ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2009年11号
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第54回 福山通運

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2009  48 特積み以外の売上高比率を二割に  福山通運はダイソーやファーストリテイリン グ、イオンといった流通系大手顧客のほか、中 小の荷主を対象に小口の商業貨物を中心とした 特別積み合わせ輸送を主力事業としている。
 全国的な輸配送ネットワークを有する大手で あるが、商業貨物輸送は景気変動の影響を受け 易いこと、同業との競争が厳しく、収益性の面 で難しい分野である。
このため小口化戦略の推 進、関東以北での拠点整備、営業/集配ドライ バーの育成、他社との提携を通じた輸配送ネッ トワークの増強に努めてきたが、充分な差別化 が果たされたとはいい難い。
 こうした状況を踏まえ、同社は今年度より中 期経営計画「Challenge Change 2011」をスタ ートさせた。
最終年度である二〇一一年度の数 値目標は連結売上高三〇〇〇億円(〇八年度 実績二四三〇億円)、営業利益率五%(同三・ 四%)、株主資本比率五〇%(同四七・七%) に設定。
経営基盤の強化に向け、営業基盤の拡 充や新規市場への積極的な挑戦等を掲げている。
 同計画の特徴は、収益基盤の多様化を打ち出 した点といえよう。
現在、連結売上高の九割を ネットワーク事業(特積み事業)が占め、ロジ スティクスや国際等の非ネットワーク事業の売 上高は二九九億円、営業利益は三二億円に過ぎ ないが、最終年度には売上高三九五億円、営業 利益四五億円に引き上げる計画だ。
加えて新規 事業を開拓し、売上高三〇〇億円、営業利益三 〇億円を目指す。
 中期的には特積み事業の貨物量には期待を持 ち難い状況にある。
このため収益源を多様化し、 特積み事業への依存度低下を図るという方向性 の納得度は高いのではないだろうか。
中でもマ ーケットそのものの拡大を期待できる国際事業 や3PL事業等は、今後の収益の柱として見込 むことができる。
もちろん成長事業であるだ けに同業他社との競合を考慮する必要はあるが、 異業種との連携等を含めた新規展開が期待され るところである。
 既に昨年二月に発表した中国の物流大手、中 国誠通控股集団との日中間の国際物流事業で の提携、同八月に開始した東京〜北九州間にお けるスターフライヤーとの航空貨物輸送事業等、 サービスメニューの増強に向けた連携を進めて いる。
今後の収益貢献が待たれよう。
 主力のネットワーク事業については引き続き 収益性の向上を図る。
同事業では輸送需要の長 期的な低迷が続いており、これまでを振り返っ てみると、他社同様に採算面で苦戦のあとが窺 福山通運 新政権の労働規制強化や運賃動向に懸念 特積み依存から脱却し新規事業の展開を  夏場にかけて上昇した株価は調整局面 を迎えている。
政府による労働規制強化 や運賃水準の低下が懸念材料視された。
懸念を払拭するには配送センターの統廃 合や省力化・無人化投資など、特積み事 業の効率性改善が必要だ。
中長期的には 国際物流や3PLなど成長分野への展開、 特積み事業への依存度低下も望まれる。
一柳 創 大和証券SMBC 金融証券研究所 企業調査第一部 シニアアナリスト 第54回 49  NOVEMBER 2009 える。
荷主企業の物流コスト削減意欲の高まり、 業者間の競争激化といった要因もあり、業績 のボトムとなった〇五年度は営業利益率が一・ 五%に留まっていた。
 その後、関東以北での拠点整備を行うと同時 に、選別受注/適正運賃収受に努めたことは一 つの変化と捉えている。
結果、〇七年度には重 量単価が前年度対比プラスとなり、燃料サーチ ャージの適用も進めた〇八年度には二%を超す 単価上昇を果たした。
王子運送買収で競争力を向上  コスト面での施策に関しても一定の成果を確 認できる。
荷動きの低迷が顕著な物流業界にあ って、〇九年度第1四半期の連結営業利益は前 年同期比三八・八% 増、営業利益率は 二・一ポイント増の 五・六%と大幅な改 善となった。
傭車費 の削減、集配業務や ターミナル業務の効 率化、幹線運行便の 集約による積載効率 向上といった施策が 奏功したものと捉え ている。
収入確保に 苦しむ中での採算改 善はひとえにコスト 抑制の成果といえよ う。
 こうした自助努力に加え、同業他社の取り込 みによるネットワーク拡充も進めている。
直近 では今年一〇月の王子運送の子会社化が挙げら れる。
王子運送は関東圏を主力エリアとしてお り、〇八年度業績は売上高五二〇億円、営業 損失三億円。
エリア補完が期待できること、直 接的な収入規模拡大等が見込まれるほか、重複 する拠点の統廃合、ネットワーク再構築を通じ た幹線輸送の効率化等により、競争力の向上が 期待できる。
 これまで物流業界ではオーナー経営者が多い ことや各社の企業体力から、業界再編がなかな か進まないという印象であった。
しかし、最近 では福山通運と事業ドメインの類似するセイノ ーホールディングスによる西武運輸の買収、(今 後の進捗を見極める必要はあるが)日本通運と 郵便事業会社による宅配事業統合等の大型案 件に限らず、業界再編につながる動きが徐々に 顕在化している。
 特に特積み事業は装置産業的な側面が強く、 インフラ維持に必要なコストを確保する意味で も、サービスレベル向上に向けても、M&Aは 有効な対応策であろう。
またプレーヤー数が減 少すれば過度なダンピング競争のリスクが低減 するため、効率性/収益性の改善にも寄与する と判断している。
 ただし足元の事業環境は依然として厳しいと 言わざるを得ない。
取扱貨物量は今年四〜八月 は前年同期比十二%減と、大幅な減少が続いて いる。
運賃是正や燃料サーチャージの収受効果 が一巡したこともあり、五月以降、運賃水準が 再度マイナスに転じつつあることは今後を占う 上で懸念材料といえるだろう。
 株式市場においては、第1四半期決算が堅調 だったことに加え、政権交代による政策支援期 待もあり、夏場にかけて評価が高まったが、現 在は調整局面を迎えている。
高速道路料金の引 き下げや暫定税率の廃止は直接的なメリットで はあるものの、労働規制強化の流れや運賃水準 等を懸念材料視したものではないだろうか。
 懸念を払拭するためにも、福山通運は持続成 長に向けた経営基盤の強化をいかに果たすかが 問われている。
潜在的なリスクとしての将来の 労働需給逼迫を勘案すれば、人件費や外注費の 抑制には限界がある。
やはりカギを握るのはネ ットワークのブラッシュアップだ。
 今後は配送センターの統廃合/適正配置や自 動化・省人化の推進、需要予測/配車等のシス テム投資等をはじめとした効率性改善に向けた 投資をいかに行うかがポイントとなろう。
商品戦 略の見直し/付加価値サービスの強化を通じ、運 賃水準の是正を継続できるかも重要な点である。
 ともすれば価格競争に陥りやすい業界ではあ るが、大手としての立場からも、業界の健全な 発展に貢献するべく、同社のマネジメントの手 腕が発揮されることを期待している。
ひとつやなぎ・はじめ 一九九七年三月早稲田大学理 工学部土木工学科卒。
同年四月 大和総研入社、企業調査部イン フラチームに配属。
九九年から 物流担当に。
福山通運の過去10年間の株価推移 《出来高》

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