ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2009年4号
現場改善
物流コンペの思わぬ結末

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

APRIL 2009  70 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第75 回  リサイクルショップの店舗を回って、各店舗が調達した商品を回 収するネットワークを再構築することになった。
ベースカーゴを持つ 複数の物流会社を組み合わせてチームを作り対象エリアを分担、帰 り荷や車両の空き時間を使ったローコストのネットワークを設計した。
我々としては自信のある提案だったが、予想外の結末が待っていた。
物流コンペの思わぬ結末     リサイクルチェーンP社 帰り便を利用したローコスト物流  リサイクルチェーンを運営するP社は全国 に約二〇〇店舗の直営店ならびにフランチャ イズ店を展開している。
昨今の景気の悪化も P社にとっては追い風となり、業績は拡大の 一途を辿っている。
 同チェーンでは基本的に各店舗が主体と なって、それぞれ中古品を仕入れている。
た だし、調達した商品のうち、その店舗で再 販するのは約三割。
残りの七割は現品のまま、 あるいは加工センターで補修したうえで海外 の新興国に輸出販売している。
 各店舗から輸出用の商品を回収する物流イ ンフラは、東日本と西日本でエリアを大きく 二つに分け、それぞれネットワークを構築し ている。
価格の安いリサイクル品を扱ってい ることから、通常の相場で運賃を支払ってい ては商売が成り立たない。
徹底したローコス ト化が物流管理上の必須条件となっている。
 輸送手段の選択肢は、きわめて限られてい る。
路線便はインフラがハブ&スポークの形態 になっていて通過拠点数が多いため、コスト が合わない。
回収した商品をいったん保管ス ペースに仮置きして、ロットをまとめて輸送 しようとしても、積み換え作業がネックにな る。
唯一とも言える選択肢が、ベースカーゴ を持つ既存の輸送ネットワークに相乗りする ことであった。
ベースカーゴを納品した後の 帰り便や車両の空き時間を利用するのである。
 幸いなことに西日本エリアでは先頃、日用 雑貨品をベースカーゴとする物流インフラを 見つけることができた。
これを利用すること でキログラム当たりの運賃を従来比で四〇% も削減できた。
この成功を受けて、東日本で も同様のインフラを組めないかとP社は考え た。
その相談が我々日本ロジファクトリー(N LF)に舞い込んだわけである。
 実は以前にも我々は、P社から今回と似た ようなコストダウンの相談を受けたことがあっ た。
しかし、当時は条件を満たせる物流会社 が見つからなかった。
今回は前回の依頼時よ あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp 71  APRIL 2009 りも条件が揃っていた。
成長を続けているP 社を荷主とすることは、物流会社にとって魅 力的だ。
しかも物量が増えたことで、ローコ スト化の余地も生まれているはずだった。
 改めてP社の担当役員と担当部長にヒアリ ングを行った。
想定していた通り、コスト削 減を狙える要素はあった。
具体的には以下の 通りである。
?店舗一回当りの回収が、カーゴテナーで平 均五個以上とロットがまとまるため、数店 舗の回収で車両が満載になること。
(カー ゴテナー五個以上のストックヤードを設け ることを店舗開発、FC加入時の条件とし て位置付けた) ?店舗の引き取り時間に融通がきくため、輸 送ルートが組み易いこと。
?店舗から回収した商品を加工センターに 持ち込む納品時間にもアローアンスがあり、 一週間後でもOKであるため、常に車両を 満載にした状態で持ち込みができること。
 その反面、対応が困難であり、調整が必要 な部分もあった。
カーゴテナー以外に梱包単 位の出荷を店舗側に認めていたことはその一 つだ。
カーゴテナーだけであれば、パワーゲー ト車が使える。
しかし、そこに梱包単位の荷 物が混じると一梱包当たり約一八キログラム ある荷物をドライバーが手積み手降ろししな ければならなくなる。
また売り上げの増加に 伴い、土日祝日の対応も必要になっていた。
 それまでP社は東日本ではエリアごとに物 流会社八社と契約を結んでいた。
日々の作業 指示に加え、請求書のチェックや支払いなど、 管理には手間がかかっていた。
これを現状の 半分に当たる四社まで絞りたい、というのが 担当役員と部長の考えだった。
コストダウン の目標は現状の二割減。
物流会社の選別は、 ?コスト、?輸送力および対応力、?改善提 案力という優先順位で評価したいとの説明を 受けた。
 しかし、後になって、P社のトップは東日 本の協力物流会社を一社に集約する考えを 持っていることが判明した。
社内の意志統 一がなされていなかったのである。
結局、担 当役員と部長、我々NLFのチームと並行し て、別途社長自身でも一社に集約できるパー トナー候補を探すという変則的なコンペの進 め方をとることになった。
自信のある提案が予想外の逸注  我々のチームはまず当社NLFと協力関係 にある物流会社数社に声を掛けて、業務の対 応が可能かどうか、仕事を受ける気はあるか を確認し、手を挙げてもらうことにした。
参 画希望の物流会社には、一度P社の担当役 員と部長に会ってもらう手筈をとった。
基本 的な条件はNLFから物流会社に書面で伝え ているものの、業務の細部や要望しているレ ベルは、やはり荷主と直接会わないと伝わり にくいからだ。
 一社で東日本の全てのエリアのベースカー ゴを持つ物流会社は恐らく見つからないだろ うと我々は考えていた。
無理に一社に集約す れば、却って高くついてしまう。
それでは ローコスト化を至上命題するP社の方針には 合わないという判断だ。
 そこで小回りの利く地場物流会社四社によ る連合チームでインフラを構築する方針を立 てた。
四社に?国取りゲーム?のように対応 可能なエリアを埋めてもらうのである。
複数 の会社がバッティングするエリアでは、料金 面に加え、自社インフラか傭車か、対応に無 理がないか等、現場サイドで輸送ルートの実 態を確認して調整を行った。
 四社のうちA社は夜間のコンビニ配送のイ ンフラを、昼間の時間帯にP社向けに利用す る考えであった。
B社は食品スーパーの店舗 納品、C社は自社便による積み合せ輸送が ベースカーゴだった。
一方、一店舗当たりの 物量が少ない郊外のエリアを担当するE社は、 回収した商品を自社の事業所内に一時保管し、 ロットがまとまり次第、満載にして自社便で 直送するという対応をとることにした。
 こうして四社連合チームによるインフラの 概要が固まった。
このうちE社が担当する郊 外のエリアだけは、コストダウンの目標とす る二割減には届かなかったが、ベースカーゴ との組み立てがうまくできた都市部では目標 を超えるコスト削減が実現できる計算だった。
 一方、P社の社長が自ら乗り出してのパー トナー選びは遅々として進んでいなかった。
それでも我々の四社連合チームの見積りが出 揃ったのを見てようやく尻に火が付いたよう で、大手物流会社数社に声を掛けはじめた。
 その数週間後に社長側のパートナー候補が APRIL 2009  72 二社に絞られた。
我々チームの担当役員と部 長も参加し、二社との商談が行われた。
とこ ろが、その時点で見積りに必要な情報が十分 に先方に伝わっていなかったことが判明、見 積もりを再提出させる必要が生じた。
結局、 見積書の再提出は複数回に及び、パートナー 決定の時期は当初の予定から一カ月以上遅れ ることになってしまった。
 これによって我々は、四社連合の現場の状 況が変わり、提出した見積金額が無効になっ てしまうことを懸念した。
実際、四社はしび れを切らしかけていた。
 このような経緯の末、物流会社が決定され た。
結果は社長側が連れてきたパートナー候 補のうち一社の大手物流子会社に決まったの であった。
選択の理由は、窓口が一本化され ることで、管理や支払い手続きなどが簡素化 できるというものであった。
 この結果に我々チームと四社連合は落胆の 色を隠せなかった。
コストは四社連合の方が 安かった。
対応スピードも申し分ない。
実運 送の小回りも利く。
それでも受注を逃してし まった。
選定基準が荷主の社内で統一される ことのないまま、社長の一存で全てが決まっ てしまったわけである。
 「商売とは所詮そういうものだ」と思われ る読者の方も多いかも知れない。
しかし、四 社連合にP社を紹介した我々NLFは、それ では済まされない。
場合によっては信用問題 にまで及んでしまう。
コンペの決定権を持つ キーマンを見極めることの重要性を改めて痛 感させられた案件であった。
アウトソーシング物流事業者評価表(例) 評価項目内 容 1. 業務品質?提案内容の具体性 ?物流品質指標 ?視察倉庫での商品取り扱い状況 ?サービスレベル a 社が最も具体的かつ○○○○のメリットの見地からも説明できていた 数値の表示があったb 社を評価 a 社とc 社はほぼ互角 全社特に大きな差異はなし 倉庫内運営の改善提案がなかったb 社に大きな不利 百貨店配送にノウハウを持つc 社がやや優位 全社実績あり 倉庫責任者に能力があると判断したa 社が優位 全社特に大きな差異はなし b 社とc 社のスペース設計にはやや無理がある b 社の倉庫はすでに手狭 全社とも特に問題なし ハード面では特に大きな差異はなし。
○○○○に対する取組姿勢でa 社が優位 全社とも特に目立った提案はなし コストに大きな差がなかったa 社とb 社を評価 「将来的に継続してコスト削減」としたa 社の姿勢を評価 2. 業務運営?倉庫内業務の提案内容の具体性・実現性 ?配送業務の提案内容の具体性・実現性 ?類似商品の取り扱い実績 ?視察倉庫の運営状況 3. センター設計?提案する倉庫の立地 ?提案する倉庫のキャパシティ ?倉庫内作業場所・商品配置設計 ?倉庫の清潔度、防塵対策 4. システム?提案内容の具体性 ?障害時の対応能力 5. コスト?見積りの優位性 ?今後のさらなるコストダウンの可能性 評 価 満点a 社b 社c 社 小計 小計 小計 小計 小計 合 計 5 5 5 5 20 5 5 5 5 20 5 5 5 5 20 10 10 20 10 10 20 100 2 0 5 4 11 4 2 5 3 14 3 5 3 5 16 10 2 12 10 8 18 71 1 2 2 2 8 0 1 5 2 8 3 2 1 4 10 4 0 4 10 4 14 44 0 0 4 4 8 3 3 5 2 13 3 2 4 4 13 6 2 8 0 4 4 46 コメント

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