ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年12号
特集
第2部 政権交代で組合運動はどこに向かう 【全港湾】労働者の視点で新しい社会像を描く

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2009   20 派遣の禁止では問題は解決しない ──全港湾は規制緩和に一貫して反対してきました。
規制緩和のメリットは認めません。
 「我々だって全てこれまで通りにやれと言っている わけではありません。
経済合理性は重要だし時代の 変化に対応しなければならないことは理解していま す。
しかし、規制緩和の狙いは結局のところ企業の コスト削減であり、民営化の狙いは利益を上げること でした。
それに対して我々は労働者の立場ですから、 規制緩和によって労働者の権利が守られるのかという ところから判断しているわけです」 ──港湾業界は淘汰がありません。
競争のないとこ ろに生産性の向上は期待できないのでは。
 「私はそうは思いません。
競争が全てではない。
小 泉政権は自由競争をよしとして聖域なき規制緩和を 進めました。
その結果、いわゆる?負け組?が生ま れて社会問題化したことで、安倍内閣では?敗者復 活?にテーマをシフトした。
しかし、それでも民意は 納得しなかった。
その結果、?友愛?を掲げる鳩山民 主党が政権を獲ったと理解しています」  「民主党がどのような国家像を持っているのか今の ところハッキリしませんが、例えば労働者自身がもっ と経営参画できるようにすれば、競争とは別のかた ちの発展があるかも知れない。
社長も従業員の選挙 で選んだらどうだろうか。
なぜ株主が全てを決めなけ ればならないのか。
そうやって労働者を起点に社会の 仕組みを考えてみることも、この時期にはムダではな いはずです」 ──派遣法の改正には、どのような考えですか。
 「登録型派遣を禁止すべきだとは考えていません。
いま製造業の派遣を禁止しても、そのまま個人請負 になるだけです。
それでは問題は解決しない。
問題 は個人請負や日雇い派遣で働いている人たちの、セー フティネットがないということです。
正確に言えば、 セーフティネットがあるのに使わせないことです」  「我々の組合員である港湾労働者というのは、元は 日雇い労働者です。
その待遇を改善するために我々 を含めて多くの人たちがこれまでたたかってきたこと で、十分とは言えないまでも一定の生活水準を維持 できる制度ができあがりました。
ところが、それが 規制緩和によってズタズタにされてしまった」 ──具体的にどういうことですか。
 「現在の派遣法の根本的な問題は、日雇い派遣とい う働き方にあるのではなくて、『派遣は日雇いではな い』と行政が定義したことにあります。
そのため実 態としては日雇い労働なのに、日雇い労働者用のセー フティネットが使えない。
実際、日雇いは現在一〇〇 万人以上いるのに、日雇手帳(日雇労働被保険者手 帳)を持っている人は二万人あまりしかいない。
保 険が適用されていないんです」  「我々は行政に対して、なぜ派遣に日雇手帳を交付 しないんだと問いただしたところ、『派遣社員は派遣 会社に登録しているのだから日雇いではない』という。
派遣会社が一定の雇用責任を負っているため、日雇 い労働者とは見なさないと、日雇い労働の法解釈を 変えてしまったんです。
これを正すには派遣法を改正 するよりも、職業安定法が骨抜きにされているのを 元に戻すべきだというのが私の考えです」 ──しかし、派遣登録者の雇用責任を派遣会社に求 めれば、コストがかさんで実質的に派遣事業は成り立 たなくなってしまう。
そのコストを行政に押しつけれ ば今度は国民負担が増える。
悪用もされます。
 「派遣を利用する会社が、日雇い労働者向けの職業 【全港湾】労働者の視点で新しい社会像を描く  ほとんどが日雇いだった港湾労働者の待遇改善に 向け、高度経済成長期に激しい闘争を重ねてきた。
現在の日雇い派遣問題にも独自の見解を持っている。
今回の政権交代を一つの契機ととらえ、労働者の視 点を重視した新しい社会像を提起していこうと考え ている。
         (聞き手・大矢昌浩) 伊藤彰信 中央執行委員長 第 2 部 政権交代で組合運動はどこに向かう 建交労の概要 正式名称 全日本港湾労働組合 組合員数 1万2000人 上部団体 全国港湾、交運労協 特徴 港湾労働者が個人加盟する産業別労働組合 で、トラック運送業労働者も組合員の約2割 を占めている。
かつては総評に所属していた が、1989年に結成された連合には「労使協 調の右翼的再編」であると批判的で加盟しな かった。
総評解散以降は他のナショナルセン ターにも加盟していない。
規制緩和政策には 一貫して反対してきた。
21  DECEMBER 2009 訓練や福利厚生のための基金を設立してはどうかと 提案しています。
常用労働者の福利厚生費と同じ水 準の費用を拠出し合えばいい。
もともと派遣を使うこ とで負担せずに済んでいるコストなんですから」 ──だったら派遣など使わない、となります。
 「だとすれば、派遣を禁止するなという主張は、同 一賃金・同一労働を全く無視している。
単に企業が 安上がりに労働力を使いたいだけのことであって、働 き方の多様性うんぬんの問題ではないということにな ります。
もともと派遣労働を解禁したのは、常用労 働者と同じレベルの厚生年金や健康保険などの待遇が 確保されるという前提でした。
現実には全くそれが 確保されていないのだから正すのは当然です」 バラマキ政権に終わらせない ──非正規の待遇を改善するために、正社員の特典 となっている各種の手当や退職金などが削られてしま う懸念もあります。
 「それを判断するには結局のところ、どのような国 家像を描くのかを明確にしなければなりません。
例 えば民主党は来春から子供手当てを支給すると言って いる。
高校の学費も無料化するという。
北欧では当 たり前の施策です。
住宅も、医療も、年金も、それ こそ揺りかごから墓場まで全てを政府が保証するとい うのであれば、企業が各種の手当てを負担しなくて も、年収二〇〇万円でも暮らしていけるでしょう」  「果たして民主党はそうした社会を目指しているの か。
民主党を支持する連合は労働者中心の福祉社会 を目指すという。
それは北欧型の社会なのか。
今の ところは断片的に手当てをバラまいているだけで彼ら の目指す国家像は全く見えてこない」  「高速道路の無料化をはじめ物流問題も同じです。
民主党は二〇二〇年までに温暖化ガスを二五%削減 するという。
それでは、その時にマクロ的な貨物輸送 量や輸送モードはどうなるのか。
物流インフラの建設 は計画から完成まで最低でも一〇年はかかります。
国 家戦略がなければ目の前の政策を判断しようがない」  「国家戦略に基づいて民主党が政策を進めているの であれば、個別の問題についてもその影響や対策に ついて議論できる。
ところが、選挙向けの表面的な 公約で政権に就いてしまったものだから、今は議論に ならない。
それに対して我々も客観的に批判するだけ でなく労働者の立場から当事者として係わっていく必 要があると考えています」 ──これまでの全港湾の活動を見る限り、民主党と はそりが合わないところが多そうです。
 「確かにこれまでは、あまり付き合いがありません でした。
民主党の政策に関しても批判的であること が多かった。
もともと民主党は自民党の規制緩和政 策を、生ぬるい、もっと徹底しろと主張する立場で した。
我々の規制緩和反対に対して、何を寝ぼけた こと言ってるんだと非難したのは自民党よりむしろ民 主党の議員たちでした。
それがいつの間にか国民生 活第一に大きく転換した」  「それでも今の政治制度の下では、政党を通してし か政策を実現できませんから、政治の世界で我々の要 求を実現していくためには政党との協力関係が避け られません。
少なくとも自民党よりは労働者の声を 聞いてくれる政権になったはずなのだから、民主党 政権が単なるバラまきで終わるのか、それとも新しい 国家像に向けて進んでいくのか、労働組合も主体的 に係わっていくことで新しい政権を作っていく責任が あると考えています。
それでダメなら、また変えれば いいだけのことです」 特集 新しい物流労務管理 全日本港湾労働組合(全港湾) 日本港湾労働組合連合会(日港湾連) 全国検数労働組合連合会(検数労連) 日本検定労働組合連合会(検定労連) 全日本倉庫運輸労働組合同盟(全倉連) 大阪港湾労働組合(大港労組) 全日通労働組合(全日通) 全日本倉庫運輸労働組合同盟(全倉運) 全国港湾労働組合連合会(全国港湾) 全国港湾の組織 全日本港湾運輸労働組合同盟(港運同盟)

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