りとなってはじめ て表面化したというわけだ。
もっとも、このカネボウのお家騒動と粉飾決算等は繊維 担当記者には常識になっていた。
そこでこれをもとにして書 かれたのが城山三郎氏の『役員室午後三時』である。
この小説は武藤絲治社長とその秘書であった伊藤淳二を モデルにしてお家騒動をくわしく書くと同時に、化粧品部 門の粉飾決算についてもリアルに画いている。
この本が出たのは一九七一年だが、三〇年以上前から常 識とされていたことが、いまやっと表面化したというわけで、 筆者としては感慨無量の思いがする。
57 NOVEMBER 2005 問われている会計士の資質 日本の上場会社では代表取締役を取締役が監査し、その 取締役を監査役が監査し、それをさらに公認会計士が監査 するというように、二重三重にチェックされるということに なっている。
しかし会社の会計帳簿については監査していな いと同然である。
なぜ、そんなことになるのか。
内部監査はもちろん、外部 からの監査も機能していないのはなぜか。
それは公認会計士、 監査法人が上場会社に甘いからだが、それはいうまでもなく 少しでも多くの上場会社をクライアントにしたいからである。
この点ではアメリカの会計事務所も同じだが、上場会社が 監査法人を指定する以上、そうなるのは当然である。
そこでこの上場会社と監査法人との結びつきを変えていくことが必要である。
アメリカのサーベンス・オクスレー法 はこの点にメスを入れようとしたが十分ではない。
ところが 日本ではこの関係が全く放置されたままで、ここにメスを入 れようとしていない。
もうひとつ大きい問題は日本の公認会 計士の資質である。
なによりも「ビジネス優先」で、いかに してクライアントに気に入られるか、ということに躍起にな っている。
これはアメリカでもいわれることだが、日本では それがもっと徹底している。
第二に日本の公認会計士は専門家として企業会計を監査 するということになっているのだが、実は会社の会計担当者 の方がプロで公認会計士はむしろアマに近いということであ る。
医者や弁護士はシロウトを相手に専門家として働いてい るが、会計士の場合、クライアントである会社の方が専門的 知識を持っている。
これでは外部監査が機能するはずがない。
近年、大学ではアカウンティング・スクールなどを作って 会計士の養成に力を入れているが、会社の実態を知らないで、 単に会計の知識だけを教えたのでは真の会計監査ができるは ずがない。
問題はこうして教育にまで及んでいく。
おくむら・ひろし1930年生まれ。
新聞記者、経済研究所員を経て、龍谷 大学教授、中央大学教授を歴任。
日本 は世界にも希な「法人資本主義」であ るという視点から独自の企業論、証券 市場論を展開。
日本の大企業の株式の 持ち合いと企業系列の矛盾を鋭く批判 してきた。
近著に『会社は誰のもので もない』(ビジネス社)。
日本の粉飾決算 二〇〇一年エンロンが倒産したところからたちまち累が及 んだのはアーサー・アンダーセンだった。
アンダーセンがエ ンロンの不正会計をかくすために、資料を破棄していたこと が発覚し、これによってアンダーセンは廃業に追い込まれた。
アメリカの会計事務所はビッグ・ファイブの寡占状態だ ったが、そのなかのひとつアーサー・アンダーセンがつぶれ たというのだからそのショックは大きい。
アメリカの会計事務所(日本の監査法人に当たる)は上 場会社の会計監査をするとともに、コンサルタント業も兼ね ているが、このコンサルタント業の顧客を取るため上場会社 の会計監査に手心を加える。
それどころか不正会計に積極 的に加わっていた。
このことがエンロン事件で明らかになり、アーサー・アン ダーセンは廃業に追い込まれたのである。
ところが日本の監査法人でこれまで廃業に追い込まれた ものがないばかりか、不正会計では法人自体が処分されると いうこともほとんどなかった。
公認会計士で摘発された者は いるけれどもその数は少ない。
日本の上場会社が「連結はずし」(飛ばし)や含み資産経 営という形での不正会計をしていたことは天下周知の事実 であり、国際的に日本の企業会計は信用できないとされて きた。
そこで一九九〇年代になって橋本内閣の時、「会計ビッグ バン」が行われ、国際会計基準が取り入れられることになっ たが、しかしそういうなかでカネボウの粉飾決算も行われて いたのである。
アメリカでは「創造的会計」という言葉が流行していたが、 これは会計を操作するということである。
しかし、日本では そんなことはごく当たり前のこととして行われていたのであ る。
『会社は誰のものでもない ――21世紀の企業のあり方』 奥村宏著(ビジネス社) 近代株式会社制度が崩壊したいま必要 なのは、企業のあり方を変えることであ る。
そのためには会社をモノやヒトなど のような“実体”ではなく、“場”とい う機能概念でとらえるべきだと著者は言 う。
年来の主張をわかりやすく説く。
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