ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年6号
特集
巨大物流企業の攻防 DHL──世界最大手の強みを活かす

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

JUNE 2008  28 DHL──世界最大手の強みを活かす 米国市場をテコ入れ ──今年二月に発覚したドイツポストのトップ、ツ ムヴィンケル前CEOの脱税スキャンダルは、DH Lの経営にどのような影響を与えることになりますか。
 「基本的に今回のツムヴィンケル氏の脱税疑惑は、 彼の個人的な問題だと受け止めています。
本国ドイ ツの状況を見ても、比較的静かに粛々と推移してい るという印象を受けます。
これは今回の問題を受け て、ツムヴィンケル氏がすぐにCEOを辞任したと いうこともありますが、後継者へのバトンタッチが スムーズに進んだことも影響しています」  「新たにドイツポストのトップに就任したフランク・ アペルは昨年十一月時点で既に、次期CEOとして 指名を受けていました。
そのために問題が発生して から二、三日のうちにすべての引き継ぎを処理する ことができました。
そして彼がCEO就任のスピー チでも明言していた通り、この問題によって当社が 戦略を変える理由はまったくありません」 ──その戦略とは?  「ご存じの通り当社全体としては非常に好調に業 績は推移しているものの、米国のエクスプレス部門 の業績が思わしくありません。
採算が悪化しています。
これは我々としても看過できません。
この問題に対 して抜本的な手を打ちます。
五月末にもその詳細を 発表できるはずです」 ──市場では米国部門のフェデックスへの売却や撤 退も噂されています。
 「絶対にありえません。
我々にとって米国部門の強 化は不可欠です。
米国問題の解決には今後真っ向か ら取り組んでいくことになります。
ただし、これも 今回の問題が起きる前からの既定路線だと言えます」 ──現地の報道を見ていると、今回の摘発の背景に はドイツの格差問題があるように思います。
ツムヴ ィンケル氏はドイツ国内の格差に対する不満をガス 抜きするためのスケープゴートになったのでは。
 「それに関して、私はコメントする立場にありません」 ──この話に我々がこだわるのは、DHLに限らず 国際インテグレーターにとって、今や現場労働者の 労務管理が最大の経営課題になっていると見ている からです。
実際、米国ではフェデックスがドライバ ーたちとの裁判に負け、巨額の賠償金を背負い込む ことになりました。
 「当社の場合、本国ドイツでは既に本社と組合と の間で、とても良いかたちでの合意ができています。
労働組合の力が強いフランスでも、労使関係はきわ めて良好です。
米国についても、私個人は現地の状 況を詳しく把握しているわけではありませんが、労 務問題が持ち上がっているとは聞いていません。
そ の点では私どもと米国を本拠地とする競合他社では 状況に違いがあるのかもしれません」  「とはいえ、我々の長期的な経営課題を挙げると すれば、やはり人の問題に尽きると思います。
もと もとロジスティクス業界は、人に頼るところの大き な業界です。
私どものグループは現在、世界で五〇 万人を超える従業員を雇用していますが、どこの国 でも人材不足が大きな問題になっています」  「日本もそうです。
現在、日本には四〇〇〇人近 くの従業員がいますが、課題は労使関係ではなく人 材確保です。
今後高齢化が進めばますます人材不足 は難しくなっていきます。
これはドイツやその他の 先進国も同じです。
かつては労務提供が非常に安価 な国として知られていた中国やインドでも人件費は うなぎ登りです。
しかも十三億人もの人口を抱える  グループ年商10兆円を誇るドイツポストのロジスティク ス部門、DHLはエクスプレス、3PL、フォワーディングの 各事業分野において、それぞれ世界最大級の売上規模を 誇る業界の巨人だ。
今年2月には脱税疑惑によるCEO辞 任というスキャンダルに見舞われたが、その成長戦略は揺 らがないという。
   ギュンター・ツォーン DHLジャパン 社長 外資系物流企業の日本戦略 29  JUNE 2008 特 集巨大物流企業の攻防 中国でさえ、本当に良い人材を見つけることには非 常に苦労しているのが現状です」  「我々としては、どうやってよりスマートな方法で 自動化を進めるか、そしてプロセスをどう簡素化し ていくのかということに、今まで以上に心を砕いて いかなくてはなりません。
より少ない人手で、より 多くのことができる方法を探していく必要があります。
あるいは優秀な人材を確保して、新しい仕事のやり 方を見出す必要があります」 ──日本市場でターゲットとする荷物やサービス範 囲は、どう設定していますか。
 「典型的なエクスプレス企業では、五〇〇グラム程 度の封筒から、せいぜい一〇〇キロまでの荷物がほ とんどだと思いますが、我々の場合には五〇〇キロ から一トンを超える貨物も珍しくありません。
これ は当社がグループ内にフォワーディング部門を擁して いる強みだと考えています。
顧客に対して、一人の 営業担当者でエクスプレスから重量物までのドア・ ツー・ドアの国際輸送に対応できます」 ──日本国内のトラック輸送には、どこまで踏み込 むつもりですか。
 「拠点間輸送はもちろん行っていますが、日本市 場における私たちのドメインは、やはり国際エクス プレス、そして国際フォワーディングです」 ──国内のトラック市場に参入するつもりはない?  「もちろんチャンスには常に目を光らせています。
しかし、今そのような機会があるのか、どれだけ展 開の可能性があるのかを冷静に判断すれば、日本の トラック運送は非常に難しい市場であると言わざる を得ません。
日本市場は非常に幅広く、かつ分散 しています。
本気でエントリーするとなれば慎重に ならざるを得ません。
もちろん魅力的なオファーが 出てくれば検討はします。
しかし、我々が主体的に、 戦略として日本の国内輸送に参入することを計画し ているわけではありません」 3PL事業にも規模のメリット ──その一方で、3PL事業には日本でも積極的に 取り組んでいます。
他の国際インテグレーターとは スタンスが違いますね。
 「そこは我々の事業規模が大きな要因になってい ます。
二〇〇五年十二月にエクセルを傘下に収めた ことで、我々のロジスティクス事業は今や年商一四 〇億ユーロにも達しています。
日本市場においても、 富士通ロジスティクスを買収し、ウォルマート=西友 を手がけるなど他の外資系を相当引き離した規模の ビジネスを展開しています」 ──他のインテグレーターは3PL事業の利益率の 低さを懸念しています。
 「やはりそれもスケールの問題です。
小規模では、 なかなか利益は出ません。
規模によって購買力も影 響を受けてきます。
そうしたスケールメリットを活 かすことが当社の基本的な戦略です」 ──他のインテグレーターとの競争においても、主 要なサービスメニューの一つとしてロジスティクス事 業を位置付けていることが武器になりますか。
 「すべてのお客様に関してそれが競争力になると は思いません。
しかし大手のグローバル企業では、 エクスプレス、フォワーディング、ロジスティクスと いう三つの領域すべてをご利用いただいているケー スがほとんどです。
その顧客対応にもグローバルカ スタマー部門という独立した組織を設けて当たって います。
この体制は当社の大きな競争力になってい ます」 1969 DHLワールドエクスプレスが米国で営業開始 1971 アジア、欧州、中南米へ順次ネットワーク拡大 1972 香港DHLインターナショナルがDHLジャパンの前身 となる日本支社を開設 1979 DHLジャパン設立 1986 合弁でDHLシノトランスを設立し中国に進出 1991 日本で国際宅配便業の第一号許可を取得 1998 ドイツポストが22.5%の株式を取得して資本参加 2002 ドイツポストがDHLの100%の株式を取得 2003 中国シノトランスに資本参加 グループのダンザス、ドイツポスト・ユーロエクスプレス とブランド統合 米エアボーンエクスプレスがドイツポストの傘下に 2004 インドのブルータートルエクスプレスの株式68%を取得 2005 ドイツポストが英国の3PL企業エクセルを買収 DHLの沿革ロジスティクス市場のシェア 航空フォワーダー市場のシェア ウィンカントン キューネ+ナーゲル UPS SCM 0 5 10 15 0 5 10 15 DHLエクセル サプライチェーン シェンカー 日本通運 キューネ+ナーゲル 近鉄エクスプレス DHLグローバル フォワーディング 1.2% 6.2% 12.1% 5.2% 5.0% 3.7% 2.8% 1.8% 1.4% 1.3% CEVA ロジスティクス シェアはいずれも2006年。
ドイツポスト資料より ギュンター・ツォーン 1953年、ドイ ツ・ボン生まれ。
独ケルン大学卒。
米ポラ ロイド社、独ハイデルベルグ社などを経て 2005年7月、DHLジャパン社長に就任。
06年4月、日本と韓国を統括するDHL エクスプレスのアジア太平地区太平洋統括 エグゼクティブバイスプレジデントを兼務。
06年4月から在日ドイツ商工会議所会頭も 務める。
合気道三段。
PROFILE

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