ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年10号
管理会計
投資効果を計算する

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

OCTOBER 2005 62 将来的なリターンの評価 情報システムを強化する、あるいは新規に 倉庫を建設するなど、SCMの施策には投資 を伴うものが多い。
費用を投じて将来的な効 果、たとえば在庫削減、物流コスト低減など のリターンを得る。
3PL企業であれば、ク ライアントである荷主企業のために倉庫や情 報システムに投資し、月々の売り上げで投資 を回収できるように計画を立てる。
そういったSCMの施策投資で、思ったほ どの効果が得られなかったという声をよく耳 にする。
その原因は、端的に言えば計画の甘 さであろう。
施策は実施前に、それにかかる 投資とリターンを十分に吟味しておくことが 必要である。
他社で効果が上がった施策であ っても、それが自社に当てはまるとは限らな い。
そもそも、その他社の事例自体、本当に 成果を正しく評価したものであるのか不明で ある。
施策を自社の実態に当てはめて、投資効 果を評価しなければならない。
この時、厳密 に計算することを追い求めて、分析に時間が かかり過ぎれば投資の機を逃してしまう可能 性がある。
さりとて、あいまいすぎる投資判 断はリスクが高い。
投資、効果とも許容範囲 内の精緻さで見積もる必要がある。
投資を伴うような施策は、それによって得 られる効果が複数年にわたる。
したがって投 資金額と将来的なリターンの評価は、それら を現時点での金額に置き換えて判断すること が望ましい。
将来的な一〇〇万円のコスト削 減効果は、現在の一〇〇 万円よりも目減りしてし まう。
ここで金利概念の 適用が必要になる。
金利を考慮した投資判 断方法に、「DCF ( Discounted Cash Flow Method)法」や、 「ROI(Return on Investment)法」がある (注:財務指標のROI とは異なる)。
これらは 欧米では古くから利用されている方法である。
ところが日本の物流ではこれまで、投資判 断に金利概念があまり使用されてこなかった。
八〇年代までは、特に厳密に試算しなくても、右肩あがりの経済成長に支えられて、それな りの投資効果は得られた。
その後の景気低迷 時代では、それに連動して低迷する市場金利 の影響もあり、やはり将来的な金額の目減り を意識しないまま過ごしてきた。
だが、時代は明らかに変わりつつある。
多 くの日本企業が現在、五%前後のROAの 目標値を設定している。
経営者は成長するこ とを宣言しているのである。
それに沿うため には、投資判断にも金利を用いることが必要 であろう。
金利再考 この連載を開始してから、金利についての 投資効果を計算する 日本でも経営計画にROAやROEの目標値を設定する企業が増え てきた。
しかし、それがロジスティクスの投資判断には反映されていな い場合が多い。
金利の概念を加えると、施策の評価は大きく変わる。
ロ ジスティシャンも投資を的確に判断するテクニックを学ぶ必要がある。
第7回 梶田ひかる アビームコンサルティング製造事業部 マネージャー 63 OCTOBER 2005 質問がいくつかきている。
金利の考え方には いろいろある。
たとえば物価の上昇がある。
これは将来的に得られる年金を判断する時な どに使用される。
負債資本コストというとら え方もある。
これは借入金の金利である。
手堅い金融商品に投資したらどれくらいの 利回りで運用できるのか、というのも一つの目 安になる。
さらに突き詰めれば、それは会社 そのもののあり方を問うことでもある。
企業 は株主から資金を集めて、それを各種活動に 投資することにより得られる運用益を株主に 還元する。
極端に言えば、もしその運用益が 金融商品より低いのなら、事業など行わずに 金融商品に投資したほうが儲かることになる。
日本にもようやくROA、ROE、EV Aなどの数値を経営目標にかかげる企業が増 えてきている。
しかしながら現状では、目標 値のブレークダウンは事業部レベル程度まで にとどまっており、具体的な施策や日々のオ ペレーションと、それらの経営目標数値との 連携は希薄である。
そのようなやり方では、経営目標の達成は運や偶然に頼らざるを得ない。
言うまでもな く経営数値は、各種施策と日々のオペレーシ ョンを積み上げた結果である。
そして経営目 標達成を意識した施策やオペレーションが必 要なのは、ロジスティクスも例外ではない。
投資判断に使用する金利は通常、財務部 門が会社としての基準値を設けている。
ロジ スティクス部門としては、財務部門と交渉し、 経営判断として使うべき金利を双方の合意の もとで決めることとなる。
信念を持って、や るべきだと考える施策を実施に持っていくた めには、理論的・数値的説得と合意形成が 必要である。
その交渉を行うために、ロジス ティシャンにも財務の理論武装が必要なので ある。
ディスカウント・キャッシュフロー DCF法とは、将来におけるキャッシュフ ローを現時点における価値に置き換えて投資 の回収期間を見る方法である。
将来的なキャ ッシュフローを現在価値に置き換える式は右 頁 図1のように表される。
ここで「r(利 率)」は、その企業が内部的に設定している ものを用いる。
簡単な例を取り上げてみよう。
ある施策で 情報システムの導入が必要になり、その費用 が開発費で一〇〇〇万円、ハードウェアで一 〇〇〇万円かかるとする。
システムの開発・ 導入には一年かかり、それによるコスト削減 OCTOBER 2005 64 額が年間二五〇万円見込まれるとする。
これ を単純に計算すると、 図2のように五年間で 投資回収ができることになる。
これが現在の ほとんどの会社のロジスティクス投資判断で 行われている方法であろう。
これに金利の概念を入れると結果は大きく 変わってくる。
例えばその会社における投資 判断のための「IRR(内部収益率: Internal Rate of Return)」が一〇%に設定 されているとする。
一年目に発生する二〇〇 〇万円の現在価値は、仮にその費用が年度 の終わりに発生するとすれば、それを(一+ 〇・一)で割った額となる。
二年目に得られる二五〇万円は、それを(一+〇・一)の二 乗で割った額となる。
こうして将来的に得られるコスト削減額を 現在価値に直すと、この投資は回収するまで 七年弱かかることになる( 図3)。
このよう に金利概念を導入すると、金利が高いほど、 投資回収までの期間が長くなることになる。
実際の投資対効果計算で考慮する投資・ 効果項目はもう少し複雑である。
費用・効 果の発生時期を半期や四半期ごとにすること もある。
設備やシステムであればメンテナン ス費用や、効果項目としてあがる減価償却も 考慮する必要がある。
逆に投資した設備をあ る年度に処分する計画であれば、売却益が見 込める。
さらに在庫削減などによる将来的な 資本コスト低減額も効果項目に載せることが できる。
想定される費用項目、効果項目をし っかりと把握することもまた、投資対効果の 判断には重要なのである。
DCFを求めるための関数はマイクロソフ ト社の表計算ソフト「エクセル」に用意され ている。
「NPV」、「XNPV」などがそれ である。
残念ながら年度単位での計算しかできないが、手軽であるので試算などで活用す ることをお勧めする。
ROI法 先ほどのDCFによる投資対効果計算で は利率を固定して回収期間を算出した。
これ に対して、年度を固定して、その年度までの 利回りを計算するのが「ROI(Return on Investment:投資回収率)」である。
ROI は式で書くと 図4のようになる。
式は複雑で あるが、これもまたエクセルに組み込み関数 が用意されている。
「IRR」というのがこ れにあたる。
図2の例で計算してみよう。
この投資を五 65 OCTOBER 2005 年で回収する場合、利回りは〇%である。
同 様に、六年で回収の場合は八%、七年で回 収の場合は一三%となる。
この会社がROI を一〇%以上と設定してあり、かつこのシス テムが七年以上使えるのなら、このシステム は導入すべきという判断になる( 図5)。
投資判断研究の近年の動き DCF法もROI法も、古くからあった投 資判断のための方法である。
日本企業でも生 産分野の投資では使用していることが多い。
物流の現場で、ほとんど使われていなかった だけである。
このほか投資判断研究の最前線 には次のようなものがある。
CFROI ROI法の考え方を導入した財務指標が 「CFROI(キャッシュフロー投下資本利 益率)」である。
投下資本に対し、将来的に どれくらいのキャッシュフローが見込めるの かを率で表し、企業 活動全体を評価する。
この財務指標は米 HOLT社(現:ク レディ・スイス・フ ァースト・ボストン 社の一部門)が開発 した。
その会社の現 在の価値、将来性を 判断できること、部 門別評価にも使えるという利点がある。
二〇 〇〇年前後にこれが注目されたのは、なによ り株価との相関が高かったためである。
残念ながら計算が複雑なこと、加えてその 後の株式市場の低迷により指標と株価との相関性が薄れたことから、現在では関心が低 くなっている。
だが、企業の将来性を含めて 判断できる指標の中では有力であることには 変わりはない。
リアルオプション分析 施策判断の近年の新しい動きとして、「リ アルオプション分 析」がある。
投資 判断では将来的 に発生する費用 や、得られる効果 を予測する。
しか し、その予測には 不確定要素が多 い。
より的確な判 断を行うために、 将来の状況変化 のシナリオをいく つか考え、それぞ れの発生確率を 用いて期待効果 を計算しようとす るのが、このリア ルオプション分析 である。
リアルオプション分析は、工場の設備投資 等で若干使われだしたレベルであり、SCM の世界ではこれからである。
計算が複雑にな ることから、投資判断の主流となるかは未知 数であるが、動向には注目しておいたほうが 良いであろう。
このリアルオプション分析のベースにある のはDCF法である。
加えて、繰り返しにな るが、費用項目、効果項目とその金額をなる べく精緻に洗い出し、見積もることが、投資 判断の基本である。
投資させることを目的に、 設備稼働率一〇〇%などというありえない仮 定を用いることなどもってのほかである。
そ のようなことをするケースが実際にあるため に、リアルオプションという考え方の導入が 言われるようになるのである。
とりわけ企業間でリスクをシェアするという考え方が背景になっているSCMや3PL では、投資判断の正確性もまた、成功のため の重要な要素の一つなのである。

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