ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年11号
海外トレンド報告
ドイツポスト

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

加熱した報道合戦 「ドイツポストがエクセルと買収についての 正式な交渉に入る」 最初にそう報じたのは英フィナンシャル・ タイムズ紙で、通信社や業界紙などが後を追 った。
買収の交渉が始まるとの報道を受けて、 エクセルの株価は一七ポイント上がり、逆に ドイツポストの株価は三・九ポイント下がっ た( 図1、2)。
ドイツポストは報道を受けて、「当社は買収 の可能性について話し合うためにエクセルと の交渉に入った。
しかし話し合いはまだ始ま ったばかりで、どういう結果になるのかはわ からない」とコメントした。
エクセルもドイ ツポストからの接触があったことは認めなが らも、「話し合いが買収につながるかもしれな いし、そうならないかもしれない」と慎重な コメントを発表した。
当事者二社のそっけないコメントとは裏腹 に、周囲は一気にヒートアップしていった。
マ スコミは、買収金額を一株当たり一〇〜一三 ポンド(二〇〇〇〜二六〇〇円)と想定して、 買収総額は最大で四〇億ポンド(八〇〇〇億 円)に上るだろうと報じた。
成立すればロジス ティクス業界最大のM&A(企業買収)となる。
ちょうど同日、日本では日本郵政公社が百 貨店・大丸の物流子会社を六億円強で子会社 化するというニュースが流れた。
三桁違う買 収金額は、日本に比べヨーロッパのロジステ ィクス業界が大きく変動していることを象徴 していた。
エクセルは、イギリスのロンドンに近いブ ラッケルに本社を置き、二〇〇四年の売上高 は六三億四四〇〇万ポンド(一兆二六八八億 円)で、営業利益は一億八一二〇万ポンド (三六二億四〇〇〇万円)。
一三〇カ国で業務 を展開し、従業員十一万一〇〇〇人を抱える。
業務内容は、3PL業務とフォワーダー業務 で、イギリス、アメリカの二カ国で売上げの 六割以上を稼ぐ。
3PL業務の荷主としては、 マークス&スペンサーやJセインズベリーと いったイギリス企業だけでなく、ダイムラー・ クライスラーやヒューレット・パッカードと いったイギリス国外の大手企業も名を連ねる。
自ら高く売ろうと動くエクセル これまでにも、エクセルを買収する企業が 現われたというウワサは、何度も流れては、消 えていった。
買収企業として取りざたされた のは、今回正式に交渉を進めることになった ドイツポストに加え、米UPS、米フェデッ クス、蘭TPG(TNTのホールディング・カンパニー)、スイスのクーネ+ナーゲルなど。
エクセルが買収のターゲットとしてがぜん 注目を集めるようになったのは、二〇〇四年 夏にイギリスの同業他社であったチベット& ブリテンを三億ポンド強(約七〇〇億円)で 買収してからだ。
この買収によって、エクセ ルは3PL部門でTNTを抜き去り、世界最 大の3PL業者となった( 図3)。
さらに今年四月、本業以外のリサイクル事 業部門を二億ポンド(四〇〇億円)で売却し 身軽になったことで、エクセルの買収話が本 格化するのは時間の問題だとみられていた。
65 NOVEMBER 2005 ドイツポスト 英3PLエクセル買収劇の深層 九月一日、ヨーロッパのロジスティクス業界に激震が走った。
ドイツポ スト・ワールドネットが英3PLエクセルの買収に本格的に乗り出したと いうニュースが流れたからだ。
買収の対象となることを心待ちにしていた エクセルと、ドイツにおける郵便事業の市場開放による競争激化を前に企 業体質を強化したいというドイツポストとの思惑が一致した結果だった。
しかし買収が正式に成立するためにはクリアすべき条件もある。
つまり、エクセルは自ら買収のターゲットと なるような企業体質を作り上げてきたのだ。
買収のニュースが流れた後、エクセルの株価 が上がったのは、同社の狙い通りの買収話が 持ち上がったからだ。
エクセルの動きで興味をひかれたのは、買 収交渉が始まって以来、荷主から契約を獲得 したというニュースリリースが急増したこと だ。
九月だけで荷主七社から契約獲得(更新 分を含む)したと発表した。
特にドイツポス トから正式な買収額提示がある直前の一五日 には、契約獲得のリリースが一日三本に上っ た。
それまで同様のニュースは月四本ペース であったのを考えると、自ら売値をつり上げ ようとしたとも受け取れる。
一方、ドイツポストは五〇〇年の歴史を持 つ旧ドイツ郵政公社。
二〇〇四年の売上高は 四三一億六八〇〇万ユーロ(五兆六一一八億 円)で、三八万人の従業員を抱える。
市場価値は約二三〇億ユーロ。
経営体質は健全で、 内部に四〇億ユーロ(五二〇〇億円)を超す キャッシュを蓄えている。
ドイツ郵便市場の開放を前に買収 ドイツでは九〇年代から段階的に郵便事業 の民営化が進み、九五年にドイツポストが誕 生して、二〇〇〇年に株式を公開した。
ドイ ツポスト誕生以来、同社は従来の郵便事業と 金融事業に並ぶ経営の柱としてエクスプレス 事業と3PL事業を育てるため、M&Aを繰 り返してきた。
代表的なM&Aとしては、D HLエクスプレス、ダンザス、エアボーン・ エクスプレスなど。
一〇年間で買収した企業 は五〇社を超える。
ドイツポストは現在、郵便事業、エクスプ レス事業、ロジスティクス(3PL)事業、 金融事業の四つの事業部門から成り立ってい る。
売り上げ構成 比だけを見れば、 バランスが取れて いるようにも見え るが、利益面とな ると依然として郵 便事業への依存度 が高い。
エクセル を買収することで、ゆくゆくはロジスティク ス事業を郵便事業に匹敵するような事業の柱 としたいという考えがある( 図4、5)。
ドイツポストがエクセルの買収に動いたの は、この利益率の高い郵便事業が先細るのが 必至であることへの対応策だ。
ドイツでは二 〇〇七年で郵便事業の独占が終わり、新規参 入が可能となる。
ドイツポストとエクセルの話し合いが進む 中、ドイツでは九月十一日、新聞や雑誌を発 行するアクセル・シュプリンガー(Axel Springer)を筆頭にする出版社三社が郵便事 業の民営化をにらみ、ドイツ国内をカバーす る郵便配達会社を設立すると発表した。
トッ プに元3PL会社の経営者を据えて、二〇一 〇年までには市場の一〇%を獲得するのが目 標だとしている。
これが、ドイツポストが郵 便以外でも利益が上がる体質作りを急ぐ理由 の一つである。
しかし株主の間には、エクセルの買収を高 い買い物だと見る向きもある。
買収話が持ち 上がった当初、ドイツポストの大手株主であ るDWSインベスティメントの役員は「一株 NOVEMBER 2005 66 ドイツポストのクラウス・ツムヴ ィンケルCEO 一〇ポンド以上は高すぎる」とドイツのメデ ィアに語っている。
果たして買収額に見合う ような買い物なのかという市場の心配がドイ ツポストの株安につながった。
ドイツポストのエクセル買収に関して、対 抗馬が出るのではないかとの憶測が流れた。
九月上旬、その最右翼と見られていた米UP Sが入札に名乗りを上げるかというニュース が流れたが、内容はUPSが複数の投資銀行 と買収の可能性を話し合ったというもので、 エクセル本体との話し合いにはつながらなか った。
UPSには五〇億ドル(五五〇〇億円) という潤沢なキャッシュがあることが、対抗 馬として目された最大の要因だ。
荷主の説得がカギ ドイツポストがエクセル買収の正式な条件 を提示したのは九月一九日。
エクセルの株一 株当たり十二・四四ポンドで買収、総額三七億ポンド(七四〇〇億円)のうち、七二%を キャッシュで払い、残りをドイツポストの株 で支払うという内容だ。
合併後の新会社のト ップには、現在のエクセルのジョン・アレン CEOがつき、ロジスティクス部門の本部は、 エクセルの本社に移す。
新会社の従業員数は 一五万人となる、と発表した。
ドイツポストのクラウス・ツムヴィンケル CEOは「(買収がまとまれば)荷主がロジス ティクスを外注しようという動きが強まる中 で、ドイツポストが今後、魅力的な成長を遂 げることができるだろう。
株主の中には買収 金額が高すぎるという懸念もあるようだが、七 二%をキャッシュで払うのなら問題はないと 考える」とコメントした。
一株当たり十二・四四ポンドとしたのは、 買収のうわさによってエクセルの株価が上昇 し始める直前の七月七日の株価に四八%のプ レミアムを上乗せしたからだ。
この高額の買 収金額の発表を受けて、複数のアナリストは、 これでUPSが買収提案を行う可能性はなく なったと語った。
今後、エクセルの買収がどう進展するのか について尋ねると、ドイツポストもエクセル も「(現段階では)コメントできない」と答え た。
しかし両社にとって、理想的な形で進む この買収が、とん挫する可能性は低いと言え るだろう。
早ければ年内にも、ドイツポスト の中に巨大な3PL事業部門が誕生する。
唯一懸念材料として残るのは、荷主の反応 だ。
ヨーロッパでは荷主との契約条項の中に 3PL業者の所有者が変更になった場合は、 契約を見直したり、契約を破棄することがで きるという項目が入っている。
荷主の中には、今回の買収が、日々の業務にどのようなプラ スとなるのかという疑問を呈する声もあがっ ている。
また、競争相手が減り、寡占が進め ば、外注先の選択肢が減り、結局はサービス の低下や料金の高騰につながるのではないか と指摘する荷主もいる。
M&Aの結果、荷主を失ってしまっては、 M&Aの意味が半減する。
このロジスティク ス業界最大のM&Aがまとまるかどうかは、 今後、ドイツポストとエクセルが既存の荷主 をどうやって説得していくのかにかかってい る。
( 本誌欧州特派員 横田増生) 67 NOVEMBER 2005 企業買収を繰り返してきた世界最大の3PLで あった英エクセルはドイツポスト傘下に収まる

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