ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年8号
特集
第3部 議員が語る物流政策の争点「負の遺産を白日の下にさらけ出す」

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

公務員制度をゼロベースで見直し ──民主党のネクスト・キャビネット(次の内閣)の 国土交通大臣として、政権を取得したら何をするつ もりですか。
 「実際に民主党が政権を取った後も、そのまま私が 大臣を続けるのかはわかりませんが、いずれにして も日本の国土交通を、五〇年間続いた自民党政権の 呪縛から解放するのは革命的なことです。
すべてが一 朝一夕に片付くわけでもありません。
しかし、我々 はやらなければならない。
これまで国民に知られる ことのなかった負の側面を白日の下に晒し、一つ一つ 解きほぐしていきます」 ──民主党は高速道路料金の無料化や、軽油引取税 の暫定税率の撤廃などを公約に掲げていますが、実 現可能性を疑問視する声も少なくありません。
 「福田内閣の時に道路特定財源が一般財源化されま したが、追い込んだのは間違いなく民主党です。
国 土交通の本丸である道路財源に、野党という立場で ありながら、あそこまで深く切り込むことができた。
政権与党になって切り込めない理由がどこにあるので しょうか。
もし公約を守れなければ、政権から退くだ けです。
国民が許さない。
それが民主主義社会の本 来あるべき姿でしょう」 ──政官業各方面からの強い抵抗が予想されます。
 「道路特定財源に切り込んだときも、複数の知事か ら『道路が造れなくなってしまう。
民主党は何を考 えているのか』とお叱りを受けました。
同等の金額 を一般予算として保証すると言っても、彼らは納得 しない。
『支援団体は道路関係者だから、道路だけに 特化して使える金でなければ貰っても意味がない』と いう理由です。
ほとんど喜劇ですよ。
特定財源を支 援団体の社会保障か何かと勘違いしている。
そうい う体質が染みついている。
断固、排除していきます。
我々の役割は特定財源で食っている、特定の人々を守 ることではない」 ──これまでは物流に関して、政治家主導の国家ビ ジョンが見えなかった。
民主党が政権を取れば何か変 わりますか。
 「貿易立国の日本にとって、国際物流は極めて重要 なものだと認識しています。
ところが港は釜山の後塵 を拝し、空港は仁川に遅れを取っている。
タイをはじ めとした新興国の発展も目覚ましいものがある。
日 本の物流の国際競争力が相対的に低下しているのは 明らかです。
にもかかわらず、国内ではとても必要 とは思えないインフラを作り続けている。
これでは確 かに国としての物流ビジョンが無いと言われても仕方 ありません」  「個別最適の考え方ではなく、日本の物流をトータ ルで考える必要がある。
そのためには、今までの延 長線上で?接ぎ木?のような法律や戦略を作っても 何の解決にもなりません。
抜本的に物流のあり方を 見直さなければ、とても対応できない」 ──個別最適の考え方は、縦割り行政によるところ が大きい。
 「その通りですが、官僚ばかりを責めても仕方あり ません。
省庁間の縄張り争いのDNAは昔から連綿 と続いている。
官僚機構の仕組み自体に、政治がメ スを入れる必要がある」  「横串を刺すことが重要です。
二〇〇一年に中央省 庁再編が為されましたが、残念ながら抜本的な解決 にはならなかった。
国交省に関して言えば、運輸省、 建設省、国土庁、北海道開発局が統合されて設立さ れたわけですが、既存の組織を寄せ集めただけでは構 「負の遺産を白日の下にさらけ出す」 AUGUST 2009  14  国土交通政策に蔓延する個別最適主義を一掃する。
聖域である特定財源や暫定税率にもメスを入れる。
自 民党の残した負の遺産の延長上では抜本的な改革はで きない。
いかに霞が関が混乱しようとも、“創造のため の破壊”は厭わない。
長浜博行 民主党参議院議員(「次の内閣」国土交通大臣) 第 3 部 議員が語る物流政策の争点 政治と物流──荷主主導に舵を切れ 造改革は実現しない」  「民主党に任せてもらって、ゼロベースから公務員 制度を見直すほか無い。
おそらく霞が関はいったんめ ちゃくちゃに混乱するでしょう。
長年続いた慣行にメ スが入るのですから当然です。
それでもそこからヒン トを得て改善に繋げていけばいい。
硬直化した今の体 制で改革を進めるのは不可能です」 対立軸の定まらない自民と民主 ──民主党は規制緩和の見直しを掲げていますが、長 浜議員はもともと推進論者のはずです。
 「規制緩和が私の大きな政治テーマであることは確 かです。
しかし、ステレオタイプに規制緩和に賛成・ 反対ということではありません。
その時々の情勢を 鑑みながら、国民または経済活動の主体者にとって コンフォータブルであるのかないのか、そういった判 断をする必要があります。
例えば高速料金が下がれ ばトラック事業者にはプラスかもしれませんが、フェ リー業界は苦しみます。
また、モーダルシフトとの矛 盾も指摘されます。
これらを解消するには総合交通 体系の見直しが必要ですが、その見直しという意味 は規制緩和ですか?  強化ですか?  と聞かれても 答えようがありません。
意味がない」 ──多くの国が保護主義に回帰しています。
 「欧米と日本では事情が異なります。
欧米ではサッ チャーやレーガンに代表されるような政治家が自由化 政策を進めても、それが壁に突き当たれば、ごく当 たり前に政権が交代してきた。
国民は政策によって その時代の政権を選択してきました。
ところが日本 では政権交代がほとんど行われてこなかった。
規制 緩和の対立軸が、民主党と自民党の間で明確に取れ ていないためです」  「例えば、今国会でタクシー業界の規制強化が決ま りましたが、これは全会派一致でした。
そのこと一 つとってもわかるように、日本では政党が政策誘導 をしながら、ある方向に導いていくということに成 功していない。
もう一歩踏み込んで言うなら、例え 民主党が政権を取っても、今の政党政治の枠組みで はこのフラストレーションを解消することはできない かもしれない」 ──日本の物流業界におけるこれまでの規制緩和を、 どう評価していますか。
 「規制緩和には必ず光と影があります。
トラック業 界の規制緩和によって、物流コストは下がりました。
また、業務を効率化するために、単なる輸送から?ロ ジスティクス?という概念の進化がもたらされたのも 大きな功績といえるでしょう」  「ただ、公的規制は経済的規制と社会的規制の両面 を持っている。
経済的規制を緩和したことにより、過 剰労働や安心・安全、過積載といった社会的規制が 脅かされる要因も出てきています。
悪貨が良貨を駆 逐している面もある。
当初言われていたように、市 場メカニズムに任せておけば全てが最適化され、荷主 や顧客、物流事業者などの効用が極大化するという ことにはならなかった」  「弱い人の声を聞くよりも、経済原理だけで突っ走っ てしまった。
それがバブルを呼んだ。
郵政民営化も熱 に浮かれていた部分がある。
一方でJRとほぼ同じ 時期に民営化したJALを国が救済している。
再び 国有化することまで議論されている。
しかし高給取 りだったJALのOBたちの企業年金まで国が保証す ることを、低賃金に苦しんでいるドライバーたちは納 得してくれるのだろうか。
我々はいずれについても 責任ある判断を下していく必要があります」 15  AUGUST 2009 長浜博行(ながはま・ひろゆき) 1958年、東京生ま れ。
82年、早稲田大学卒業後、松下政経塾に入塾。
伊 藤忠商事などを経て、家業の町工場に勤務。
92年、細 川護煕氏の日本新党結党に参加し、公設第一秘書を務め る。
93年、衆院選に日本新党から出馬し、当選。
2003 年に民主党から出馬し、3回目の当選を果たす。
「次の内 閣」環境大臣、民主党千葉県総支部連合会代表などを歴 任。
07年、参院選に出馬し当選。
「次の内閣」国土交通 大臣に就任。
PROFILE

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