ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年8号
特集
第5部 儲けたければ“白書”を使え

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

AUGUST 2009  32 儲けたければ“白書”を使え  政府や各省庁が発表する白書や指針は単なる“お題目” ではない。
その後の政策の青写真が明確に映し出されて いる。
最新の物流施策大綱の叩き台となった「2010 年 代に向けての物流戦略委員会・最終取りまとめ」には物 流に関するビジネスチャンスが数多く隠されている。
詳細 に中身を読み解けば、次に打つべき一手が見えてくる。
貿易産業一本槍からの脱却  ビジネス活動において、どんな情報を利用している だろうか。
新聞のトップ記事や経済欄? インター ネットニュース? そんなものが直接ビジネスの参考 になるのは、せいぜい大企業くらいのものだろう。
少 なくとも中小企業にとっては、頼るべきガイドや指針 にはなり得ない。
 “白書”の活用を強く勧めたい。
通商白書、ものづ くり白書、中小企業白書‥‥。
政府や各省庁が発行 している白書には、直近の経済状況と問題点の指摘、 対策となる政策課題の詳細が列挙され、我が国の進む べき設計図、青写真が描かれている。
 そして、過去の例を見る限り、その後の施策は必ず その設計図通りに進められている。
つまり、白書の中 身を正確に読み解けば、自ずと次に打つべき一手が見 えてくるということだ。
 物流業界においては、「物流白書」というものは存 在しない。
しかし、物流行政をとりまとめた「総合物 流施策大綱」というものがある。
経済環境の変化等に 対応するため、五年ごとに見直し・更新が行われる。
 過去の大綱においては、高層ビル街の共同配送、国 際クーリエの免許解放、関税手続きの簡素化やシン グルウィンドウと呼ぶ貿易手続き書類のデジタル化と いった具体的施策が盛り込まれ、実施されてきた。
ま た、環境対策や燃料高騰への行政としての対応策や、 規制緩和と新規規制、助成と減免なども明確に示さ れてきている。
 今年七月一四日、五年の定期更新期を迎え、新た な総合物流施策大綱(2009-2013)が閣議決定された。
本稿ではその叩き台となった、産官学一体の「20 10年代に向けての物流戦略委員会・最終取りまと め」について論じたい。
 同報告書には、旧大綱からの継続テーマおよび新規 テーマがふんだんに描かれており、新たな産業構造と 物流モデルの姿が示されている。
物流関係者にとって 大きなアドバンテージとなる情報が盛り込まれている のだ。
さっそく内容を見ていこう。
 大枠として、昨年来の金融大不況を経て、貿易産 業一本槍の産業構造から新たなアジアボーダレス経済 への転換を目指した指向性が読みとれる。
 商品・サービスの劇的な低価格化、そのための機能 絞り込みや生産手法の転換など、産業界が取り組む 課題は大きい。
生産と販売の国際一貫マーケティング への転換こそが既存産業の生き残り策であり、我が国 の国境を一気に押し広げることが物流部門に課された 新たな使命であるかのようだ。
 来るべき少子高齢化と内需の低迷を越えてゆくため には、販売と生産のよりいっそうの外地シフトが欠か せない。
マーケットを、日本を含む東アジア全域と見 なさなくてはならないのだ。
我が国の商品・サービス の品質は高く、「日本ブランド」とも呼ばれてきたが、 価格を半減することによる外地での需要拡大は確実に ひとつのチャンスでもある。
物流が果たすべき役割は、 適時適量納品をコストダウンを図りながらシームレス に、かつアジアを含めた国際一貫物流の手法で実現す ることにあると示されている。
 同時に環境配慮やセキュリティの確保など、効率性 や物流速度に対立する課題が高くそびえている。
しか しその反面、関係事業者の協調会議体制、制度融資 や新たな助成を含む施策も準備されている。
すべての 課題を独自の企業努力、自己責任に追い求めている わけではないのだ。
 港湾、空港、高速道路網の整備と改善は着々と進 イーソーコ総合研究所 花房陵 主席コンサルタント 花房陵(はなぶさ・りょう) 1978年慶 応大学経済学部卒、85年より経営・物 流コンサルタントとして活動。
28業種、 250カ所以上の物流施設で改善指導を行 う。
著書に「図解入門ビジネス:最新戦 略物流の基本とカラクリがよーくわかる 本」、「現場でできる物流改善─コストダ ウン・品質アップ・指標向上」など。
第5 部 33  AUGUST 2009 政治と物流──荷主主導に舵を切れ 行しており、国際物流の効率化のステージは出来上 がりつつある。
これにより、日本国内と海外は物理 的に一気通貫の体制に近づいてくる。
それぞれのポ ジションで活躍していた物流業者も、陸海空をシー ムレスに繋ぐための事業規模拡大を目指し、社内の 組織改革も進むであろう。
 物流情報システムが二四時間世界を巡り、まさ にインフラとしての物流ネットワークが構築される。
宅配便で完成したトレーサビリティが拡張し、無線 タグを利用した貨物情報が陸海空を網羅する。
我が 国の物流技術が花開くのも間近なのである。
 昔から言い尽くされてきた『国際ドア・ツー・ド ア物流』が今ほど渇望されている時代はないだろう。
総合物流企業の会社案内にしか見られなかったセー ルストークが、本格的に我が国の政策としても指向 されるようになってきた。
人種が違うとも言われる ほどの国際物流、国内物流の垣根が取り払われ、陸 海空の物流モードは統合化されることによってしか ビジネスチャンスは拓けない。
M&Aで生き残れ  中小零細の物流事業者に残された道は、上流下 流を担う物流パートナーとの戦略的事業提携だろ う。
戦略的とは肉を切らせて骨を断つような、資本 提携やM&Aまでも視野に入れるべし、という意味 でもある。
どのような物流企業も貿易業務では欠か せないNACCASシステム導入もかなわないなら、 ネットワークと連携こそが生き残りの道である。
し かも、仕掛ける側に立たねばならない。
 製造流通事業者の物流部門は、製造販売のアジ アグローバル化がキーワードである。
流通業は人口爆 発のアジア商圏への出店が、製造業であれば生産拠 点・物流拠点のポジショニング(立地選定)が価格競 争力の決め手となるからだ。
スマイルカーブと呼ばれる 付加価値を生むモジュール(特殊機能部材)、ソリュー ション(完成品を利用した新たなサービス)の展開に も物流の国際化が欠かせない。
いっそうの低価格競争、 現地生産・現地販売の対象としてのアジア域内を、物 流によって海と空を制覇することが求められている。
 絶望と不安に襲われた〇八年度決算ではあったが、 大手企業では景気底入れ感や在庫調整が終わりつつ あるとの報告も上がっている。
しかし、これからの事 業運営は決して元の姿には戻らない。
従来の七割経済 での運営が必須となっている。
製品はいっそうの低価 格化と機能絞り込みが進み、製造と販売が劇的に変 わる。
物流もまた進化と変化を遂げなければならない。
いずれ復調するだろうという楽観は必ず絶望に変わる。
 これからどうなる? 正解は誰にも分からない。
だ が、産官学の優秀な専門家が描く物流政策の青写真 を知ることが、唯一、今後の見通しを得る方法なので ある。
そこに精度の高い事業計画が成り立つステージ が見えてくる。
 なお、本稿では詳細を述べなかったが、環境対策 やセキュリティなどの重要テーマは、物流効率化やス ピードアップと対立する要素ではある。
効率化阻害は コストに影響し、速度遅延はサービス品質の足を引っ 張る。
しかし、新しい対立要素は技術と仕組みで解 決可能である。
関係諸団体、企業の尽力に期待する ものである。
 同時に通商白書や中小企業白書、ものづくり白書 の詳細事例を見ると、新産業の萌芽とも言える事例や 政策も窺える。
ニュービジネスにはニューロジスティ クスが欠かせない。
読者各位の研究と気づきの発想を 期待して止まない。
物流戦略委員会とりまとめ体系実行すべきテーマ実現のための具体的施策今後のビジネスチャンス モニターリング調査 実証実験企業の選定 ★国際一貫物流のトレーサビリティ拡大 アジア諸国物流大臣会合の開催 国際パートナーシップ会議の開催 空港での各種改善事業 流通網調査事業 空港間の共同輸送 共同配送実証実験 ★空港間共同配送事業の開発 コンテナ物流の改革プログラム ターミナル24時間化 ★ドレージリードタイムの削減 内航フィーダーモデル事業 鉄道連結モデル事業 ★通運海運一貫輸送の開発 インランドデポコンテナ輸送モデル事業 ICタグモデル事業実施中 スーパー中枢港湾 プロジェクト 内航フィーダー&鉄道接続 ★通運海運一貫輸送の開発 アジア輸送化プログラム 環日本海圏輸送網 産業港湾インフラ刷新 2015年パナマ運河拡張対応 ★大型コンテナ船就航 ばら積み船大型化 大水深航路 産業港湾の提供 環状道路整備の推進 道路整備事業の推進 ★環状道路整備計画 コンテナ輸送に対応できる道路網 コンテナ拠点施設の開設 ★インランドコンテナターミナル計画 KS/RA制度拡大※ 指定業者制度の認定 ★物流企業のブランド化 利用運送事業者の研修 各種研修事業の実施 ★教育制度による差別化推進 JR貨物増強 隅田川駅増強 ★通運貨物の増加とリードタイム短縮 鉄道貨物駅E&S推進※ 実証実験企業の選定 IT−FRENS活用※ 列車積載率向上 代替建造船促進 新規造船助成 ★内航造船需要の拡大 省エネ船促進 省エネ船改造助成 フェリー運航活性化 ETC導入、サービス強化 グリーン物流パートナーシップ 会議普及事業 ★荷主連携、省エネ拠点整備需要増加 物流連携効率化 推進事業促進 ★都市内物流施設の需要増加 共同上屋基準の見直し 都市部の物流配慮 8.環境対策 1.国際一貫物流の推進 2.羽田・成田空港の物流円滑化 3.シームレス物流網の形成 4.道路ネットワーク整備 5.安全セキュリティ対策 6.鉄道増強、近代化、積載率向上 7.RORO 船、内航コンテナ、 フェリー強化 ※KS/RA 制度(Known Shipper/Regulated Agent):指定荷主、登録業者制度 ※鉄道貨物駅E&S推進:引き込み線を利用しない鉄道コンテナ荷役方式 ※IT│FRENS:鉄道コンテナの電子オペレーション管理

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