ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2010年2号
特集
注目企業 トップが語る強さの秘訣 第9位 中央自動車倉庫──脱トラック運送で成長軌道に

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

FEBRUARY 2010  22 中央自動車倉庫 ──脱トラック運送で成長軌道に  過当競争を強いられるトラック運送業から撤退、手堅い倉庫 業にシフトチェンジした。
以来、地元群馬での投資を重ね、地力 を養ってきた。
金融恐慌によってそれまで優良物流施設を青田 買いしていたファンドの活動がストップ。
これが幸いして念願の 物流一等地に大型倉庫を保有することができた。
今後は市況を 見極め、着実なステップアップを図っていく。
 (聞き手・石鍋 圭) 倉庫業へシフトチェンジ ──創業から五〇年以上黒字決算が続いています。
 「幸運に恵まれていますね。
職業軍人だった父が 敗戦後にトラック一台から創業し、そのあとを現在 会長を務めている兄と私が引き継ぎました。
創業か らしばらくは運送業がメーンでしたが、四〇年ほど 前に倉庫業を開始しました。
その割合が徐々に増え ていき、今では倉庫業がメーンになっています。
倉 庫業と並行する形で、クレーンリース業も始めまし た。
現在の売上構成比率は倉庫業が六〇%、クレー ンリース業が二五%、その他ショッピングセンター等 に転用している不動産賃貸業が一五%です」 ──運送業は?  「クレーンを運ぶためのトラックやトレーラーを三 〇台ほど保有していますが、運送業としての売り上 げはほんの一握りです。
兄と私とで相談をして、二 〇年ほど前から倉庫業へのシフトチェンジを図って きました。
努力した分は報われる商売をしようと考 えたのです。
残念ながらトラックによる運送業では それが実現できない部分があった。
当時は今以上に 過積載や社会保険などを整備していない違法な事業 者がたくさんいた。
そういった事業者とまともにや りあったところで勝負にはなりません。
待っている のは過当競争だけです」  「そこで、倉庫業とクレーンリース業のどちらかを 企業の主軸にしようと考えました。
クレーンリース 業もそれなりの売上・利益率がありましたからね。
実際、弊社の保有するクレーンの総トン数は東京を 除く埼玉以北の業者では最大です。
ただ、クレーン は市況による影響を受けやすいという側面もある。
建設業界が活発なときは良いのですが、現在の鳩山 政権のように『コンクリートから人へ』と謳われて しまうと途端に収益が伸び悩んでしまう。
その点、 倉庫業は不況時でも底堅い。
企業のコアに据えるのは、 安定性に優れる倉庫業にしようと判断したのです」 ──そこから倉庫の数も増えていった?  「はい。
それからはほとんど毎年土地を買って地 鎮祭をしていました。
地元の高崎や伊勢崎を中心に 中小型の倉庫を建てるほか、良い既存倉庫があれば 積極的に取得もしてきた。
そして段々と会社に体力 がついていく中で、ある程度大型の倉庫への投資も 行えるようになってきたのです。
ですから二〇年以 上にわたって毎年倉庫に投資をし続けていますが、 倉庫の総保管面積ベースで見れば急拡大したのは最 近です。
現在保有する倉庫は二五拠点で総保管面積 は九万坪弱ですが、半分の四万坪強はこの六、七年 の間に増えたものです」 ──投資の対象は一貫して地元の群馬なのですか。
 「必ずしもそうではありません。
ただ、ある程度 企業が成長して投資力もノウハウも蓄積され、いざ 一都三県(東京・埼玉・千葉・神奈川)の物流一 等地へと目を向けた〇四年や〇五年は、ファンドバ ブルの渦中にありました。
条件の良い物件は外資の ファンドがことごとくさらっていった。
我々も何度 も入札に参加しましたが惨敗続きでした。
ファンド の落札額と我々の入札額の間には驚くほどの開きが あって、まったくついていけなかった。
それなら地 元で地道に汗をかこうと。
バブルといっても一都三 県や大阪、名古屋、福岡が主であって、群馬ではそ の影響はわずかでした。
その中で優良な倉庫を建て たり取得した方が現実的だと判断したのです」 ──群馬に投資をしてきた背景には二〇一一年に完 全開通が予定されている北関東自動車道(北関東道) 新井越雄 社長 注目企業 トップが語る強さの秘訣 23  FEBRUARY 2010 の影響もあるのでは? 完全開通すれば関越自動車 道と東北自動車道が結びつき、北関東道沿線は物流 拠点としての価値が出てくるという声もあります。
 「確かにそういった期待が無いわけではありません。
ただし、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)も急ピッ チで開通が進んでいる。
圏央道は横浜から東京・埼 玉・茨城を通り千葉の木更津を結びます。
物流とし てこれほど適した路線はありません。
北関東道はそ のはるか外側を通るわけですから、どうしても見劣 りする。
やはり一都三県に条件の良い倉庫を持ちた いという希望は常々抱いていました」 金融恐慌が思わぬチャンスに ──〇八年九月のリーマンショック以降、ファンドや リートの動きが止まりました。
 「これは我々にとって大きな果実をもたらしてく れました。
〇九年九月に埼玉県富士見市にある敷地 面積三万六三〇〇平米、建物延べ床面積二万八〇 〇〇平米の大型冷蔵・冷凍倉庫を約五〇億円で取得 したのですが、この案件は以前のように市況が上向 いている時期であれば絶対にウチに回ってくるよう な話ではなかった。
ファンドやリートが真っ先に買っ ていたはずです。
立地も良好なことに加えて、テナ ントには既に大手物流業が入っている。
失敗する可 能性の方が見出しにくい投資ですからね。
しかし彼 らは動けなかった。
幸い弊社は地道に活動してきた こともあり、投資の余力もあった。
銀行さんも快く 協力をしてくれました。
確かに弊社にとっては大型 投資ではありましたが、不安やリスクはあまり感じ ませんでした」 ──現在はそういった案件が増えていて、御社のよ うに動けるところにとってはチャンスなのでは?  「確かに引き合いはすごく増えていますね。
ただ、 優良物件の投げ売りが始まったわけではありません。
価格自体はそんなに下落していない。
オーナーは売 りたがっていても、投資回収を求める銀行が価格の 引き下げを容認しないことが原因だと聞いています。
我々は優良な物件が売りに出ているからといって、 会社の身の丈に合わない投資は絶対にしません。
こ ういう時期だからこそ冷静になり、一つ一つの案件 を精査して投資判断をしていくつもりです。
もちろ ん、チャンスと判断すれば富士見市で行ったような 大型投資を今後もしていく可能性はあります」 ──外資の場合、大型施設はノンリコースローンを 利用してレバレッジを効かせるのが通常です。
 「私も新しい物好きなのでファンドバブルの時には 大いに勉強しました。
エクイティだとかSPCだと か横文字で格好イイですしね。
ただ、弊社のスタン スには合いません。
好景気が永遠に続くという前提 であれば素晴らしいものですが、三年後や五年後の 借り換えができなければそれでアウトというスキー ムはリスクが高すぎる。
金融恐慌で多くのプレイヤー が動けなくなってしまったのは、まさにそれが原因 でしょう。
富士見市の倉庫の取得のために調達した 資金は通常の長期固定の借入金ですし、今後取得す る倉庫にもノンリコースローンを採用する可能性は 低いと思います」 ──今後の展開は?  「投資に関しては先ほど申し上げたように冷静に状 況を見極めながら判断していく。
既存倉庫について は、やはり稼働率が下がってきているので、これを 回復する努力をしなければなりません。
いずれにせよ、 無理をせずその時にできることを地道にやっていき、 一段ずつ階段を上っていければと考えています」 群馬から一都三県にエリアを拡大  本文中にある09年9月の50億円の大型投資のほかにも、近 年10億円〜30億円規模の投資を繰り返している。
これまでの 投資対象は地元の群馬県高崎や伊勢崎が中心だったが、今後 は一都三県の物流一等地に狙いを定めている。
回復傾向にあ るとはいえファンドやリートがかつてのように動けない今、同 社が優良物件を適正価格で手に入れるチャンスは大いにある。
長年底堅くビジネスを展開してきた恩恵といえるだろう。
 ただし、明るい材料ばかりではない。
98〜99 %あった既 存倉庫の稼働率はこの不況の影響で90 %ほどまで落ち込んで いる。
また、売上の25 %を占めるクレーンリース事業は、鳩 山政権の「コンクリートから人へ」の政策が影響し、建設業 界の収縮と比例して10年3月期は業績を落とす見込み。
 既存施設の立地や規模にも懸念が残る。
物流へのニーズが 大型施設への集約であるのに対し、同社の倉庫は中小型のも のが多い。
この問題に対しては、一つの土地に複数建ってい る倉庫を、一つの大型倉庫に統合することなどで対応してい く方針。
本誌解説 中央自動車倉庫の業績推移(単体) 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 800 700 600 500 400 300 200 100 0 《売上高》 (単位:百万円)《当期利益》 06年 3月期 07年 3月期 08年 3月期 09年 3月期 売上高 当期利益 《平成22年版》

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