ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年5号
特集
宅配市場のすべて ネットスーパーの域内物流戦略

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

大手スーパーが軒並み参入  ネットスーパーとは、消費者からウェブ経由で生鮮 食品や日用品の注文を受け、近隣の店舗や物流セン ターから当日または指定日に配達するオンライン版ス ーパーマーケットだ。
日本では西友やイトーヨーカ堂、 イズミヤなどが二〇〇〇〜〇一年に開始し先鞭を振 るってきたが、各社とも受注が伸び悩んでいた。
 沈滞していたネットスーパー市場が再び動き出した のは〇七年。
西友やヨーカ堂が実施店舗を再拡大し、 オークワ、サミットなどが参入。
さらに昨年にはイオ ンやダイエーもサービスを開始した。
ブロードバンド の普及とネット人口の増加により、環境が整った。
 もっとも、収益的にはよくてトントンというのが現 状のようだ。
本来なら消費者が行うピッキング、梱包、 配送を小売り側が請け負うことになるため、そのコ スト負担が重くのしかかる。
「人件費と配送費だけで 粗利を食いつぶすほどだ」(市場関係者)という。
 それでも注文一回当たりの購入金額が上がれば吸 収できる。
このため、通常は三〇〇円〜五〇〇円程 度の配送料を設定しているが、五〇〇〇円以上の注 文は配送料を無料としているケースが多い。
結果、各 社の客単価は六〇〇〇円前後になっているようだ。
 ただし、一回の金額が六〇〇〇円になると、利用 頻度はせいぜい月二回程度。
ドライ商品のまとめ買 いが中心になり、生鮮品は競合他社も含めたリアル店 舗で買うことになる。
それでは顧客を囲いこめない。
 そこで関西を地盤とする中堅スーパー、イズミヤは、 ネットスーパーの新たなビジネスモデルを構築しよう としている。
現在一〇店舗でネットスーパー事業を展 開しているが、今年一月に始めた昆陽店では、配送 料を他の九店舗よりも安く設定。
加えて配送料を定 ネットスーパーの域内物流戦略  食品宅配の新たな業態として注目されるネットスー パー。
既存のGMS や食品スーパーを中心に参入が相次 いでいるものの物流コストの負担が重く、利益を出すの は難しいのが現状だ。
コストの吸収に各社は頭を悩ませ ている。
これを受けて物流業者やIT 企業は支援サービ スに乗り出している。
     (梶原幸絵、石鍋 圭) 利用者は自分の目で確かめられないため、店舗での ピッキングでは商品を選び抜く 額にする「使い放題コース」を導入した。
一回当た りの客単価は低くなるが、利用頻度の向上を促し受 注件数・売り上げの拡大を図る戦略だ。
「生鮮品も含 め、日常の買い物のように利用してもらいたい」と 語るのは田中和伸eコマース営業部長。
 単価の低さをカバーするために、他店舗とは異な る物流網を構築することにした。
まず、配送効率を 上げるために商圏を絞り込んだ。
他店舗ではリアル 店舗のチラシ配布エリアの一・五倍をネットスーパー の配達対象としているが、昆陽店ではチラシ配布エ リアの七〜八分の一、およそ一・五平方キロメートル のごく狭い範囲を第一地区として設定。
その中で一 日当たりの配送件数が三〇件に達すれば、次のエリ アに順次展開していく方法をとることにした。
 作業人員も見直した。
従来はネットスーパー業務の ためにパートを雇用し、ピッキング、梱包、配送まで を行っていたが、昆陽店ではピッキングは売り場を熟 知した売り場担当者が行う。
梱包と配送は物流子会 社のサン・ロジサービスに委託した。
作業にはスキャ ナーを導入して人員配置も効率化した。
 こうして昆陽店のネットスーパーの生鮮品の売上高 比率は、他店舗の二二%に対して三八%と、リアル 店舗と同レベルに高めることができた。
三月の会員一 人当たりの利用頻度は平均三・二回、客単価は三七 〇〇円。
今後は利用頻度平均五回を目標に品揃えの 強化、利便性の向上を図る。
受注件数は一日当たり 三〇〜四〇件だが、五月中にはこれを六〇件に引き 上げ、配達エリアを第三地区に拡大したい考えだ。
 さらに、昆陽店の配達エリアが四〜五地区に拡大 すれば、同店のモデルを他店舗にも展開する計画だ。
他店舗では既存の配達エリアの中でブロックを設定 し、昆陽店と同様の方法で配送効率を高めていく。
第6部 MAY 2009  24 食卓.jp で利用される配 送用の保冷ボックス イズミヤ昆陽店では宅配 ロッカーも導入。
利便性を 高めると同時に不在率を抑 えて配送を効率化している  和田裕執行役員eコマース営業部担当兼テナント 開発部長は「昆陽店は始めたばかりで関わる人間が 多いため利益は出ていないが、今後の収支について 懸念はない」と手応えを感じている。
五年後にはネ ットスーパーの実施店舗数を二五〜三〇店舗に拡大 し、売上高五〇億円、営業利益二億円を目指す。
配送料無料では利益が出ない  ネットスーパーに注目するのは小売り業者に留まら ない。
物流業者やシステムインテグレーター、ネット 専業者、商社などが支援サービスを拡充している。
ヤ マトホールディングス傘下のヤマトシステム開発は、今 年一月から中小の小売業者に向けて“ネットスーパー サポートサービス”の提供を開始した。
 立ち上げから配送までの業務を一貫してヤマトグル ープが請け負い、支援先スーパーの投資低減を図る。
「自社で仕組みを構築すれば数千万円から一億円ほど かかるとされる投資費用を、一三〇万円の初期費用 と一五万円の月額運営費(一店舗)に抑えることが できる」とヤマトシステム開発e─通販ソリューション カンパニーの松崎暢之プレジデントは説明する。
 最もコストを削減できるのが配送部分。
大手スーパ ーなどでは自社で配送車両を用立て、店舗の駐車場 に待機させておくのが一般的だが、ある市場関係者 は、このシステムには大きなリスクが伴うと指摘する。
 「例えば、赤帽などでトラック一台を用立てるのに 必要な経費は一日当たり約二万円。
一日一〇台用立 てるとすれば月六〇〇万円ものコストになる。
ネット 経由の受注が毎日計画通りに入れば問題ないが、需 要は読み切れない。
受注が少なければ当然ドライバー は遊んでしまう」  これに対し、ヤマトのサービスでは配送に宅急便を 使うため、出荷個数によって配送費が決まる。
配送 費を変動費化できる。
既存の宅急便網で提供できる ため、スーパーからの出荷があれば、それだけ利益 は増える。
消費地にはヤマトのセンターやデポが必ず ある。
トラックを店舗に張り付かせる必要もない。
 現在、約三〇社の小売り業者と商談が進んでおり、 六月には複数の店舗でヤマト支援のネットスーパーが 稼働する。
「スーパーだけでなく、ドラッグストアや ホームセンターにも提供していきたい」と松崎プレジ デントは意気込んでいる。
 インターネットモールを運営する楽天は昨年七月、 ネットスーパーを集めたポータルサイト「食卓 . jp」 を運営するネッツ・パートナーズを子会社化し、同事 業に進出した。
現在の出店者はマルエツと紀ノ国屋の 二社。
情報システム、マーケティング、運用ノウハウ、 物流網の構築など、ネットスーパー運営にかかわる機 能を包括的に代行している。
 配送ではネッツ・パートナーズと提携関係にある日 本通運を利用するほか、さまざまな物流業者の情報 を収集し、物流網と起用物流業者を出店者とともに 検討する。
マルエツ向けでは、専用車両による配送 と宅配便を頻繁に切り替えてきた。
近場で配送密度 の高い地域は専用車両、それ以外は宅配便といった 使い分けも行いながら効率化を模索している。
 同社マーケティング営業本部の丹治保積本部長は 「ネットスーパーでピッキング、梱包、配送サービスを 提供している分の料金は利用者からもらうべき。
業 界では五〇〇〇円以上を配送料無料にするケースが 多いが、それでは利益は出ない。
その代わり、鮮度 や賞味期限に細心の注意を払い、厳しくチェックする。
まだまだネットスーパー市場は拡大期。
丁寧な対応を することで生き残っていける」と指摘している。
イズミヤの田中和伸 eコマース営業部長 ネッツ・パート ナーズのマーケ ティング営業本部 の丹治保積本部長 イズミヤの和田裕執行役 員eコマース営業部担当 兼テナント開発部長 ヤマトシステム開発 e-通販ソリューショ ンカンパニーの松崎 暢之プレジデント 25  MAY 2009

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