ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2005年10号
特集
物流行政の新常識 港湾──ユーザー本位の港をめざす

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 16 規制緩和は着々と進んでいるが‥‥ 港湾運送事業は規制緩和の遅れた分野というイメ ージが強い。
大量の輸出入貨物を扱う関係上、守る べきルールはたしかに多い。
しかし、法律上の事業規 制の緩和はそれなりに進んでいる。
近年では二〇〇〇年十一月に施行された「港湾運 送事業法」の改正が大きい。
このとき政府は、全国の 港に先行するかたちで主要九港(東京、横浜、名古 屋、神戸など)の港運事業の需給調整を廃止した。
事 業への参入手続きを免許制から許可制に移行し、料 金も認可制から届出制に改めた。
この規制緩和は、九六年の行政改革委員会の議論 と、その後の総合物流施策大綱の方針に応えて実施さ れた。
背景には、香港、シンガポール、釜山などアジ アの主要港の台頭と、その裏返しとしての日本の港湾 の競争力低下があった。
この状況を変えるため、主要 港の運営に競争原理の導入を促したのである。
それなりの成果は出た。
財務省によると、九〇年頃 に一週間を要していた輸入コンテナの入港から引き取 りに要するリードタイムは、現在では平均二・三日程 度まで短縮されている。
シンガポールの「二四時間以 内」と比べるとまだ彼我の差は大きいが、前進してい ることは間違いない。
二〇〇一年には、港湾運送業の 労使間で二四時間荷役を認める合意がなされ、正月 を除く年間三六四日稼働の可能性も出てきた。
ある荷主企業の物流マネジャーも、「以前に比べれ ば港湾の使い勝手はよくなった」と評価する。
ただし 「荷主の立場では、リードタイムの平均値が二日に短 縮したと言われても実はあまり意味がない。
平均値が 二日だとしても、バラツキがあって四日かかることも あるようでは結局は四日分の在庫を持たざるをえな い」と現状への不満も漏らす。
実際、日本の港湾の相対的な競争力は二〇〇〇年 以降さらに低下してしまっている。
次ページに、一九 八〇年と二〇〇四年のアジアの主要港のコンテナ取 扱量を比較した図を掲載した。
この四半世紀で、日 本の港の国際的地位がいかに低下したかが如実に示さ れている。
さらに図中にはないが、規制緩和がなされ て以降の二〇〇一年の実績値と、現在の数値を比較 してみると問題の深刻さが分かる。
第一位の香港の二〇〇四年の取扱量は、二〇〇一 年比で三・九百万TEU(二〇フィートコンテナ換 算)増えた。
シンガポールは五・一百万TEU増、釜 山も三・五百万TEU増。
中国シフトの恩恵を受け た上海は八・二百万TEUも急増している。
一方、日 本の主要港も、東京が八一万TEU増で、横浜が一 七・七万TEU増と伸びてはいるが、桁が違う。
神 戸については五・四万TEUのマイナスだ。
トランシップ(通過貨物)の多いアジアのハブ港では、一部の取扱量がダブルカウントされている点は考 慮する必要があろう。
それを差し引いても伸び幅は圧 倒的だ。
上海にいたっては、昨年だけでほぼ東京港の 年間取扱量に匹敵する物量を増やした。
日本の主要 港の競争力低下は依然として止まっていない。
覚悟もあらたに港湾行政を転換 港湾の国際競争力が落ちると、将来的には荷主企 業の競争力低下を引きおこす。
日本の港と海外を直 接結んでいる航路が、たとえば日本→釜山→海外とい う具合にアジアのハブ港経由に変わることを、港湾の 世界では「フィーダー港化する」という。
これは日本 の荷主にとっては、リードタイムが伸び、物流コスト が上昇してしまうことを意味している。
港湾──ユーザー本位の港をめざす 日本の物流業のなかで港湾関連事業は近代化が遅れて いる。
そのツケが、主要港の国際的な地位の低下として ますます顕在化してきた。
現状を打開するために国交省 は今年7月、港湾経済課を新設。
矢継ぎ早に施策を打ち出 して港湾行政のテコ入れを図っている。
めざすは利用者 ニーズに応えられる港の実現だ。
(岡山宏之) 第3部 17 OCTOBER 2005 国交省の試算によると、もし日本の港が完全にフィ ーダー港化してしまったとしたら、輸入品の製品価格 は二〜五%上昇する。
輸出コストも上昇するため、日 本発の製品の国際競争力が低下し、一〇年間で三〜 四兆円の輸出減につながる可能性があるという。
こう した事態を荷主企業が放置するとは思えないため、国 内産業の一層の海外流出が避けられなくなる。
現状を重くみた国交省は、改めて港湾行政のテコ 入れを図った。
今年五月に成立した「港湾活性化法」 (改正港湾法)では、京浜、伊勢湾、阪神の主要三港 を「スーパー中枢港湾」に指定し、アジアの主要港に 匹敵する競争力をつけさせようとしている。
港運事業 の規制緩和も、二〇〇〇年の主要九港から一歩進め て全国に拡大する。
さらに夜間入港規制の緩和など、 施策を矢継ぎ早に繰り出している。
三〜五年後をメド に港湾コストを三割減らし、リードタイムは二四時間 以内というユーザー本位の港の実現をめざす。
港湾行政の組織も大幅に見直した。
今年七月に港 湾局に港湾経済課を新設し、港運事業を管轄してい た海事局港運課をここに移管。
インフラ整備やIT 化の推進部門も新セクションに集約して、港湾に関す るハードとソフトの行政を一元化した。
身内に潜むムダにもメスを入れている。
これまで港 湾の実務管理は、地方自治体などを母体とする各地 の埠頭公社に委ねてきた。
これがスーパー中枢港湾プ ロジェクトでは、国が自ら現場運営に口を挟んで公社 業務の効率化を主導している。
「まずは官が自ら血を 流す姿勢を見せなければ、本気度が伝わらず日本の港 湾は変わらない」(港湾経済課の安部賢課長補佐)と いう覚悟のあらわれだ。
港湾コストが高止まりしている理由として、港運事 業者の多くは、埠頭公社によるターミナルコストや入 出港料の高さが一因と主張している。
港湾経済課と しては、まず官のコストを引き下げ、次の段階で港運 業者自身の努力を引き出したい考えだ。
その上で、名 目上は可能になった日曜荷役や二四時間稼働が、民 間主導で拡大していくことを期待している。
国際物流の関係者が直視すべき現実 もっとも、時間外業務が一部でしか実施されないこ とについても港湾運送業者なりの言い分がある。
港運 事業に携わった経験が長く『港運実務の解説』という 著書もある田村郁夫氏は、日曜荷役などが進まない 理由をこう指摘する。
「港運業者だってやる気はある。
だが現状では物量が中途半端にしか集まらないことが 多く、クレーンを動かしても採算がとれない」 この言葉が示すように、港湾活性化の取り組みが行 政の思惑通りに進むかどうかはまだ分からない。
さら に依然として港湾に灰色のイメージがつきまとってい ることも事実だ。
それでも国際物流の関係者が港湾から目を背けていては仕事にならない。
逆にここで巧く 業務をさばけば、ライバルとの差別化を図れる。
日本の港湾の一面を知るうえで格好の教科書をお 薦めしたい。
横浜港を地盤とする有力港湾荷役業者、 藤木企業の藤木幸夫会長の著書『ミナトのせがれ』と いう本だ。
日本で七〇年代にコンテナ化がスタートし たときに藤木氏が関係者間の調整に奔走した様子や、 著者と山口組三代目組長との交際などが赤裸々につ づられている。
港湾業界ならではの労使協調の場であ る「事前協議制」の背景を垣間みられるはずだ。
日本の港湾の国際競争力を回復させるためには、行 政だけでなく荷主を含む関係者すべてが、真摯に現実 と向き合う必要がある。
日本の主要港がフィーダー港 化してしまってからでは手遅れだ。

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