ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年10号
海外トレンド報告
ダイムラー・クライスラー

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

3PL委託から自社運営へ 自動車が故障した時、なかなか補修部品が 届かないことほどイライラすることはない。
旅 先での部品待ちとなると、そのいらだちは怒 りに変わり、「こんな車に二度と乗るものか」 という思いにつながる。
自動車メーカーにと って、補修部品のスピーディーな供給体制を 構築することは、ユーザーの囲い込みを進め ていくうえで欠かせない要素の一つとなって いる。
ダイムラー・クライスラーは欧州に十二カ 所のヨーロピアン・ロジスティクス・センタ ー(ELC)を持つ。
そのうち、四二〇〇万 ユーロ(約五七億円)を投じて建設したフラ ンス北部のバレンシエンヌ(Valenciennes) にあるセンターは、最新鋭の設備を有する。
二〇〇三年に稼働した。
同センターの敷地面積は一四ヘクタールで、 延べ床面積は四万一〇〇〇平方メートル。
約 十一万個の部品を扱う。
「メルセデス・ベン ツ」、「クライスラー・ジープ」、「三菱キャン ター」、そして小型車「スマート」の四ブラン ドの部品を管理している。
従業員数は一九〇 人。
同センターがカバーするのは半径二〇〇キ ロメートル。
地図でいうと、フランス北部と ベルギー、ルクセンブルグ、オランダとなる。
そこに点在する四二〇カ所(フランス海外領 土の一〇カ所を含む)のディーラーや直営の 修理センターに部品を供給している( 図1)。
配送は一日に三回で、その中でも基本とな るのは午後六時までの注文を、翌朝八時まで に店頭に届ける便だ。
このほかに、パリ市内 向けには午前一〇時半までの注文を同日の午 後二時をメドに配送する便を用意。
午後六時 から午後一〇時までの注文を翌朝八時までに 届ける「ベルギー専用便」もある。
OCTOBER 2005 68 ダイムラー・クライスラー 欧州向け補修部品のロジスティクス戦略 ダイムラー・クライスラーは二〇〇三年、フランスとベルギーの国 境近くに補修部品のロジスティクスセンターを設置した。
現在、同社 はこのセンターを起点にして、フランス北部とベネルクス三国にある 四〇〇店を超すディーラーや直営店に部品を供給している。
午後六時 までの注文に対し、翌朝八時までに店舗配送を完了する短納期オペレ ーションを実現している。
ダイムラー・クライスラーは一九九八年に ダイムラー・ベンツとクライスラーが合併し て誕生した。
以来、同社は補修部品のサプラ イチェーンの統合を着々と進めてきた。
新会 社が発足した当初は米系の3PLであるキャ タピラー・ロジスティクスに補修部品のサプ ライチェーン構築とセンター運営を委ねてい たが、キャタピラーとの契約期間が終了する と、更新せずに自社でオペレーションを手掛 ける体制に切り替えた。
「バレンシエンヌのセンターを新設するまで、 同地区(フランス北部、ベルギー、ルクセン ブルグ、オランダ)向けの補修部品はベルギ ーに構えていた旧クライスラーのセンターか ら供給していた。
しかし、既存の体制では迅 速な対応ができないと判断して、新センター の建設に踏み切ることになった。
現在、バレ ンシエンヌを含むELCの運営は、ダイムラ ー・クライスラーの自社戦力のみで行ってい る。
ただし、インバウンド・アウトバウンド の配送には、輸送業者を利用している」(ベ ン・メリアーニ倉庫部門長)という。
ベンツの部品在庫が減らない ダイムラー・クライスラーではドイツ南西 部のジャーマーシャイムに中央センターを構 えている。
延べ床面積約五六万平方メートル、約四〇万点の部品を管理する同拠点はヨーロ ッパ各地に用意されている計十二カ所のEL Cに部品を供給する役目を担う。
ELCはドイツに五カ所、フランスにはバ レンシエンヌと南部のエトアール・シューラ・ ローヌの二カ所、そしてイギリス、イタリア、 スイス、スペイン、ポーランドの各国に一カ 所ずつ設置されている。
ジャーマーシャイム の中央センターは、ドバイとシンガポールに ある「地域ロジスティクス・センター」にも 部品を供給している。
補修部品のロジスティクスを効率化してい 69 OCTOBER 2005 中・小型部品の保管スペース シュトレンの専門 フォークリフト 〈バレンシエンヌのパーツセンター〉 荷受けスペース センター内にはベルトコンベア が三キロにわたって敷かれる 出荷スペースを走るフォーク リフト 大型部品の保管スペース くうえで大きな負荷となっているのは、高級 ブランドであるメルセデス・ベンツの部品に 関するポリシーだ。
同社では?Service for Life〞を掲げて、モデルの生産が終了してか らも一五年はすべての補修部品を供給するこ とをユーザーに対して確約している。
そのた め、生産中止後も約四万点の部品を確保して おかなければならず、在庫削減が思うように 進まないというジレンマを抱えている。
それまでベルギーにあったセンターに代わ って、バレンシエンヌに新センターを建設す るのが決まったのは、二〇〇一年のことだっ た。
それからフル稼働に至るまで三年以上の 月日を費やした( 図2)。
ブランドごとにパイ ロット配送を繰り返し、四つのブランドの配 送体制を確立していったため、時間が掛かっ てしまった。
バレンシエンヌを選んだ理由について、同 社は?ディーラーの密度が高いフランス北部 とベネルクス三国への配送に理想的な場所だ った、?高速道路のインフラが発達していた、 ?地元の誘致活動が積極的だった――ことを 挙げる。
もっとも、それだけではない。
「ヨーロッパ では、週末の商業トラックの運行について制 限を受ける地域が少なくない。
これに対して バレンシエンヌの場合、事前に簡単な許可を 申請するだけで運行がOKとなる。
これは、 一日に三回の割合で配送が発生するセンター にとって大きなメリットだ」とメリアーニ倉 庫部門長は指摘する。
ダイムラー・クライスラーの誘致で活躍し たのは、リールに本部を置く北フランス投資 促進開発局(NFX)だった。
NFXは外資 系企業が同地域に進出する場合に、中央政府 と地元地方自治体などを代表して誘致を行う 機関だ。
NFXのレミ・シャセニヨン局長代 理は、「自動車とロジスティクスは、北フラン スが長年育成してきた産業だ。
その二つの要 素を兼ね備えたダイムラー・クライスラーの ロジスティクスセンターの誘致には当然、力 が入った」と語る(次ページ囲み記事参照)。
緊急輸送比率が高い バレンシエンヌELCの入荷から出荷まで の流れを見てみよう。
センターにはベンダーから一日九便の定期便で部品が納入される。
これをELCでは六六本の配送ルートを使っ て、四二〇カ所のディーラーなどに毎日三回 配送する( 図3)。
四二〇カ所の配達先を、国 別に分けると、オランダが四〇カ所、ベルギ ーとルクセンブルグが合わせて二〇二カ所、フ ランス北部が一七八カ所となる(フランスに は海外領土の一〇カ所を含む)。
一日平均の注文件数は約一万五〇〇〇件。
そのうち六〇%が?エクスプレス〞、つまり 緊急輸送の注文だ。
センターには常時、六二 〇〇万ユーロ(約八四億円)相当の部品が在 OCTOBER 2005 70 ダイムラー・クライスラーのベ ン・メリアーニ倉庫部門長 庫されており、在庫回転率は八回。
二〇〇四 年の売上高は四億六四〇〇万ユーロ(六二六 億円)だった。
続いて、センター内の作業の様子。
荷受さ れた部品は、ベルトコンベアを通じて大型部 品、中・小型部品に分けられてからラックな どに格納、保管される(写真参照)。
中・小 型部品のなかでも特に出荷頻度の高いものは、 同社が「シュトレン」とドイツ語で呼んでい るセンターの一角に集められる。
センター内 には棚の数が一八万カ所ある。
取扱部品数の 一一万点を超えるのは、この部分に、重複し て保管される部品があるためだ。
「シュトレン」は、片側から専用のフォーク リフトで部品を格納するのと同時に、その反 対側ではピッキングできる構造になっている。
入荷から出荷に至るまで部品がベルトコンベ アに乗る距離は三キロに達する。
同社がヨーロッパ一二カ所に持つELCは、いずれもほとんど同じレイアウトに設計され ており、業務フローも同じ仕組みとなってい る。
メリアーニ倉庫部門長は、「このセンター を見れば、ダイムラー・クライスラーの全E LCを見たのと同じだ」と説明する。
今後の課題はセンターの立ち上げからまだ 日が浅く、業務内容にむらがあることを克服 するために、ISO9001や14001シ リーズの認証を取得して業務の流れを一定に することだ。
それと並行して、社員教育を充 実させて、さらなる品質の向上に図りたいと している。
( 本誌欧州特派員・横田増生) 71 OCTOBER 2005 「ダイムラー・クライスラーがわれわれ の地域にセンターを建設するかもしれない という話が持ち上がったとき、NFXは、 地元の商工会議所などとが連携して、全 面的にサポートした」 そう語るのは、NFXのレミ・シャセニ ヨン局長代理だ。
シャセニヨン氏が「われ われの地域」と呼ぶのは、センターがある バランシエンヌを含む「ノール=パ・ド・ カレー地域」である。
フランス北部の都市 リールを中心に半径五〇〜六〇キロの地 域を指す。
NFXは中央政府と地方政府、 商工会議所など協力して、外資系企業が、 同地域へ進出する際の水先案内役を務め ている(NFXの詳細は、http://www. locatenorthfrance.com/を参照)。
同地域がそのノウハウを長年培ってきた 分野が、自動車産業とロジスティクス産業 であったことを考えると、ダイムラー・ク ライスラーのセンター建設は、どうしても 取り込みたかった案件であることがわかる。
「ノール=パ・ド・カレー地域は、ヨー ロッパでロジスティクス業務を展開する 上で魅力ある特徴を兼ね備えている。
一 つは、パリ・ロンドン・ブリュッセルと いう三都市のほぼ中心に位置している点。
人工が集中するこれらの地域に対してス ピーディな配送が可能になる。
土地の取 得費用も、大都市と比べると三〇〜四 〇%安い。
人件費も安い。
さらにインフ ラの面でも、道路・鉄道に加え、船によ る輸送網も発達している。
そのため、フ ランスの倉庫面積の一〇%近くが、ここ に集中している」 ダイムラー・クライスラー以外にも、こ こに物流センターを構えるのは、米コカコ ーラ、アメリカのスポーツウェアーのメー カーのコロンビアスポーツウェア、ブリヂ ストンやトヨタ自動車などがある。
「日本企業の進出も盛んで、すでに三〇 社近くが物流センターや工場などを稼働 させており、地域に七〇〇〇人の雇用を 生み出している」(シャセニヨン局長代理) という。
ダイムラー・クライスラーがELCを構えた 仏ノール=パ・ド・カレー地域の魅力とは? NFX レミ・シャセニヨン 局長代理

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