ロジビズ :月刊ロジスティックビジネス
ロジスティクス・ビジネスはロジスティクス業界の専門雑誌です。
2008年5号
ケース
JIT 生産 富士通フロンテック

*下記はPDFよりテキストを抽出したデータです。閲覧はPDFをご覧下さい。

MAY 2008  36 JIT 生産 富士通フロンテック ICタグ付の“かんばん”を導入 部品在庫の6割削減を目指す サプライヤー六〇社を巡回集荷  富士通グループは二〇〇三年からトヨタ生 産方式(TPS)による生産革新活動を展開 している。
富士通フロンテックの新潟工場で は〇四年にこの活動を本格的にスタートした。
同社は金融機関向けのATMや流通業向けP OS端末、RFIDタグ(ICタグ)などの 製品と、これらに関連するソリューションを 提供し、新潟工場はハード製品の大半を製造 する国内唯一の工場となっている。
 同工場ではこれまで、生産革新活動の一環 として製造ライン改革とオペレーション改革に 取り組んできた。
製造ライン改革とは、作業 者同士の間隔を詰めたり、無駄な動きをなく して動線を短くしたりといった現場改善によ って、省スペース化を進めて、生産性を高め る業務改革のことだ。
この活動は順調に成果 を上げ、生産性を二倍にアップし、作業スペ ースを半分に減らすという当初に掲げた目標 を四年間でほぼ達成することができた。
 もう一つのオペレーション改革では、必要 なものを必要なときに必要な数だけ生産する 「JIT(ジャスト・イン・タイム)生産」に 取り組んでいる。
従来は、一週間〜十日分の 生産に必要な部品をサプライヤーがまとめて 工場に納入していた。
「JIT生産」を実現 するために、これを細分化して一〜二日分の 生産単位で納めてもらうことにした。
在庫の 圧縮が狙いだ。
 サプライヤーが個別に多頻度納入を行うの は非効率なため、工場側からトラックでサプ ライヤーの拠点を回って部品を集荷する「巡 回便」の仕組みも構築した。
これまでに新潟 地区をはじめ北関東や京浜地区、東北の一部 などで巡回便を定期運行し、六〇社のサプラ イヤーが利用している。
 巡回便による調達ルートが整ったところか ら、JIT生産を実現する手法として“かん ばん方式”の導入を開始した。
広く知られる ように、かんばん方式では、「何をいつどれ だけ欲しいか」を“かんばん”に記して、サ プライヤーに納入を指示する。
サプライヤーは 指示通りに部品を準備し、容器にかんばんを 付けて工場へ納める。
工場では製造ラインで 部品を使うときにかんばんを外し、次回の納 入を指示するため、再びサプライヤーにかん ばんを持ち帰らせる。
 新潟工場ではこのかんばん方式の導入によ って、生産する単位に合わせて部品を調達す る仕組み作りを目指した。
ところが導入が進 むにつれ、大きな壁に突き当たってしまった。
部品管理のオペレーションが、かんばん方式 による検収の細分化についていけなくなった のだ。
 新潟工場では従来、納品書や現品票のバー コードを使って、調達した部品を管理してい た。
電子機器業界標準(EIAJ標準)の EDIでサプライヤーに発注。
これを受けて サプライヤーは納入情報を表すバーコードを印 トヨタ式生産革新活動を進める富士通フロンテッ クの新潟工場では、ICタグ付きの“かんばん”を 使って部品の納入を指示するシステムを今年3月に 導入した。
入荷検収業務が大幅に効率化し、サプ ライヤーとのリアルタイムの情報共有もまもなく実 現する。
これによって調達部品の安全在庫を5日分 から2日分に削減しようとしている。
37  MAY 2008 字した標準納品書を付けて部品を納品する。
 工場では、そのバーコードを入荷検収時に スキャンすることでデータを管理用のサーバ ーに吸い上げる。
入荷検収が済んだ部品には、 標準納品書に代えて現品票を貼付。
この現品 票にもバーコードがついており、納品書の情 報をここで現品票に受け継いで、その後の在 庫管理を行うという流れだ。
 かんばん方式を導入した後も、このフロー はそのまま踏襲した。
だが、かんばん方式で は納品単位が小さくなる分、管理負担が増す。
サプライヤーは納品単位ごとに、つまりかん ばんごとに納品書を作成しなければならない。
一方の工場側でも、仮に一〇〇個の発注数量 を五個ずつ二〇回に分けて受けることになれ ば、これまでは一枚のバーコードスキャンで済 んだところを、二〇回スキャンしなければな らなくなる。
 バーコードを一枚一枚読んで管理する従来 の方法では、納入回数が増えるのに比例して 作業量が増えてしまう。
効率の悪化は避けら れない。
実際、かんばんの指示通りに部品が 納品されても、入荷検収の処理に手間取り、 データ上の管理に反映されるまでにタイムラ グが生じるようになってしまった。
 サプライヤー側でも納品書の作成が間に合 わない。
本来ならかんばんと納品書を一対に して納めるべきところを、かんばんだけ先に 届いて納品書は後から着くという事態も発生 した。
こうなると、後から人手を介して、発 注した数量と実際の納品数を照合し、調整し なければならなくなる。
それだけ製造手配の 工程数(手番)が長くなる。
 「手番が長いと、工場では安全のために在 庫を余分に持たざるを得ない。
JIT生産を 導入してもなかなか成果が上がらず、オペレ ーションが足かせになって、かんばん方式の 対象を拡大したくてもできないジレンマに陥 っていた」と新潟工場の三柴昭裕製造企画部 長は振り返る。
モノの動きと情報のタイムラグを解消  これを解決するために同社は、自社製品で もあるRFIDタグを使って部品の管理シス テムを構築し、オペレーションを一新するこ とにした。
「JITコントロールシステム」と 名付けたこのシステムは、UHF帯のRFI Dタグの付いた、書き換えが可能な「リライ タブルシート」を、かんばんとして用いる点 に特徴がある。
 かんばんに部品番号や数量などの納品指 示を印字するだけでなく、シートに付いたR FIDタグにも情報を書き込むことができる。
従来のかんばんと標準納品書の機能が一枚の シートに集約されるのだ。
 従来のバーコードによるオペレーションの最 大の問題点は、実際のモノの動きと情報シス テム上のデータの更新にタイムラグが生じる ことだった。
これに対して、JITコントロ ールシステムは、モノと情報を完全に一致さ 新潟工場の三柴昭裕製造企 画部長 “RFID かんばん”を導入した(イメージ図) ?管理番号 ?品名 ?図番 ?収容数 ?注番・数量 ?仕入先・仕入先図番 ?発行枚数 ?納入サイクル ?数量(箱) ?納入先 工場名      棟、階      装置名 ?アドレス 検査品 品名 管理番号 000000000001 :PTプレート 図番:CA50820-Y251 収容数 仕入先    :50 発注 数量 :29027495008 :00020 :29027495007 :00020 :29027495008 :00010 かんばん ●●株式会社 納入先 富士通フロンテック第1工場 K─3F CAESAR部品ストア アドレス 0246-A-01-08 発行枚数 001 数量(箱) 納入サイクル 1-1-3 RFIDタグ埋め込み媒体はリライタブルシート 150mm 90mm ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? ? MAY 2008  38 せることができる。
バーコードと違って、“R FIDかんばん”は一括読み取りができるた め、オペレーション上のタイムラグが解消され る。
しかもこのリライタブルシートは、およそ 五〇〇回まで繰り返し印字・書き込みと消去 が可能であるため、従来の紙製のかんばんよ りも経済的だ。
 オペレーションの大まかな流れは従来と変 わらない。
入荷検収時には、パレットにいく つもの部品を混載したままゲート型のリーダ ーを通過させて、複数のRFIDかんばんを 一括して読み取る。
これによって納品書のバ ーコードを一枚一枚読む作業に加え、現品票 を発行して添付する作業も不要になる。
 検収が終わったら、そのまま各フロアの製 造ラインごとに設けた「ストア」と呼ぶ保管 場所に部品を搬送する。
各階の製造ラインで は、工程ごとに必要な部品をストアから取り 出し、ラインサイドに引き取って組み立て作 業を行う。
 その際に部品についていたかんばんを外し、 回収ボックスに挿入しながら、RFIDタグ の情報を読み込ませ、「かんばんが空いた」と いう情報をシステムに伝える。
この情報をも とにシステムはサプライヤーへの次の納入指示 を作成する。
 納入指示情報は一階の専用プリンターでリ ライタブルシートのかんばんに書き込まれる。
従来は各階の回収ボックスにたまった“紙か んばん”を人手で三〇分おきに一階へ回収し 実用化のメドがたった。
 より正確にタグを読み取るために、部品を 納入するときのかんばんの貼付方法も見直し た。
納入時の荷姿は段ボールやバケットが一 般的だが、かんばんの付け方はサプライヤー によってまちまちだった。
これを荷姿ごとに 七つのパターンに標準化した。
またATM用 ていた。
電子化によってこの作業もいら なくなった。
 また紙かんばんは一枚ずつ手作りで、 ラミネート加工を施すなど作成に時間が かかった。
生産量が変わるとかんばんに 指示する数量も変更する必要があり、そ のたびに新しく作り直さなければならな かった。
このことも、かんばん方式の適 用範囲を広げる上でのネックにとなって いた。
 これに対してRFIDかんばんはデ ータの印字・書き込みを自動で行うた め、数量を自在に変更することができる。
フレキシブル生産への対応が容易になる。
同社ではさらに工夫を凝らし、紙かんば んにはなかった注文番号を新たな項目と して加え、分割納入の際にモノと情報の 一致をスムーズに行えるようにした。
 一般にUHF帯のRFIDタグは電波 干渉を起こしやすいという欠点がある。
実際、実用化を検討した当初は、ゲート をゆっくり通過させるか、あるいは一時 停止をしないと正確に一括で読み取るこ とができなかった。
 そこで電波の出し方を変えたり、両サイド に電波を吸収するパネルを設けるなど、富士 通グループと共同で読み取り技術の改良を重 ねた。
その結果、人が普通に歩く速さで移動 中のタグを一〇〇枚同時に読み取れる水準ま で運用性能を向上することができた。
これで サプライヤー(約30 社) JIT コントロールシステムの概要 4F 製造ライン 3F 製造ライン 2F 製造ライン 1F 製造ライン 取り外したRFIDかんばん 回収ボックス(読み取り) 新潟工場 納入指示 発注 入荷/検収 RFIDタグ 管理 RFID かんばん情報 リライタブルシート プリンター 入荷/検収 情報 各階の ストアへ搬送 部品納入指示情報に基づき RFIDかんばんを自動発行 RFIDタグを一括で読み取り 入荷/検収情報を自動収集部品搬送 発注・納入指示 RFIDかんばん 発行状況 サプライヤーにてRFIDかんばん引き取り (最終ステップは主要サプライヤーにて発行) RFIDかんばんを 荷姿単位に貼る 部品の発注および RFIDかんばんの 発行状況確認 情報 RFIDタグ 物流 凡例 39  MAY 2008 のロッカーのように金属製の部材が無梱包の まま納入されるケースでは、金属による電波 の吸収を防ぐための「スペーサー」にタグを 付けるという工夫も行った。
部品在庫の六割削減を目指す  こうして今年三月に、サプライヤー四社と JITコントロールシステムの運用をスタート した。
入荷検収時などのオペレーションのス ピードが二倍程度アップすると同社では期待 している。
モノと情報のタイムラグが完全に なくなることで、手番も短くなる。
これによ って従来はオペレーション上の問題から五日 分の安全在庫を持っていたが、今後は二日分 まで圧縮する方針だ。
部品在庫を六割削減で きることになる。
 〇七年度の実績では、新潟工場がJIT 生産を実施している比率は販売金額の六割程 度。
今後この比率をさらに高めていく。
まず は、年内に「JITコントロールシステム」の 運用を三〇社のサプライヤーとの間に拡大す ることを目指している。
 ただし、工場側の都合だけでなく、サプラ イヤー側にも導入による明らかなメリットがな いと拡大は難しい。
そこで同社はサプライヤー のコスト削減につながる“納品書レス化”の 準備を進めている。
バーコード入りの標準納 品書を廃止する。
RFIDかんばんが導入さ れれば本来、バーコードはいらない。
税務手 続き上の資料は残さなければならないが、サ プライヤーが納品のたびにバーコードつきの標 準納品書を作成する必要はなくなる。
 さらに、現在は工場側のプリンターで発行 しているRFIDかんばんを、サプライヤー 側で発行することも検討している。
工場側で 発行すると、部品を納めたトラックがかんば んをサプライヤーのもとへ持ち帰るのに一、二 日かかってしまう。
サプライヤーとの間をネ ットワークでつないで直接、かんばんを発行 すれば、時間と距離が一気に縮まる。
 また、工場の製造ラインでかんばんが空い たという情報を、サプライヤー側でもリアルタ イムに共有することができるようになるため、 サプライヤーは次回の納入の準備に前倒しで 取りかかることができる。
短サイクル化に対 応しやすくなる。
 今回のケースのように外部のサプライヤーと RFIDタグの情報をインターネット経由で リアルタイムにやり取りするのは、工場内の 工程管理など“閉じた”環境で利用するとき と比べ、セキュリティー上の問題などをクリア しなければならずハードルが高い。
同社は数 年前からこれらの技術面の課題を克服してき ており、システム構築に至った背景にはこう したインターネット技術基盤の確立があると いう。
 システム開発を主導した本社コーポレート センターの南里恒裕情報システム統括部長は、 「ネットワークを使ってサプライヤーとリアル タイムの情報共有が進めば、必要に応じて時 間単位でのオペレーションにも対応すること ができる。
そこまで視野に入れて開発を行っ ている」と強調する。
 このシステム開発に並行して、計画システ ムの見直しも進めている。
「JITの仕組み だけできても、その効果には限界がある。
同 時にもっと上流の計画系の改革も必要だ。
こ れを進めることで、全体最適につながるトー タルなサプライチェーン・マネジメントの構築 が可能になる。
サプライヤーのニーズも聞きな がら“RFIDかんばんシステム”をもっと 広がりのあるものにしていきたい」と南里部 長は抱負を語る。
 同社がJITコントロールシステムを開発 した狙いは、自社工場の業務改革だけではな い。
RFIDタグのベンダーでもある同社は、 ユーザーにタグを販売する際に提供する業務 システムの一つのモデルとして今回の仕組みを 開発した。
その実運用化は、ネットワーク基 盤の確立と合わせ、今後の事業展開にもさま ざまな広がりをもたらすことが予想される。
(フリージャーナリスト・内田三知代) 本社コーポレートセンターの 南里恒裕情報システム統括 部長

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