ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年5号
特集
宅配市場のすべて 「中国流通王」スコア・ジャパン

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

国際宅配便の価格破壊  宅配便事業会社のスコア・ジャパンの業績が急拡 大している。
四年前には一五億円ほどだった売上高 は二〇〇八年度には約三五億円にまで伸長。
三月か ら始まった今期も堅調な成長を見込んでいる。
同社 の大沢理社長は「さすがに今期は成長率が多少鈍化 するが、向こう三年から五年の間、前年対比二〇% 増のペースは実現できる」と強気な姿勢だ。
 物量の急減に苦しむ国際インテグレーターや国内 の大手宅配会社を向こうに回し、知名度の低いベン チャー企業が業績を伸ばし、さらなる飛躍まで確信 している理由は何か。
まずはそのビジネスモデルを見 ていこう。
 スコア・ジャパン最大の特徴は日中間、あるいは 日本と台湾・香港の間の宅配に特化していることだ。
サービス名は“中国流通王”。
日本発中国向け、中 国発日本向けの宅配荷物をメーンにしている。
「寡占 化の進んだ市場で我々のような中小企業が勝ち残る には、何かに深く特化していないとダメ。
当社の場合、 それが中国だった」と大沢社長は語る。
 圧倒的なロープライスが武器だ。
例えば上海・北京・ 広州などの中国主要都市と日本を結ぶ宅配便料金は 一キロ当たり八〇〇円〜九〇〇円。
国際インテグレー ターなど大手他社の定価が一六〇〇円〜一八〇〇円 ほどなので、半分の料金で請け負っていることになる。
昨今の不況の煽りを受け、配送コスト削減を目指す 企業にとっては魅力的な条件だ。
 「実際、昨秋以降の引き合いは大幅に増えている。
中には長年付き合ってきた宅配会社との契約を打ち 切ってウチを使いたいというユーザーもいる。
二、三 年前であれば考えられないこと。
未曾有の不況が弊 社にとっては追い風になっている」と大沢社長は分 析している。
 他を圧倒する低価格にはもちろん理由がある。
徹 底したパートナー選びだ。
日中間のルートを七つに分 割し、その一つ一つの業務に最適の業者を自ら選定 しているという。
日本側の通関はA社、空輸はB社、 中国側の通関はC社、配送はD社といったように、 複数の業者と提携。
その分野で最も価格競争力があ る業者に業務を委託することで、低価格サービスを 実現している。
 これらのパートナーを選定するために、大沢社長 は自ら一〇〇社以上のフォワーダーや物流会社を国 内外問わずに回り、ヒアリングを行ったという。
「そ んな安い料金で利益が出るのかとよく聞かれるが、 日本の配送コストはそもそも高すぎる。
そんなに貰わ なくても物流企業は十分利益を出すことができる」 と大沢社長は語る。
 価格のほかにもう一つ「他社と決定的に違う」と 大沢社長が胸を張ることがある。
それが営業スタッ フの質だ。
同社の社員の約八割は中国留学経験者。
中国語は出来て当然、中国の情勢や文化、歴史にも 明るい人材が豊富にいる。
これは、“モノを出し入れ するのが難しい”とされる中国をフィールドにビジネ スを展開する企業にとって、大きなアドバンテージに なっているという。
 「例えば、日中間の一貫輸送で最も難しいとされて いることの一つに通関業務がある。
実際によく止まっ てしまう。
他社の社員の多くは『また止まった』程 度の認識で、顧客に対しても『いや、中国ってこう いうことが多いんですよ』といった対応をとっている。
大手であってもそのレベル。
しかし、我々からすれば そんなに難しいことではない。
中国事情や法律に精  日中間に特化した国際宅配便ベンチャー。
圧倒的なロープ ライスを武器に急成長を遂げている。
4年間で売上高は2倍 以上に拡大。
経済環境が一層厳しさを増す今期も堅調な成長 を見込む。
同社の最終的な目標は中国国内の宅配便市場でシェ アを握ること。
今後は拠点整備・人材育成を加速し、“中国 のヤマト”を目指すという。
     (大矢昌浩・石鍋 圭) 第7部オルタナティブ宅配便の商品力 「中国流通王」スコア・ジャパン 日中間の宅配事業に特化し急成長 MAY 2009  30 スコア・ジャパンの 大沢理社長 本社横にある出荷ステーション 通していれば解決できる。
通関で止まっているのであ れば、その原因と解決するまでの時間を確認して顧 客に伝える。
決して“安かろう悪かろう”のサービ スではない」と大沢社長は説明する。
 営業においても、「タリフの料金から何%引き」と いう一般的な交渉スタイルとは一線を画す。
輸出入 の際の留意点や通関の目安、現地での集荷・配送時間、 サービスメニューなどが記載された独自の“ユーザー ズマニュアル”を提案先に持参し、いかに中国に精 通しているかをアピールする。
もともとのロープライ スに付加価値サービスが加われば、日中間の宅配を 利用している企業は耳を傾けないわけにはいかないと いうのも頷ける。
 しかし、出る杭は打たれる。
ビジネスの世界では、 低価格を武器に市場シェアを獲得していく後発企業 にある種の“噂”が立つのは珍しいことではない。
事業規模が拡大するのに伴い「中国流通王の荷物は 相手に届かない」「あそこは事業者免許を持っていな い」といった類の噂も立ち始めた。
中国の?ヤマト?を目指す  それでも大沢社長は意に介さない。
スコア・ジャ パンの最終ビジョンはもっと先にある。
中国国内の 宅配便事業だ。
それも、ピックアップからエンドユー ザーまで全て自社のインフラと社員だけで結ぶ計画 だという。
現在の日中間の宅配は、そのベースにな る事業にすぎない。
 「日系の企業が、『ここに任せれば安心』という宅 配便事業者が中国にはない。
日本に比べると、どう しても配送品質は劣る。
サービスレベルも低水準だ。
中国にはコンビニへの持ち込み・ピックアップできる ようなサービスも存在しない。
そういう日本並みの サービスを展開し、日系企業からの信頼を得ること が目標。
中国市場でヤマト運輸さんのような存在に なりたい。
中国の宅配市場は、今ようやく黎明期か ら成長期に移った段階で、潜在的な市場規模は底が 知れない。
とてつもないビジネスチャンスが眠ってい る」という。
 スコア・ジャパンは現在、中国国内の宅配を実現 するための拠点整備に力を注いでいる。
既に上海や 広州、寧波などには支社を設立。
市内や郊外におい ては自社配送による宅配を開始している。
さらに今 年の下期には青島に拠点を開設する予定もある。
日 中間の宅配便事業で上げた利益を、中国国内の宅配 便事業のためのインフラ投資に充てる戦略だ。
 中国では法人の設立や市内への乗り入れに対する 規制が厳しく、日系物流企業は四苦八苦している。
だがそれも大沢社長に言わせれば「規制を順守した 上でやる方法はある。
皆さんそれだけ中国のことを知 らない」ということになる。
 支社の設立を例にとれば、日系企業の多くが中国 国営企業などとアライアンスを組んでいるのに対して、 スコア・ジャパンは内資で設立している。
もちろん大 沢社長は日本人のため、社長にはなれない。
そこで、 中国人の親族や知人に社長に就任してもらい、その 法人に出資をするという形をとっているという。
 順風満帆に見えるが、課題もある。
中国に精通し た人材が豊富にいると先述したが、中国国内の拠点 を整備していくためには、まだまだ人数が足りない。
「拠点を任せられるほどの人材は一朝一夕に育成する ことはできない。
資力やノウハウがあっても、人材無 しには拠点を拡充することは不可能。
スピーディー な人材育成こそが今後の我々の課題だ」と大沢社長 は認識している。
4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 (単位:百万円) 04年度 スコア・ジャパンの売上高推移 05年度06年度07年度08年度09年度 見通し 31  MAY 2009

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