ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年11号
ケース
3PL ミズノ

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

NOVEMBER 2008  42 3PL ミズノ 20年かけ住友倉庫への業務委託を拡大 新DC稼働の次の課題はロジスティクス 業績の改善受け物流体制を更新  スポーツ用品メーカーのミズノは今年三月、 物流部門を改組した。
国内の物流管理を手掛 ける「物流管理部」と、製品調達の輸出入オ ペレーションを担当する「国際トレーディング 部」を統合。
新たに「物流サービス部」とし た。
物流部門の業務領域を拡大することによ って、コスト削減の余地を増やす狙いがある。
 さらに八月には、狭隘化していた西日本の 物流センターを刷新。
一九八四年から入居し ていた東大阪の営業倉庫を出て、大阪市南港 の専用拠点へと移転した。
 矢継ぎ早の物流改革は好調な業績がその背 景となっている。
ミズノの連結決算は五期連 続の増収増益となっており、売上高に占める 支払い物流費の比率は低下傾向にある。
有 価証券報告書に記載されている連結ベースの 「運賃荷造費」と「倉庫保管料」を合算した 物流費の売上高比率は、〇四年三月期に四・ 四%(支払額六一・六億円)だったのが、〇 八年三月期には三・九%(同六七・四億円) まで低下した。
 同社物流サービス部の後藤好一部長は、「業 績が低迷しているときに物流センターを移転 したりすれば、物流費比率が一気に悪化しか ねない。
だから当社も業績が上向きはじめた 〇四年に移転の方針を定め、〇五年に正式に 承認された。
売り上げの上昇分で物流コスト の増加を吸収できるという判断だった」と振 り返る。
 ミズノは一〇〇年ほど前にシャツやズボン などを扱う洋品店として事業をスタートした。
早くから野球関連ビジネスを屋台骨としてき たが、徐々に総合スポーツ用品メーカーへと 脱皮。
「とにかくスポーツに絡めば扱っていな いものはない」(同)というぐらい幅広い製 品を展開するようになった。
 ゴルフやスキーなどの競技人口が日本で急 増した八〇年代には、ミズノの売上規模も急 伸した。
九〇年代初頭にはサッカーの「Jリ ーグ」がスタートしたことも追い風に、一時 は連結売上高が二〇〇〇億円を超えるまでに なった。
しかしバブル経済の崩壊とともに業 績は下降傾向に転じ、売上規模はピーク時の 三割減の水準にまで落ち込んでしまった。
 それから約一〇年に及んだ長いトンネルの 中で同社の業績を下支えしたのは、相対的に 流行りすたりの少ない野球関連ビジネスだっ た。
加えて近年はシューズやアスレチック用品 などが好調で、ゴルフ関連もようやく上向き つつある。
この上昇ムードに乗っかる格好で、 同社の物流管理も新たな展開をみせている。
すべて自社内で手掛けていた物流業務を段階 的に住友倉庫にアウトソーシングしてきた。
今年8 月には西日本地区の物流センターを23年ぶりに刷 新。
最新設備を備えた東西2カ所の専用センターで 全国をカバーする体制を整えた。
老舗企業同士の物 流パートナーシップは、長年の取引関係を通じて培 われた信頼関係の上に成り立っている。
ミズノ・物流サービス部の 後藤好一部長 43  NOVEMBER 2008  ミズノは現在、全国に五カ所の物流拠点を 構えている。
ただし、大半の製品は東西二拠 点体制で管理している。
西日本地区は「大阪 ディストリビューションセンター」(大阪DC、 大阪市住之江区南港東)、東日本地区は「厚 木ディストリビューションセンター」(厚木D C、神奈川県厚木市)で、それぞれのエリア 向け製品の在庫管理から配送業務までを処理 している。
 これとは別に、ゴルフ用品だけを全国規模 で扱う「養老ディストリビューションセンター」 (養老DC)が岐阜県養老町にある。
さらに規 模はだいぶ小さくなるが、「学納品」(学校に 納品する体育ウエアなど)専用の拠点と、全 国の大手量販チェーン向けの配送業務を処理 している拠点を大阪市内に構えている。
 これら五カ所の物流拠点のうち、量販チェ ーン向け以外の四カ所を住友倉庫に任せてい る。
その委託費用は現在、年間で約六〇億円 規模に上る。
後藤部長は「住友倉庫さんは当 社にとって3PLパートナーであり、運賃の 管理まで含めて全面的に任せている。
ただし、 一社独占はよくない。
昔から営業部隊が別だ ったという経緯もあって、大手チェーンスト ア向けだけは日本通運さんを使っている」と 説明する。
段階的にアウトソーシングを拡大  かつてのミズノは、物流業務を現場作業 まで含めてすべてを自社内でまかなっていた。
ここから物流アウトソーシングへと段階的に 移行し、出入りする協力物流事業者の一社に すぎなかった住友倉庫に全体の九割以上の業 務を委ねるまでになった。
過去に大規模な物 流コンペを実施したことはない。
見方を変え れば、現在の状況は、二〇年余りを費やして、 住友倉庫がミズノの物流を全面的に受託でき る体制を整えてきた結果とも言える。
 両社のパートナーシップの発端は三〇年前 に遡る。
七〇年代のミズノは製品のほとんど を国内で生産しており、その物流管理は?商 物一体?だった。
西日本を中心に七つあった 工場と、その他の生産委託工場で作る製品を、 品種ごとに自家倉庫にいったん集約。
そこか ら全国の得意先に路線便で出荷していた。
 近年までミズノが「大阪営業センター」と 「大阪工場」を構えていた大阪市福島区鷺洲 の施設も、そうした拠点の一つだった。
当時、 この大阪工場では野球の硬式ボールを生産し ていた。
硬式ボールは、春のシーズン到来に 備えて例年十二月頃から作り貯めをする。
そ の一時的な在庫管理を、七七年に住友倉庫に 委ねたことから両社の取引がスタートした。
 スポーツ用品は季節波動が大きい。
主に学 校で行われる競技は春先が製品需要のピーク になる。
水泳用品やスキー用品など、特定の 季節に需要が集中する製品も多い。
ピークシ ーズンに合わせてタイミングよく小売店に製 品を届けなければ商機を逃してしまう。
 商物一体だった当時のミズノにとっては、こ れが少なからず負担になっていた。
営業マン が自分で受注した製品を自ら倉庫でピックア ップして、梱包作業までこなすことも珍しく なかった。
こうした状況の中で、住友倉庫が 物流のアウトソーシングを提案して、その最 初の仕事が硬式ボールの一時保管だった。
 これをきっかけに翌七八年にはスキーウエ アの管理の一部を住友倉庫に任せた。
スキー パンツばかり約七万点を保管して、色やサイ ズごとにピッキングして出荷する。
当時はす べてがマニュアル処理だったうえ、季節商品な らではの納期の厳しさを伴う業務だった。
住 友倉庫の従業員は連日、早朝から夜遅くまで 作業に精を出した。
 当時からミズノを担当してきた住友倉庫大 阪支店の上久保信男支店長は、「このときの 対応をミズノさんが高く評価してくれた。
翌 七九年には取り扱いを増やしてもらえること 【施設概要】 所在地 大阪市住之江区南港東 敷地面積 33,890m2 延床面積 47,784m2 取扱品目 年間平均およそ8 万点(スポーツ 用品全般) 主な設備 自動倉庫・7040 パレット収容、 ピッキングカート・75 台、保管棚・ 4550 台ほか 今年8 月に本格稼働した大阪DC になり、ピース数にして五〇万点ほどのスキ ー関連製品を扱うことになった」と述懐する。
 この七九年の取り扱い製品はスキー靴から アンダーウエア、セーターまで多岐にわたっ た。
これらすべてをピース単位で処理する必 要があった。
前回のようなマニュアル処理では とても作業が追いつかないと考えた住友倉庫 は、両社の情報システム部門を巻き込み、半 年かけてスキーウエアを処理するための専用 システムを開発。
業務を滞りなく処理した。
 この一件で両社の関係はさらに深まった。
次 年度以後、ミズノは住友倉庫への業務委託を ゴルフウエアやシューズなどへも拡大。
物流ア ウトソーシングの実績を積み上げていった。
小売店のニーズに応えて拠点集約  八三年一月、業務の受託量が順調に拡大し ていたことを受けて、住友倉庫の当時の社長 がミズノに新年の挨拶に出向く機会があった。
その場で、ミズノの営業部門が物流に対して 抱いている要望や、物流コストが高いことに 対するミズノ自身の不満を耳にした。
 前述した通り当時のミズノは、野球製品やゴ 務の海外移転など、物流をとりまく環境も少 しずつ変化していた。
そこにバブル経済の崩 壊が襲った。
同社の経営は長い低迷期に入り、 物流関連の動きも少なくなってしまった。
 次にミズノの物流が大きく変わったのは九 八年のことだ。
実はこの時点でもまだ、東日 本地区は自社物流のままだった。
神奈川県厚 木市に所有していた土地に自前の物流センタ ーを構え、庫内作業も含めてミズノの社員が 管理していた。
すでに住友倉庫にアウトソー シングしていた西日本に比べて、物流業務の 人件費が高いことなどが課題になっていた。
 状況を打開するため、今度は経営トップ同 士の話し合いがもたれた。
そして東日本の物 流も全面的にアウトソーシングするという方 向性が固まった。
ミズノが保有する厚木の約 ルフ関連といった製品群ごとに別々の倉庫に いったん集約し、そこから顧客である小売店 に路線便で配送していた。
小売店の立場では、 一日に何回もミズノからの荷物が届き、その つど荷受け作業をする煩雑さがあった。
この 顧客からの要望が、ミズノの営業部門を通じ て経営層にも伝わっていたのである。
 改善策を相談された住友倉庫では、営業担 当者四人がプロジェクトを組み、約五カ月かけ てミズノに対する提案書を作成した。
一番の ネックは複数の拠点から出荷していることだ った。
そこで大阪に西日本全域をカバーする 配送センターを設置し、いったん製品をまと めてから出荷するという解決策を作った。
そ うすれば小口貨物が集約されるため運賃も一 〇%から二〇%ほど安くなるはずという内容 だった。
 さっそく話を具体化することになり、八四 年一月に住友倉庫の東大阪営業所の大半のス ペースを使ってミズノの「大阪流通センター」 (当時)が稼働した。
これによってミズノは、 卸営業の定番品の西日本地区の物流を全面的 に住友倉庫に委託することになった。
数万S KU(Stock Keeping Unit:在庫管理の最小 単位)に上る製品を在庫し、発注に応じてピ ースピッキングするという業務は住友倉庫に とって未経験の仕事だった。
しかし、苦労の 末に運営を軌道に乗せることができた。
 この頃から九〇年代初頭にかけてミズノの 売上高は急拡大した。
その一方で、生産業 NOVEMBER 2008  44 住友倉庫・大阪支店の 上久保信男支店長 7040 パレット を収容できる自 動倉庫 あえてマテハン機器を多用した大阪DC コンベアライン の総延長は約 1700m 流品質が高く、きわめてうまく機能している」 (後藤部長)という実績も大きかった。
ここ で蓄積されたノウハウに加えて、生産性をさ らに高めるための工夫を住友倉庫が施すこと が新「大阪DC」の前提条件だった。
 しかし、今年八月に本格稼働した新「大阪 DC」の立ち上げは思いのほか難渋した。
東 大阪の旧「大阪DC」からの移管スケジュー ルが一日半ほどズレ込んだこともあって、事 前に予定していなかった製品群を自動倉庫に 大量に入庫してしまったことが混乱の主因だ った。
結果としてピッキングエリアへの製品 補充が滞り、すべての作業が遅延するという 事態に陥ってしまった。
 混乱を収拾するまでに約四週間を要した。
当 初の計画通り回転の早いAランク製品を一〇 〇〇パレットほど自動倉庫から抜き出し、所 定のエリアに再配置したことでようやく現場 は落ち着きを取り戻した。
住友倉庫の上久保 支店長は、「ミズノさんの顧客や営業部門、物 流部門には大変な迷惑をかけてしまった。
信 頼を回復するのは簡単ではないが、われわれ としては一日も早く大阪DCの運営で成果を 出していくしかない」と率直に語る。
 長い年月を費やして物流のアウトソーシン グを進めてきたミズノにとっても想いは同じ だ。
すでに同社の物流部門が手掛けるべき業 務は様変わりしつつある。
活動の力点は、在 庫削減などロジスティクスの領域へと移って いる。
冒頭で紹介した組織変更も、物流部門 が上流工程のオペレーションまで管轄するこ とで、サプライチェーン上の製品の流れを円 滑にしようという狙いが大きい。
 もっとも、直接的な在庫責任を持たない物 流部門にできることは限られている。
在庫削 減に即効性のあるSKUの見直しなどを営業 部門や生産部門を巻き込んで進めていくには、 物流現場からの情報発信が欠かせない。
その ためにも「住友倉庫さんには3PL事業者と しての意識をもっと強めてもらい、どんどん 前向きな提案をしてもらいたい」と後藤部長 は期待している。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 一万二〇〇〇平米の土地を住友倉庫が買い取 り、そこに新センターを建設する。
物流の現 場実務に携わっていた人材の処遇についても、 住友倉庫が全面的に協力することになった。
 この新センターは「厚木DC」として二〇 〇〇年八月に本格稼働した。
従来からあった ミズノの物流拠点の機能はもちろん、近隣二 カ所の営業倉庫に分散していた業務も新セン ターに集約。
これによって、東西二拠点体制 による物流管理が初めてスタートした。
〇二 年にはゴルフ用品だけを扱う「養老DC」の 運営も住友倉庫が手掛けるようになった。
大阪DCの立ち上げで現場が混乱  ここに至るまでの四半世紀の間、ミズノか ら与えられた仕事を住友倉庫が着実にこなし てきたことがアウトソーシングの拡大につな がってきた。
こうした老舗企業同士の信頼関 係の積み上げによるパートナーシップの構築 は、欧米の3PL案件に見られるようなドラ スチックな展開とはかなり趣が異なる。
 ミズノの後藤部長は、「住友倉庫さんの当社 に対するコスト意識は凄く高い。
どうすれば うちの物流コストが安くなるかを常に一緒に 考えてくれる」とパートナーの働きを評価し ている。
だからこそ〇四年に東大阪の旧「大 阪DC」を移転する話が本格化したときにも、 引きつづき住友倉庫に任せることをスンナリ と決めた。
 二〇〇〇年に稼働していた「厚木DCの物 45  NOVEMBER 2008 値札つけなどの流通加工作業の大半がピース単位 ゾーン別管理で動線短縮シューズ類はSKU が多い

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