ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年4号
特集
第2部 民主党は運送業の敵か味方か

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

“族議員”も政権交代  国土交通省がトラック運送業の運送原価の実態調 査に乗り出している。
昨年一〇月から十一月にかけ、 関東地区の事業者を対象に調査を実施した。
二〇 一〇年度は調査対象を全国に広げる方針だ。
旧運 輸省時代の一九九九年に公示した「平成十一年タ リフ」以来の標準運賃の設定や運賃の認可制復活を 求めるトラック業者からの要望を受けてのことだと いう。
 「不毛な過当競争が続く中、何らかの指標、より どころを求める人は非常に多い」と全日本トラック 協会(全ト協)の関係者。
これに対して国交省の自 動車交通局貨物課では「標準運賃の設定や認可制を 復活させるというのは社会状況などから現実的には 難しいが、調査結果を踏まえてどのような施策を打 つべきか検討していく」という。
 九〇年の「物流二法」による規制緩和以降、トラッ ク運賃相場はほぼ一貫して下がり続けてきた。
しか し昨年の政権交代を機に、運輸行政は自由化を見直 す方向に大きく振れている。
さらに与党となった民 主党は長年にわたり自民党が票田としてきた運送業 界の取り込みに出ている。
 今年二月、民主党は「トラック議員連盟」を設立 した。
会長には小沢一郎幹事長の側近として知られ る奥村展三衆議院議員が就任。
民主党議員約一四〇 人が同議連に加盟した。
同議連の初会合には、全ト 協からも中西英一郎会長をはじめとする協会幹部た ちが招かれている。
これまで全ト協は自民党の古賀 誠元幹事長が会長を務める「トラック輸送振興議員 連盟」を窓口として自民党支持の姿勢を貫いてきた。
今夏の参院選を控え、民主党の小沢幹事長がその切 り崩しにかかった格好だ。
 その一方、同じ二月に鳩山内閣は反小沢派の急先 鋒とされる枝野幸男衆議院議員を行政刷新担当大臣 に起用している。
?事業仕分け第二弾?の開始に当たっ て枝野大臣は、仕分け対象になる可能性が高い公益 法人として、全ト協を含む五〇団体の実名を挙げて いる。
 全ト協および各都道府県のトラック協会は、その 収入の大半を「運輸事業振興助成交付金」に依存し ている。
この交付金は七六年に軽油引取税の暫定税 率が三〇%引き上げられた際に、トラック業界への 助成措置として導入されたものだ。
 軽油引取税が地方税であるため、総務省が事務 次官通達で都道府県に要請するかたちで、各自治体 から地方トラック協会に交付金が支出され、その二 五%が上部団体の全ト協に吸い上げられているとさ れる。
全国の自治体の交付額の合計は年間約一八〇 億円。
その一部を全ト協および各ト協が積み立てた 基金は、〇六年度末時点で約一三〇〇億円に達して いる。
 野党時代の民主党は同交付金を、トラック業界と 自民党との癒着の温床だと厳しく非難してきた。
政 権交代後の昨年十二月の政府税制調査会でも同交付 金は俎上に乗せられ、いったんは廃止と判断されて いる。
交付金のきっかけとなった暫定税率の廃止を 民主党が公約していたことが、その大きな理由だった。
 ただし、十二月時点では暫定税率の扱いがまだ決 まっていなかったことから継続審議扱いとされ、暫 定税率が結局一〇年度も実質維持されることになっ たことを受けて、交付金も従来通り継続で決着が付 いたはずだった。
それが事業仕分け第二弾で、改め て槍玉に上がることになる。
民主党は運送業の敵か味方か  脱トラックを目指す交通基本法の成立を進める一方 で、新たに議員連盟を設立してトラック運送業界の取 り込みを図る民主党。
果たしてトラック運送業界の敵 なのか、味方なのか。
現状の政策が矛盾に満ちている だけに、政局次第でどちらにも転ぶ可能性がある。
  (大矢昌浩、梶原幸絵) APRIL1 2010  18  政府税調と同じ話が、また蒸し返される。
それで も全ト協はトラック業界の主張を政策に反映させる ために、政権与党とは付き合わざるを得ない。
政府 と与党の一貫しない態度に翻弄されながら、新たな 政治的スタンスを模索している状態だ。
 民主党は果たしてトラック運送業界の敵なのか、 味方なのか。
打ち出される政策は矛盾だらけで判断 が付かない。
高速道路料金の無料化や暫定税率の撤 廃といった公約は、実質的に反古にされたことでメ リットを享受することはできずにいるが、トラック 業界にとっては追い風のはずだった。
 自民党時代の規制緩和の見直しも、新規参入や車 両台数の抑制による総量規制や運賃規制など、競争 規制の復活というかたちで進めば、既存の事業者は 事業者免許という既得権を再び手にし、運賃相場は 上昇に転じることになる。
その結果、ダメージを被 るのは荷主だが、今の経団連にそれを押し返す政治 力はなさそうだ。
 一方で民主党は交通行政の憲法となる「交通基 本法」の制定を進めている。
来年の通常国会に法案 を提出する見通しだ。
脱クルマ社会を目指すもので、 物流行政においてもトラックから鉄道・海運へのモー ダルシフトや環境規制強化が進められることになる。
高速無料化や暫定税率撤廃とは正反対の政策で、ト ラック業界には逆風だ。
しかし、これも理念先行で、 どこまで実効性のある政策として落とし込まれるの かは不透明なままだ。
 民主党が一貫した物流政策を打ち出すようになる のは当分先のことになりそうだ。
当面は政局次第で、 どちらにも転ぶ可能性がある。
その結果次第でトラッ ク業界および運賃相場は大きな影響を受ける。
政治 が物流管理の不安定要素となっている。
19  APRIL 2010 Interview 特 集 トラック運賃 2010 ││民主党がトラック議連を設立した経緯は?  「昨年の衆院総選挙で初当選した石井章議員のところ に、地元選挙区の茨城のトラック協会の役員さんから 連絡をいただいたのがきっかけです。
自民党にトラック 議連はありますが、超党派ではないものですから、民 主党で作れないかと。
昨年の九月頃だったと思います。
それで石井議員から一元化された陳情窓口になってい る党幹事長室に話が投げ込まれた。
そこで話を揉んだ 上で、小沢幹事長から奥村が発起人をやったらどうだ と指示を受けました。
実は偶然にも、私の実家は滋賀 で小さな運送業を営んでおりまして、運送業と全く縁 がないわけではなかった」 ││トラック議連には結局、何人の議員が加盟したの ですか。
 「初会合に出席いただいたのが一〇〇人超。
その後 に登録をいただいたのを合わせて通算で約一四〇人で す。
かなり大きな議員連盟になりました。
それだけ暫 定税率や高速道路の問題などで、地元のトラック協会 や運送会社から相談を受けている先生方が多いという ことでしょう」 ││暫定税率の問題では、実質維持されたことで公約 違反との声がトラック業界から上がっていますが。
 「我々もマニフェストにも掲げた以上は実現したかっ たのですが、さすがに今は地方財政が厳しい。
『地方 六団体』から、 もう少し暫定税 率を続けて欲し いという強い要 請があって、そ れにも応えなけ ればなりません でした。
しかし 今後四年間の間 に、我が党として暫定税率の問題には決着をつけると いうのが基本的なスタンスです」 ││鳩山首相は暫定税率を将来は環境税に衣替えする と発言しています。
 「それは少し言葉足らずのところがありますね。
ご存 じの通り、トラック諸税は相当複雑で数が多い。
仮に 環境税を導入するのであれば、トラック全体の税を見 直す必要があります。
環境税だけが新たに乗っかると いう話はない。
そこはしっかり議論していかないと」 ││自民党時代の規制緩和政策の見直しについては?  「モノがきっちり丁寧に運ばれることが原点ですから、 ダンピングでもなんでもアリというのはおかしい。
規制 の見直しというよりも、市場の実態に見合ったかたち で何らかの歯止めをかける必要はあるでしょうね。
そ のために、まずは勉強会を重ねて実態の把握に努めた いと思います」 ││議員連盟というのは陳情を幹事長室に伝える業界 窓口という位置付けですか。
 「業界の声を汲み取って政策に反映することが議連の 役割の一つだと思っています。
我々が陳情を幹事長室 に上げて、そして幹事長室から政務三役に回る。
さら に政務三役から官僚にフィードバックして、必ず答えを 出させるというシステムです」 ││自民党時代と同様の?族議員〞を議連が新たに生 み出すことになりませんか。
トラック業界はこれまで 自民党支持でした。
それを民主党支持に変えたいとい う狙いが大きいのでは。
 「やはり我々は政権与党ですから、政策をご理解頂 くというのは一番大事です。
また業界の発展繁栄を支 援することは議連の役割だとも思っています。
しかし、 今までのシステムのようなやり方で、利益誘導したり、 我々から何かを要求するといったことはありません。
そ こはガードを固めていきたいと思っています」 「運送業界と幹事長室のパイプ役果たす」 民主党 奥村展三 トラック議員連盟会長

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