ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年10号
ケース
住友スリーエム 拠点集約

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2009  32 拠点集約 住友スリーエム 特積ターミナルの上層階に拠点集約 横持ちを解消して輸送費を約1割削減  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
パートナーは第一貨物  今年六月、第一貨物の新・厚木支店(神奈 川県愛甲郡愛川町)が稼働した。
六階建て延 べ床面積三万三〇〇〇平方メートル余りの施 設のうち、一階と二階は特積み業者である同 社が従来と同様に仕分けターミナルとして活 用。
三〜六階は住友スリーエム(以下、スリ ーエム)の物流拠点として使用する。
 はがせる付箋「ポストイット」やテープなど の文具、工業用接着剤、研磨剤など多彩な化 学製品の製造・販売を手掛けるスリーエムは、 米国に本社を置く3M社の日本法人だ。
一九 六〇年に日本で事業をスタートし、長らく米 3M、住友電気工業、NECによる合弁企 業として活動していた。
その後、二〇〇二年 に米3Mが七五%、住友電工が二五%の株式 を保有する体制に変わり、米3Mが名実とも に経営の主導権を握った。
 スリーエムの連結売上高は二四五四億円 (〇八年十二月期)。
世界六〇カ国余りに生 産拠点を持ち、合計二五二億ドル(約二・三 兆円)を売り上げる3Mグループにあって、そ の一割強を稼ぎ出す海外現法の稼ぎ頭である。
その物流体制や管理方針も、基本的に日本法 人の判断に任されている。
 同社は現在、国内に六カ所の製造拠点を構 えている。
相模原(神奈川)と富士小山(静 岡県)に直轄の工場を持ち、他にグループ会 社が岩手、山形、茨城、滋賀で生産活動を行 っている。
このうち相模原事業所は、六一年 に国内で最初に操業をスタートした主力拠点 だ。
 従来、相模原事業所で生産した製品は、近 隣三カ所の営業倉庫に分けて保管していた。
出荷の際にはそれを第一貨物の旧・厚木ター ミナルに持ち込み、特積み輸送で全国に発送 するという流れだった。
営業倉庫三カ所のう ち一カ所は第一貨物の愛川物流センター、残 り二カ所はそれぞれ別の協力物流会社(図中 のA社およびB社)が運営していた。
 この分散していた倉庫を、第一貨物がリニ ューアルした厚木支店の上層階の施設に集約 した。
三カ所の営業倉庫のうち二カ所(第一 貨物の愛川センターおよびB社の倉庫)を、新 施設にほぼ移管。
残り一カ所は、A社が薬事 法に基づく特殊な作業をしているという事情 からとりあえず据え置いたが、こちらも将来 的には集約する可能性を残している。
 この拠点集約で保管拠点が三カ所から二カ 所に減り、しかも一カ所はターミナル内の施 設のため、出荷の際に発生する横持ち輸送の かなりの部分が不要になった。
コストに加え 協力物流会社の第一貨物が、神奈川県厚木の路 線便ターミナルを建て替えることに。
これに合わせ てターミナル上層階に相模原エリアの在庫を集約す ることにした。
横持ち輸送が不要になり、リードタ イムも短縮できる。
積み替え回数が減るので物流品 質も上がる。
当該地区における輸送費を1割近く削 減できる見込みだ。
住友スリーエム・ロジスティ ックスオペレーション本部の 栗原康道統轄部長兼ロジステ ィックスオペレーション部長 33  OCTOBER 2009 てリードタイムも短くなったことで出荷作業 に充てられる時間も延びた。
荷物を積み替え る回数が減ったことから、製品に余計なダメ ージを与える可能性も低減した。
 スリーエムの栗原康道ロジスティックスオ ペレーション本部統轄部長兼ロジスティック スオペレーション部長は、今回のプロジェク トによって「相模原地区の輸送費を一割近く 削減できると見込んでいる。
その成果を第4 四半期から享受するためにも、九月中に移管 作業を終えたい」という。
現在は旧施設から の移管作業を進めており、一〇月から新体制 を本稼働する計画だ。
秘密プロジェクトを組織  今回の拠点集約プロジェクトの発端は、〇 七年の第一貨物からの提案だった。
第一貨物 が狭隘化していた厚木支店のリニューアルを 進めるにあたって、特積みターミナルの上層 階に営業倉庫を新設したら入居しないかとス リーエムに打診した。
 スリーエムにとって第一貨物は三〇年を超 える付き合いのある長年の物流パートナーだ。
これに先立つ約一〇年前には相模原地区にお ける輸送業務の管理窓口を第一貨物に一元化 し、同社を元請けとして複数のトラック業者 を使う体制へと移行していた。
同じ頃、スリ ーエムが自社の資産として保有していた愛川 物流センターも第一貨物に譲渡するなど両者 は深い間柄にある。
 第一貨物の新たな提案はスリーエムにとっ て魅力的だった。
製品を保管している出荷 拠点とトラックターミナルを一体化できれば、 明らかなメリットが見込める。
ただし、複数 の協力トラック業者への支払いを第一貨物が 管理している状態では、横持ち輸送の削減な どによる効率化効果の内訳がスリーエム側で は確認できない。
 そこでまず、スリーエムで物流管理を担当 していた役員と、第一貨物の武藤幸規社長 らによる会合を開催。
関係者が互いに情報を 開示しながら、スリーエムの相模原地区の物 流効率化に取り組むという方向性を確認した。
このときのトップレベルの合意に基づいて、〇 七年秋から二社の共同プロジェクトが正式に 動きはじめた。
 スリーエムの社内に、ロジスティックスオ ペレーション部(以下、ロジオペ部)の五人 が参加するプロジェクトチームが設置された。
拠点集約となれば既存の協力物流会社との契 約の見直しなども絡んでくることから、当初 は「プロジェクトA」(Aは厚木のイニシャル) と称するマル秘扱いの活動だった。
 物流コンペは開催しなかった。
第一貨物の 提案内容に明らかな合理性があっただけでな く、「やはりトップレベルの信頼関係があった ことが大きかった」と栗原部長は振り返る。
 一〇年ほど前までスリーエムの物流管理は、 典型的な自前主義をとっていた。
八〇年には 「スリーエム物流倉庫」というグループの物流 子会社を設立。
保有していた愛川物流センタ ーに自ら自動倉庫を導入し、現場運営にも携 わっていた。
それとは別に、社内には通関業 務を手掛ける専門部署もあった。
 物流の現場管理まで手掛けていた理由は主 に二つ。
外部への支払いを抑制することによ る財務上の効果と、物流管理のノウハウを社 内で蓄積することだった。
しかし、外部の物 流専業者が実力をつけてくると、荷主である スリーエムが自ら物流現場まで管理するメリ ットは徐々に薄れていった。
相模原エリアにおける物流の最適化を推進中 営業倉庫 (A 社) 営業倉庫 (B社) 3M 相模原事務所 主力デポ 厚木物流 センター 愛川物流 センター 一部のみ 全国 OCTOBER 2009  34  そこで物流アウトソーシングに舵を切った。
まず自社通関のために都内に構えていた大井 事業所を〇二年に閉鎖した。
物流子会社の 「スリーエム物流倉庫」も〇四年に「関西スリ ーエム」と社名を変更。
製造子会社として再 出発し、現在では家電メーカーなどに向けて 特殊なフィルムを生産している。
分離していた物流管理を統合  自前主義のほかにも、スリーエムの物流管 理には過去の経緯を引きずっている面があっ た。
同社は製品群ごとの事業部制を採用して いる。
物流管理もかつては事業部別で、協 力物流会社の選定も各事業部で判断していた。
営業倉庫も特定の製品群ごとに契約するケー スが多かった。
その結果、たとえば相模原事 業所の近郊だけでも複数の営業倉庫を使うと いう状況を招いていた。
 物流管理のための組織も細かく分散してい た。
「物流管理部」という本社組織も設けて はいたが、その管理対象は国内物流の一部 に限られていた。
これと別に通関を担う部門 や、輸出業務を担う業務グループなどがあっ た。
生産物流と販売物流も、製造部門と営 業部門がそれぞれに手掛けていた。
 物流業務のアウトソーシングを推進するの と並行して、こうした管理体制も段階的に見 直してきた。
まずは通関や輸出業務を担う部 署を一つにまとめ「輸出入部」とした。
次い で〇六年には、輸出入部と国内物流の担当セ だ多くの施策が実行に移された。
例えば「輸 入コンテナの国内利用」というプロジェクト。
京浜港に荷揚げされた輸入コンテナを、以前 は製造子会社の山形スリーエムに陸送した後、 空の状態で持ち帰っていた。
これを改め、復 路もコンテナに製品を積み込んで首都圏向け の貨物を輸送するようにした。
 ロジオペ部の活動が軌道に乗ったことで事 業部別の物流管理はほぼ解消された。
ただ し、ジャスト・イン・タイムの納品を絶対条 件とする自動車産業を販売先とする事業だけ は、今も製造部門が主体となって物流管理を 手掛けている。
事業部の意向を受けてロジオ ペ部が物流をコントロールする体制では顧客 ニーズに即応できないという懸念があるため だ。
これも他分野と同様に将来はロジオペ部 が一元的に管理していくことを目指してはい るが、現状ではまだ過渡期にある。
 それでもロジオペ部がサプライチェーン全体 の物流管理を一元的に担う体制が整備された ことで、かつては気づかなかったムダや業務 の重複に徐々にメスを入れられるようにはな ってきた。
厚木プロジェクトはその象徴的な 取り組みだった。
 栗原部長は、「サプライチェーンを簡素化し て、モノの流れを変革する。
そういう観点か ら何をすべきかを検討した成果の一つが、今 回の第一貨物さんとの厚木プロジェクトだっ た。
他にも多くの活動を進めているが、この 取り組みの優先度はわれわれにとって非常に クションを統合して現行のロジオペ部を発足。
生産物流と販売物流も、ロジオペ部が一元的 に管理する体制へと移行した。
 物流管理を統合した直接的な狙いは、物流 コストの把握にあった。
従来のように組織が 細分化されていると、財務部門の集計が出る まで、物流コストが全部でいくら掛かったの か分からない。
物流コストの変動要因を理解 するのも難しかった。
経営陣が物流コストの 動きを把握し、適切な手段を講じるためにも、 「やはり管理は一元化した方がいい」という 判断が下され、これがロジオペ部の誕生へと つながった。
 組織を見直したことで、業務の壁をまたい ロジスティクス部門の権限を拡大した 調達物流生産物流販売物流 サプライヤー スリーエムの 製造部門が管理 従来 現在 製造コスト スリーエムの ロジスティクス部門が管理 全行程をロジスティクス部門が管理 (ポイントは可視化・提案・コミュニケーション・合意形成) 運送コスト 工場協力工場物流拠点 (デポ) カスタマー 3M 35  OCTOBER 2009 る中核物流拠点の賃料は大消費地の営業倉庫 に比べれば安い。
全体としてはかなりのコス ト削減が実現するものと思われる。
 ただし、別の考え方もありうる。
スリーエ ムの国内の顧客の大半は東京・名古屋・大阪 という大消費地に集中している。
場合によっ ては、全国六カ所の製造拠点からそれぞれに 出荷するより、消費地の近くに販売物流のた めの大規模な物流拠点をいくつか構えて、そ こから出荷した方が輸送コストを低減できる のではないか。
地方から出荷するより営業倉 庫の賃料は高くなるはずだが、輸送コストま でトータルで考えればかえって有利なのでは ないか──。
 このように考えていくと、製造拠点のある 六エリアごとに物流インフラを整備するのでは なく、たとえば東西二拠点に大規模な出荷拠 点を構えて、そこに製品をすべて集約してし まうといった方向性も生まれてくる。
たとえ ば第一貨物の厚木の施設に、相模原事業所の 製品だけでなく全国六カ所で作られる製品を 集約する。
その上で、ここ一カ所で東日本全 域の顧客をカバーするようにできないか、と いうわけだ。
 もちろん、こうした方針に基づいて設計 されていない第一貨物の厚木ターミナルでは、 新たな構想を具体化するには規模が足りなく なる可能性が大きい。
それでもこの九月をメ ドに相模原地区の移管作業を完了してから、 すぐに他の五カ所の製造拠点で同様の拠点集 約に着手するかどうかは、再考の余地がある と栗原部長は考えている。
全国を視野に入れ たシミュレーションを、あらためて実施して みる必要がありそうだ。
 抜本的な方針転換につながりかねない選択 肢を新たに考慮しはじめた背景には、米3M のグローバル戦略の変化がある。
前述した通 り、日本国内の物流管理については従来、ほ ぼ日本法人の判断に任されていた。
だが米3 Mがグローバル経営を強化するなかで、日本 も属しているアジア・パシフィック全域を見 渡したオペレーションの最適化を視野に入れ る必要性が生まれてきた。
 最近の3Mは、世界規模で生産活動の最適 化を図る姿勢を強めている。
アジア・パシフ ィック全域を視野に入れた生産拠点の再配置 という新たな方針が出てきても不思議ではな い状況にある。
「仮に生産拠点の配置を見直 すことになったら、それに基づいて輸出入ま で含めたロジスティクスの最適化に取り組まな ければならない」と栗原部長。
 このような変化の可能性まで見越した、国 内物流の最適化とはどうあるべきなのか。
ロ ジスティクス戦略の柔軟性を確保するために、 変化に対応しやすいノン・アセット型の物流 事業者との協業という選択肢だってありえる かもしれない。
現実が変化していく速度にも 目配りしながら、最善の判断を下していくこ とが求められている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 高かった」と強調する。
 たまたま第一貨物からの提案があったこと で具体化したプロジェクトだが、ロジオペ部 としては、これを全国の製造拠点に横展開で きるソリューションと認識していた。
相模原 で成功したら同様のことを山形や岩手でも実 施する考えだった。
相模原地区での取り組み を、全国六カ所にある製造拠点の先行事例と みなしたのである。
相模原エリアの最適化から広域管理へ  これまでのところ厚木プロジェクトは順調 に推移している。
特殊な製品を扱う外部倉庫 の集約など積み残した課題もあるが、「製造 拠点には材料倉庫が一カ所だけあり、出荷拠 点についてはお客様のそばに一カ所だけある 状態が望ましい」(同)という理想形に向けて、 進むべき方向性はハッキリと見えた。
 しかし、最近になって、他のエリアへの横 展開は慎重に検討する必要があると栗原部長 は考えるようになった。
現在のスリーエムは、 各地の製造拠点で相模原地区と似たような物 流管理を行っている。
程度の差こそあれ、そ れぞれに過去の経緯をひきずって複数の営業 倉庫と協力トラック業者を使っている。
 仮に岩手や山形でも相模原と同様の物流改 革を実施すれば、製造拠点における物流は格 段に効率化できるはずだ。
各製造エリアから 全国に出荷する輸送コストは従来と変わらな いが、全国六カ所にそれぞれ構えることにな

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