ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年12号
メディア批評
隠然として存在する出版マスコミのタブー筆者も実際に体験した日航会長の言論弾圧

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

佐高 信 経済評論家 DECEMBER 2009  74  タブーは思いがけないところに存在する。
た とえば週刊誌にとってコンビニ批判はタブーで ある。
いま、コンビニで週刊誌が売れる割合は かなりのものであり、そのためセブン─イレブ ンやローソンを批判することはできない。
また、 セブン─イレブンの会長、鈴木敏文は出身の東 販の副会長をしているので、同社を批判した 本は東販が流通経路になかなかのせない。
 私が発行人をしている?金曜日で出した『セ ブン─イレブンの正体』は、それで危うく書店 に並ばないところだった。
その後出した渡辺 仁著『セブン─イレブンの正体』ともども、読 者には是非手に取ってほしい。
 さて、いま、山崎豊子原作の映画『沈まぬ太陽』 が公開中だが、これに対して、モデルと思しき 日本航空は徹底的に妨害した。
それは論外だが、 この中で石坂浩二演ずる国民航空会長につい ては、やはりメディアへの弾圧者として一言し たい。
モデルは日航会長と共に鐘紡会長だった 伊藤淳二。
この男に私は『週刊現代』の連載 をつぶされた。
鐘紡すなわちカネボウは資生堂 と並んで化粧品業界の雄だったわけで、女性 誌をもっている講談社は抵抗できなかった。
詳 しい経緯は省くが、標的とされた『週刊現代』 一九九二年六月六日号の私のコラム「今週の 異議あり」の一節を引こう。
 〈日本航空の会長になって、雑誌『経済界』 の主幹、佐藤正忠を仲介人に、日航現社長(当 時は副社長)の利光松男に「殉死契約書」を 出させた伊藤としては、まんざらではなかっ ただろう。
 「私は伊藤淳二会長を経営の師と仰ぎ、いっ たんことが起きたら殉死することを誓います」  佐藤の画策したものとはいえ、こんな気色 の悪いものを出されて平気で受け取る伊藤の神 経は異常である。
署名捺印させられた利光こそ、 いい面の皮だった。
 そんな伊藤だから 86 年夏に出されようとし ていた伊藤批判の本を部下が全冊買い占める といったことをする〉  その本の題名は『日航機事故を利用したの は誰だ』。
 日航ジャンボ機の墜落事故から一年後のその 年の夏に発売予定だったこの本一万五千部を 鐘紡が発表前に買い占め、裁断処分したので ある。
当時伊藤は日航の会長で、その本には 伊藤の日航での労務対策を批判する部分があ った。
 伊藤は日航会長になっても鐘紡の会長はや めなかったが、その買い占めを陣頭指揮した のが、当時社長になった永田正夫だった。
 この事件をスクープした一九八六年九月三日 付の『日本経済新聞』で、伊藤は、  「本を買い取ったということはごく最近、永 田専務(当時)から聞いた。
内容に間違いが あるので筆者と話し合った結果、出版しない との合意ができたが、すでに製本の段階だっ たので買い取ることにした、とのことだ。
む ろん私の指示ではないし、買い取り価格など 詳しいことは全くわからない」  と語り、当の永田は、  「本の買い取りは私の一存で決めた。
役員会 にもかけていないし、伊藤会長にも事後報告 しただけだ。
日航にも相談していない。
これ は最初に見せられたゲラ刷りの部分が鐘紡に関 するものだけで、あくまで鐘紡の問題として 対応したからだ」  とコメントしている。
 永田は著者の福田博幸と会い、版元の青山 書房社長、佐藤徹とも会って「鐘紡が全冊を 約一千万円で買う」ということで話をつけた という。
もちろん、「永田の一存」であるはず がない。
永田は社長就任の記者会見で、  「入社以来歩き方まで伊藤会長に教わった」  と言ってのけるような男だからである。
そ れまでは歩き方を知らなかったらしい。
そんな 男が「一存」で決めたと言っても信じること はできないだろう。
これでは忠臣ではなく忠 ・ 犬・ だと批判して、私は連載を止められた。
隠然として存在する出版マスコミのタブー 筆者も実際に体験した日航会長の言論弾圧

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