ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年12号
ケース
在庫管理ブックオフコーポレーション

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

DECEMBER 2008  46 在庫管理 ブックオフコーポレーション 拠点集約をきっかけに在庫管理を刷新 店舗ごとの“自給自足”から全社管理へ 三カ所に分散していた拠点を統合  二〇〇七年五月、ブックオフコーポレーショ ンの新しい物流拠点「東名横浜ロジスティク スセンター」が稼働した。
同社の一〇〇%子 会社で、実質的に物流部の役割を担っている ブックオフロジスティクス(以下、ブックオフ ロジ)と、インターネット販売を手掛けるブ ックオフオンライン(同ブックオフOL)が入 居。
互いに連携を取りながら物流現場を運営 している。
 新センターの稼働でブックオフの物流は大き く変わった。
ブックオフロジの高橋淳社長は 「当社の店舗は ?自給自足?が基本。
自ら仕 入れた本を自分で売ることで成り立っている。
ただし、新たにオープンする店舗は仕入れた 本がないので、最初は『商品センター』で用 意して送り込む必要がある。
その搬入からオ ープンまで、従来は二、三週間かかっていた。
それが今ではだいたい三日でオープンできる ようになった。
店舗でやっていた作業の大半 をロジスティクスセンターで肩代わりできるよ うになったからだ」と胸を張る。
 ブックオフの主力商材である中古本のサプ ライチェーンは、新刊本とまったく違う。
ま ず出版取次(卸売業者)のような仕入れルー トが存在しない。
仕入れの基本は、持ち込ま れる商材の「買取」であり、どんな本を仕入 れるかを自ら選ぶことはできない。
仕入れ査 定や販売価格の設定もユニークだ。
ブックオ フは?定価の一割程度?で仕入れた本を、通 常は定価の半額で売っている。
店内にある同 じタイトルの本が一定冊数を超えたり、ある 期間を経ても売れなければ売価を一気に一〇 五円に値下げする。
それでも売れなければ廃 棄ロスを計上して処分してしまう。
 ここで言う?定価の一割程度?という買取 価格は、おおよその平均値だ。
売り主から持 ち込まれた本の査定は、五段階(特A、A、 B、Cランク、買取対象外)で評価して買い 取る。
その仕入れ価格を平均すると、ほぼ定 価の一割になる。
通常なら担当者の?目利き? が問われる買取査定を、アルバイトを含め誰 がやっても同じ結果になるように、シンプル なルールによって標準化している。
 この仕組みで一九九一年の創業以来、成長 を続けてきた。
〇八年三月時点で全国に構え ている店舗数は九〇二(直営店二八七店、関 係会社二五店、フランチャイズ契約をしてい る加盟店五九〇店)あり、単体売上高は三七 二億円(前期比一八・九%増)。
ちなみに新 刊書店トップの紀伊國屋書店の売上高は一一 七四億円、二位の丸善は一○一六億円だ。
本 中古本ビジネスで急成長したが、近年は在庫問題 に悩まされていた。
商品の「仕入れ」と「販売」を 店舗ごとに完結させる創業以来のビジネスモデルに は、在庫が偏在してしまうという難点があった。
昨 年5月の物流拠点の集約をきっかけに、在庫を全社 レベルで管理できる体制を整備。
問題の解決にメド をつけた。
ブックオフロジスティクスの 高橋淳社長 47  DECEMBER 2008 を定価の半額以下で売っているブックオフの 事業規模の大きさが分かる。
 ただし、急成長はブックオフの物流に多くの 課題をもたらした。
業績の伸びに応じて営業 倉庫を借り増した結果、物流拠点が本社を置 く神奈川県相模原市の近郊三カ所に分散し、 月間数百万円に上る横持ちコストが発生して いた。
さらに近年は、オンライン事業(ネッ ト販売)を展開するための専用センターを整 備する必要も生じていた。
 こうした事情から物流拠点の移転を決めた。
拠点の集約とオンライン事業への対応に加え、 これを機に物流機能を大幅に強化することを 狙った。
3PLの活用はまったく考えず、従 来通りブックオフ自身が現場をコントロールし つづけることが前提だった。
 移転先は簡単には決まらなかった。
既存の 物流拠点で働いていたスタッフが通いやすいよ うに相模原近郊にエリアを限定したことが選 択肢をせばめていた。
たまたま日本通運が東 名高速道路の横浜町田インターチェンジ付近 に計画していた物件の話が持ち込まれて、よ うやく条件的に合致する施設が見つかり、〇 七年五月に稼働。
その三カ月後の同八月には ネット販売のサイトもオープンして、新しい物 流体制が動きはじめた。
「宅本便」による買取業務の強化  新たな物流拠点「東名横浜ロジスティクス センター」は、総保管面積が約四万平米ある 大型施設にテナントとして入居している。
四 階建ての建物の西側およそ三分の一をブック オフが占有して、各フロアに約二六〇〇平米 (四階のみ約四〇〇〇平米)のスペースを確保 している。
一階は、ブックオフロジとブックオ フOLが入出荷などのために共用し、二階と 三階は主にブックオフロジが、四階はブックオ フOLが専用で使っている。
 本の管理にバーコードをまったくといって いいほど使っていないブックオフロジと、完 全な単品管理を実施しているブックオフOL とでは、管理の手法がまったく異なる。
にも かかわらず二つの会社が同じ施設に入り、一 部のスペースを共用しているのは、仕入れル ートが重複しているためだ。
 かつてのブックオフにとって安定的な仕入 れルートは、店舗での買い取りしかなかった。
新店の準備をするときには既存店舗から本を 集める必要があった。
苦労して仕入れた商材 を持っていかれることになる既存店にとって は、歓迎されない行為だった。
一方で新店も オープン以降は自分で商材を調達しなければ ならない。
このことが出店エリアや立地を選 ぶ際の制約条件となり、初期の店舗ロケーシ ョンが住宅地に近いロードサイドなどに偏る という結果を招いた。
 店舗以外の仕入れルートを確保するため、お よそ八年前から「宅本便」と呼ぶ買取サービ スをスタートした。
三〇冊以上の本を売りた い人がインターネットか電話で申し込むと、ブ ックオフと契約している宅配事業者(現在は 日本通運)が無料で集荷。
これをロジスティ クスセンターにある「商品センター」で査定 して、買取料金を売り主の指定口座に振り込 むという仕入れ方法である。
 「宅本便」を開始してからしばらくは十分 な物量が集まらなかった。
それが「二、三年 ぐらい前から一気に増えてきた。
今では一カ 月で五、六〇〇〇万円の仕入れが可能になり、 新店のオープンも各店からの集荷に頼らずに できるようになった」(高橋社長)。
 現在、「宅本便」でロジスティクスセンター に着荷する貨物は一日に一〇〇〇〜二〇〇〇 箱に上る。
そのすべての取扱い窓口がブック オフOLになっている。
センター内に約四〇 ある端末で、入荷した本のバーコードを一冊 ずつ読んでデータを登録。
すべてを単品管理 している。
その後、送り主が査定結果に納得 【施設概要】 所在地 横浜市瀬谷区 施設の延べ床面積 約4 万? ブックオフの利用面積 約1 万1800 ? 1 階2600?…… 宅本便・荷受け、一時保管など 2 階2600?…… メディアソフト・リメインダー 3 階2600?…… 書籍・戦略物流 4 階4000?…… ブックオフオンライン 収容冊数 約200 万冊 「ブックオフ東名横浜ロジスティクスセンター」 DECEMBER 2008  48 して売買契約が成立してから、ブックオフO Lとブックオフロジに割り振っていく。
 同じ窓口から入荷した商材を、ブックオフ OLはネット上で販売し、ブックオフロジは新 店の立ち上げ準備などに使う。
ブックオフロ ジの作業エリアには、事前準備の必要な新店 とまったく同じ棚が置かれ、フェース作りの 作業を進めている。
これによって店舗の作業 負担を軽減するだけでなく、店舗より格段に 賃料の安い物流拠点で処理することでコスト パフォーマンスを高めている。
トヨタ出身者の指導受け管理を刷新  ブックオフは物流管理は独特のローコスト オペレーションに徹してきた。
商品は単行本 や文庫本、コミックなど約一〇のジャンルに 分類し、ジャンルごとに必要な量を店舗に供 給していく。
物流部門が出荷に際して留意す るのは本のタイトルの重複だけだ。
中古本の 希少性や内容的な価値は考慮しない。
 このやり方は、POS(販売時点情報管 理)データなどに基づいて本のタイトルを選 んで発注する新刊書店に比べると、流通部門 や物流部門の負担が圧倒的に小さい。
管理の ためのIT投資を抑制できるし、膨大な在庫 の中から必要な本をピッキングするためのマ テハン投資もいらない。
 新刊本を扱う出版流通の?常識?に照らし て考えると、本の内容やタイトルを考えずに 店頭を作るブックオフのやり方で、はたして 以前は在庫を積めば積むほど売上高が伸びた のに、成長率が少し鈍化したとたん店舗の在 庫が急速に積み上がってしまった。
対応策と して店舗の棚の高さを一五〇〇ミリから二〇 五五ミリに引き上げて収容能力を増強してき たが、〇六年になって棚高も限界に達すると、 ロス率が目に見えて悪化しはじめた。
 当然、物流拠点の在庫も膨らんでいた。
ト ヨタ出身のコンサルタントから「なんでそん なに在庫を持っているんだ?」と聞かれて も、物流部門としては説明に窮する状態だっ た。
「仕入れを増やして売り場に出せば売れ る」という勝ちパターンが、深刻な壁に突き 魅力的な売り場ができるのかという疑問が生 じるかもしれない。
これについて高橋社長は 「何でもあるのが中古の良さだと個人的には 思っている」という。
実際、このやり方で創 業以来、成長を続けてきた。
 ただし、こうした管理手法の問題点も徐々 に浮かび上がってきていた。
とくに物流面で それが顕著だった。
「もともと当社には物流の プロが一人もいない。
本当に素人の集団でや ってきた」(同)という事情もあって、前述 したような成長に伴う物流拠点の分散や、コ ストパフォーマンスの悪化を招いていた。
 そこで、新センターの機能などを構想する 段階でコンサルタントの指導を仰いだ。
人づ てで紹介されたトヨタL&F事業(豊田自動 織機)から、トヨタ自動車の補修部品物流の 分野で手腕をふるった人物に来てもらいアド バイスをもらった。
仕組みそのものは自ら考 案したが、適正在庫の考え方や、作業の効率 化などについて多くのヒントを得たという。
 最も様変わりしたのは在庫管理の考え方だ。
過去のブックオフにとって「在庫=善」だっ た。
店舗のバックヤードや物流拠点に積み上 がる在庫は、中古品ビジネスの競争力の源泉 である調達力を示すものだった。
在庫削減に 徹底的にこだわるトヨタ流とは対照的な状況 にあった。
 実は四年ほど前から、ブックオフの社内で も在庫に対する認識は変わりはじめていた。
最大の理由は在庫回転率の悪化だった。
それ 買取商品を仕分けるコンベヤジャンル別に書籍を整理する センター内で新店の棚作りシュリンク包装のための機械 49  DECEMBER 2008 の一つとしても組み込まれることになった。
 東名横浜ロジスティクスセンターには、店舗 間の在庫の偏在を是正するバッファーとして の機能も付加されている。
バックヤード在庫 が膨らんでしまった店舗から、余剰商品をい ったんセンターに吸い上げ、これを在庫が不 足している店舗にジャスト・イン・タイムで 供給する。
これも十分な作業スペースを確保 している新センターだからこそ可能なオペレ ーションだった。
店別管理からエリア単位の管理へ  物流拠点を刷新する中で生まれたこの新し い管理は、最初は社内のごく一部でしか認知 されていなかった。
しかし〇七年七月になる と、ブックオフは全国を十二カ所の「統括エ リア」に分割。
統括エリアマネージャーが担当 エリアの損益を管理する体制を導入した。
エ リア単位の収益管理体制の強化に伴い、店舗 間の在庫移動についてもマネージャーたちが コントロールしていくことになった。
 こうした方針転換を全社に浸透させるのは 簡単ではなかった。
中古品を扱う以上、店舗 運営の原則が?自給自足?であることは今後 も変わらない。
そこでは店長が?一国一城? の主として損益の改善に務めることが、企業 として成長する糧になる。
このような分権志 向と、各店の在庫を中央集権的に管理するこ とは場合によっては矛盾しかねない。
 店長たちの志気を保ちつつ、新たな在庫管 理の考え方を導入していく必要があった。
そ のために「在庫プロジェクト」を社内に発足 させ、先行して「基準在庫」を設定した店舗 の成功体験などを共有していった。
新しいや り方が各店舗にとってプラスであることを実 例で示しながら、現場を巻き込んでいった。
 営業本部の中に「在庫コントローラー」と いう新しい役割も設置され、二人の担当者が ついた。
エリア内の調整をエリアマネージャー が担当するのに対して、エリア間の調整は在 庫コントローラーとエリアマネージャーが相談 しながら進める。
これによって全国規模で在 庫水準を適正化していくための指揮系統が整 い、〇八年に入るとロス率がめざましく低減 するという成果につながった。
 需給調整の意志決定は現在、ブックオフロ ジも支援しながら親会社の営業部門が行って いる。
物流部門としての当面の課題は、実際 に在庫を移動する際のオペレーションの改善 だ。
「この部分はコスト的にかなり大きく効率 化の余地も少なくない。
まだ試行錯誤してい る段階だが、荷物をまとめてスケールメリッ トを生かせる体制にしていきたい」と高橋社 長は考えている。
 これまで比較的、苦手としてきた店頭で の売り方についても、知恵を絞っていこうと している。
こうした試みが軌道にのったとき、 ブックオフは既存の出版流通にとってさらに 手強い存在になっているはずだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 当たっているのは明らかだった。
 この壁を乗り越えるため、ブックオフの一 部の経営陣は〇六年の末頃に在庫管理の考え 方を大きく転換した。
一方的に在庫を増やす ことをやめ、新たに「基準在庫」の考え方を 導入することにしたのだ。
 店舗ごとにバラツキの避けられない「仕入 れ」と「販売」のギャップを平準化する在庫 移動の仕組みを構築する。
そのために関係者 を啓蒙し、社内の体制も整備する──。
この 新しい在庫戦略が、物流拠点を刷新する狙い 店舗ごとに発生していた仕入れと販売のバラツキ 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0.5 未満 2 以上 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 店舗ごとの買越率・出切率ヒストグラム(07 年9月実績) 1.0が、「仕入れた量だけ/補充した量だ け売れた」状態。
1.2は「売れた量の 1.2 倍の(仕入れがあった/補充をした)」 状態。
0.2の分は長期的には廃棄になる。
商品不足商品過剰 買越率 出切率 (店舗数) 買越率 =(仕入点数)÷(販売店数) 出切率 =(売場の棚に補充した点数) ÷(販売店数)

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