ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年6号
ケース
コスト削減 スターバックス コーヒー ジャパン

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JUNE 2008  38 コスト削減 スターバックス コーヒー ジャパン 5年前の赤字転落きっかけに物流にメス コスト管理を見直しV字回復を下支え 脆弱だった内部のコスト管理  世界最大のコーヒーチェーン、スターバッ クス(本社・シアトル)の日本法人、スター バックスコーヒージャパン(以下、スターバッ クス)の物流改革が進んでいる。
同社は現在、 三つの異なる物流管理を手掛けている。
?コ ーヒー豆やカップ類などを扱う「常温品の物 流」、?牛乳やサンドイッチなどを扱う「チル ド品の物流」、?世界的に仕様が標準化され ている「店舗資材の物流」である。
 このうち常温品の物流を、過去四年ほどか けて再構築してきた。
ブームに後押しされて 急成長した一九九〇年代には、物流管理を重 要な経営課題とする必要はなかった。
ところ が二〇〇三年三月期に成長スピードが少し鈍 化したとたん、同社は経常赤字に転落してし まう。
この経験が物流オペレーションの強化 に本格的に目を向けるきっかけとなった。
 スターバックスは九六年八月、東京・銀座 に日本の一号店をオープンした。
当時からす でに日本市場には、低価格路線を武器に着実 な成長をつづけるドトールコーヒーがいた。
こ れに対してスターバックスは、高級感を前面 に押し出したブランド戦略で切り込み、俗に “シアトル系カフェ”と呼ばれる新興勢力の代 表格として急速に消費者の支持を拡大してい った。
 当初は首都圏のみの出店だったが、徐々に 地方都市にも進出。
銀座での初出店から五年 たち店舗数が二〇〇を超えるようになる頃に は、九州や北海道など全国各地に店舗を構え るようになっていた。
ドミナント戦略によって 物流効率を高めるといった意識は希薄で、好 立地ありきの出店を続けていた。
 それでも倍々ゲームのように売り上げを伸 ばし、〇一年一〇月にはナスダック・ジャパ ン(現ヘラクレス)に上場を果たした。
〇三 年三月期も期初には前期比三〇%増となる六 二〇億円の年間売上高を予想し、そのままド トールを抜いて一気に国内首位のコーヒーチ ェーンに躍り出るかにみえた。
 ところが、既存店の売り上げが思いのほか 伸び悩んだ。
期半ばに売上予想を大幅に下方 修正することを余儀なくされ、ライバルを追 ブームを追い風に急成長したが、2003年3月期の 赤字転落脆弱な内部管理が露呈した。
これ機 にコスト管理の見直しに着手。
物流改革にも本腰を 入れた。
契約形態の変更による物流現場の可視化 やネットワークの再構築などを推進。
常温品の物 流コストを2割削減するという当初目標をはるか上回る成果を上げている。
1,000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 97年 度 98 年度 99 年度 00 年度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 07 年度(予想) (億円) コーヒーチェーン2強の売上高の推移 ドトール スターバックス ※スターバックスは2月期決算・単体売上高 ※ドトールは3月期決算・連結売上高 39  JUNE 2008 い抜くどころか、〇二年度の決算は一億七〇 〇〇万円の経常赤字に陥ってしまった。
 もっとも成長速度が鈍化したとはいえ、こ の期も売上高は前期比一四・八%増の五四六 億円を確保していた。
強いブランド力と出店余 地の大きさを考えれば、依然として競争力を 保っていることは明らかだった。
問題は、売 り上げが伸びているのに利益を残せない内部 の構造にあった。
 〇一年に購買チームの責任者としてスター バックスに中途入社し、現在ではサプライチェ ーン本部長を務めている松本吉幸氏は、「私が 入社したときはすべてがトントン拍子だった。
ただ内部管理は非常に弱かった。
だから対前 年比で少し売り上げが伸びなくなると、すぐ に利益が出なくなってしまった」と振り返る。
イオン出身のCOOが改革を主導  業績の悪化を受けたスターバックスの対応 は早かった。
赤字決算の確定を控えた〇三年 四月に、代表取締役COO(最高執行責任者) として新たにイオン出身の桝田直氏を迎え入 れた。
九〇年代末にジャスコで情報・物流本 部長を務めた経験をもつ桝田氏の力で、収益 基盤を強化しようという狙いだった。
 株主総会を経て正式にCOOに就任した桝 田氏は、さっそく複数のプロジェクトを設置 して改革を具体化した。
株式の公開直後とい うこともあって、まずは即効性のある対策を 打つ必要があった。
このため当初は、物流改 革のように時間を要するものより、当面のコ スト削減に直結する活動が優先された。
 個別の購買活動の点検や、店舗で使う消耗 品に関するムダの削減、管理部門のスリム化 など、地道な施策を積み上げていった。
幸い 既存店の売上高が改善傾向に転じたこともあ って、一年後には成果が数字となって現れた。
〇四年三月期の決算では、売上高こそ五九二 億円(前期比八・五%増)と一ケタ成長に留 まったが、販管費の削減が進んだことから約 十二億円の経常利益を確保した。
 この間に、企業体質を抜本的に改善する ための準備も進めた。
なかでも重視したのが “物流”だった。
当時のスターバックスは、常 温品やチルド品などそれぞれの分野で協力事 業者に物流管理を委ね、自らは急拡大を続け ていた店舗網の支援に腐心していた。
いわば サービスレベルさえ維持できれば、物流は外 部の協力事業者に任せておけばいいという姿 勢だった。
 これに対して桝田氏は、企業体質を改革す るには物流や情報システムの強化こそ欠かせ ないと考えた。
就任一年目で対症療法的なコ スト削減にメドが立ったこともあって、チェ ーンオペレーションの強みを中長期的に発揮 していくためのインフラ整備を本格化した。
 〇四年十一月、社内の各分野で進められて いた複数の改革プロジェクトを束ねるために、 桝田COO直属の「BPI」(ビジネス・プ ロセス・イノベーション)という管理組織が 新設された。
BPIのリーダーには、ロジス ティクス部(現サプライチェーン本部)の責任 者を起用。
その後任としてサプライチェーン 本部長に就任したのが、それまで購買チーム を任されていた松本氏だった。
すでに準備が 進められていた常温品の物流改革を、松本本 部長が牽引していくことになった。
契約形態にメスいれ現場管理を強化  まずは物量が多く、在庫管理などのコスト 負担が大きい常温品の物流改革から着手した。
当時の同社は、米スターバックスの指示通り、 商材の多くを海外からの輸入品でまかなって いた。
コーヒー豆は当然のことながら、店舗 で大量に消費する紙コップやナプキンなども すべて輸入品だった。
これらの常温品を管理 する物流センターを大井埠頭(東京・品川区) に構え、ここから全国に供給していた。
 実務は業務委託先に任せっきりで、スター バックスの物流部門は基本的に数量だけをコ ントロールしていた。
しかも委託先との契約 形態が、通過物量に応じて一定の料率で作業 サプライチェーン本部の 松本吉幸本部長 JUNE 2008  40 費を支払うという内容だったため、具体的な 作業内容をまるで把握していなかった。
この ことが売り上げの伸びに応じて物流コストが 増えつづける一因になっていた。
 この状態から脱却するため、〇四年夏にプ ロジェクトを発足させて業務プロセスを見直 した。
そして既存の協力企業を含む一〇社余 りの物流事業者に声をかけて物流コンペを実 施。
互いに協業していくことを前提に新たな パートナーを選んだ。
これによってセンターを 千葉県船橋市に移転することも決まり、〇五 年一〇月に新センターが稼働した。
 船橋センターでの新体制では、物流管理の 可視化を徹底的に進めた。
オペレーションの  輸入という前提条件そのものを見直すこと はできないか。
前述した契約形態の変更で物 流現場の実情を把握できるようになり、輸入 品の在庫が否応なく目につくようになったこ ともあって、国内調達に切り替えるための検 討が始まった。
米スターバックスの理解も得 ながら、国産品によるVMI化を推進。
対象 品目の在庫を従来の五分の一から六分の一に 減らすことに成功した。
ドライ物流の東西二拠点体制を確立  一連の改革を主導してきた桝田COOは、 実は船橋センターが稼働するより以前の〇五 年三月末日に退社していた。
関西を地盤とす る大手ドラッグストア、コクミンの社長として ヘッドハンティングされたのである。
わずか 二年間という在任期間ではあったが、スター バックスに大きな足跡を残した。
 松本本部長は述懐する。
「やはり彼の存在は V字回復の源泉だったと思う。
われわれは外 資系ということもあって、物流改革を進める ときにもつい格好をつけて英語を使ってしま ったりする。
しかし彼は、ひたすら“現場・ 現物・現実”といった視点から泥くさく改革 を進めていった。
こうした考え方は今もしっ かりと根づいている」  実際、桝田氏が立ち上げたBPIという組 織は「BPR」(ビジネス・プロセス・リエン ジニアリング)と名称を変えて今も存続して いる。
また、常温品分野の物流改革で当初掲 実態を自ら把握できるように契約形態を改め、 料率に応じたそれまでの支払いを、項目別の 作業費として支払うように変えた。
そうする ことで物流管理をスターバックスのコントロー ル下におき、作業改善の成果をコスト削減に 直結させようという狙いだった。
 新たな拠点にはスターバックスの担当者も 足繁く通うようになった。
「契約の形態を変 え、KPIで作業内容や効率が見えるように なると、今度はお互いに協働するようになっ てきた。
効率化のメリットをわれわれだけが 享受するのではなく、3PLパートナーにも 返すといった工夫を進め、協力し合える体制 をどんどん整えていった」(松本本部長)  店舗への配送頻度も大胆に見直した。
従来 は一週間に六日だったのを週三日に減らした のである。
業務プロセスを見直すプロジェクト のなかで仮説としてのプランをまず作り、店 舗を巻き込んで実験を行った。
その結果、店 頭にとっても週三日配送で問題ないというメ ドが立ったことから、船橋センターの稼働時 に一気に配送頻度を減らした。
 紙コップなどの在庫削減にも、新センター の稼働から二年ほどかけて取り組んだ。
輸入 品は調達リードタイムが長いため、どうして も在庫が膨らむ。
しかも紙コップなどは金額 に比べて体積が大きいことから、保管料など のコストアップに直結していた。
需要予測の 高度化によって在庫量を半減するといった成 果も得たが、それにも限界があった。
スターバックスの物流改革の考え方 契約形態 料率から 項目別設定(額) 運営管理 KPI & 価値観の 共有 現場・現物・現実 パートナーの 積極参加 目的・目標 方向性 基本的方針 課題 全社成長戦略を支え、物流から会社を変える 規模の拡大に伴うメリットを享受し収益性の増大を目指す。
売上増加率より収益率を高める パートナー自らが参加し成長戦略を支え、改革・改善を実 行する 物流構造・コスト構造の可視化、継続的ローコストマイン ドの醸成 物流改革 横展開 全社網羅 ドライチルド店舗開発 資材 戦略的人事異動 ブラッシュアップ 41  JUNE 2008 げていた物流コストの二〇%削減という目標 も、「はるかに超える成果」を残した。
船橋 で実践したことは、スターバックスの物流管 理にとって一つの成功体験になっている。
 しかし、想定外のハプニングにも遭遇した。
船橋センターで物流管理を任せていた協力物 流事業者が、〇六年一〇月に突然、経営破綻 してしまったのである。
物流コンペをやり直 す猶予はなかったため、従来と同じ契約条件 のまま委託先を大手物流事業者バンテックに 切り替えた。
結果として満足のいくサービス を得られたため、以後は同社が船橋センター での3PLパートナーとなった。
 次に取り組んだのは、大阪に新しい物流セ ンターを設置して東西二拠点体制に移行する ことだった。
ほぼ船橋一カ所で全国をまかな っていたときには、ルート便を組めたのは関 東エリアの店舗配送だけ。
それ以外はすべて 路線便を使うしかなく、運賃は個建てでルー ト便に比べると割高だった。
出店密度がいく ら高まっても、コスト改善につなげることも できなかった。
 新しい物流センターを関西に設置するため のコンペを催し、提案内容とコストで一日の 長を示したバンテックを再び選択した。
新セン ターは今年三月末に大阪市此花区に稼働。
こ れに伴い関西エリアでもルート便をスタートし た。
ルート便が増えれば、それだけコスト効 率が高まる。
担当ドライバーを固定できるた め配送サービスの向上にもつながる。
現状で は、全国七六〇店舗のうち七割近くをルート 便でまかなえるようになった。
 大阪のセンターでは、新たなマテハン機器 を導入するなどして、船橋とは異なる観点か ら作業の高度化に取り組んでいる。
仕分け作 業の手順にも工夫を施した。
船橋ではいった ん総量で摘み取った商材をルート別にバラま いて仕分けているのだが、大阪では最初から 店舗別に摘み取るようにした。
まだ検証の段 階だが、期待通りの効果が確認できたらノウ ハウを船橋にもフィードバックする方針だ。
一 連の施策を通じて、常温品の物流コストをさ らに一〇%は削減できるとみている。
チルド物流に成功体験を横展開  このように、かつては協力物流事業者への “丸投げ”に近かったスターバックスの物流管 理は最近四年間で様変わりした。
現場管理に 至るまでしっかりと同社のコントロールが行 き渡っている。
 物流のサービスレベルを向上させる狙いで、 協力物流事業者の配送担当者に、店舗の従業 員向けの教育プログラムに参加してもらうと いった取り組みも導入した。
また三、四カ月 に一度、店舗の従業員に物流サービスに関す るアンケート調査を行い、結果を3PLパー トナーにフィードバックするといったことも実 施している。
 常温品の物流改革が軌道に乗ったことから、 次のステップとしてチルド品の物流改革を進 めようとしている。
牛乳やサンドイッチなど の日配品を扱うチルド物流は、二〇〇〇年移 行ずっと伊藤忠商事系の企業に物流管理を委 ねてきた。
現在、北海道から九州まで全国に 十三カ所の物流センターを構えているが、か つての常温品のように丸投げになっている面 が否めない。
 松本本部長としては、「常温品の成功体験 をチルドでも再現したい。
まずはどこか特定 のセンターを対象にオペレーションを“見える 化”する。
そのうえで3PLパートナーと協 働して改革・改善を進めていけるモデルケー スを作りたい」と考えている。
モデルケース が一つできたら、これを他のセンターに横展 開していき、チルド品の物流改革も全国規模 で進めようというわけだ。
 将来的には、常温品とチルド品の物流ネット ワークを部分的に融合する可能性もある。
関 東・関西以外の店舗への常温品の配送はまだ 路線便を活用しており、サービスレベルとコ ストの両面から改善の余地が大きい。
しかし 単独で物流拠点を構えられるだけの規模に達 するまでには、まだ時間がかかる。
コンビニ エンスチェーンなどが実施している三温度帯 (常温・チルド・冷凍)センターが、その打開 策として有力な選択肢になる。
 店舗資材の物流効率化も、まだ積み残した ままだ。
チェーンオペレーションの競争力をも う一段高めていくうえで、やるべきことは尽 きない。
(フリージャーナリスト・岡山宏之)

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