ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年12号
調査報告
国際調査報告 サプライチェーンのリスク管理 仏ベリングポイントほか

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2009  60 調査概要 日米欧三〇〇社が回答  仏ベリングポイント、ESCPヨーロッパ、仏 サプライチェーンマガジン誌はこのほど、共同で「サ プライチェーンモニター2009」と銘打った国 際SCM調査の分析結果を発表した。
世界三〇 〇社超のグローバル企業がアンケートに回答、う ち二〇社についてはSCM責任者へのインタビュ ーを行った(回答企業のプロフィールについては 図1、2、3を参照)。
本誌も協力した同調査の 報告書のほぼ全文を以下に翻訳した。
サプライチェーンのリスク 現在の状況  回答者の八三%はサプライチェーンにおけるリ スクが過去五年間で増加した、もしくは大幅に 増加したと答えている。
増加していないという 回答は三%にすぎない。
 サプライチェーンのリスクとは、人的・物的・ 金銭的な損害が発生すると予想され、定められ た期間内に所期の目的を果たすことを妨げる、内 的あるいは外的要因による、事前に多少なりと も予測することの可能なできごとをいう。
 製品、サービス、顧客ニーズ、規制などが複雑 化し多様化したことで、企業の直面するサプライ チェーンのリスクはここ数年で飛躍的に増大した。
また世界の各市場のセグメント化がますます進み、 意思決定の中枢から離れたところで即座に事態 に対応しなければならなくなっていることもリス クを増大させている。
リスクの原因 構造変化と相互依存  過去一五年間、企業はサプライチェーンの効率 化を目指して改善を続けてきた。
アウトソーシング、 製品ライフサイクル管理の促進、ダイレクトフロー・ ロジスティクス生産方式(生産ラインで必要にな った部材だけを直送する方式)の導入、ジャスト・ イン・タイムの採用などは、確かにサプライチェ ーンの効率化に寄与した。
しかし、それによって 新たなリスクを抱えることにもなった。
 回答者の多くはダイレクトフロー生産方式を導 入している。
それによって指定された場所に正確 な数量を確保するために配送頻度が増える一方、 仕掛品と最終製品の在庫は削減される。
このか なり複雑な仕組みは、従来配送頻度の少なさと 在庫量の積み上げによって担保されていたセキュ リティを低下させ、サプライチェーンを脆弱なも のにしている。
 ダイレクトフロー生産方式においては、ごくわ ずかな部分であっても、いったんチェーンが切れ てしまうと、生産を継続して納期を守るための 代わりのソリューションを見つけることが難しい。
たとえ見つかったとしても莫大な費用のかかるこ とが多い。
 また企業が自らのリソースをコアビジネスに集 中するため、ロジスティクス企業や製造業者な どのサプライヤーにアウトソーシングすることも、 リスクと構造的脆弱性の要因となっている。
相互 に依存し合う広範なネットワークにおいて、企業 間での頻繁なやり取りが発生している。
その相 互依存度の高さとやり取りの多さがリスクを生ん サプライチェーンのリスク管理  今日の企業は、どのようなリスクに直面しているのか。
それをどう管理すれば良いのか。
300社超のグローバル企 業が回答を寄せたアンケート調査を基に、サプライチェー ンのリスク管理を検討した。
そこから「レジリエント・サ プライチェーン」という新たなコンセプトが提示された。
仏ベリングポイントほか 国際調査報告 61  DECEMBER 2009 でいるわけだ。
 ネットワーク上に流通する情報全般を調整し管 理する立場にある“頂点に君臨するメーカー”で さえ、サービスプロバイダーに依存してコントロ ールの利かない領域を有している。
そうしたメー カーであっても、サービスプロバイダーが定めら れた期間内に業務を完遂しないことで、自分た ちのサービス品質に影響を生じさせてしまうリス クを抱えているわけである。
サプライチェーン・リスクの六類型  サプライチェーンの混乱や機能停止にいたる、 まったく予想のつかない例外的なリスクというも のは確かに存在する。
しかし、サプライチェーン のリスクのほとんどは容易に想定しうる。
今回の 調査でも八七%の企業がリスクを想定しうると答 えている。
 それをここでは六つのカテゴリーに分類した。
?需要変動リスク、?調達・供給リスク、?グ ローバリゼーション・リスク、?オペレーション・ リスク、?環境リスク、?コンプライアンス・リ スクである。
?需要変動リスク(五八%)  回答者の五八%は、需要変動に関するリスクに 直面することが頻繁もしくは非常に頻繁にある としている。
サプライチェーンが抱えるリスクと してはこれがもっとも多い。
ある期間の需要が別 の期間のそれとまったく一致しないことにより生 じるもので、大抵は需要予測の誤りという形を とる。
 こうしたタイプのリスクがサプライチェーンに どれだけのインパクトを与えるかという点では、 六割が相当に、もしくは非常に影響があるとし ている。
そのため企業は需要変動に対し過剰防 衛に陥りがちだ。
サービス品質が低下することを 恐れるあまり、無駄な在庫を積み上げてしまう。
適切なバランスを保つのは容易ではない。
過去5年間で対処しなければならない サプライチェーンのリスクは増えたか? 図4 サプライチェーン・リスクの増大 大幅に増えた 24% 増えた 59% 少し増えた 11% 無回答 3% 増えていない 3% フランス 33% 米国 12% 12% 5% 3% 日本 11% 北欧諸国 9% 英国 7% ベルギー 8% その他 (中国・オーストラリア) オランダ ドイツ 国籍別 業種別 売上別 1 億ユーロ以下 19% 10 億ユーロ以上 48% 21% 12% 1 億〜5 億ユーロ 5 億〜10 億ユーロ 日用雑貨 製造設備 IT・エレクトロニクス関連 小売(食品・化粧品) 化学 サービス 自動車 輸送 医薬 通信 アパレル 公共サービス エネルギー 建設・土木 航空機 冶金 その他 15% 13% 11% 7% 7% 7% 5% 5% 5% 4% 4% 4% 3% 3% 3% 2% 2% 図1 図3 図2 回答企業のプロフィール DECEMBER 2009  62 ?調達・供給リスク(四五%)  二番目に多いのが調達・供給リスクである。
通 常はサプライヤー側の問題により生じる。
具体的 にはサプライヤーの供給能力の問題、配送されて きた部品・原料の品質の問題、環境コンプライア ンスの問題、価格や数量の契約内容との不一致 などである。
 リスクの大きさは依存の程度による。
時には生 産停止に追い込まれ、最終製品の供給に支障を きたすこともある。
回答者の約半数はこのリスク が非常に重大な結果をもたらしうるとしている。
サプライヤーが高度に専門的で独占的な地位にあ り、代替品の調達が難しい場合、事態はさらに 深刻なものとなる。
?グローバリゼーション・リスク(四三%)  グローバリゼーションは販路の拡大や低コスト での調達・生産など新たな局面をもたらしたが、 新たなリスクも産んだ。
ターゲット市場だけでなく、 生産施設のある国や地域に特有の政治問題や社 会問題といったリスクまでも考慮に入れる必要が 生じている。
 グローバリゼーションがもたらす利益と引き換 えに、製品の品質低下や不公正な競争、偽造品、 供給スケジュールが長期化することによるデリバ リーの遅延など、新たなリスクが増加している。
そうした国々へのシフトを検討する際には、低コ ストの生産・調達によるメリットが、それに付随 するリスクに見合うことを確認する必要がある。
?オペレーション・リスク(三三%)  オペレーション上のリスクは、先に挙げた外部 要因的なリスク(需要、調達、グローバリゼーシ ョン)と違い、その企業自身の問題だ。
在庫不足、 製品の品質問題、ITシステムの不具合、製造工 程でのトラブルといった要因のインパクトを最小 限に抑えられるよう、予測して可能なかぎり素 早く対応する能力を持つことがポイントとなる。
?環境リスク(三二%)  環境リスクには環境規制に関連するリスクと、 自然災害や気候変動のような予知しえない自然 環境のリスクがある。
前者はたとえば特定の物質 が製品に含まれているかどうか、そしてどのよ うにリサイクルされるかを明示する義務を企業に 課すような規制である。
規制に従わないと罰金 を科されたり、場合によっては市場からの退場を 命じられることすらある。
?コンプライアンス・リスク(二二%)  コンプライアンス・リスクには法律(税金、製 品認証等)や健康・安全基準などに関するもの がある。
図5 以下のリスクにどの程度対処をせまられるか? 需要変動リスク 調達・供給リスク グローバリゼーション・ リスク オペレーション・リスク 環境リスク コンプライアンス・リスク 58% 45% 43% 33% 32% 22% 無回答ゼロたまに時々頻繁に非常に頻繁に 2% 4% 5% 8% 12% 17% 29% 34% 11% 18% 28% 5% 13% 16% 31% 24% 15% 7% 32% 21% 22% 10% 23% 36% 34% 9% 25% 8% 24% 33% 25% 2% 4% 7% 3% 3% 図6 以下のリスクがもたらすインパクトはどの程度か? 需要変動リスク 調達・供給リスク グローバリゼーション・ リスク オペレーション・リスク 環境リスク コンプライアンス・リスク 60% 47% 38% 33% 24% 19% ゼロそれほどない少しあるかなりある非常にある 5% 4% 7% 9% 17% 32% 33% 14% 24% 31% 7% 18% 16% 38% 27% 11% 8% 33% 25% 18% 6% 27% 33% 30% 8% 25% 8% 26% 39% 21% 63  DECEMBER 2009 議と情報交換にもとづくハイブリッドな意思決定 を行っており、三分の一は担当部署が独自に決 定している。
リスクマネジメントへのアプローチ  サプライチェーン・リスクマネジメントは、連 続した四つの局面からなるサイクルで表すことが できる(図8)。
ステージ? リスクの特定 ●サプライチェーンにインパクトを与えうる潜在 的なリスクを特定し、企業の業績に悪影響を及 ぼすすべてのイベントを考慮する。
ステージ? リスクの評価 ●リスク・イベントの発生とその可能性につなが るシナリオを明確にする。
●様々なリスクの潜在的なインパクトを評価し、 危険度を測定する。
ステージ? リスクの処置 ●事態の発生率とインパクトのレベルをともに引 き下げる。
●リスク回避や対応策などのアクションプランを 練る。
ステージ? リスクのモニタリングとコントロール ●多種の指標をモニタリングしてサプライチェー ン・リスクをコントロールする。
●リスクの再発をコントロールする。
●特定したリスクの処理過程で生じうる失敗、あ るいは新たなリスクを見つけ出す。
 以上のことから、次の三つが導かれる。
 その一方で、いまだ四二%はサプライチェーン・ リスクマネジメントを重要な経営課題ではないと 認識しており、その実施に消極的な姿勢を示し ている。
また、導入しない理由として、三一% が方法論的な枠組みと適切な導入プロセスに関す る情報の欠如を挙げている(図7)。
組織と意思決定プロセス  リスクマネジメントの必要性は明らかであって も、専門の部署を持つ企業はいまのところ多く はない。
サプライチェーン・リスクマネジメント部 門のある企業は全体の二九%に過ぎない。
 リスクマネジメント部門が存在するかどうかは、 企業規模と密接な関係がある。
売り上げが一〇 億ユーロ(一三二〇億円。
一ユーロ=一三二円で 換算)を超える企業で当該部門を持つ割合は四〇% であるのに対し、一〇億ユーロ以下の企業では一 三%となっている。
 リスクマネジメントの意思決定プロセスを詳し く見てみると、半数の企業は社内各部署との合 リスクマネジメントの成熟度 リスクマネジメント戦略  長きにわたり、企業はサプライチェーン・リス クを管理することの重要性を認めてこなかった。
しかしながら、とりわけグローバリゼーションの 進展と企業間の複雑なやり取りが増えたことに よってリスクが激増したことをうけ、パフォーマ ンスと成長力を向上させるため、時には生き残り を賭けてリスクマネジメントに取り組まざるをえ なくなってきている。
 今回の調査でも、すでに約半数の企業がサプラ イチェーン・リスクマネジメント戦略を実行に移 していると回答している。
特に強調しておきた いのは、そのうち六六%が過去五年以内、そし て二一%が過去五年から一〇年の間に行われて いるということである。
図7 サプライチェーン・リスクマネジメントを 実行しない主な理由 42% 31% 12% 10% 5% 情報・方法論・ 枠組みの欠如 経営陣にとり 優先度が高くない 立ち上げの複雑さ 効果的なリスクマネジメ ントを可能にするソリュー ションが市場にない コストがかかりすぎる 図8 リスクマネジメントの4 局面 1 リスクの特定 2 リスクの評価 3 リスクの処置 4 リスクの モニタリングと コントロール DECEMBER 2009  64 ?サプライチェーン・リスクの処理とマネジメント を行う組織は、大抵の企業でいまだ揺籃期に ある。
リスクの特定と評価には積極的でも、リ スクの処理とコントロールのフェーズを効果的 に結びつけている企業は多くない。
?多くの企業が自分たちはリスク処理とコントロ ールの能力が相対的に弱いと考えている。
サプ ライチェーン・リスクマネジメントを効果的に 実施していると考えている企業は、全体の三 分の一以下に過ぎない。
?リスクマネジメントの手法が、すべてのリスク を根絶するものではないことは明らかだが、 リスクの中身を理解して予測を立て、インパク トを軽減することには役立つ。
また、特定の 手法に関してはまだ一般的になっていないもの が多い。
リスクマネジメントの対象領域  リスクはサプライチェーンのすべての局面に多 かれ少なかれ遍在している。
とはいえ企業が力 を注ぐのは主に次の三つの領域である。
?購買(五九%) ?インバウンド・ロジスティクス(四六%) ?計画(四五%)  リスクがもっとも大きいと考えられる領域、つ まり購買(調達・供給に関するリスク)や計画(需 要変動に関するリスク)などにリスクマネジメン トが適用されるのは当然だろう。
また、インバウ ンド・ロジスティクス(調達物流)には、原材料 と半製品の保管や、サプライヤーと納品先の間に 行われるすべてのロジスティクスサービスなどが 含まれる。
 様々な要素が相互に絡み合った組織であるサプ ライチェーンにおいて、ある特定の領域で生じる リスクを個々にとり出して分析・処置を施すこと にはあまり意味がない。
影響が“ドミノ式”や“雪 だるま式”に拡がる可能性があるため、リスクの 測定・分析とその対応の意思決定には、サプライ チェーン全体へ波及する可能性を考慮に入れる必 要がある。
リスクマネジメントの狙いと手法 リスクマネジメントのメリット  リスクをきちんと見きわめて対処することは、 企業にとって飛躍のチャンスにもなる。
たとえば 競合する複数の企業が同時に同じ予期せぬ事態に 遭遇した場合、あらかじめ立てておいた計画に もとづいて迅速に対応した企業は、他社から一 歩抜きんでることができる。
 今回調査でサプライチェーン・リスクマネジメ ントによって得られるメリットは何かという質問 に対しては、カスタマーサービスの改善・ブラン ドイメージの向上・競争力の強化を挙げる企業が 多かった(それぞれ三五%、二九%、二八%)。
 一方、環境とコンプライアンス・リスクについ ては、長期的な検討課題であり、目先の脅威で あると受けとめている向きは少ない。
優先度とアクションプラン  リスクマネジメントの中で優先度が高いのは需 要変動リスク(六〇%)、オペレーション・リスク(五 五%)、調達・供給リスク(四八%)である。
そ れではこうしたリスクに対処するため、企業はど のようなアクションプランを準備しているのだろ うか?  調査結果の示すところでは、六七%の企業が 新たな手順と方法論を実施しようとしている。
また、三分の一はリスクマネジメント・ツールや ソリューションに投資するとしており、専門部署 を立ちあげる予定があるのは一五%に過ぎない。
なお、この設問で三分の一の企業は無回答であっ たことを付記しておく。
マネジメントのアプローチ 《グローバル・アプローチ》  企業の直面するサプライチェーン・リスクが複 雑化したことで、すべてのリスク領域と企業全体 をカバーするグローバルなアプローチが必須の課 題となってきている。
したがってリスクマネジメ ントには経営陣が関与しなければならないし、グ ローバルな枠組みの中で検討されることが重要性 を増している。
 そのよい例がサプライチェーン・リスクと資金 的リスクの相互作用である。
在庫を積み上げれば 在庫不足と需要予測の不正確さにまつわるリスク は回避できるが、企業の財務状況には大きなイン パクトをあたえる。
一方、ロジスティクス・コス トを下げればサービスレベルに影響が出る。
資金 的リスクも考慮に入れてこそ、サプライチェーン・ リスクマネジメントの導入によって企業がグロー バルに利益を向上させることになるわけである。
 すべての利害関係者と機能を巻きこむグローバ 65  DECEMBER 2009 ニングによって需要予測の精度が上がり、さらに 市場トレンドの情報共有もできるようになる。
そ してこのデータをサプライヤーに渡して、今度は 原材料の需要予測の精度向上に役立てることが できる。
 かわりにサプライヤー側では、顧客側に自社製 品のアベイラビリティ(利用可能性)などの情報 を流す。
製品の供給に問題が生じた場合、顧客 はサプライヤーから直接通知を受けるので、すぐ に代わりのソリューション探しと川下への通知を 実行できる。
 情報システムを活用してこうした情報交換を行 えば、差し迫ったリスクを事前に察知し、各種の 緩和措置をとることが可能となる。
また、情報 共有により、外部的リスクが組織に与えるインパ クトやパートナーの質なども評価しやすくなる。
外部パートナーとの関係が変化し、企業戦略見直 しのヒントも得られるようになるわけである。
《レジリエントなサプライチェーンへ》 ■リスクマネジメントとレジリエンス  予期せぬ事態に直面しても組織が通常通り機 能するよう、予防・予測・対処するのがリスクマ ネジメントである。
その目的は、当初の目標達成 の妨げになりうる不確実性をできるだけ排除す ることにある。
 すでに見てきたように、企業活動の複雑化と サプライチェーン・メンバーの相互依存度が高ま っていること、この二つの事態がグローバル化と あいまって進行していることが、リスクマネジメ ントをますます難しいものにしている。
こうした 文脈の中で、“レジリエント”なサプライチェーン 能別のリスクマネジメントによって、他の部署が 間接的リスクにさらされるケースがある。
 例えば価格引き下げと調達リスク低減を目的と して仕入先を一社にまとめると、そのサプライヤ ーや輸送途上で問題が生じた場合、今度は生産 上のリスクが高まってしまう。
 “垂直的”リスクマネジメントを回避するには、 すべての機能に関するリスクに配慮しつつ、各機 能の専門的知識に立脚した一元的なリスクマネジ メントの枠組みを構築しなければならない。
■外部的コラボレーティブ・アプローチ  調査結果からは、サプライチェーンのリスク管 理には外部パートナーの協力を仰ぐケースが少な いことが読み取れる。
サプライチェーン・リスク は外部要因によって誘発されることが多いにもか かわらず、企業内部だけで処理されているわけだ。
 そこでポイントなるのは、サプライチェーンの 担当部署と外部パートナーとの関係構築を促進す ることである。
サプライヤーに対して自社の組織、 ニーズ、課題などを周知徹底すればするほど、外 部的なリスクにうまく対処できるようになる。
サ プライヤーと常日頃から意思の疎通をはかってそ の状況を把握することは、サプライヤーに起因す るリスクを予測してその発生を抑えるうえでカギ となる。
 顧客やサプライヤーとのパートナーシップを確 立して関係を強化すれば、お互いの情報共有が 容易になる。
このことはたとえばコラボレーティブ・ プランニングの導入をした場合を考えると理解し やすいだろう。
 顧客と一体になったコラボレーティブ・プラン ル・アプローチを通して、経営陣が自らリスクマ ネジメントのバランスをとらねばならない。
それ が競争力の強化と業績の向上につながる。
同時 に企業のあらゆるレベルにリスクマネジメントと いうカルチャーが浸透することになる。
《コラボレーティブ・アプローチ》  サプライチェーンの最適化には、情報・モノ・ カネの流れが可視化される必要があるが、それは 販売予測・発注・流通在庫・仕掛品から注文状況・ 完成品の在庫・配送予定などにまで及ぶ。
こう した可視性を確保するには企業内部と外部関係 者との情報共有や、サプライヤーと顧客の協力を も得た上でのコラボレーティブ・アプローチが必 要となる。
■社内的コラボレーティブ・アプローチ  調査結果を見ると、優先度のもっとも高いの は需要変動と調達に関するリスクである。
組織的 には、販売と需要予測を担当する部署が需要変 動に関するリスクに対応する。
購買担当チームは サプライヤーとの関係をコントロールするが、そ こには入手コストや原材料の調達なども含まれる。
 サプライチェーンの各機能が深く関係し合って いるということは、特定の分野でコントロールす るリスクが他の機能にも大きな影響を及ぼす可能 性があるということであり、時にはサプライチェ ーン全体に波及することもある。
 “垂直的”なリスクマネジメントのアプローチが よく見られるが、これは割り当てられたリスクに それぞれの部署が対処するため、可視性の低下 とコスト増という結果を招いてしまう。
実際、機 DECEMBER 2009  66 というものが注目を浴びるようになっている。
 レジリエンスという言葉はもともと、物質の復 元力や弾性エネルギーを指す物理学用語である。
物質が本来の性質を保ったまま外部からのインパ クトを吸収するのと同じように、レジリエントな サプライチェーンとは、その本来の状態を保持し つつ問題を吸収する能力をもつチェーンであると 定義される。
 レジリエント・サプライチェーンは、混乱や予 期せぬできごとをうまく収拾する能力が高い。
レ ジリエンスを高めればサプライチェーンが機能不 全に陥る可能性が低まるというわけだ。
レジリエ ンスを測定・評価するのはとても難しいが、サプ ライチェーンのレジリエンスを向上させるいくつ かのポイントがある。
《レジリエンスの向上》 ?弱点の特定  リスクマネジメントの実施手順を定めるに際し ては、サプライチェーン上の弱い部分を特定する ことがもっとも重要だ。
サプライチェーンの弱点 を知っていれば、そこに力を集中し、予期せぬ 事態に遭遇する可能性を減らすことができる。
 サプライチェーンの弱点に通暁するということ は、プロセス、ネットワーク、メンバー、そして 組織間のリンクや結節点について深い知識をもつ のと同じことである。
特定され得ない弱点を抑 えこむ有効な方法論は定義上存在しない。
?アジリティ  アジリティとは、変化に即座に反応することで ある。
企業におけるアジリティとは、急激な需要 拡大や需要減に応じ、生産や配送の計画を短期 間で変化させる能力のことをいう。
新製品を発 売する際には、とりわけアジリティが決定的な意 味をもつ。
アジリティのレベルは企業の仕組みや 構造ばかりではなく、外部のプレーヤー(サプラ イヤー、パートナー)との関係や情報共有によっ ても左右される。
?リスク・カルチャー  レジリエントなサプライチェーンをつくる上で は、サプライチェーンのメンバーすべてが確固た る“リスク・カルチャー”を共有することが重要 である。
リスク・カルチャーが必要不可欠なの は、リスクが企業活動の一部だからである。
「T QM(Total Quality Management:総合的品質 管理)」がルールと手順だけでなく思考様式まで 視野に入れているように、リスクマネジメントに も同様のアプローチが必要だ。
 リスクは往々にして失策や損害と相関関係があ るため、リスク・カルチャーはかなりデリートな ものになる場合もある。
それは思考様式の転換、 “文化革命”をともなうとさえいってもよい。
こ のカルチャーを浸透させることは、トップマネジ メントの責任である。
このアプローチが会社全体 に浸透するには、まずトップマネジメント自身が 十分に納得している必要がある。
?リスクマネジメントの確立  レジリエンスのクオリティは、学習とリスクマ ネジメントの実践からのフィードバックによって 高まる。
最初の失敗からその後に起こりうる混 乱のインパクトをいかにして回避または低減させ るか、それがレジリエンスである。
レジリエンス は経験にもとづいて確立されるものなのである。
エリクソン ──下請け工場の火災を契機に  エリクソンは世界有数の通信機器関連メーカー であり、一七五カ国以上の国々で一〇〇〇を超 えるネットワークが同社のネットワーク設備を利 用している。
要求水準の高いハイテク業界の顧客 や複雑なサプライヤー・チェーンを抱えているため、 サプライチェーンにまつわるリスクや事故を避け て通るわけにはいかない。
 そうした事態の一つが、二〇〇〇年三月、米 国ニューメキシコ州アルバカーキにある二次下請 け工場の小さな作業場で起こった。
その工場は携 帯電話の製造工程に欠かせないある部品の唯一 の調達先であり、そのチップが無ければ数カ月に わたってまったく販売や供給ができなくなる。
そ の工場で火災が起こった。
 これによりエリクソンは、リスク管理について 再考を余儀なくされることになった。
サプライチ ェーンのリスクを把握して管理するだけでなく、 何かが起こった後できるだけ早く適切な処置がと れるよう、起こりうるリスクの分析・評価・特定 をしておくことの重要性を思い知らされた。
 同社はアルバカーキの火災後すぐ、「SCRM ( Supply Chain Risk Management)」という専 門組織を立ち上げた。
以来SCRMはさまざま な手法とプロセスを実施している。
このアプロー チの背後にある考え方は、「サプライチェーンがリ スクにさらされることを最小限に抑える」ことに あり、リスクマネジメントのサブプロセス間のフィ ードバック・ループを基礎においている(図9)。
67  DECEMBER 2009 の業界の典型的取り組みが現れている。
 玩具メーカーの多くが工場を低コストの発展途 上国に移転させる中で、レゴ(LEGO)は品 質とデリバリーに関するリスクを減らすため、工 場を先進国や中進国に置くという決断を下した。
 ある競合メーカーは〇七年七月に、モニタリン グ・プロセスの不備によるデザイン上の問題で、 アジアの下請け工場が製造した二一〇〇万個の製 品をリコールする事態に追い込まれている。
そう したリスクを避けたのだ。
 消費地に近い中コストの国々(メキシコや東欧) に工場を持つことで、納期の短縮や市場の動向 にもいち早く対応できる。
実際、競合他社が中 国で生産する製品が納期に五〜七週間要するの と比較し、デンマークで作るレゴの製品は二〜四 日間しかかからない。
 ただし、中進国の労働コストは低コストの国々 に比べて三〜五倍だ。
そこでレゴはオートメーシ ョン化を進めることで生産コストを抑えている。
市場に近接しているという利点を享受しつつ、 グローバリゼーションにまつわるリスクを回避、 軽減しているわけだ。
 サプライチェーン・リスクマネジメントは、オ ペレーション関連のリスクを取り扱うだけでなく、 サプライヤーからの原材料調達や販売時の在庫切 れなどにも適用される。
後者に関してレゴは、販 売情報と小売業者の在庫レベルの厳密なモニタリ ングをリスク戦略の基礎に置いている。
レゴでは ストラテジック・リスク・マネジャーが中心となり、 リスクの特定と各分野のマネジャー(購買、ロジ スティクス、生産、品質等)との調整が行われて いる。
ようになったのである。
 エリクソンはこのモデルを敷衍し、いまやサプ ライチェーンと製造だけでなく、プロダクトデザ インの行程や緊急時のサプライヤーへのサポート にまで応用している。
リスク特定は、新しいコン ポーネントがデザイナーのドローイングデスクに描 かれた時点ですでに始まっている。
 「そうしたことすべてがエリクソンの強みになる」 とグローバル・サプライチェーンの責任者である ヤン・バーサナスは語る。
その例として彼は最近 中国で起きた大地震を挙げる。
 地震発生後すぐにリスクマネジメントチームが それに気づき、早速原材料の確保に奔走すると 同時に、研究開発チームは生産に使用できる代替 品を探し始めた。
地震発生から四八時間後には、 現場責任者はエリクソンのトップとともにサプラ イヤーと会談し、生産を継続するための方策を練 っていた。
 また、スポット市場でもすべての入手可能なコ ンポーネントを買い漁った。
憶測が飛び交うのを 避けるため、チームの連絡係が内外を問わず経 営陣、関係部署、顧客への報告を行った。
こう してエリクソンは充分なコンポーネントを確保し、 代替品が研究開発チームからリリースされるまで、 生産を停止せずに企業活動を円滑に継続したの である。
レゴ・システム ──あえて高コスト国で生産  玩具業界も企業活動に決定的な影響を及ぼす サプライチェーン・リスクと無縁ではない。
中で も特に深刻なリスクは需要変動であり、そこにこ  サブプロセスとは、リスクの特定、評価、処置、 監視の四つである。
そのループの中央にあるのが、 事故処理と危機管理計画である。
このSCRM の有効性が明らかになると、エリクソンはサプラ イヤーと契約工場にも同じようなリスク管理体制 を要求し始めた。
ここで重要なのはツールや方法 論を共有するだけではなく、サプライヤーとの契 約の中に明確なガイドラインを盛り込むことである。
 エリクソンにおけるサプライチェーン・リスク マネジメントへの取り組みは、事故と企業活動の 停滞が少なくなるだけではなく、保険料の低下 という副次的な結果をもたらした。
多くの保険 会社はエリクソンのリスク緩和への取り組みを高 く評価し、他の顧客へも同様の取り組みを求める 図9 リスクマネジメントのサブプロセスループ リスクの モニタリング リスクの特定 リスクの処置 リスクマネジメント 危機管理計画 事故処理

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