ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2010年5号
特集
第6部 大手通販会社ケーススタディパルシステム──物流パートナーに中小・中堅を選ぶわけ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2010  38 パルシステム ──物流パートナーに中小・中堅を選ぶわけ  中堅以下の物流会社にパートナーを限定している。
大手と呼ばれる物流会社にはコンペの声がけさえしな い。
荷主と協力物流会社が一体となって改善活動に臨 まなければ配送品質は向上しない。
それには硬直的な 大手より、融通の利く中小・中堅どころの方が適して いるという判断だ。
          (石鍋 圭) 孫請けは禁止  一都八県、一〇の生協が加盟するパルシステム生活 共同組合連合会(パルシステム)の石田敦史常務は 「我々のパートナーには“大手”と呼ばれるような物 流会社はそぐわない」と言い切る。
実際、パルシス テムの物流を支えているのは中堅規模かそれ以下の 物流会社と子会社のパルライン、それとパルシステム の職員自らの手による配送だ。
 昨年二月に開設した東京・八王子市の「南大沢セ ンター」でも、コンペの末に庫内の商品セット作業を 勝ち取ったのは子会社パルラインだったし、南大沢セ ンターから各配送センターまでの横持ち輸送を受託し たのは中堅物流会社の全通だった。
大手物流会社に はコンペの声がけすらしなかったという。
その理由を 石田常務は次のように説明する。
 「物流パートナー選びで重視するのは、我々と一体 となって改善活動に努めてくれる姿勢があるかどう か。
大手は高度なサービスを確立してはいるが、カス タマイズに対する要望を聞いてもらうことは困難だ。
品質を第一に置く物流を実現するためには、ある程 度こちらの意見を反映してもらう必要がある」  パルシステムと協力会社との間では、実際にどう いった取り組みが行われているのか。
南大沢センター の横持ち輸送を受託した全通との事例を見てみよう。
 全通は埼玉県・戸田市に本拠を置く創業三〇年の 物流企業だ。
車両台数は八八〇台ほどで、売上高は 約一五〇億円。
そのうちの約二割はパルシステム関連 の仕事が占めている。
 パルシステムには、南大沢センターのような大型物 流拠点が七つあり、そこで商品を組合員一人分に小 分けするためのセット作業を行っている。
一人分に小 分けされた商品は六三カ所の配送センターに横持ちさ れ、そこから組合員への個配が行われる。
全通は配送 センターまでの横持ち輸送の約八割を受託している。
 パルシステムは全通が荷物を下請けに出す比率を制 限している。
そして、さらにその下への再委託、つ まり全通にとって孫請けになる配送は堅く禁じてい る。
配送会社が広がりすぎれば管理しきれなくなり、 必ず配送品質の劣化を招くと判断しているからだ。
 全通とパルシステムとの間には月に一度の定例会議 が設けられており、こういった大切な事項が守られ ているかなどが確認されている。
配送センターへの 納品方法など細かな業務項目もこの会議で決定・変 更・周知・確認されることが多い。
 全通はパルシステムから受託している物流の約六割 を一〇社ほどの協力会社に委託している。
パルシス テムとの会議内容を協力会社に周知徹底させるため、 彼らとの間にも月に一度の定例会議を設けている。
 その会議とは別に、ドライバーを集めた月例会議も 行っている。
そこでは決定事項を伝えるだけでなく、 現場の視点からの要望や意見を吸い上げている。
得 られた意見や要望は次回のパルシステムとの会議で報 告され、改善活動に活かされる。
 全通と協力会社との間では、業務品質を上げるた めの取り組みが自発的に行われている。
それを象徴す るのが「品質管理チェックシート」の存在だ。
「商品 事故」「車両事故」「法令」など九つのテーマにそれ ぞれチェック項目が設けられており、会社ごと、ドラ イバーごとに点数化される。
半期に一度、このチェッ クシートの結果を基に成績優秀会社、優秀ドライバー を会議で表彰している。
 全通の村木佳弘執行役員は「荷主の求める配送品 質を維持・向上させるために四年ほど前から導入し 6 大手通販会社ケーススタディ 39  MAY 2010 た。
当初は減点要素ばかりの項目だったが、荷主の 意見などからプラス項目を追加するなど改良を加えて いる。
シートの導入によって評価基準が明確になり、 モチベーションにも繋がっている」と語る。
 また、一年ほど前からは事業支援部という四人の 部隊を社内に作り、出荷時や納品時の抜き打ちチェッ クを行っている。
そこで問題が見つかれば、ドライ バーは「業務マニュアル反則告知書」を切られてしま う。
チェックシートや反則告知書の結果は、委託する 仕事量の比率の判断材料にもなっているため、各社、 各ドライバーは蔑ろにすることはできない。
 全通は元請けとして評価するだけでなく、一配送 会社として評価される立場にもある。
パルシステムの 石田常務は「もちろんこれで十分ということではない が、これらの施策で配送品質が格段に良くなってきて いるのは事実だ」と一連の取り組みを評価している。
切っても切れない仲  配送センターまでの横持ち輸送はパルシステムが管 理しているのに対し、配送センターから組合員への個 配はパルシステムに加盟する各生協が管轄している。
パルシステム東京もその一つだ。
六三カ所の配送セン ターのうち、一七センターを管轄している。
パルシス テムに加盟する中では最大規模の生協だ。
 個配を行う配送会社の選定基準は、基本的にはパ ルシステムが横持ち輸送会社を選ぶ場合と同じ。
品質 を第一に考える。
ただし、その条件はさらに厳しい。
横持ち輸送の場合は一定の比率であれば下請けへの 委託を認めているのに対し、個配の場合はそれが一 切禁止になっている。
 パルシステム東京の眞保清文業務執行理事は「個 配のドライバーは組合員と接する機会も多い。
態度や 挨拶ひとつで組合員がパルシステムに抱く印象は大き く変わる。
その印象はそのまま我々の業績に直結す る。
管理が徹底できる直接契約の配送会社にしか任 せることはできない」と説明する。
 パルシステム東京も委託会社と関係を密にしている が、配送品質を向上させるために改善活動を求める ことも少なくない。
そういったときに、「ほとんど同 じ会社のような感覚で」(眞保理事)臨んでくれない と迅速な問題解決は実現できない。
大手にそれを求 めることは難しい。
必然的にパートナーは中堅規模に なってくるという。
 もっとも、パルシステムや加盟生協の物流が中堅規 模の物流会社に支えられているのには歴史的な背景 もある。
今や全国の生協が行う個配は常識になってい るが、一九九〇年代までの生協組合員の購買方法は 「グループ購入」と「店舗」の二つに絞られていた。
その構図に風穴を空け、九〇年から全国の生協で初め て個配事業をスタートさせたのがパルシステムだった。
 しかし、苦難は船出の瞬間から始まっていた。
それ までの生協の物流は、組合員に業務の一部を肩代わ りしてもらうことで成立していたが、それを販売側が 組合員一人一人の商品に小分けし、しかも自宅にま で届けるという考え方は、物流会社の賛同を得ること は出来なかった。
あまりに業務負荷が大きいためだ。
 それでも、次第に協力してくれる物流会社が現れ 始めた。
アシストや流通サービス、全通といった現在 でもパルシステムの物流を支えている企業だ。
彼らの 協力を得て、パルシステムの個配事業は滑り出し、ノ ウハウを蓄積し、拡大していった。
同時に、物流企 業側もパルシステムの個配の伸長と共に規模を拡大さ せてきた。
個配事業の黎明期から苦楽を分け合って きた両者は、切っても切れない関係にある。
パルシステム生活協同組 合連合会の石田敦史常務 執行役員 商品管理部長 パルシステム東京の 眞保清文業務執行理 事 運営事業担当 品質管理チェックシート(左)と 業務マニュアル反則告知書(右)。
点数の悪い会社やドライバーには 改善勧告がなされる 全通の村木佳弘 執行役員

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