ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
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2005年10号
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上組

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 42 主要港への再投資が奏功 大手の上場物流企業の売上高営業利益率 は三%前後にとどまっている。
これに対して、 上組は過去数年間の売上高営業利益率が九% を超えるなど物流業界でも屈指の利益水準を 誇っている。
同社の主力は港湾運送事業であ り、地方港を含めた全国の港湾ネットワーク が充実していることが利益の源泉であると言 える。
同社は外貿コンテナ船が寄港する地方 港のうち、すでに三〇カ所を超える港で事業 を展開している。
八〇年代後半から九〇年代にかけて進行 した円高による輸入貨物の増大、台頭するア ジア諸港と地方港のインフラ整備の進展など を背景に、日本の主要港を取り巻く環境は 激変した。
一方、地方港は輸入港として、さ らにはアジア諸港とのフィーダー港としての 機能を果たすことで、その存在感を増してい る。
日中間のコンテナトレードが二〇〇四年 実績で前年比一五%増を記録するなどアジア 諸国と日本との貿易量が拡大基調にある中 で、倉庫やサイロを含めた物流インフラの整 備を他社に先駆けて実施してきたことが、同 社の貨物収集力の強化につながっているので はないだろうか。
もっとも、ここ数年は投資対象の選定に若 干の変化が見られる。
地方港への投資と並行 して神戸港や東京港といった主要港への再投 資を加速させている。
これまで主要港のター ミナルは他社との共同運営形式がメーンだっ たが、二〇〇三年には神戸港のPC ― 18 にお いて民間業者として初の単独借り受け(プラ イベートターミナルの確保)に踏み切り、そ の結果、港湾に直結した物流センターを建設 することに成功した。
港湾施設と物流センタ ーを一体化したことで、横持ち費用の削減と リードタイム短縮を実現し、より効率的な物 流サービスを顧客企業に提供できるようにな った。
神戸に続き、二〇〇四年には東京港にお いても同様の施設を開設した。
さらに神戸の 物流センターはその後、増床に至っている。
政府が推進する「スーパー中枢港湾構想」に 沿って実施してきた主要港での基盤整備は、 ユーザーの利便性向上につながっており、結果として大口顧客の獲得にも結びついている。
費用面では労務管理の徹底と積極的な省 力化投資がコスト削減に大きく寄与した。
同 業他社の多くが、作業部門を外注化している が、同社は直営作業を重視し、かつ多能工 化を進めてきた。
これによってノウハウを自 社内に蓄積するとともに、作業効率を向上さ せている。
また、港湾施設を中心に機能性の 高い荷役装置などを導入することで、継続的 な作業の合理化・効率化を推進し、作業人 員の抑制を可能にした。
景気の低迷や請負単価の下落、そして退職 給付金などの費用負担増といった収支バラン スを揺るがす要因は少なくなかった。
その大 第16回 上 組 特定港湾への集中投資で効率的な物流サービス を提供できる体制を整えた。
それが大口顧客の獲 得に結びついている。
労務管理の徹底でコスト削 減も進んでいる。
実質無借金経営で投資余力のあ る同社は今後、主力の港湾運送事業以外への投 資を加速させようとしている。
一柳創 大和総研 企業調査第一部アナリスト 業界屈指の利益率を誇る港湾運送会社 安定した財務基盤を背景に投資を強化 43 OCTOBER 2005 半をきちんと吸収し、着実な収益改善を果た せたのは人員配置の効率化や自然人員減によ る直接的な利益の押し上げ効果もある。
しか しそれ以上に注目すべきは、構造的なコスト 削減、継続性の高い合理化の実現によって確 実な利益体質に身につけたという点であろう。
配当など株主還元に期待 同社を取り巻く環境の変化の一つとして、 「スーパー中枢港湾構想」の進捗にも注目し たい。
現在、日本政府は港湾施設の国際的 な競争力低下に歯止めを掛けるため、「スー パー中枢港湾構想」の下、規制緩和や高規 格コンテナターミナルの整備といったさまざ まな政策を打ち出している。
拠点の再配置や バース集約化が進んだコストパフォーマンス の高い港湾に集中的に投資を行い、リードタ イム短縮や港湾コストの三割低減を目指そう という内容である。
現在、スーパー中枢港湾 に指定された港湾では各種実証実験が進めら れている。
同社もメガオペレータの一翼を担う存在と して、各共同事業体に参加している。
ターミ ナル事業は装置産業としての側面があり、効 率化投資を進めてきた同社にとって、コンテ ナ貨物の集積度が向上することは、収支メリ ットが大きいと考えられる。
国内物流事業者 としては突出した収益力を誇る同社であるが、 諸外国のターミナルオペレーターとの比較で はやや劣後している面は否めない。
その要因 の一つが貨物集積度にあると見られるが、特 定港湾への集中投資による競争力向上は中 長期的な観点でポジティブな要素となろう。
同社はこれまで徹底的なコスト管理方針を 貫きながら、その一方で年間キャッシュフロ ーと同程度の設備投資を行うことで収益拡 大を果たしてきた。
今後の業績を見通す上で のポイントも、やはり設備投資の動向がカギ となるだろう。
先に述べたように、同社の高 い先見性は投資戦略に活かされていると見て いる。
神戸や東京のコンテナターミナル整備 という大型投資の直後ではあるが、実質的に 無借金経営であること、財務状況の健全度 などから見ても投資余力に問題はない。
計画されている案件は、物流の結節点にお けるセンター機能強化を目的としたものが多 く、例えば、中部国際空港での航空貨物対 応の用地確保、神戸・東京以外の主力港(横 浜や福岡)における用地確保などが挙げられ る。
これらの港と物流センターの併設運営は 今後も同社の業績を牽引することとなろう。
ファンダメンタルズをある程度反映するか たちで、株価水準は二〇〇二年前後の五〇 〇〜六〇〇円というレンジから二〇〇三年 後半以降は水準を切り上げ、現在では八〇 〇〜九〇〇円のレンジで推移している。
強み を持つ食料品関連や鉄鋼関連、自動車関連 の取り扱いも堅調な推移となっており、足元 の景気動向を勘案すれば、輸入貨物の拡大 基調は維持されるのではないだろうか。
港湾運送事業のみならず、その前後の取り 扱いを積極的に取り込むことで、事業拡大を 果たすだろう。
また、「スーパー中枢港湾構 想」の進捗次第では、これまで以上にスケー ルメリットを発揮しやすい局面を迎える可能 性も充分にあると考えている。
貨物集積度が増す中で、二四時間稼動が 必要となるような状況が生み出されれば、現在の港湾インフラ・ネットワークの積極活用 により、業界をリードする存在として、諸外 国に引けを取らない高収益体質への転換が期 待されるところである。
また、現状では設備 投資が優先されているが、将来的には配当な ど株主還元も含めたキャッシュフローの使途 に注目したい。
上組の過去10年間の株価推移

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