ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2005年9号
欧州通信
欧州の荷主座談会

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

SEPTEMBER 2005 72 3PLのM&Aは荷主にプラスか ドレッジ&コンプ バーナード・モーリー氏 (以下、司会者) 欧州でもアメリカでも3 PL業者の大型M&A(企業の合併・買収) が続いており、その傾向は今後も続くと考え られています。
二〇〇四年には、UPSによ るメンロ・ロジスティクスの買収がありまし た。
また、TNTとDHLの買収の動きも止 まりません。
3PL業者がM&Aを進める背 景には、大きくなればなるほど、「ワン・スト ップ・ショッピング」が可能となり、荷主が 使いやすくなるという論理があります。
ジレット ロレンゾ・フェリナオリ氏(以下、 ジレット) M&Aが進めば、荷主も恩恵を 受けるでしょう。
荷物の発地から着地まで一 社の3PL業者と付き合うだけでいいわけで すから、仕事がやりやすくなります。
ジレッ トが最近コンペを開いて、付き合いのあった 複数の3PL業者の中からLLP(リード・ ロジスティクス・プロバイダー)を選んだの も同じような理由からです。
ただし、規模の 大きな3PL業者が万能というわけではあり ません。
特に地域の業務についてはそうです。
ジレットが選んだLLPも地方の業務になる と、その地元の有力キャリアを使わなければ なりません。
言い換えれば、これまではジレットと付き 合うことのなかった中小キャリアであっても、 実力さえあれば、LLPを通じて間接的にジ レットの仕事を請け負うことができるように なったのです。
荷主側のメリットは、地域ご とに質の高いサービスを受けながらも、KP I(重要業績評価指標)のレポートやインボ イスをLLPからまとめて受け取ることがで きることです。
要するに、規模が大きくなる ことだけがベスト・ソリューションとはなら ず、3PL業者が大きくなることで、逆に中 小のキャリアにもこれまでなかったビジネス チャンスが生まれてくる可能性があると思っています。
大きくなっていく3PL業者と並 行して、中小のキャリアも生き残っていくで しょう。
CERN マッティ・ティラカリー氏(以下、 CERN) 私たちは以前、ドイツポストが 買収してDHL傘下に入ったフォワーダーの 北米支社と取引があったのですが、買収後に そのフォワーダーが情報システムをDHLの ものに一新してしまったため、これまで通り に業務を遂行するのが難しくなり、新しいフ ォワーダーを探したことがあります。
また、 これとは別に、買収によって本社が変わる場 合などは、元の本社とともにあった人的なつ ながりは一気に消滅して、一からはじめなけ 最終回 欧州の荷主座談会 〜巨大化する3PL業者は是か非か〜 荷主は3PL業者にどんなサービスを求めているのか。
M&Aによって巨大 化する3PL業者は、本当に荷主のニーズにこたえているのか。
KPIを使っ た日常業務の改善と、コンペによる新規業者との付き合いでは、どちらが望ま しいのか。
どうすれば荷主が満足するような改善提案ができるのか――。
ヨー ロッパの荷主企業のロジスティクス担当者が集まって、本音で語り合った。
(構成・本誌欧州特派員 横田増生) パネリスト ■マテル ディビィッド・ローズ氏(物流センター・シニアマネジャー) ■ピアソン ジョン・サール氏(輸送業務開発マネジャー) ■ジレット ロレンゾ・フェリナオリ氏(東半球輸送最適化マネジャー) ■CERN マッティ・ティラカリー氏(ロジスティクス・サービス部長) 司会者 ■ドレッジ&コンプ バーナード・モーリー氏(諮問委員) 73 SEPTEMBER 2005 ればなりません。
それがきっかけとなって、外 注していたネットワーク自体を見直したこと もあります。
ピアソン ジョン・サール氏(以下、ピアソ ン) ワン・ストップ・ショッピングも程度 の問題だと思っています。
貨物追跡や業務プ ラットフォームの統一などの面で利点はある としても、企業規模が大きくなれば通常、細 かい業務への目配りがおろそかになることが あります。
これまでの推移を見ていると、マ イナス面が目に付きます。
すべての業務を一 社の3PL業者に委託すると、もしその3P L業者に何かあった場合には身動きが取れな くなります。
司会者 3PL業者の大型M&Aについて、 悲観的な意見が続きましたが、長期的な視点 で見ればプラスの面もあるのではないでしょ うか。
CERN いま挙げたのは確かに短期的なマ イナス要因です。
M&Aが終わることは当面 ないでしょうが、3PL業者の社内での移行 期間が終われば、業務は安定してくるでしょ う。
今後、寡占が進むことによって、運賃を 含む料金が上がっていくことを懸念していま す。
質の高いサービスと安い料金というのは 両立しにくいものですし、それが寡占とつな がればなおさらです。
コミュニケーションを重視 司会者 産業界では本業以外をアウトソーシ ングすることがすっかり定 着してきました。
ある調査 によると、八〇%を超え る企業が何らかの業務を アウトソーシングしている という結果があります。
サ プライチェーンに限定すれ ば、アウトソーシングの受 け皿は3PL業者となり ますが、荷主側の共通の 不満として、「3PL業者 からの積極的なアプローチ が足りない」というのがあ ります。
ジレット これは、最近の小さな業務改善例 の話です。
ジレット傘下のブランドである 「ブラウン」の製品は軽くてかさばるのですが、 アルカリ乾電池などを扱っている「デュラセ ル」の製品となると重くて荷姿は小さくなり ます。
二つのブランドの製品をパレットに積 む際、どうしても効率が悪かったのですが、 それについての改善案は、3PL業者からではなく、ジレットの工場担当者から上がって きたのです。
3PL業者に対して常にお願い しているのは、われわれの立場に立って、と いうよりわれわれの一員という視線から、業 務のフローを分析して、プロセスを細かく分 けて、そこに改善案を当てはめるというやり 方です。
ジレットとしての方針ではありませんが、 私個人としては、昨今サプライチェーン業務 の重要性が強調されているため、何年か後に は荷主企業の中で外注をやめて、再びサプラ イチェーンを社内に取り込もうという流れに ジレットのロレンゾ・フェリ ナオリ氏(東半球輸送最適化 マネジャー) SEPTEMBER 2005 74 変わるかもしれないと考えています。
もちろ ん、サプライチェーン業務の全部ということ ではなく、サプライチェーンを立案・管理す る部分においてです。
ジレット社内でも、3PL業者に払うコミ ッションと自社社員でまかなった場合を試算 してみましたが、結論はコストの比較の結果 というより、サプライチェーン業務は本業で はないため、これまで通り外部の業者に任せ ようということで落ち着きました。
しかし私 は、中堅規模の製造業者なら、自社でサプラ イチェーンをやる方が差別化につながって有 利だと判断する企業が出てきてもおかしくな いと思っています。
ピアソン 私たちの場合、業務の改善提案は 3PL業者よりもお客さんからの要望として あがってくることが多いのです。
「もっとこう してくれたら便利なのに」という声を3PL 業者と一緒になって実現していくことで業務 改善につなげています。
これが3PL業者か らの働きかけで出てくれば、さらにいいこと はいうまでもありません。
CERN 私は現在のポストで働く前に3P L企業で一〇年以上働いた経験があり、よく 分かるのですが、3PL業者から積極的に働 きかけることは大変難しい面があります。
ま ずは3PL業者が荷主の業務内容を精通して いる必要があります。
それもロジスティクス 業務にとどまらず、荷主の社内業務の流れ、 例えば、だれがどうやって調達資材が選び、 どのタイミングで発注するのかといったこと までを細かく知る必要があります。
八〇年代にポーランドの物流業者で働いて いた際、取引のあった大手家電メーカーに改 善提案を持っていこうとしました。
提案は作 りましたが、誰に渡すかによって結果は大き く変わります。
そのときは運よく、物流部の 人を介して、どうにか経営陣に届けることが できたので、改善提案は日の目を見ましたが、 3PL業者の努力は報われないことが多いの です。
「積極的なアプローチが足りない」と 3PL業者だけの責めるのは酷だと思ってい ます。
ピアソン 私は以前、製薬会社でサプライチ ェーンを担当していましたが、そこでは企業 でよく使われる「顧客第一主義」という言葉 すらめったに聞くことはありませんでした。
自分たちがいい薬を作りさえすればいいとい う態度だったため、サプライチェーンを重視 することもなく、3PL業者との接し方も自 然とぞんざいになりました。
改善の決め手はコンペかKPIか? 司会者 日々のロジスティクス業務の質を向 上させるためには、大きく分けて二つの方法 があるといわれています。
一つは、ジレット のロレンゾが話したようにベンチマーキングを使ってコンペを開く方法。
そしてもう一つ はKPIを使ってこれまで付き合いのある3 PL業者のパフォーマンスを高めていく方法 です。
マテル ディビィッド・ローズ氏(以下、マ テル) マテルでは3PL業者を含む委託業 CERNのマッティ・ティラカ リー氏(ロジスティクス・サ ービス部長) ピアソンのジョン・サール氏 (輸送業務開発マネジャー) マテルのディビィッド・ロー ズ氏(物流センター・シニア マネジャー) 75 SEPTEMBER 2005 者の契約期間に一定の制限があり、それを過 ぎればコンペを開かなくてはなりません。
基 本的に私は現在付き合いのある3PL業者と 契約を継続することがベストな選択であると 思いたいのです。
コンペを開いた結果、新規の3PL業者に 業務を委託する場合は、提案内容が優れてい たり、コスト面で効果があったりするのです が、実際に業務を始めるためには、一からわ れわれの仕事を説明し、信頼関係を築き上げ る必要があります。
取引のあるキャリアを変 更したり、倉庫システムを変えたり、時には マテルの社内システムを変えなければならな いこともあります。
これには多大な労力がか かりますし、さらには大きなリスクも伴うの です。
そこで、われわれはKPIを重視していま す。
KPIをマテルのサプライチェーン全体 に通用するように作って、欧州部門がイギリ スの業務を任せているウィンカントンでも、 アメリカ本社が業務を任せている3PL業者 でも同じ基準で評価できるようにしています。
KPIが3PL業者の明確な目標となるよう に設定することで、サービスの質を向上させ、コストを下げるのが狙いです。
日常業務で改 善を続けることができれば、コンペのときに 従来から付き合いのある3PL業者が勝ち残 る可能性が高くなります。
そうすることによ って、業務がスムーズに流れるのです。
司会者 3PL業者のやる気を引き出す方法 としてのゲイン・シェアリングはどうですか。
マテル 現在はオープンブックやクローズド ブックなどの方法で3PL業者と契約を結ん でいますが、まだその中にゲイン・シェアリ ングは入っていません。
何を基準にして、ど ういう方法で対価を支払うかという方法が固 まっておらず、現在、検討中です。
ピアソン コンペについては私も同じ意見で す。
わが社でも以前はコンペを開いて一番安 い料金の業者に業務を委託したことがありま した。
しかし、コンペを開いて3PL業者が 提出する改善提案を一つひとつ吟味するプロ セスは非常に時間がかかり、骨が折れる作業 です。
例えばコンペのプレゼンは文句のつけ ようがないくらい上手だけれど、話を詰めて いく段階になると、こちらのビジネスをどこ まで分かっているのだろうかと不安になるよ うな業者もいます。
結局、提案通りに業務が動くかどうかは、 実際にやってみるまでわかりません。
そのた め、コンペを進める時は当然と思うような単 語まで定義を確認します。
「輸送業務」とい う基本的な言葉ですら、違う意味で使ってい れば、後で大きな問題につながるからです。
ベンチマーキングを用いたコンペには有効な 面もありますが、以上のことを勘案すると私 には?必要悪〞のように思えることがありま す。
CERN われわれがコンペを開く場合は、 われわれの業務に関心のある3PL業者全部 を集めて、二、三日の説明会を行います。
世 界的な研究センターとしてのわれわれの仕事 内容や、特殊な輸送貨物、仕事の進め方など を説明して、それから個別の提案を受け付け るようにしています。
それはわれわれの仕事 内容が一般企業とは違っているからでもありますが、3PL業者にわれわれの組織を体験 してもらうことが、その後の仕事の流れにプ ラスになると思うからです。
また、外注にはコミュニケーションの問題 も絡んできます。
ビジネスの国際化が進めば 進むほど、外部の業者とどうやってコミュニ ケーションを図るかが大切になります。
ヨー ロッパ域内でも、西側ヨーロッパと東側では 文化やコミュニケーションの方法も異なりま す。
例えば、イタリアとチェコでは違ったビ ジネスのアプローチがあるのを荷主自身が理 解していないと、地域ごとの業者から信頼を 勝ち得ることはできないのです。
ドレッジ&コンプのバーナ ード・モーリー氏(諮問委 員)

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