ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年8号
特集
第3部 議員が語る物流政策の争点「霞ヶ関を動かせるのは自民党だ」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

オープンスカイで航空局と激突 ──民主党は高速道路料金の無料化や軽油引取税の 暫定税率撤廃などを公約しています。
 「公約はバラ色でも実際には財源がない。
ましてや 国家的な物流戦略の具体論など何もない。
いくら民主 党が?霞ヶ関解体?というスローガンを掲げても、彼 らに官僚と対峙する力があるとは思えません。
政策 というのは、どちらが合理的なのかをぶつけあう理 論闘争です。
そして役所や官僚は極めて優秀な専門 家集団です。
本気で霞ヶ関を動かそうとするなら政治 家一人ひとりが力を付けるしかない。
しかし民主党 の議員たちを見ても、官僚たちを打ち負かせるだけの 勉強をしていない。
彼らにできるのは官僚を叩くこ とだけです。
それでは、いたずらに混乱を招いてし まうことになる」 ──現在の政府に国家的な物流戦略があるとすれば、 安倍内閣が二〇〇七年に策定した『アジア・ゲート ウェイ構想』がそれに当たると思います。
根本議員が 経済財政担当の首相補佐官としてその取りまとめ役 を務めた。
 「安倍内閣の経済政策のコンセプトは『オープン』と 『イノベーション』でした。
このうち私はオープンを担 当してアジア・ゲートウェイ戦略を取りまとめました。
オープンというのは日本をより開かれた国にすること で、アジアの活力を呼び込もうという考え方です。
ヒ ト、モノ、資本の点で、日本が世界とアジアの架け橋 になる。
アジア経済のグローバル化の先導的な役割を 日本が果たそうという発想でした」 ──物流面では?  「空港と港湾がテーマでした。
このうち空港について は『アジア・オープンスカイ』と羽田空港の国際化・ 二四時間化の二つが大きな柱です。
アジア・オープン スカイというのは、空港の自由化を進めてアジアの航 空ネットワークを日本が押さえてしまおうというもの です」  「世界の航空路線は既に六割が自由化されています。
どの空港にどれだけ飛行機を飛ばすかということを 昔は二国間交渉で決めていた。
それが一九九〇年代 に入って民間航空会社と空港が直接交渉して、話が つけば自由に乗り入れられるように変わってきた。
日 本もこの動きに乗り遅れないように空港を自由化して、 民間の経営判断によってスピーディにネットワークを 広げていこうという施策です」 ──港湾については? 日本は港の国際競争力が低 下しているのに、輸出入貨物の量自体は増えていて 新規参入がないため、港湾事業者の業績は昨年の金 融危機までは堅調でした。
 「許認可が全て悪いわけではありません。
しかし許 認可を管理する行政に競争の視点がなければ、ただの 利権になってしまう。
そのため基本的に規制産業とい うのは競争力が弱い。
また過去の港湾行政には、利 用者のニーズが入っていなかった。
港湾が国交省、財 務省、経産省という三省庁の縦割り管理にもなって いた。
その結果、日本の港の?抜港?現象が続いて いる。
地盤沈下が長いこと続いてしまった」  「港の国際競争力を回復するために国交省は『スー パー中枢港湾』などの整備を進めているという。
し かし、ハード面だけでなくソフト面の制度改革も必要 だろうということで、アジア・ゲートウェイ戦略会議 では荷主にも入ってもらって、具体的にどこがネック になのかをハッキリさせたうえで、貿易手続き改革を 行いました。
数値目標を持った三カ年計画を策定し てリードタイムの短縮を実現した。
財界からも高く評 「霞ヶ関を動かせるのは自民党だ」 AUGUST 2009  16  日本の物流インフラが国際競争力を失った最大の原 因は、縦割り行政と省庁の強い縄張り意識にある。
そ れを打破するには、政治家個人が役所と渡り合えるだ けの理論武装をする必要がある。
民主党の議員たちに その用意があるとは思えない。
根本 匠 自民党衆議院議員(アジア・ゲートウェイ戦略会議担当官) 第 3 部 議員が語る物流政策の争点 政治と物流──荷主主導に舵を切れ 価されました」 ──日本の空港や港湾の国際競争力が低下した原因 として、やはり縦割り行政の問題が大きいという認識 ですか。
 「縦割り行政と役所の縄張り意識が問題の本質です。
彼らは自分たちの守備範囲でしかものを考えない。
そ こを引っ張っていけるのは政治家しかいません」 ──アジア・ゲートウェイでも行政とはぶつかった?  「さんざん航空局とやり合いましたよ。
彼らは二国 間交渉による権益(発着枠:スロット)の交換とい う発想から最後まで抜け切れなかった。
最終的には官 邸主導で押し切りましたが、そうしなかったらいまだ にオープンスカイなど実現できていなかったはずです。
そもそも航空局の所管に政治家が注文を付けているわ けだから面白いはずがない。
普通ならそんな専門的 な話に政治家は口をはさまない」  「しかし、国益という立場で政策を考えればオープ ンスカイは見過ごせないテーマでした。
既に当時から 欧米の先進国は協定の締結に向けて動いていた。
私 自身現地に飛んで関係者や専門家に話を聞いて回り ました。
もはやオープンスカイが経済活力を生むとい うことは世界の常識になっていた。
航空路線という 資源の配分を官に決めさせるよりも、民間が自分で採 算を判断して路線の乗り入れを決めたほうがずっと活 性化が進むという結論が出ていた」 ──航空局は専門家ですから、そうした動きも分かっ たうえでオープンスカイに反対していたわけでしょう?  「航空局には国や地域を活性化するという視点など ありませんからね。
それでも彼らの専権事項を引っ繰 り返すのは容易ではありませんでした。
局長と議論 するために制度の歴史や世界的な動きに関連する文献 にはほとんど目を通したつもりです。
そこまでやらな いと官僚の壁は突破できない」 経済学者に答えは出せない ──タクシー業界が再び競争規制を強化しました。
規 制緩和は揺り戻されるのでしょうか。
 「規制緩和を推進した小泉構造改革には大きな意義 があったと思います。
不良債権を処理して、雇用、設 備、債務の?三つの過剰?を解消することで、日本 経済は筋肉質になり競争力を取り戻した。
そのため に規制緩和や企業の再編合理化のためのスキームなど 様々な政策を打ってきた」  「しかし、完全競争というのは、学問上の経済モデ ルであって実際の市場は失敗もする。
その場合には 修正しないといけない。
規制緩和によってタクシード ライバーの数は四〇万人から四四万人に増えた。
四万 人の雇用が新たに生まれて良かったと経済学者は言う。
しかし、昔は五〇〇万円あったタクシードライバーの 年収が、今では三〇〇万円を切ってしまった。
規制 緩和が給料の切り下げ競争を招いてしまった」  「トラックも同じです。
規制が緩和されて、新規参 入がどんどん進んで過当競争になって料金が下がる。
同時にワーキングプアが生まれる。
これを市場原理が 上手く機能したと言えるのかどうか。
料金が下がった ことは、確かに消費者の利益です。
しかしドライバー もまた消費者なわけです」  「それをどう見るかということが今問われている。
経 済学者には回答は出せないと思います。
規制緩和と いうのは経済の切り口からしか現実を見ていない。
政 治の世界では経済の活性化とは別に、市民生活の安 全・安心も無視できません。
つまり政治は社会経済 学なのであって、経済だけで全てを判断することはで きないんです」 17  AUGUST 2009 根本匠(ねもと・たくみ) 1951年、福島県生ま れ。
東京大学経済学部卒。
74年、建設省入省。
91 年退官。
93年の衆院選で自民党から出馬し初当選。
現在まで当選5回。
選挙区は福島県第2区。
厚生 政務次官、党広報本部長、衆議院経済産業委員長 などのほか、安倍内閣では内閣総理大臣補佐官を 務め「アジア・ゲートウェイ戦略」の取りまとめを 行った。
古賀派に所属。
PROFILE

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